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螺旋編 五章:螺旋の戦争
第一目標
しおりを挟む【天界】と称される箱庭と五百年前に起きた天変地異の詳細、更に『魔鋼』と呼ばれる金属。
太古から転生を繰り返した『黒』の七大聖人クロエによってその話が明かされ、その通信を聞いていた同盟国軍の兵士達は動揺を濃くしながら唖然する。
そして魔鋼によって都市が浮遊したという話を聞き、シルエスカは通信機越しにクロエに聞いた。
「――……この魔鋼で、都市が浮遊している? どういうことだ」
『さっきも言ったけど、魔鋼は箱庭の土台として使用されていた。大規模な魔力を貯蔵できる魔鋼なら、数十年どころか億年単位で都市程度は浮かべられるだろう』
「!?」
『けれど私が問題視しているのは、魔鋼ではなく魔鋼の浮遊機能を何者かが復活させていることなんだよね』
「!」
『正直、箱庭の機構は私も完全に把握しているわけじゃないんだ。それを修復して復活させた上に都市だけを限定して浮かせるなんて、明らかに機構の理解度は私を超えている人物が操作していると言っていい』
「『黒』のお前を……!?」
『あの魔鋼自体を弄れるのも、創造神や私を除けば限られた者達だけだ。……もし十五年前の人間大陸で、それを行える人物が魔導国にいたとしたら……』
「……アルトリアか?」
『多分ね』
「アルトリアがそれを可能にしたとして、我々が地下への突入を控えることと、どう関係する?」
『魔鋼を使用した機構は、主人と定めた者の意思に応じて機能する。魔鋼の中心地に行くという事は、敵の口に収まると言ってもいい』
「……ならば、降りたマギルスとエリクは……?」
『既に敵の思惑の中に居ると、考えたほうがいいね』
「ならば尚更、我々も追わなければ――……」
『言っただろう? この機構を掌握しているのは、アリアさんの可能性が高い』
「……アルトリアは、仲間であるエリクとマギルスだけを招き入れた?」
『そして、それ以外は要らないモノとして排除する。各国に魔導人形』が再び侵攻したのは、そのせいかもしれない』
「……仲間だったあの三人を、この都市内部に入らせる事が目的で。それを届けた我々や地上の人間達は、既に用済みということか……ッ」
シルエスカは苦々しい表情を浮かべ、その言葉を口にする。
兵士達もその言葉を聞いて表情を強張らせ、全員が驚きや怒りにも似た感情を顔で浮き彫りにした。
そうした中でも、クロエは淡々とした様子で話し始める。
『――……シルエスカ。部隊を連れて、都市南部に向かえるかい?』
「……どうするんだ?」
『黒い塔が建つ中央付近は、魔鋼で支えられているのは間違いない。だけど外壁は魔導人形で増強させられたモノのようだし、外周付近も手付かずな場所が多いようだ』
「地下に降りるなら、グラド達のように中央ではなく端からか」
『その通り。――……急いだほうがいい、未来がまた動き出した』
「なんだ、どうした?」
『私は行くよ。後は通信士の彼に、情報を聞いてくれ』
「おい、クロエ!」
そう言いながらクロエは通信を切り、シルエスカは話を中断させられる。
しかし新たに通信が入り、シルエスカや兵士達の耳に先程まで聞いていた通信士の声が届いた。
『――……シルエスカ元帥! 浮遊都市の外部で、新たに敵魔導反応が増大! 何かと交戦している反応があります!』
「!」
『新たに現れた魔導反応を検知! ……これは、間違いありません、箱舟二号機です!』
「!!」
「二号機……。各同盟国の来援か……!」
『ちょっと待ってください……。新たに通信、届きました! 箱舟一号機からです!』
「!!」
『向こうの通信内容をお伝えします! ――……我々はアズマ国とフォウル国の増援を乗せ、外壁へ突入。箱舟一号機は、損傷が大きく各乗務員と共に退艦中とのこと!』
「……ッ」
『アズマ国とフォウル国の精鋭が、外壁から都市内部までの進路を確保している模様。上手くいけば、都市内部に出られるそうです!』
「そうか。……もし一号機の乗務員達が都市まで来たら、箱舟が着陸した東部を目指すように伝えろ!」
『ハッ!』
「全員、聞いているな! これより第六から第十部隊は、都市南部へ向かう! そこで地下へ通じる出入り口を見つけ、あるいは作り、都市の浮遊機能を有する施設を破壊する!」
「!」
「各部隊、索敵しながら南部へ行軍! 箱舟は二号機に通信を試み、都市内部に突入できるなら三号機の箱舟と合流するよう伝えろ!」
『了解しました!』
「それと、クロエはどうした?」
『局長は、艦橋から退室しました。後の事は我々に任せると……』
「……クロエ。お前は何を視て、考えている……?」
シルエスカは箱舟から伝わった情報を聞き、クロエの提案に従って都市南部を目指す。
しかしクロエの明らかに怪しい動きに、シルエスカは表情を強張らせながら各部隊を率いて行軍を開始した。
こうして各人員に、明確な動きが見え始める。
そして各増援が到着し始め、目的の為に増援を含めた全員が藻搔くように空に浮かぶ都市の中で動き出した。
一方その頃、合成魔人を撃破したマギルスは『精神武装』に変化していた青馬を元の姿に戻し、騎乗しながら降下している。
魔力障壁の足場を展開しながら円を描くように降りて行くと、落下した瓦礫の山と、新たな施設を発見した。
「――……なんかある!」
「ブルルッ」
マギルスと青馬は下にある施設へ駆け下り、広大な空間がある施設の通路へ着地する。
そして青馬の背から飛び降りたマギルスは、周囲を見ながら施設の中を見渡した。
「よっと。……どこだろ、ここ?」
「ブル……ッ」
「僕が知るわけないじゃん。そっちは知らないの?」
「ブルルッ」
「馬が知ってるわけないだろって、自分で言っちゃう?」
マギルスは青馬と意思疎通が取れるようになったようで、互いに分かる会話を続ける。
そしてマギルスと青馬は互いに歩み、施設の通路を見回しながら探索を開始した。
その施設は先程のような魔力薬液漬けにされた合成魔人は無かったが、代わりに大小様々な魔導器と機械が壁や床一面に設置されている。
そして低重音を響かせながら施設内を轟く機械の音を聞きながらマギルスと青馬は瓦礫を飛び越えながら通路を歩くと、しばらくしてある目立つ物を発見した。
「――……うわっ。なにこれ?」
「ブルル……」
二人は通路から頭を出し、下を見て呟く。
そこに存在したのは広大な空間と共にあの黒い金属に埋め込まれた、全長百メートル以上の赤い結晶体。
首を傾げているマギルスだったが、それを見た後に膨大で禍々しい魔力がその赤い結晶体に集まり、循環している事に気付いた。
「……もしかして、これって……」
「ブルッ」
「やっぱり、そうだよね? ――……コレが、この街を浮かせてる大元かな!」
マギルスは笑いながら青馬を見て、下にある物体が探していた物だと確信する。
それは、クロエが作戦前に説明していた第一目標。
浮遊都市を浮かべる施設と設備を、マギルスと青馬は発見した。
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