虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 五章:螺旋の戦争

神の加護

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 シルエスカと別れた都市南部の同盟国軍の別動隊は、地下で発見された子供達を連れた兵士と合流する。
 撤退を考え準備していた地上の部隊は、四十名以上の負傷者と五十名以上の子供達を抱えながら箱舟ノアまで戻る事を余儀無くされ、それを率いる第六部隊の隊長は渋い表情を見せていた。

 しかし総大将であるシルエスカの命令であれば、それを実行するのが筋。
 更に子供達を見捨てて戻る事は、歳の近い兵士達がいる同盟国軍の兵士達の精神衛生を考えると、どうしても引き受けるしかなかった。

 帰還した第十部隊の兵士が持ち帰った伝令と子供達を見ながら、第六部隊の隊長は頷きながら答える。

「――……分かった。元帥の命令通り、彼等を保護する」

「お願いします」

「だが我々は、今から負傷者を箱舟ふねまで戻す為に全員で移動しようとしていたところだ。……彼等もそれに同行するか、聞かなくてはな」

「そうでしたか。子供達ですが、彼等のリーダーをしている少年がいます。彼だけは、我々の言葉が通じるようで……」

「そうか。その少年は?」

「彼です」

 兵士は明かりを照らしながら手を向け、その少年を指し示す。
 そして第六部隊の隊長が視線を向けたのは、子供達の中心にいる少し背の高い青年だった。

 焼けた肌の顔と手足に黒い刺青いれずみの紋様が刻まれている青年だけは、他の少年少女達とは出で立ちが違う。
 それを感覚的に察しながら納得し、第六部隊の隊長は歩み寄りながら青年に近付いた。

「――……君が、この子達のリーダーだと聞いた」

「……」

「私は、この部隊を任されている者だ。君達を保護し、我々の箱舟ふねまで連れて行こうと思う。それについて、君達に異論はあるか?」

「……」

「……言葉は、通じていないのか?」

「いえ、そんなはずは……」

 第六部隊の隊長は話そうとせず目を逸らす青年の様子に疑問を感じ、本当に言葉が通じているか連れて来た兵士の一人に聞く。
 連れて来る過程で何度か短くも話を行った事を教えられると、第六部隊の隊長は少し悩む様子を見せた。

 彼等が自分達を敵と近い認識をしているから、こうした態度なのか。
 それを考え悩む第六部隊の隊長は、その青年と寄り添うように固まる少年少女達を見てどうするかを思案する。

 その時、第六部隊の隊長は青年と子供達の視点が一緒の場所を向いている事に気付いた。
 それを見た時、そこには運ばれる負傷者達の様子が目に映る。

 それを気にした様子だった青年に対して、第六部隊の隊長は尋ねた。

「彼等が、どうかしたか?」

「……あの者達は、どうしてあんな怪我を?」

「!」

 疑問に対して問い返す青年に、第六部隊の隊長は少し驚いた様子を見せる。
 そして運ばれる負傷兵達を見ながら、青年に対して状況の説明をした。

「この都市から出現した、魔導人形ゴーレムに襲われたんだ。負傷者かれらだけでなく、死人も出ている」

「……どうして、お前達は争うんだ? 争いは、ああいう傷みと悲しみを生むだけだ」

「……我々は今回、地上で多くの虐殺を繰り返す魔導人形ゴーレム製造施設を破壊し、この都市を地表へ落とすのが目的だ。……そうしなければ、これ以上の多くの者達が地上で死ぬ。そして、我々の大切な人々が殺されてしまう」

「……」

「我々も、好きで争うワケじゃない。誰かを傷付けるのも嫌だし、自分が傷つきたくもない。勿論、死にたくもない。……だが、誰かがやって終わらせなければいけないんだ。この失うばかりの戦いを……」

「……ッ」

 そう説明され述べられる真摯な言葉に、青年は表情を強張らせながら顔を伏せる。
 青年の中で何かが葛藤している事を察した第六部隊の隊長は、再び問い掛けた。

「元帥の命令で、私達は君達を保護する。だがもし、君がここに残るなり戻るなりを選ぶのであれば、私も止めようとは思わない」

「……」

「君がこの子達の統率者リーダーだと言うのであれば、選ぶのは君だ。君の決断で、この子達の今後が決まる」

「!」

「我々も、あまり時間が無い。どうするか決めてくれ」

「……ッ」

 青年に問い掛ける第六部隊の隊長は、紳士的にそう告げる。
 それに対して青年は思考し、数秒後に伏せていた顔を上げて答えた。

「……お前達に付いて行く」

「そうか。ならば、第七部隊と第八部隊と共に同行するよう頼もう」

「その前に、やりたい事がある」

「ん?」

「怪我人に、俺達が近付く事を許してほしい」

「どうするんだ?」

「……」

「……分かった。――……第七部隊と第八部隊は、もう一度だけ建物に戻ってくれ! 負傷者の運搬も、少し止めてくれ!」

 青年の頼みを聞いた第六部隊の隊長は、撤退準備で表に出ようとしていた負傷者達を傭兵ギルドの建物内部に呼び戻す。

 そして子供達の前に再び並ぶように敷かれた負傷兵は、それぞれに苦しみ呻く声を漏らしている。
 その光景を見る青年や子供達は寄り添うように表情を強張らせ、悲しむ表情を浮かべていた。

 そして傍に戻った第六部隊の隊長は、青年に次の事を聞く。

「それで、どうするんだ?」

「……『俺達は、神の教えを受けて来た』」

「?」

「『だから俺達は、その教えに背くわけじゃない。――……みんな、やろう』」

「『いいの?』」

「『ああ』」

 子供達だけに分かる言葉を介した青年はそう言うと、子供達は分散しながら負傷者達の傍に近寄る。
 そして軽傷の負傷者には一名が付き、重傷者には二名から三名以上の子供達が付いた。

 何をするのか分からない子供達に、第六部隊の隊長と周囲の兵士達は警戒する。
 いざとなれば子供であっても銃を向ける覚悟を持ちながら、子供達の様子を窺っていた。

 そして次の瞬間、子供達がまるで祈るように両手を重ねて握り、片足の膝を曲げて床に着ける。
 更に小さく呟きながら、子供達の周囲に白い光が集い始めた事に全員が気付いた。

 それに驚く周囲に合わせ、第六部隊の隊長はその場に残る青年に顔を向けて聞く。

「なっ、何をやっているんだ!?」

「神の施しだ」

「神の、施し……?」

「神の御業の一つだ」

 そう話すだけで意図を察せられない第六部隊の隊長は、再び白い光を纏った子供達に視線を戻す。 
 するとそこからは、驚くべき光景を兵士達は見る事となった。

 軽傷の者であれば表面に見える裂傷や傷口が癒されるように塞がり、元の地肌へと戻っていく。
 更に大量の出血と致命傷を負っていた負傷者達も同じように治癒し、手足を欠損させた者達ですらその光を浴びる事で欠損部位に光が集い、そこに手足が形成され完全に癒着し傷を完全に塞いだ。

「き、傷が……」

「ど、どんどん治っていく……!?」

「馬鹿な……!」

「こんなこと、回復魔法だって無理だぞ……!?」

「……せ、切断するしかなかった手足まで……」

「奇跡、なのか……?」

 子供達が起こす奇跡のような光景を見せられた兵士達は、驚愕のあまり表情を強張らせる。
 そして子供達は疲弊した様子も無いまま、一人また一人と負傷者が治されていき、それを見て急いで外に出てしまっている負傷者達も中に運ぶように兵士達が指示を出した。

 結果、五十名程の子供達は瞬く間に四十名以上の負傷者を癒し終える。
 軽傷から重傷まで、あるいは死に瀕して手遅れだとすら思っていた負傷者達も治され一命を取り留めた事で、兵士達は歓喜よりも驚きに満ちた表情でその子供達を見ていた。

 その中に含まれる第六部隊の隊長は、隣に佇む青年を見て呟くように声を掛ける。

「……こ、これは。回復魔法なのか?」

「違う。これは神の御業だ」

「神の御業……? それは、魔法ではないのか?」

「神は、俺達に御業を行うすべを教えてくれた。……それともお前達は、この御業を魔法と呼ぶのか?」

「……いや。魔法での回復は確か、あれほどの重傷者を癒す事は難しい。しかも詠唱も何も無いなんて、無理だ……。……君達は、何を教えられたんだ?」

「祈ることだ」

「……祈る?」

「俺達は、祈りによって神の御業を貸し与えられる。それが神の加護だ」

「加護……。……その刺青いれずみも、君の言う加護で施されたのか?」

「そうだ」

 青年の言葉に第六部隊の隊長は驚き、そして実際に目の前で起こった奇跡を見直す。

 魔法を使用した際、術者は精神的にも肉体的にも大きく疲弊する。
 しかし子供達はそうした様子も無く、怪我が治り驚いている兵士達に対して微笑んでいた。

 魔法とは全く異なる技術で、このような事を起こせるのか。
 その原理を知らない兵士達と第六部隊の隊長は、本当に彼等が『神』と称される者に加護を与えられたからこそ奇跡が起こせているのではと考えてしまう。

 その加護を受けた青年が、自分から第六部隊の隊長に声を掛けた。

「……苦しむ者を助けるのは、神の教えだ。それ以外の事は、お前達にはしない」

「!」

「俺達を連れて行くなら、連れて行くといい。……だが、俺達は神を信じている。神であれば世界を浄化し、争いの無い世界を創ってくれると」

「……そうか」

 そう強く発する青年の言葉に、第六部隊の隊長は表情を強張らせながら呟く。
 そしてその後、負傷者の全員が起き上がれる程に回復した為、新たに部隊を別けて箱舟ふねの様子を確認するか、再び全員で箱舟ふねまで移動するかの話し合いが隊長達によって行われた。

 こうして神を信奉する子供達は、人智を超えた能力を明かす。
 それは本当に『アリア』が与えた加護の力なのか、それとも別の技術なのか。

 多くの謎を魅せながらも、それとは関わりの無い場所ではまだ争いが激しく続いていた。
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