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螺旋編 五章:螺旋の戦争
黒い人形
しおりを挟む無抵抗となったエリクを殺し、胸の奥から湧き上がる感情に動揺した『神』は、狂乱しながらも塔内部から出てついに都市に存在する侵入者達の殲滅を始める。
そして『青』が危惧していた箱庭の防衛機能がついに起動し、小さな魔鋼の塔から出て来た黒い人形がその姿を現した。
それ等が主人である『神』の命令を受け入れ、侵入者である同盟国軍の兵士達が集結している二隻の箱舟と、地上に転移したマギルスとシルエスカを含んだ兵士達の場所へ向かい始める。
更に中央付近の黒い塔から排出されたそれ等の黒い人形も、『黄』の七大聖人ミネルヴァやアズマ国のブゲンとトモエが戦闘を繰り広げている場所へ数えきれない量が圧し潰すように殺到した。
各地に居る全員がそれ等を目撃し、全員が空が赤く光る夜空と巨大な黒い翼を持つ存在の光景を目にしながらも、這い駆ける黒い人形達に気付く。
「な、何か中央から来る!」
「総員、迎撃準備! 負傷者は早く二号機の箱舟へ移せ!!」
「子供達も早く乗せろ!」
「戦車を広場の出入り口に固めさせろ! 障害物を作って、陣形を整えるんだ!!」
「武器と弾薬を、ありったけ掻き集めろ!!」
「二号機に迎撃と離陸の準備をさせるんだよ! 急げッ!!」
「絶対に、箱舟を死守しろ!!」
「了解ッ!!」
二隻の箱舟が着陸していた広場に集結していた同盟国軍の兵士達が、中央で起きた異変に気付く。
そして暗闇の中で殺到する黒い人形達を確認し、急いで迎撃の準備を始めた。
戦車や周囲の障害物を盾にするように、帰還した第一から第九部隊までの部隊が各々に動き、幾つかの防衛線を急ごしらえながらも築いて迎撃の準備を整えさせる。
そしてついに、迫る黒い人形達が広場の出入り口に展開する部隊の視界に入った。
「――……来ました!」
「総員、構え! ――……撃てぇッ!!」
各部隊の隊長達が兵士達に指示し、迫る黒い人形に照準を合わせて自動小銃や徹甲発射器を放つ。
同時に戦車の砲身から徹甲弾が放たれ、迫る黒い人形の群れを襲った。
それ等で外れたモノがコンクリートの地面等に着弾して土埃を起こし、僅かな時間だけ兵士達から魔導人形の様子が遮られる。
「――……!」
「だ、ダメだ!」
「銃も、砲撃も効いてない!」
しかし、兵士達は土煙の中から出て来る黒い人形達に傷一つ無く、新型すら比較できない硬さだと悟る。
更に凄まじい速度で駆ける黒い人形達を見て兵士達は怯んだが、それでも各隊長達が口々に檄を飛ばした。
「総員! 第二防衛線まで退避しろ!!」
「!」
「戦車も後退するんだ!」
「第一防衛線を爆破して、敵の侵入を阻む!」
「急げッ!!」
各隊長達が指示し、兵士達は急ぎ動いて一つ目の防衛線を離れる。
迎撃準備を進める中で、隊長達はあらかじめ未使用の爆弾を幾つか第一防衛線の各所に設置し、万が一の場合には敵の侵入を防ぐ事を考えていた。
そして黒い人形の強度と速度を見てすぐに迎撃を諦め、敵に進攻を防ぐ為の妨害に切り替える。
そうして急ぎ走る兵士達と、後退しながら砲身を定めて砲撃する戦車は、箱舟の方角へ急ぎ向かう。
しかし黒い人形の速力は人間である兵士達や戦車を遥かに上回り、後退が完了していない状態で追い付かれた。
そして接近を許してしまった戦車や兵士達に、黒い人形達が襲い掛かる。
「――……ゲハ……ッ!!」
「う、うわあぁッ!!」
「逃げろぉ!!」
追い付かれた一人の兵士が背後から迫った黒い人形の左手で掴まれ、瞬時に人形の右腕が黒剣に変化して兵士の背中と胸を貫く。
防護服の意味も無く、また的確に人体の急所である心臓を一突きにした黒い人形《ゴーレム》は、剣を捻りながら黒剣を引き抜くと、兵士を投げ捨ててすぐに次の標的である兵士達を追った。
戦車もまた、取り付かれた複数の黒い人形達によって搭乗していた兵士達がいる座席を的確に狙われ、左右とハッチの上から黒剣を突いて鉄製の装甲を貫く。
そしてすぐに剣を引き抜き、血の付いた黒い剣を滴らせながら沈黙した戦車から新たな標的に狙いを定めた。
「こ、コイツ等! 今までの魔導人形と違う!」
「まるで、意思を持ってるみたいに……」
「俺達を殺しに来てる……!!」
兵士達の後退を援護していた各隊長達が、明らかに今までの魔導人形と黒い人形が違う事に気付く。
的確に人体を貫き兵士を即死させ、戦車の装甲を無意味に破壊せず一瞬で搭乗者を刺し貫く光景は、卓越した兵士や戦士の動きを思い起こさせた。
更にその運動性能は、シルエスカのように人間を超えた『聖人』を思い起こさせる。
「ぐ、ぁああッ!!」
「げぇ……ッ」
「早く逃げ――……ギャアアッ!!」
「くそっ、クソォオオオ――……あ……ッ」
明確に殺意を持ち襲い押し寄せる黒い人形達に、多くの兵士達が瞬く間に追い付かれると、心臓を刺し貫かれ、首を跳ねられて殺される。
後退を援護する兵士達も瞬く間に殺され、武器が通じず人間の身体能力では黒い人形達に抗えない。
このまま後退し続けても、第二防衛線まで下がれるのは極僅かの兵士だけ。
それを悟った殿を務める第二部隊と第六部隊の隊長は、手に持つ爆弾のスイッチを震わせながら互いに視線を合わせて頷き、先に後退した部隊の隊長達に大声を向けた。
「――……お前達は早く下がれ! 俺達は、奴等諸共に爆破する!!」
「!?」
「何を馬鹿な――……!」
「このままじゃ全滅する! 箱舟までに追い付かれたら、終わりだ!!」
「だが!」
「急げ! 早くッ!!」
「――……ッ」
「……すまん……!!」
殿を務める二名の隊長達に呼応し、他の第二部隊と第六部隊の兵士達も後退を止めて覚悟を決めた表情を浮かべ、黒い人形達へ銃を撃ちながら左右に散開する。
その様子を見た他部隊の隊長達と兵士達は、苦悶の表情を浮かべながらも第二防衛線まで走るように後退した。
それを見送りながらもすぐに視線を戻し、前方から迫る魔導人形へ第二部隊と第六部隊の隊長を含めた兵士達が応戦する。
しかし銃は通じず、卓越した動きを見せる黒い人型魔導人形は次々と兵士達を殺し、足止めをしていた六十名以上の兵士が僅か数十秒で壊滅した。
「……ここまでだな」
「ああ……!」
「……後は、みんなに任せよう」
自分達の眼前に迫る黒い人形の姿を見ながら、第二部隊と第六部隊の隊長は最後に微笑む。
そして迫る黒剣より早く手に持つ爆弾のスイッチを躊躇せず押し、二人の隊長が黒剣で心臓を貫かれた瞬間、周囲に設置していた爆弾が起動した。
それと同時に広場の出入り口一帯が吹き飛び、巨大な爆発と衝撃が生み出される。
その衝撃は後退した部隊にも届き、爆風と共に小さな瓦礫が兵士達に浴びせられた。
「う、うわあああっ!!」
「堪えろ!!」
「走るのを止めるな!!」
瓦礫に当たり倒れた兵士達を起こし、後退する他の部隊は第二防衛線を目指す。
そして隊長達は走りながら後ろを確認し、爆煙と土煙を見て苦い表情を浮かべて煙の中を必死に凝視した。
しかし彼等の表情は、数秒で焦燥感を浮き出した顔となる。
「……クソッ、嘘だろ……!」
「冗談キツイぞ……」
「……全員、早く下がれ!!」
隊長達が目にしてしまったのは、爆煙の中で起き上がる黒い人形達の影。
それを確認し施設破壊用の爆弾すら通じない事を察した隊長達は、急いで兵士達を下がらせながら更に後退を始めた。
こうして都市に侵入していた同盟国軍は、再び窮地に陥る。
それに抗おうとしながらも、犠牲者の数は次々と増えていった。
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