虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 五章:螺旋の戦争

悪魔の意思

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 アリアの魂を懸けた『救済の光リリーフ』よって、怨念を宿す死者達の魂と瘴気は浄化に成功する。
 しかし『悪魔』はそれを防ぎ、生き残っていた。

 そして生存者達に再び襲い掛かる『悪魔』の憎悪を目の当たりにし、悲痛な面持ちで見つめるエリクは警戒どころか構える様子すら見せない。
 そんなエリクを憎々しい表情を睨む『悪魔』は緩やかに歩み寄り、エリクの前に立った。

「――……フッ!!」

「ッ!!」

 『悪魔』は細く黒い左腕の拳を握り、エリクの顔面に向けて単純ながら素早い殴打を放つ。
 それをエリクは反射的に左腕を動かし受け止めたが、その凄まじい腕力と膂力で放たれた『悪魔』の拳はエリクの巨体を浮かせて吹き飛ばした。

 エリクはこの時、左腕に凄まじい痛みを感じる。
 更に自身の耳に届く程に、腕の骨が砕ける音をはっきりと聞き取った。

「グ――……ッ!!」

「――……まだよ」

 エリクが砕けた左腕に意識を逸らした瞬間、その眼前に『悪魔』が迫る。
 そして今度は白い肌に戻っている右腕に集めた魔力を使い、エリクに向けて七色の属性を帯びた巨大な魔力を放った。

 身に纏っていた魔法防護の服も無く、自分自身の身体に纏い守れる程の生命力オーラが既に無いエリクは、間近から放たれた砲撃を防げずモロに直撃する。

「グ、ァアアアアアアア――……ッ!!」

「まだまだぁッ!!」

 虹色の砲撃と共に吹き飛ばされたエリクに向けて、更に『悪魔』は左手から虹色の光球を作り出す。
 そして光球も吹き飛ばされるエリクに向けて放ち、その直撃を受けるエリクは瓦礫に突っ込み爆炎に包まれた。

 幾数十と重ねた砲撃と光球がエリクが吹き飛んだ場所に命中し、その一帯を瓦礫と共に吹き飛ばしていく。
 それから数分ほど撃ち続けた後に、『悪魔』は手を止めてエリクが吹き飛んだ場所に歩きながら近付いた。

 その場所には巨大な窪みが出来上がり、その中心地には全身に傷を負い身体を血に染めたエリクが仰向けの状態となっている。
 しかし口を動かしながら息を残しているのを確認した『悪魔』は、エリクを見下ろしながら苛立ちの表情を浮かべた。

「――……まだ生きてるなんて、本当に鬱陶うっとうしい奴……ッ!!」

 瀕死のエリクに対してとどめを刺す為に、『悪魔』は白肌の右手と黒肌の左手を上空に掲げる。
 そして魔力と瘴気を混合させた直径十数メートル程の球体を作り出すと、エリクを見下ろしながら言い放った。

「肉体と魂。その両方をこの世から消失させる、魔力と瘴気の『複合魔球ミックスボール』。――……お前は未来永劫、この世からサヨナラよ……!」

「……アリ……ア……」

「死――……ッ!?」

「――……ウワアアアアアアッ!!」

 複合魔球が放たれようとした瞬間、『悪魔』の後ろから何者かが飛び掛かる。
 そして『悪魔』の顔面に右脚を放ち、攻撃を加えた。

 『悪魔』はそれによって数メートル程の距離を吹き飛ばされ、放とうとした魔球の操作コントロールを失い遥か奥へ流れ飛ぶ。
 そしてかなり離れた瓦礫地帯に複合魔球が激突し、その周辺が凄まじい勢いで吹き飛び消失した。

 その爆風の中で緩やかに起き上がった『悪魔』は、自分に蹴りを浴びせた人物を見る。

「――……お前は……」

「……お久しぶりです。アルトリアお姉さん」

「……その髪。確か、マシラとかいう国の……」

 『悪魔』は目の前に対峙する人物の髪を見て、記憶の中に残る名を思い出す。

 亜麻色の髪をした、アレクサンデル=ガラント=マシラ。
 過去のアリア達と関りを持つかつての少年は、今や黄色い闘着を身に纏い聖人せいねんとしてこの場に立っていた。

 箱舟ノアが襲われる前に『悪魔』の存在に気付いたアレクは、瞬時に瓦礫に紛れながら『悪魔』が居る場所に移動している。
 そして『悪魔』がエリクに止めを刺そうとする場を目撃し、瓦礫の中から飛び出した。

 そんなアレクに対して、記憶を失っている『悪魔』に情を持つような思いは無い。
 更に自身の行動を妨害するアレクに対して、憎悪に満ちた鋭い表情を見せるのは当然だった。
 しかしアレクは、エリクに似た悲痛の表情と切実な声で『悪魔』に話し掛ける。

「……もう、止めてください!」

「は?」

「なんで、なんで貴方は、自分の大切な人まで傷つけているんですか!?」

「……」

「僕は、僕の父や、貴方のお兄さん達が死んだあの事件の真相を、必死に調べました! 貴方が自分の故郷を滅ぼした理由も! ……そして、あの事件の首謀者であり、貴方を操っていた人物を見つけ、帰還したユグナリスさんと一緒に倒しました!」

「……アイツ、本当に馬鹿皇子ユグナリスなんかに殺されてたのね……」

「あの男が貴方に施した死霊術ネクロマンシーの呪縛も、既に解除されていますよね……!? もう、貴方を縛る者は誰もいなんですよ!」

「……」

「貴方が殺された経緯も、奴に聞きました。貴方が帝国と王国を憎み、殺戮の憎悪を持った理由も納得できます! 貴方はその憎しみを利用されて、奴の死霊術で操られてた!」

「……」

「でも、今の貴方はあの男に操られていないし、誰かに縛られてもいない! ……関係の無い人々を、そして自分の大切な人を、貴方を大切に思ってくれている人を傷付ける必要は、もう無いはずだッ!!」

「……ウルサイわね」

「……!!」

「人類を滅ぼす理由? そんなの簡単よ。……耳障りで、目障りだから」

「!?」

「アンタみたいに喚く奴が、私の目の前に出て来る。だから入念に潰してるだけよ」

「……お姉ちゃん……ッ」

 『悪魔』はアレクを睨みながら全身に瘴気を立ち昇らせ、凄まじい殺意を向ける。
 それに対するアレクは悔やむ表情をしながら決意し、体内の生命力を高めながら闘気オーラを練り上げその身に纏わせた。

 互いに鋭く視線を交える中で、先に『悪魔』が凄まじい脚力と左背の翼を羽ばたかせてアレクに迫る。
 それを迎撃する為に構えるアレクは、エリク達を守る為に『悪魔』と対峙した。
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