上 下
676 / 1,360
修羅編 閑話:裏舞台を表に

変動の要因 (閑話その六十一)

しおりを挟む

 エリク達と別れた『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァは、未来のアリアを変貌させる原因となった【悪魔】が存在するベルグリンド王国に来襲する。
 しかし意図しない形で、ミネルヴァは【悪魔】と思しき疑いがあるアルフレッドと対面した。

 王都に乗り込みベルグリンド王の周囲を見定めようと考えていたミネルヴァにとって、まさか王都の外で【悪魔アルフレッド】本人に出会でくわすなど予想外の出来事。
 その僅かな驚きを突くように、アルフレッドは自身の名を呟き驚愕するミネルヴァに訝し気な目を向けながら口を開いた。

「……どうやら貴方は、私の存在ことを御存知だったようだ」

「!」

「あの男と貴方が皇国で接触したとは聞いてはいましたが……。しかし、あの男が私の正体を知る知識は無かったはず。いや、あの男にはアルトリアが付いていたか。あの出来事を彼女に教え、こちらの正体を見破られた可能性も考慮に入れるべきだった」

 小声の独り言を呟くアルフレッドは、瞼を閉じながら小さな溜息を吐き出し、首を僅かに横に振りながら自身の結論に納得を浮かべる。
 その様子を見ていたミネルヴァは驚愕から脱し、躊躇せず両足を踏み締め右手に持つ旗槍を振り、アルフレッドの顔面に旗槍の柄先を叩き付けた。

 旗槍を振り薙ぐ速度は目にも止まらぬ速さであり、常人ならば頭が砕かれ首の上が微塵も残らぬ程の破壊力を有する。
 その直撃が周囲に鈍く重い音を鳴り響かせると、ミネルヴァは右手に伝わる感触によって再び驚愕をあらわにさせた。

 薙いだ旗槍によって風が起き、土埃が舞う。
 それ等が中空を舞う中で、隙を見せ旗槍の打撃を与えられたはずのアルフレッドは、左手に旗槍の柄を握り締めながら平然とした様子を立っていた。

「……!!」

「――……私の正体を知りながらの御挨拶にしても、物騒なやり方だ。『きん』の七大聖人セブンスワン

「……ッ」

「やはり貴方が私を目的として訪れたのは、そういう理由わけでしたか」

 ミネルヴァの旗槍は強く握り締められ、押し引きをしても微動すらしない。
 隙を突き打倒しようとしたアルフレッドの実力が予想を上回るモノだと改めて察したミネルヴァは、互いの視線を交えながら鋭く睨み合った。

 そうした二人の殺伐とした空気を見せる中、幾人もの兵士達が武器を持ちながら大門に設けられた小扉から出て来る。
 兵士達は攻撃を受けたアルフレッドを見ながら焦る様子を見せ、大声を出しながら近付いて来た。

「――……ア、アルフレッド殿ッ!!」

「御下がりくださいッ!!」

「この女! リスタル様によくもッ!!」

 兵士達が続々と壁の内側から飛び出て、武器を構えながら二人を包囲する。
 そして数人の兵士がアルフレッドに近付き庇い引かせようとする中で、当人は周囲に視線を向けずに告げた。

「――……全員、その場で待機せよ!」

「!!」

「ア、アルフレッド殿……!?」

「彼女の目的は私らしい。君達は下がり、持ち場に戻りなさい」

「し、しかし……!!」

 アルフレッドは冷静な声を周囲に向け、兵士達を制止させる。
 そうした周囲を無視するように、ミネルヴァは表情を鋭くさせながら身体と旗槍に刻まれた紋様を金色に輝かせ始めた。

 その光はアルフレッドの周囲も纏い、二人は金色の光に包まれる。
 周囲の兵士達は新たに起こる異変に驚愕し、二人の傍に居た兵士がアルフレッドに大声で呼び掛けた。

「なっ!?」

「また、あの光……!!」

「リスタル様ッ!!」

「――……王には伝えておいてくれ。夜には戻ると」

「!!」

 アルフレッドはその伝言を残し、金色の光に飲まれながらミネルヴァと共にその場から消え失せる。
 その報告と話は現場に居た兵士達によって王都中を駆け巡り、ウォーリス王と臣下達、更に王都民にも伝わった。

 フラムブルグ宗教国家に属する『黄』の七大聖人セブンスワンが、国務大臣アルフレッドを襲い連れ去る。
 それはアルフレッド個人に信頼を置く者達や、王の腹心たる彼の政策と方針によって良き国となっている事を知る民にとって、フラムブルグ宗教国家や七大聖人セブンスワンという存在に対して敵対心を向けさせるに十分な理由となってしまった。

 一方その頃、ミネルヴァの転移魔法によって二人は人間大陸南部の無人島に跳躍する。
 そして金色の光が四散するより先にミネルヴァは右腕を大きく振り動かし、旗槍を握るアルフレッドの左手を弾いた。

「――……クッ!!」 

「……なるほど。これが貴方の転移魔法ですか」

 ミネルヴァは後方の飛び退きながら距離を開き、間合いを確保する。
 そして旗槍を構え直し、アルフレッドに矛先を向けた。

 しかしアルフレッドは誘拐同然の転移を行われながらも、動揺や驚愕を見せる様子は無く、平然とした様子でミネルヴァを見つめる。
 そして周囲を落ち着いた様子で見回し、正面に立つミネルヴァに視線を向けずに尋ねた。

「ここは何処か、教えて頂いても?」

「お前に語る口は無い。【悪魔】め」

「そうですか。しかし貴方が目の前に現れたことや、私を【悪魔】だと知っている時点で、多くの情報を得られたも当然。……これは少し、計画を変更する必要があるようだ」

「……」

「――……事と次第によっては、七大聖人おまえたちとも戦う予定だった。それが少し、早まるだけだ」

「!」

 アルフレッドは丁寧な口調を変え、後ろへすきあげた黒髪を右手で掻くように動かす。
 前髪を下ろし整えられた髪を乱れさせながら左手で襟締ネクタイを緩めると、今まで落ち着いた面持ちだったアルフレッドの表情が影を宿した鋭い顔へと変わり、突如として凄まじい殺気と異質な力を放ち始めた。

 それを見たミネルヴァは対抗するように自身の生命力オーラを高め、更に白銀の装束に刻まれた紋様に魔力を纏わせる。
 互いが放つ殺意と力が突き刺すように衝突し、無人島に棲む生き物達がそれを感じ取り、二人が居る逆側へ逃走を始めた。

 そうした生き物達の騒ぐ声すら遠退いた時、二人は睨み合いながら声を向け合う。

「――……我が神に誓い、人に仇名す【悪魔きさま】をこの世から滅するッ!!」

「……残念だが、その誓いはやぶれることになる」

 互いにその言葉を告げた瞬間、二人はその場から姿を消す。
 そして旗槍と剣を衝突させ凄まじい轟音と衝撃を撒き散らしながら二人が姿を見せると、無人島全体と周囲の海を揺らぎ始めた。

 こうして『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァと、【悪魔アルフレッド】が激突する。
 本来の未来ではこの出来事は起こっておらず、エリク達が各国に赴いた事によって起きた変化と同様に、『かみ』に選ばれたミネルヴァの介入が【悪魔アルフレッド】の計画と行動にも変化を生じさせた要因となった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

2025年何かが起こる!?~予言/伝承/自動書記/社会問題等を取り上げ紹介~

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:28,861pt お気に入り:72

わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:25,298pt お気に入り:2,769

極悪チャイルドマーケット殲滅戦!四人四様の催眠術のかかり方!

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:596pt お気に入り:35

自由に語ろう!「みりおた」集まれ!

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:22

処理中です...