虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 二章:それぞれの秘密

父親の背中

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 父親の墓前に訪れたはずだったアルトリアだったが、その本人である父クラウスと思わぬ対面を果たす。
 しかし過去の記憶を垣間見ているアルトリアは、かつて意思を違えた父クラウスを訝し気な様子で見つめていた。

 そんなクラウスは、自嘲するように子供達の母メディアについて初めて語る。
 その内容は酷く自分勝手に思える姿を想像させ、クラウスはアルトリアを見つめながら続きを話した。

「――……お前は、メディアに似ている」

「えっ?」

「セルジアスやお前は、容姿こそ私に似た。……だがセルジアスは、俺や母親よりもガルミッシュ皇族の血筋を色濃く継いだのだろう。高い能力と堅実な判断能力を備えていた、歴代の賢帝に似た部分が多い」

「……」

「だがお前は、私や母親メディアの悪い部分が似たらしい。常人からすれば愚かに思える選択や判断を、躊躇せずに選び行える。そういう性質を、色濃く受け継いだようだ」

「……私の出来できが悪いって言いたいの?」

「いいや。……私はな、人のしき部分こそ、人間を含む生物の中でもっとひいでる部分ところだと考えている」

「え……?」

「人がいと呼ばれる部分は、ただ人や世界の関係で調和バランスを整えているだけだ。それは人間として、そして生物として、何かが突出するわけがない。奇妙な言い方だが、き部分が高まる毎に、人間という生き物は肉体も思考も停滞し衰え続けてしまう」

「……」

「セルジアスは『人間』のき部分を受け継ぎ、お前アルトリアは『人間』のしき部分を受け継いだ。……そういう意味では、お前が誰よりも多い才能を持ち、誰よりも秀でている理由も頷ける。何せ、俺やメディアという最もひいでている『人間ひと』の悪い部分を色濃く受け継いだのだから」

 自慢気に微笑みを浮かべるクラウスは、娘であるアルトリアの在り方をそう述べる。
 それを聞いたアルトリアは不可解な表情を浮かべながらも、それがざまに述べているようには聞こえなかった。

 それはまるで、娘の進んだ道を認めているような言い方。
 幼い頃に自分を抑えつけようとしていた父親クラウスが、自分の事を穏やかな瞳で見つめている事にアルトリアは再び怪訝さを浮かべて尋ねた。

「……まるで、化物バケモノの私を『人間』だと認めてるような言い方ね」

「そう言っているつもりだ」

「!」

「お前は一時いっとき、帝国南方の樹海に身を寄せていた事があるだろう? そこでパールという娘と、ともになったそうだな」

「……」

「そのパールに言われた。私が原因で、おまえが逃げ続けているとな。……それを言われて初めて、私という束縛そんざいがお前にとって窮屈な存在ものだと自覚した」

「……!」

「それから少しばかり動揺し、お前を連れ戻そうと悪足掻わるあがきもしてみた。……だが私という存在が、お前やセルジアスを在り方を縛っているのだとしたら。私から離れ、お前達が自由になれるというのなら。父親として潔く身を引くべきだろうと、そう悟った」

「……だから、自分を死んだ事にしたの?」

「そうだ」

「……だったら、最初の質問に戻るけど。……何の用で、私の前に現れたの?」

 父親クラウスが自身の死を広めた理由を聞いたアルトリアは、再びその質問を行う。
 それを聞いたクラウスは、躊躇無くその理由を口にした。

「それには答えただろう。私の手から離れたお前が、どう成長したかを見たかっただけだ」

「……!」

「確かに、姿こそ成長したように見える。……だが何故だろうな。今のお前は、私が知る子供時代に戻ったように見えた」

「……ッ」

「今までの記憶を失い、それを僅かばかり戻しても、お前を成長させた重要な何かが失われている。……そんなところか」

「……だったら、なんだって言うのよ?」

「む?」

「私は、アンタ達が知ってる『アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン』なんて女じゃない。……記憶が全て戻ったところで、私がその女になれるわけじゃない。……なれたとしても、今の私は消えて無くなってしまう」

「……アルトリア」

「私を、その名前で呼ばないでッ!!」

 娘の名を口にしたクラウスの言葉を遮り、アルトリアは自分自身の名と存在を拒む様子を見せる。
 それは過去アリアの記憶を得た中で、今の自分自身と乖離した感情や思考を得てしまったアルトリアの激情が初めて漏れ出た瞬間でもあった。

 それを聞いたクラウスは僅かに驚きの表情を浮かべたが、しばらくして微笑みを腕を組む。
 そして日が昇る青い空を見上げながら、一人の『人間』として彼女に対して答えた。

「――……そんなに嫌なら、アルトリアという名など捨ててしまえ」

「……え?」

「私が名付けた名が、そして立場がわずらわしく、お前の在り方を再び束縛するのなら。そんな名など捨てても構わん」

「……なんで……」

「お前が本当に、『アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン』になりたくないのなら。どんな手段を使っても、現状からあらがって見せろ」

「……!!」

「少なくとも、過去まえのお前はそれを選んだ。今まで築いてきた全てを捨て、何かを得る為に旅立った。……私はそんなお前の在り方を羨ましく思い、それと同時に誇らしくも思えた」

「……」

「今のお前が、それを選択できる程の手段や方法を有していないのならば。この状況を利用し蓄えろ。知識を、力を、そして過去の記憶すらも。全てを用いて自分アルトリアという存在から逃げ切り、お前自身になってみせろ」

「……アルトリアじゃなく、私自身になる……?」

 クラウスはそう述べ、自身の在り方を否定するアルトリアに対してどのようにすべきか一つの道筋を導き出す。
 それを聞いたアルトリアは驚愕しながらも呆然とした表情を浮かべ、自分自身アルトリアから逃げるという選択肢を初めて見出す事が出来た。

 その気付きに狼狽するアルトリアに対して、クラウスは振り返りながら自身の墓前から歩み去る。
 そして深々と帽子を被り、背中を見せながらアルトリアに最後の言葉を向けた。

「――……今まで、父親らしい事を一つもしてやれなかったが。……最後に、それらしいことをしてやれた気がする」

「……!」

「お前が何を選ぼうとも、何処に行こうとも。お前が自分の意思でこの世界で生きているのなら、それでいい。……さらばだ、我が愛しき娘よ」

 クラウスは背中越しにそう伝え、娘アルトリアとの最後の別れを告げる。
 それを聞いたアルトリアは振り向きながら歩み去る父親クラウスの背中を見ると、初めて郷愁きょうしゅうに似た感傷を抱いた。

 そしてアルトリアの脳裏に、過去の記憶と現在の光景が重なる。
 それは寂しさを宿した父親の背中を見る、幼い少女アルトリアの視界だった。

 こうしてクラウスは、息子セルジアスアルトリアの成長を期待しながら別れる。
 そして悪魔を従えるウォーリスの探られたくない秘密を知る為に、ある人物達を伴いながらオラクル共和王国へ潜入することになった。
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