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革命編 三章:オラクル共和王国
危険な探検
しおりを挟むオラクル共和王国の王都に訪れたクラウスとワーグナーを含めた黒獣傭兵団の団員達は、様変わりした故郷の姿に驚愕する。
ローゼン公爵家の本都市に引けを取らない下町の光景は、昔の王都をよく知る黒獣傭兵団の面々を困惑させる。
しかしクラウスだけは、三十年前に来訪した時と確かに違う王都の様子に強い驚愕は見せなかった。
「……息子の話では、共和王国は急速に軍備と技術を高めていたらしい」
「!」
「その中心である王都ならば、こうした改革が行われているのも頷ける。それに、未開の地を切り開いて文明を根付かせるよりも、元々開拓された土地がこうなるの方が遥かに容易いだろう?」
「……へっ、違いねぇな」
クラウスが落ち着いた様子でそう述べると、ワーグナーは微笑を浮かべながら同意する。
それを見た他の団員達も、納得を浮かべながら頷いていた。
樹海の部族達に様々な技術を教えていたクラウスと雇われた黒獣傭兵団は、その苦労を誰よりも実感した張本人達である。
その樹海が現在のような光景になった事を考えれば、比較して驚くに値しないという事に少なからず納得してしまったのだ。
クラウスの冗談染みた言葉で、黒獣傭兵団の面々は落ち着きを取り戻す。
そして行商人達に紛れて下町に入ると、風景以外の部分で昔と現在の相違を黒獣傭兵団の団員達は気付いた。
「……なんか、知らない顔が多いっすね」
「だな。……いや、見た事がある顔も、幾らかは……」
「だが、知らない店がやけに増えているような。……ほら、あんなとこに酒場なんてあったか?」
「あっち、道具屋の婆さんがやってた店が無くなってる……。なんだ、あのデカい建物は……?」
「『リックハルト商店』……。なんだ、あんな店は王都には無かったはずだが……」
「それだけじゃねぇぜ。知らない名前の店が……建物が、あちこちに立ってやがる……」
黒獣傭兵団の面々は訝し気な表情を浮かべ、記憶に無い店が立つ場所を馬上から見渡す。
そうした面々に応じるように荷馬車を操るクラウスも周囲を見回すと、視線を細めながら周囲の者達に伝えた。
「『リックハルト商店』は、確か各国を中心に商売をしている豪商が営む店だ」
「!」
「他の店も、聞き覚えがある名が多い。どれも各国で名のある商号を持つ豪商や、事業家が扱っている店だな」
「外国の商人が、王都に店を……!?」
「共和王国に引き入れたのだろう。国の経済をより良く回すには、名の高い商人こそ必要となる。……なるほど、この国に様々な物資が集まる理由は、各国の豪商達を取り入れた影響か。同盟都市の建築といい、商人達が稼ぐには丁度良い時期だろうからな」
「……豪商達が入った影響で、元々から在った古い店は潰されちまってるのか……」
「だろうな。……見てみろ。遠目からでも分かる程に質が良く、手が届き易い価格で物が販売されている。アレだけの質であの価格であれば、輸入品だけに頼らず、共和王国内部でもアレ等の物資が生産できるようになってるはずだ」
「!」
「王国貴族達から取り上げた財産を有効に使い、各国の豪商を引き入れ、更に食料や衣服を始めとした生産工場を既に整えている。更に移民も引き入れ、生産力となる人材を爆発的に得て技術基盤を上げたようだな」
「生産力と、技術力を……」
「確かに樹海の開拓よりは容易いだろうが、二年でこの状況を作り出すとは。……王であるウォーリスの手腕、俺以上かもしれん」
クラウスは黒獣傭兵団の言葉と王都の変化から、改革の手腕と速度が尋常ではない事を察する。
そして自身も経験した事がある発展までの期間を考え、そうした改革の手腕を振るうウォーリスが自分以上の交渉術と政治能力を有している可能性に至った。
それを聞いた黒獣傭兵団の面々は、落ち着いていた精神を僅かに揺るがす。
そうしている間に一行は荷馬車や馬を置ける集積所に辿り着き、共に赴いた行商団の指揮者から予定を聞いた。
「――……では二週間後に、再び同盟都市建設現場に資材を運ぶ! それまでに各人は、資材の搬入と休暇を行ってくれ!」
指揮者の指示により、クラウスを含んだ行商団は二週間の猶予を与えられる。
その間に資材の搬入を行い、王都見物と兼ねた休暇を楽しもうと考える行商人達は遥かに多く、それに紛れる形でクラウス達も王都の内情を探る事になった。
見知った顔の居ない外来商人によって建てられたであろう宿屋を敢えて選んだ黒獣傭兵団は、そこを拠点に王都を内偵することを選ぶ。
しかしクラウスは、黒獣傭兵団の内偵に参加しない事を伝えた。
「――……私は別行動をする。お前達はお前達で、必要な事を探って来るといい」
「え? いや、構わんが。そっちは何をするんだ?」
「息子から聞いた話だが、王都には帝国側の内偵も入り込んでいるはずだ。私は身内に接触しようと思う。その為にお前達へ王都案内を頼もうと思ったが、どうやら今の王都では期待できないようだからな」
「そういうことか。んじゃ、帝国はそっちでやってくれ」
「ああ。……ただ、一つ危惧がある。念の為に、それだけは伝えておこう」
「危惧?」
「既に帝国の密偵が、何かしらの理由で共和王国に取り込まれていた場合だ」
「!」
「その場合、私も何かしらの事情で戻れなくなるかもしれん。もしくは戻ったとしても、敵勢力に取り込まれていると警戒してくれ」
「取り込まれるって……。……アンタが、俺達を裏切るってことか?」
「俺自身の意思ではなく、魔法師にはそうした呪術を得意とする者もいる。帝国の密偵がそういう類に取り込まれている可能性は、否定できない」
「……」
「今日はここで別れるが、明日の朝までに私が宿屋に戻らなければ。ワグナス、お前はコイツ等と一緒に共和王国から脱出しろ」
「!」
「だが、そうなってからでは既に遅いかもしれんがな」
クラウスは嘲笑にも似た微笑みを浮かべ、そうした事を述べる。
それを聞いた黒獣傭兵団の面々は緊張を高める中、団長代理であるワーグナーはクラウスに意思を伝えた。
「……分かった。仮に明日の朝までに戻ったとしても、アンタが魔法で操られてる可能性も考慮すればいい。そういう話だな」
「そうだ」
「了解した。んじゃ、明日からアンタも警戒させてもらう。だから、こちらで得た情報は教えてやれないが。それでいいか?」
「構わんさ。御互いに共和王国を探れば、辿り着ける情報は重なるかもしれんからな」
「そうかい。……んじゃ、俺達は行くぜ」
「ああ。ではな」
宿屋の室内にて話し合いを行ったクラウスとワーグナー達は、互いに別れて共和王国の現状を探る事を決める。
そしてその日、クラウスとワーグナー達は宿を離れて情報収集を開始した。
こうして共和王国の王都に潜入した一行は、それぞれに別れながら情報収集を行うことになる。
互いに異なる緊張感を得ながらもクラウスとワーグナーは異なる目的を持ち、共通の敵が抱く弱点を探る事になった。
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