虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 三章:オラクル共和王国

消えた者達

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 オラクル共和王国の王都に潜入したクラウスとワーグナーが率いる黒獣傭兵団の団員達は、互いの目的を果たす為に情報収集を始める。
 そしてクラウスは一人で帝国の内偵と接触する為に単独で動き、宿泊している宿屋でワーグナー達と別れた。
 
 一方で、ワーグナーと黒獣傭兵団の団員達も行動に移す。
 その割り当てをワーグナーが指示し、宿屋の室内で団員達に告げた。

「――……まずは、王都ここの状態を把握する必要がある。お前等は二人一組に別れて、各区の状況を把握してくれ」

「具体的には、何を調べます?」

「まずは、建築物や順路ルートの把握が最優先だ。いざ逃げるって時に、道が分からず迷子になるなんてマヌケは、晒したくない」

「地図を作るんっすね」

「ああ。だが、あからさまに作ると怪しまれるだろう。地図は脳内あたまで把握しながら覚えて、細かい部分は紙にでもメモしとけ。後で宿屋に集まって、情報として書き加える」

「分かりました」

「それと同時に、王都内の要所に当たりを付ける。兵士の詰め所や警備状況、他にも王国時代まえとどれだけ違うかも気になる。そういう細かいとこも、忘れずに調べろ。ただ危険だと少しでも感じたら、それ以上は踏み込むな。知り合いが居ても、今は声なんか掛けるなよ。いいな?」

「了解」

 ワーグナーはそう指示を出し、団員達は短く答えながら頷く。
 そうしてワーグナーを含めた六名の黒獣傭兵団は、それぞれの区画に別れて王都の現状を探り始める。

 東地区へと向かうワーグナーと若い団員の一人は、作りを大きく変えている建築物や人々の状況を眺めながら歩く。
 そして自身の記憶を下に、ワーグナーはある場所に向かう為に足を進めていた。

「――……まずは、貧民街に行くぞ」

「貧民街に?」

「ああ。知り合いに会うのは出来るだけ避けたいが、シスター達や貧民街の連中がどうなったのかを知りたい」

「……無事だと、いいんっすけどね」

「……」

 若い団員の呟きを聞いたワーグナーは、僅かにまゆを顰める。

 王国を脱出する際に逃亡を手助けしてくれた教会のシスター達や貧民街に人々は、ワーグナー達にとっては王国に残していた唯一の懸念だった。
 その現状を知り今後の方針を定める為にも、貧民街の状況を探る事が黒獣傭兵団ワーグナーたちにとって重要視されている。

 それを自ら探りに向かう団長代理のワーグナーは、同行する団員と共に貧民街の在った場所へ足を進めた。

 しかしワーグナー達の心配は、悪い意味で的中してしまう。
 他の場所と同じく、貧民街もまた大きく整備された状況となっており、崩れかけた粗末な木製や石造りの家が消え、全て立派な建物郡にわっていた。

 更に住民達の顔ぶれも大きく異なり、過去の王都では見た事も無い人々が住んでいる様子が見える。
 それを見たワーグナーは顔を顰《しか》め、声を低く渋らせながら呟いた。

貧民街ここもかよ……」

「……見た顔が、いないっすね。ここは特に……」

「全員、外国人だろうな」

「えっ」

「多分、貧民街ここの連中を追い出したんだ。そして、外国人が住める区画にしやがったんだろう」

「そんな……。じゃあ、貧民街もとの連中は……」

「……ッ」

 二人は渋い表情を見せながら、貧民街の人々がどうなったかを気にする。
 そして足を速めたワーグナーは、ある建物が在った場所へ向かった。

 そこは、黒獣傭兵団じぶんたちを逃がしてくれたシスターが営んでいた教会を兼ねた孤児院。
 その裏手にはエリクが訪れていた墓地もある事を覚えているワーグナーは、記憶を辿りながら教会に在った場所に赴いた。

 しかし再び、ワーグナーは驚愕と落胆を秘めた表情を浮かべてしまう。

「――……なんだよ、こりゃ……」

「……何も、無い……?」

 二人は驚愕と困惑の声を漏らし、教会が在った場所を見回す。
 そこに在るはずの教会と墓地は跡形も無く、全てさらな平地と化していたのだ。

 建物どころか草木の一本も残らず取り除かれている平地を見たワーグナーは、思わず近くに築かれている店へ足を運ぶ。
 そして平静を装いながら若い外国人の店員に声を掛け、教会の事を尋ねた。

「すまんが、聞きたい事がある」

「はい、なんでしょうか?」

「あそこの平地、随分前から空いてるのか?」

「え? ああ、そうですね。確か一年くらい前に取り壊されたらしいんですが、そのままになってるんですよ。工事が終わるまでは売りに出さないみたいで、空き地になってます」

「取り壊し……。工事ってのは?」

「なんでも、あそこの下に変な地下道があったらしくて。それを完全に埋め終わるまでは、誰にも売らないそうですよ」

「……ッ」

「もしかして、土地あそこを買いたい方ですか? あの土地は競争率が激しいらしいので、買うならそれなりの金額を用意しないと手が出ないかもですね。この王都に住んだり店を出す場所を手に入れる為に、皆が競争してますから」

「……そうか、答えてくれて感謝する」

「あっ、いえ……?」

 ワーグナーは顔を伏せ気味に感謝を述べ、不思議そうな表情を浮かべる店員から離れて店を出る。
 そして外で待っていた団員に近付きながら、教会が無くなった平地を見ながら呟いた。

「一年前には、ぶっ壊されたらしい」

「そうっすか……。……シスター達、どうしてるんっすかね……」

「……俺達を逃がすのを手伝ったせいで、捕まってる可能性もある」

「そんな……!」

「……調べる事が増えたな。貧民街の連中が、あの後にどうなったかを。……今日はとりあえず、地理だけ把握だ。行くぞ」

「は、はい……」

 ワーグナーはそう述べ、足を進めながら必要な情報収集に戻る。
 そして若い団員は教会が無くなった平地を名残惜しそうに眺めた後、ワーグナーの後を追った。

 それから夕暮れが過ぎ、それぞれの区画に別れた黒獣傭兵団は宿屋に帰還する。
 互いに集めた情報を出し合う中で地図を描きながら、ワーグナーは他の区画にも及んでいた変化を細かく聞いた。

「――……王国時代まえの店は、ほとんど消えちまってるのか……」

「はい。下町のほとんどは、外来の商人達が出してる店ですね」

「残ってる店も幾つかあるんっすけど、その商人達に店を買収されてるみたいです」

黒獣傭兵団おれらと親しくやってた店が、ほとんど潰されてる感じっすね」

「だな。武具屋の爺さんがやってた店も無くなって、別の金物かなもの屋に代わっちまってた」

「あの爺さんの店もか……」

「団長と副団長がよく通ってた食堂も、聞いた事もない名前の飲食店に代わってました。中で食事もしてみましたが、店員の顔を含めて見た事が無い奴ばっかです」

「……外国人がやけに多い。まるで、外国の街がそのまま移って来たみたいだ……」

 黒獣傭兵団の面々はそれぞれに得られた情報を出し合い、困惑と驚愕を秘めた表情で話し合う。
 その中で団員の一人がその言葉を口にし、全員がうなづかずとも声を低く唸らせながら深刻な表情を浮かべた。

 王国時代の住民を見かけられたのは、極少数だけ。
 表立って見える人間は、自分達が顔も知らない他国の人間や商人達のみ。
 王都にも関わらず王国民のほとんどが消えてしまった下町に、ワーグナー達は不気味さを感じていた。

 そうして全員が悩む表情を見せる中、部屋の扉を叩く音が聞こえる。
 それを聞いたワーグナーや団員達は警戒を高め、近くに居た団員が扉を叩く者に応じるように声を向けた。

「……誰だい?」

「――……私だ」

「!」

 扉越しに声を聞いた団員は、その声がクラウスである事に気付く。
 そして他の団員も声の主がクラウスだと察して僅かに警戒心を抱きながら、ワーグナーは作成中の地図などを片付けさせた後、扉を開けるように無言で指示した。

 そして扉を開けた時、クラウスは今朝と変わらぬ姿で部屋の前に立つ姿を見せる。
 警戒を向けるワーグナー達の意思を無視するように部屋に入ったクラウスは、一同にある情報を伝えた。

「……帝国こちらの内偵だが。息子セルジアスの情報にあった場所には居なかった」

「!」

「そこで、内偵をしていた者がどうなったかを少し探ったのだが。……どうやらその者達は、数ヶ月前から行方を途絶えさせているらしい」

「……!!」

「私が予測した通り、帝国こちらの内偵は既に殺されているか、取り込まれている可能性が高い。そして帝国に届けられた情報は、全てウォーリスの意思によって伝えられた情報ものだろう。……やはりこの共和王国くにには、どうしても探られたくない秘密があるらしい」

 クラウスはそう述べ、深刻な表情を浮かべながら自身の情報と推測を伝える。
 それを聞いた黒獣傭兵団の面々は、険しく厳しい表情を浮かべざるを得なかった。

 こうしてオラクル共和王国を探るクラウスとワーグナーを含めた黒獣傭兵団の一同は、共和王国の闇とも言える部分を垣間見る。
 そして黒幕であるウォーリスが隠そうとする秘密を暴く為には、一筋縄ではいかない事を改めて実感させられていた。
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