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革命編 三章:オラクル共和王国

冤罪の理由

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 オラクル共和王国の南方へ向かった貧民街の人々と再会する為に、クラウスとワーグナー達は王都を出立する。
 そして行商人を装いながら村や町などを移動し、共和王国の東方へ馬の足を進めさせた。

 話に聞いていた通り、共和王国の東側には外国から移住して来た者達が多く暮らす光景がはっきり見え始める。
 そして黒獣傭兵団ですら知らない村や町も出来上がっているのが確認され、クラウスの提案でそうした場所には積極的に寄りながら情報を集めた。

 優先して集める情報は、東側に新たに出来た村や町、そして兵士が待機する施設や検問所の位置。
 リックハルトに見せられた地図が偽物である事を考慮に入れながら、クラウスとワーグナー達は新たな共和王国内の地図を作り上げた。

 そして思った以上に、リックハルトが見せた地図に載っていない検問所や村が在る事が判明する。
 それを知ったワーグナーを含む黒獣傭兵団の団員達は訝し気な表情を浮かべ、クラウスを交えながら町宿の室内で話し合った。

「――……これは、やっぱり偽の情報を掴まされてたと見るべきか?」

「いや、単純にリックハルトですら把握していない場所も多いのだろう。まだ土地を得て店を作ってから、一年にも満たないようだったからな」

「外来商人は、まだ共和王国くにの地理を完全に把握できてないってことか?」

「そうだな。そしてそれは、旧王国民にも同じ事が言えるだろう」

「!」

「急速に進む国内の開発で、最も情報に追えていないのは旧王国民のはずだ。急に新たな村や町が作られながら外国から移りする者達が増えていき、外来からもたらされる新たな事業と見知らぬ仕事を覚え、今は自分の環境ことで精一杯だろう」

「……確かに、そうかもな」

「だからこそ共和王国は……王であるウォーリスは、人々が情報を把握し切れない今の状況を利用し、誰にも気付かれない場所で何かを進めている。てられた南方でな」

 クラウスはそう断言し、目指すべき南方にウォーリスが隠しておきたい秘密がある事を述べる。
 それを聞いていたワーグナーや黒獣傭兵団は、改めてクラウスの知恵と思考力に尊敬すら抱き、何かがある南方に向かってしまった貧民街の人々への心配を強めた。

 そうして次々と東側の町や村を巡った一行は、ある程度の情報を集めて徐々に南下をしていく。
 この時点で共和王国に潜入してから三ヶ月程の時間が経ち、季節は秋頃に差し掛かっていた。

 そして僅かに肌寒さを感じるようになる頃、道中で休息を行うクラウスとワーグナーは、同じ荷馬車の中で作成した共和王国の地図を広げながら話し合っていた。

「……出来れば冬になる前に、南方へ潜入しなければな」

「だな」

「王国は雪が降った場合、積雪具合はどうなる?」

「積もる場所は、かなり積もるぜ。この荷馬車だと移動が難しくなる程度にはな」

「そうか。出来ればその前に、お前達の探す者達を見つけておきたいな。冬越えをするにしても、春にはすぐに帝国へ向かえるように」

「同感だ。……リックハルトって商人の話を信じるなら、貧民街の連中は南方のこの辺りを根城にしてるはずだ」

「その情報は、確かだと思うか?」

「だと思うぜ。この辺りは反乱を起こした貴族の領都みやこは無いし、そうした場所からも離れてる田舎だ。もし隠れ住もうと考えるなら、ここが丁度いいと俺なら考える」

「それは、共和王国の連中も考えると思うか?」

「!」

 ワーグナーの言葉に対して、クラウスはそうした問い掛けを行う。
 それを聞いたワーグナーは表情を強張らせた後、表情を渋くさせながら呟いた。

「……多分な」

「もし、ウォーリスが南方で何かしらの隠し事を行っているのならば。お前が言った場所の近くを選び、そしてお前達の知り合いも暮らしていた可能性がある」

「!」

「あるいは帝国こちらの内偵と同じように、もう既に共和王国から排除されている可能性も否めない。……その点だけは、考慮しておけ」

「……了解だ」

 クラウスの言葉にワーグナーは納得しながらも、それを受け入れ難くするような渋い表情を見せる。

 南方で何かが秘密裏に行われ、もしそこで暮らして居たシスター達や貧民街の者達がそれを知ってしまったら。
 今の共和王国ならば、何かしらの秘密を知った者達を必ず排除しようと考えるだろう。
 
 もし助けたいと思ったシスター達が、既に亡き者とされていたら。

 ワーグナーの脳裏には、マチルダとその家族が住んでいた村の惨状と、横たわる多くの亡骸が思い出されてしまう。
 しかしその事を思い出した瞬間、ワーグナーはある事が脳裏に浮かんだ。

「……そうだ、思い出した」

「む?」

「あの村の、生き残りがいたはずだが……」

「……黒獣傭兵団おまえたちが虐殺をおこなったという、村の住人か」

「そんなことしてねぇよ」

「分かっている。それで?」

「……あの生き残った連中だったら、俺達が村を襲撃してないと証言できるはずだ。なのに、今も俺達にその件の罪が着せられたままなのは、どういう……」

 ワーグナーは襲われた村の生き残りが居た事を思い出し、その点に関する不可解さを示す。
 それを硬い干し肉を齧りながら聞いていたクラウスは、思い浮かんだ事をそのまま口に出した。

「……口封じをされた、というところだろうな」

「!!」

「お前達に罪を着せる為には、生き残りが存在するのは不都合だろう。……既に、殺されたと見るべきだ」

「まさか、そんな……!!」

「それすらも、お前達の仕業だとほうじられているのかもしれん。……だが、腑に落ちんな」

「……何がだ?」

「どうしてウォーリスは、黒獣傭兵団おまえたちをそこまで追い詰める?」

「!」

「国を得る為に英雄エリクを貶め、冤罪を着せて傭兵団諸共に排除する。そこまではいい、理解も出来る。だが帝国でもマチスという潜伏者を使い、黒獣傭兵団おまえたちが私を殺したという罪を被せようとした。お前達が、帝国でも居場所を無くす為に」

「……」

「明らかに、ウォーリスは黒獣傭兵団おまえたちを意図的に追い詰めている。この執着は、正直に言って尋常ではない。……黒獣傭兵団おまえたちは、何かウォーリスに恨まれる事でもしたのか?」

「……そんなの、知らねぇよ」

「本当か?」

「……可能性があるとしたら、俺達が始末してた王国貴族達のことかもな」

「王国貴族を殺していたのか?」

「ああ。奴等はあくどい事で、色々とやらかしてたからな。……恨まれてるとしたら、それしか思い当たらん」

「……だが、ウォーリスは王国貴族を全て排除していると聞く。優秀な者は人材として登用した者も居ると聞くが、お前達が殺した者にそんな人物がいたのか?」

「いや、どれも小物だったぜ。下っ端の下級貴族や、高級貴族に取り入ってる好き放題やってた使い走り共ぐらいだ。第一、そこまで優秀な奴がいたら。俺達になんざ簡単に殺されるわけがねぇよ」

「そうか。では、やはり別の理由があると考えるべきだな」

「別の理由か……」

 クラウスの問い掛けで、ワーグナーは自身と黒獣傭兵団の過去を思い出す。
 しかしウォーリスに恨まれるような接点を見出せず、結局はそうした話も結論が出ないまま流れるように保留となった。

 そして休憩を終えた一行は、再び荷馬車と馬の足を進める。
 一行は様々な事を考えながら、貧民街の人々を目的に南方の土地を目指し続けた。
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