虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 三章:オラクル共和王国

繋がる奇跡

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 シスター達が築いた村に辿り着いた一行は、そこでベルグリンド王国がオラクル共和王国へ変化した時の流れを聞く。
 そして共和王国が国内や国外から死体を集め、この南方の土地にある古城へ保管し、それ等を死霊術で用いている事が明かされた。

 しかし共和王国の闇とも言える秘密を深く探っていたシスターの意図に、クラウスは不可解な面持ちを見せる。
 それを解消する為にシスターが見せたのは、ウォーリスと激闘の末に捕らえられていたはずの、『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァだった。

 目の前に居る人物がミネルヴァだと聞かされた一行の中で、特に驚きを見せたのはクラウスである。
 彼は七大聖人セブンスワンという存在を身近に知る立場でもあったことから、シスターに対して疑いの眼差しを向けながら尋ねた。

「――……この女性が、本当に七大聖人セブンスワンのミネルヴァなのか?」

「そうです」

「だが、何故ここに? ……友人ガゼルから聞いた話では、ベルグリンド王国を襲撃した後に、行方不明になっていたと……。……まさか!」

「御察しの通りです。……この方もまた、死体が保管されていた古城の地下に囚われていました。ただし、生きた状態のままで」

「!?」

「私はミネルヴァ様を古城地下あそこで発見し、こうして御救いしました。……丁度、一年程前の事です」

 シスターはミネルヴァが囚われていた場所から救い出し、この村に匿っている事を明かす。
 それを聞いていた中で更に疑惑の思考を浮かべたクラウスは、シスターに新たな内容で問い掛けた。

「貴方は、彼女が囚われていた事を知っていたのか?」

「……いいえ。私自身も、教えられたのです」

「教えられた……? 誰に?」

「神の導きです」

「え……?」

 シスターは祈るように両手を合わせ、瞼を閉じながらそう語る。
 それを聞いていたクラウス達は困惑した表情を浮かべたが、シスターは続けてミネルヴァを救出するまでの経緯を述べた。

「一年半程前、私はとある夢を見ていました」

「夢……?」

「今から約三十年程の時間が流れた、この世界の夢です」

「!?」

「私はその夢でも、この村に留まっていました。人口は今より少なく、三十人にも満たない人数でしたが。……しかし私達の状況を他所に、世界は滅亡の危機に晒されていました」

「め、滅亡……?」

「ベルグリンド王国が滅びた十年後、空から魔導人形ゴーレムを用いた侵略が行われ、多くの人々が殺され続けていたのです」

「……!!」

「そして世界が赤い空に覆われた日、私達は世界の終焉が訪れるのだと思いました。……その時に、ある方がこの村に訪れたのです。……それが、我等のたてまつ現人神かみでした」

 シスターは感嘆を漏らしながら夢で見た出来事を話し、一同に伝える。
 それを聞いていたクラウスは更に訝し気な表情を浮かべ、疑惑に満ちた声で問い掛けた。

「……貴方は、その夢の中で出会った神に、今の状況を聞かされたとでも言うのか?」

「その通りです」

「!?」

「神はこうおっしゃいました。『今から世界の行く末が決まる、三十年の時間ときが戻される。その時に、きみに御願いしたい事がある』と……」

「……三十年の、時を戻す……?」

「そして神は、私にこう御願いをしました。『……君達の土地に見知らぬ変化が訪れた際、君が居る地に建てられた古城を調べ、救済の手を差し伸べてほしい。そしてきみが知る来訪者達の事も、救ってほしい。』……そう仰った後、神は私の前から姿を消した。……そして世界が白い光に覆われた後、私は三十年ほど時間が戻った世界ここに居ました」

「……!!」

 シスターはそう述べ、自分自身が経験した話を口にする。
 それを信じ難く思う一行は表情を困惑させた後、クラウスは厳しくも神妙な面持ちを見せながらシスターに話し掛けた。

「……『あなたの知る来訪者達を救え。』……それが、黒獣傭兵団かれらの事か?」

「はい」

「!?」

「なるほど。貴方はその未来ゆめで、私達が南方ここへ訪れることを知っていたわけか。そして、私達が窮地に陥ることも」

「その通りです。……しかし私が知る未来ゆめの状況とは、かなり異なる事もあります」

「異なる?」

未来ゆめで貴方達を私が見つけた時には、既に殺されていました。貴方達が隠れていたあの廃村むらの中で、銃で撃ち殺されていたのです」

「!」

「私が助けに入った際、ワーグナーさんと団員達の死体は追跡者達に持ち去られてしまった。……見覚えの無い貴方クラウスは僅かに命を残していましたが、そのまま何も語れずに息を引き取ってしまった」

「……つまり、貴方が見た未来ゆめでは私達を救えなかった?」

「はい。……私は未来ゆめの中で、その事をずっと悔いていました。黒獣傭兵団あなたたちを救えなかったことを。……しかし神は、私に機会を与えてくださった。だから今回こそ貴方達を助ける為に、未来ゆめと同じ時期にあの廃村の付近へ潜んでいたのです」

 シスターの語る未来ゆめの出来事とはいえ、自分達が死んでいた話を聞かされたワーグナー達は困惑を強める。
 しかし状況を冷静に分析しようとするクラウスだけは、シスターの語る未来ゆめと神と称されている者の言葉を重ね、今まで得られた情報を端的に述べた。

「……なるほど、あのタイミングで私達を助けに入った理由は理解した。……そして神の導きによって南方ここに在る古城を探り、奴等に囚われていたミネルヴァを発見して救出した。そういう事だな?」

「はい」

「しかし、貴方の語る未来ゆめは信じ難い話でもある。……だが世界は広い。貴方シスターに予知夢を見せて未来の出来事を伝える神が居たとしても、不思議ではないだろう」

「私の話を、信じて頂けますか?」

「私の身内にも、少しばかり常軌を逸した者がいるのでな。私の想像すら超える能力ちからを持つ者が世の中にいても、それほど不思議には思わんさ」

 クラウスは含む笑みを見せ、その脳裏に娘の事アルトリアを思い出す。
 そして自身の語る未来ゆめを否定する様子の無いクラウスに、改めてシスターは驚きと感心を持ちながら話し始めた。

「……クラウスさん、そしてワーグナーさん。貴方達に御願いがあります」

「?」

「ミネルヴァ様を連れて、この共和王国くにから逃げて頂きたい」

「なに……!?」

「ミネルヴァ様は呪術と思しきモノを肉体に掛けられ、一年間も目覚めていません。聖人故に人間よりも衰弱は遅いですが、このまま目覚め続けなければいずれ死んでしまいます。……その前に宗教国家フラムブルグへ戻して呪術を解き、ミネルヴァ様を目覚めさせて欲しいのです」

 シスターは深々と頭を下げながら、一行へ目覚めないミネルヴァを託そうとする。
 それを聞いた黒獣傭兵団の面々は困惑も冷めないまま更に動揺し、クラウスは表情を険しくさせながら眠り続けるミネルヴァの顔を見た。

 こうして一行は目覚めぬミネルヴァを発見し、シスターから託されようとする。
 それはクロエ三十年後みらいの惨劇を防ぐ為に選んだ、繋がりの奇跡を託した者達でもあった。
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