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革命編 三章:オラクル共和王国

一つの結果

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 クラウスとワーグナーを含む黒獣傭兵団の面々は、ミネルヴァと村人達を逃がす為に自ら囮役を申し出る。
 その準備を行う最中、エリクやワーグナーが王都で世話になっていた武具屋の老人と再会した。
 そして老人が管理していた武器庫を見せられ、十分な武器を得る事に成功する。

 それによって一行の物資が飛躍的に向上し、一行は夜更けが訪れる前に十全な準備が整う。
 そして十丁の小銃ライフルと数十発の弾丸、そして剣や弓と百本以上の矢を得られた一行は、集会所の中でクラウスを中心にある話が行われていた。

「……これが、敵兵が扱っている『銃』だ。そしてこの金色のものが、銃に込める弾丸だ」

「へぇ、この鉄筒がねぇ」

「本当にこんなが、弓や弩弓ボウガンより強いんっすか?」

 全員がそれぞれにじっくりと銃の実物を目の当たりにし、その構造を理解しようとする。
 そうした一同に、クラウスは改めて銃の性能を伝えた。。
 
「弓が対象に強く当たる射程距離は、長くとも五十メートルから百メートル前後。だがこの小銃ライフルは、射程距離に関して言えば弓の二倍以上はある」

「!」

「更に、この小銃ライフルの鉄筒の中には弾を回転させる構造になっている。これが精度を高め、訓練すれば二百メートル先の的にも正確な射撃が行えるわけだ」

「……それで尚且つ、鉄の鎧すらも貫く威力か」

「そうだ。弓の場合は覆われていない部分を狙うしか無いが、銃はそんな事を考慮する必要が無い。胴の部分を中心に狙えば、鉄の鎧を着込んでいてもほぼ人体に届く。弾丸を受けれる場所が悪ければ、常人であれば即死する。逆に腕や足に命中したとしても、弾丸を摘出できなければ手足が腐って切断以外の治療は免れない」

「……!」

「この小銃ライフルを持つ兵士を、そしてこの銃を持つ可能性がある民を、共和王国は生み出そうとしている。……そうなれば、古代人類の再来。人と人が銃を用いて殺し合う、禁忌の時代が再来する事になるだろう」

 クラウスは鋭い視線を見せながらそう話し、銃に触れながら語る。
 それを聞いていた黒獣傭兵団の面々は、銃という武器の脅威をまだ知らず、そうした時代を想像し難くしていた。

 そうした一行に対して、銃を持ちながらクラウスは話す。

「この場を切り抜ける為には、我々も銃を扱う必要があるだろう。軽くだが、銃の扱いを講じておく」

「軽く?」

「ワーグナーは知っていると思うが。この銃が弾丸を発射した際、かなり大きな音が鳴る。今この場で使用して練習すれば、兵士達に気付かれる可能性が高い。なので、扱う際の形だけは教えておく」

 クラウスはそう述べ、一行に銃の扱い方を教える。

 まずは弾丸を込める弾倉の扱い方から、弾倉を銃に装填する方法。
 銃の構え方と、引き金を引いて弾丸を発射すること。
 その際に小銃ライフルに備わる照準用の金具で狙う的を目算し、発射する際の振動を計算し放つ方法など。

 そうして銃に関する初歩的な扱い方を教えるクラウスに、ワーグナーは疑問を零した。

「……アンタ、銃の扱いに詳しいんだな。禁止されてる武器なんだろ?」

「前にも言ったが、私は世界を旅した事がある。その時に、銃を扱う機会があっただけだ」

「どんな事してたら、そんな機会に巡り合うんだよ?」

「トラブルによく引き起こす者が、同行者に居たのでな。それに対処させられて、自然とそういう機会に恵まれた」

「そうかい。そりゃ、災難だな」

「だが、そうした経験が思考の硬直を失くしてくれた。世界には理解できない出来事や、考えも及ばない者達が居る事も知れた。……おかげで、どんな場所でも生きるのにも不自由な考え方をせずに済む」

「なるほどな……」

「……話が逸れたな。とりあえず、それぞれ撃ち方は覚えたな。後は実戦で試すしかない」

「だが、どちらにしても銃ってのは派手に立ち回る時だけ使おう。あの音のデカさだと、無暗に使える代物じゃない」

「その通りだ。陽動と牽制に銃を使用し、敵を引き付けて逃げ続ける。上手く東側に逃げられれば、移民に紛れて追跡者を撒こう」

「了解」

 ワーグナーは銃の音に対して指摘し、クラウスは使用方法について言及する。
 それを聞き終えた団員達は自身の手に持つに小銃ライフルを加えて肩紐を通して背に抱えた。

 全員が荷物と武器を携え、仮宿にしていた集会所を出て行く。
 外は夕焼けが訪れる時刻となっており、一行は予定よりも早く村を出ようとした。、

 そして東側の方へ歩み進むと、その位置に数十人の村人達が待つ光景が見える。
 その中にはシスターや孤児院の少年達と老人も含まれており、村人達の前で立ち止まった一行は微笑みを浮かべ、代表するようにワーグナーが話し始めた。

「それじゃあ、行って来る」

「……どうか、御気をつけて」

「アンタ達も」

 ワーグナーとシスターは互いに言葉を短くし、意思を伝え合う。
 そうした傍らで歩み出て来たクラウスは、粗末な紙で封じた一つの手紙をシスターに渡した。

「私の書状だ。これを現ローゼン公セルジアスに渡せば、亡命の件も含めて上手く交渉が出来るだろう」

「……ありがとうございます。クラウス殿」

「いいや、私も貴方には世話になった。……神とやらにまた会ったら、礼を伝えておいてくれ」

「……その時には、貴方自身でフラムブルグに御越し頂ければ」

「ははっ、それは嫌だな。また代行者達に追い回されるのは御免だ」

 クラウスは堂々とした表情で笑みを見せ、書状をシスターに手渡す。
 それを受け取ったシスターもまた笑みを見せ、互いの関係性に関して一日ながらも歩み寄りが見る事が出来た。

 そして村人達も、黒獣傭兵団の面々に挨拶を交わしていく。

「どうか、無事で」

「干し肉、持って行ってくれよ」

「これ、少ないけど塩よ。持って行って」

「僕達も、すぐに行くから。絶対に来てね!」

「悪ガキ共。しっかり生き延びろよ」

 それぞれが声を掛け合い、黒獣傭兵団にとって少なからず必要と思える品々を手渡していく。
 それを受け取った団員達は笑みを浮かべながら礼を述べ、それぞれに激励を受けながら人垣を歩み出た。

 一行は人垣を越え、正面に広がる森を見据える。
 そして森に足を進める前に軽く振り返りながら、見送りを行う村人達に笑顔で言葉を伝えた。

「アンタ達も、無事に逃げ切れよ」

「元気でな!」

「御互いに無事なら、帝国で会おう!」

「これ、有難く食わせてもらうぜ」

「じゃーなー!」

 団員達はそれぞれに村人達に声を掛け、軽く手を振りながら別れを告げる。
 そうした様子を見ていたワーグナーもまた、村人達に手を振った。

 それを見ていたクラウスは、先に森の方へ振り向く。
 そして青い瞳を森の中に向けた時、夕焼けの光で照らされた何かを森の中で見ると、クラウスは目を見開き振り向きながら叫んだ。

「全員、伏せろッ!!」

「え――……」

 クラウスが叫んだ瞬間、一つの炸裂音がその場に響き渡る。
 その音は驚きを浮かべた全員の声を掻き消し、意識までも真っ白にさせた。

 そして次の瞬間、一つの結果がそこに生み出される。
 それは黒獣傭兵団で最も若い団員の一人がその場から後ろへ傾き倒れ、胸から赤い血を流す光景だった。
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