虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 三章:オラクル共和王国

砂の強襲

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 村人達を帝国へ逃がす為に、クラウスとワーグナーを含む黒獣傭兵団は村を出て行く。
 その見送りに来た村人達から餞別の品と言葉を受け取り、全員が笑顔を見せながら村から去ろうとした。

 しかし次の瞬間、一発の炸裂音が周囲に鳴り響く。
 そしてその影響により、黒獣傭兵団の団員一人が胸に赤い血を宿らせながらその場に倒れ込んだ。

 その場に居る人間のほとんどが何が起こったか分からずに、唖然とした表情で倒れた団員を見る。
 しかしクラウスとシスター、そして孤児院の少年達だけは、目を見開きながら全員で叫んだ。

「――……村へ逃げてッ!!」

「早くッ!!」

「建物に隠れるぞ! 急げッ!!」

「え、あ……っ!?」

「……きゃああっ!!」

「うわあっ!!」

 シスター達の言葉を聞き、全員が意識を戻して僅かな悲鳴を見せながら村の方へ逃げる。

 そしてクラウスは素早い動きで倒れた団員を肩で抱き上げた。
 ワーグナーも唖然とした様子から立ち直り、少し遅れてクラウスと共に血を流す団員を抱え、他の団員達と共に建物がある村へ走り始める。

 そうして全員が十数秒ほど掛かりながら建物の内外へ隠れ、森側からの射線を避けた。
 しかし黒獣傭兵団の面々は、クラウス達が抱えて降ろした団員を地面へ降ろし、必死に呼び掛けている。

「お、おいっ!? おいっ!!」

「ど、どうしたんだ!?」

「さっきの音って、まさか……!?」

「……銃声だ」

「!」

 動揺する団員達に対して、クラウスは静かに状況を伝える。
 そして胸部分から赤い血を多量に滲ませて流血する団員を見て、表情を強張らせた。

 そして弾丸を受けてしまった団員は、瞼を開けて僅かな流血を口から零しながら、掠れた声を漏らす。

「……あれ……。……おれ、なんで……」

「動くな、じっとしていろ。……止血用の包帯をくれ」

「あ、ああ……!」

 喋り動こうとする団員に対して、クラウスは両手で肩を抑える。
 そして胸部分の傷口を見ながら表情を強張らせ、傍に居る団員達に布の包帯を用意させた。

 そして出血を抑えようと団員の胸に押し当てながら、軽く体を浮かせる。
 しかし出血部分が胸だけで背中には無い事に気付き、クラウスは表情を強張りを強めながら呟いた。

「……弾が貫通していない。……これは……」

「お、おい……。助かりそう、なのか……?」

「……無理だ」

「!」

「この状況では、弾丸を取り出す適切な手術が出来ない。……誰か、治癒か回復魔法を使える者はいるか!?」

「魔法なんてモン、王国で使えたのは貴族くらいだ……!」

「シスターは?」

「あの人も使えねぇ……! アンタは!?」

「私も、使えるのは『火』の属性魔法だけだ……」

「な、なら! 火で、傷口を焼いて塞げば……!」

「……それも駄目だ」

「なんで!?」

「この出血量、心臓に繋がる血管が破れている。傷口を焼くだけでは、内部の出血は止まらん……」

「……!!」

 クラウスはそう述べ、包帯で圧迫している胸部分から更に流血が起きている状態を見て首を横に振る。
 心臓に近い場所を撃たれた団員は、傷口から血液が止まることなく溢れ続けていた。

 周囲の森に銃を持つ敵兵士が存在し、回復や治癒魔法を使える魔法師も居ない以上、この重傷の治療を今は行えない。
 それをクラウスは理解できるからこそ、歯を食い縛りながら必死に血が溢れ出る胸部分を抑える事しか出来なかった。

 そうした中で、負傷した団員は朦朧とする意識と視線を見せながら、声を漏らす。

「……ぁ……」

「お、おい! ……待ってろよ。今、治療してやるから……! 頼む、クラウス! 傷口を――……」

「……ふく、だんちょう……」

「!」

 団員はそう言いながら右手を動かし、ワーグナーを探すように手を震わせて宙に上げる。
 それを掴んだワーグナーに対して、団員は掠れた声で伝えた。

「……また、宴会……したかったっす……」

「な、なに言ってやがる……!! そんなモン、また何回でも……!!」

「……」

「おい……。……おい……っ!?」

 団員は瞼を降ろしながら微かに涙を流し、そのまま身体の残った力が抜ける。
 そして団員の浮かせた手も力が無くなり、そのままワーグナーの手に重みが伝わった。

 ワーグナーはその重みを感じ、必死に声を荒げて呼び掛ける。
 しかしその団員が再び目を開ける事は無く、団員達は唖然とした表情のまま目の前で起きた光景に再び唖然とさせられていた。
 クラウスもまた、傷口を布で抑えていた手を離し、拳を握り締める。

 そうした一方で、森の中に潜む者達は既に動き出していた。

「『――……押し込み、成功です』」

「『よくやった。……こっちに敵が居ると分かれば、村の中に隠れるしかない。これで奴等は、森に逃げ込むというという選択肢は無くなった。……まぁ、逃げる馬鹿はいるだろうが』」

「『では、作戦通りに?』」

「『ああ。――……では諸君、狩猟ハントを始めるぞ。あそこの連中を処理したら、死体は全て回収する。手足が欠ける程度の損傷は問題は無い。ただし、あたまは損傷させるな。いいな?』」

「『了解』」

 森に潜む者達はそう話し、全員が銃を構えながら村の方向に近付きつつ銃口を向ける。
 その部隊の後方に控えていたのは、長筒を背負う【特級】傭兵スネイクだった。

 そしてスネイクの隣には、やや小柄の人物が木を影にして立っている。
 その人物に視線を向けたスネイクは、その人物が通じる共通言語で話し掛けた。

「――……あそこの連中は、侵入者も含めて殺すぞ」

「……」

「雇い主が裏切るのは御法度だが、雇い主を裏切るのも御法度だ。……もしお前が奴等の事を隠していたとしたら、それ相応の報いを受ける事になるだろうな」

「……ッ」

 スネイクにそう言われる人物は、ただ何も語らず無言のまま村の方を見る。
 そして撃たれた団員が倒れていた場所に浮かぶ血溜まりに視線を送りながら、僅かに歯を食い縛っていた。

 こうして順調にも思えたクラウスとワーグナー達の歩みは、たった一発の銃弾によって阻まれる。
 そして狩猟者ハンターとして獲物を仕留めるのに長けた、【特級】傭兵スネイクが率いる『砂の嵐デザートストーム』の強襲を受けた。
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