虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 三章:オラクル共和王国

裏切りの目的

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 包囲され黒獣傭兵団の仲間が全て殺されたワーグナーは、絶望的な状況の中である可能性を導き出す。
 村の場所を暴き自分達を追跡していた者の正体であり、その人物と会う為にワーグナーは自ら敵に向けて呼び掛けた。

 そしてその声に、一人の人物が応える。
 それはワーグナーが予想していた通り、黒獣傭兵団かれらにとって馴染み深い男であるマチスが姿を現した。

 約一年半ぶりの再会を果たしたワーグナーとマチスだったが、互いに笑みは無い。
 むしろワーグナーには怒りが籠る瞳を向けており、それと相対するマチスは悲しみの籠る瞳を向けていた。

「……久し振りだな。マチス」

「……」

「やっぱり、テメェが俺達を追跡してたのか。……ここを襲ってるのも、お前の指示じゃねぇだろうな?」

 ワーグナーは怒気が籠る声を向け、マチスに問い掛ける。
 それを聞いていたマチスは、首を横に振りながら答えた。

「……もし俺が黒獣傭兵団アンタたちの侵入に気付いてたら、速攻で共和王国このくにから追い出してたよ」

「!」

「俺も、今は疑われてるんだ。……アンタ達と接触する為に、見逃してたんじゃないかってな」

「……なんだと?」

 マチスはそう述べ、僅かに意識と視線を後ろに向ける。
 そしてワーグナーも森側へ意識を向けると、自分にではなくマチスに銃口を向ける者達が微かに見えた。

 この状況が自身の考えた筋書きではない事を察したワーグナーは、マチスに視線を戻す。
 しかし警戒と怒気をしずめる事はなく、再びマチスへ問い掛けた。

「どういうことだ? テメェが俺達を追跡して、奴等に居場所を売ったんじゃないのか?」

「……」

「答えろよ、マチス。……どうしてウォーリスの糞野郎に付いて、黒獣傭兵団《おれたち》を裏切った?」

 ワーグナーはそう言いながら、足を一歩だけ進めさせる。
 そしてその足を止めるように、マチスが右手を軽く上げて制止させた。

「そこから近付かないでくれ」

「!」

「近付くと、二人とも撃たれる。俺が黒獣傭兵団アンタたちに内通してるんじゃないかってさ」

「……内通だと?」

黒獣傭兵団アンタたちがここに来た事で、俺はマズい状況に立っちまってるんだ。……その位置で、俺の話を聞いてくれ。ワーグナー」

 マチスは落ち着いた面持ちと声でそう言い、ワーグナーの歩みを止める。
 それを聞いたワーグナーは表情を強張らせたが、足を引かせて元の立ち位置を保った。

 そして互いに距離を開けたまま、森側にも聞こえる声量でマチスは話し始める。

「まず、何処から話した方がいいかな……。……俺の状況を、まずは伝えるよ」

「……」

「俺は今、この共和王国くにで情報収集専門の組織に所属してる。役割としては、共和王国に潜り込んだ不穏分子や密偵を探り出す事だ」

「……で、俺達を見つけたのか?」

「いいや。アンタ達が潜入者として発見されたのは、この南方が初めてだ」

「!」

「アンタ達が運んできた馬や荷車を発見した連中が、その物品を調べた。どれも東方ひがしで生産されてた物で、そちらを経由してアンタ達が侵入した事が分かったんだ」

「……お前の言い方だと、その段階では黒獣傭兵団おれたちだと知らなかったのか?」

「ああ。……だが、アンタ達がこの村に姿をあらわした。それがいけなかった」

「!」

「この村にも、密偵が居たんだよ。……共和王国こちら側のな」

「な……っ」

「まさか本当に、この村が難民ばっかりだと思ったのかよ? ……村の様子を探る為に、前から共和王国こっち密偵スパイが入り込んでたんだぜ」

 マチスはそう語り、この村に共和王国側の密偵が潜んでいた事を明かす。
 それを聞いた事で、初めてその可能性があった事に思い至ったワーグナーは、歯を食い縛りながら表情を強張らせた。

「……始めから、この村の事はバレてたのかよ?」

「ああ」

「じゃあ、なんで放置していた?」

「俺が放置そうしておくように、南方こっちの連中に頼んでたんだ」

「……なんだと?」

「シスターや貧民街の人間、そしてこの村には手を出すなと頼んでいた。……だが一年くらい前から、状況が悪い方向に変わっちまった」

「……!」

「今まで村の位置がバレない程度の陽動をしていたシスターとガキ共が、積極的に南方ここの連中を襲い始めた。死者こそいなかったが、訓練兵へいしの武器を奪ったり基地施設なんかに潜入し始めて、村の連中を排除しようという話が持ち上がり始めてたんだ」

「……まさか、それじゃあ……?」

「俺はそれでも、共和王国むこうを抑えてここの連中を排除させないように庇ってた。……だが黒獣傭兵団アンタたちが南方に潜入して、この村に来ちまった。そのせいで俺が手引きしてアンタ達を村に招き、裏切る算段を立てていたんじゃないか。そう疑いを掛けられたんだよ」

 マチスは渋い表情を見せながらそう話し、自身が内通者として共和王国側から疑われている経緯を伝える。

 シスター達の村はかなり前から共和王国側の密偵が潜り込んでいたが、マチスによって村の者達が排除される流れは抑えられていた。
 しかし黒獣傭兵団の来訪を未来の記憶で知ったシスターが、孤児院の子供達と共に南方に構える共和王国軍に対して陽動と襲撃行為を強めてしまう。
 更にミネルヴァを救い出す為に各施設を探りながら侵入していたシスター達の行動は、抑え役として庇うマチスの状況を苦慮させていた。

 そんな時に訪れてしまったのが、クラウスとワーグナーを含む黒獣傭兵団の一行。

 ワーグナー達は正体を暴かれないまま南方に侵入したが、『砂の嵐デザートストーム』に侵入者として発見された。
 そして追跡した『砂の嵐デザートストーム』の団員を撃退された後に、ワーグナー達はシスターが居る村へ訪れる。
 その事が村に入り込んでいた密偵スパイを通じて、『砂の嵐デザートストーム』を含む共和王国の陣営に知られた。

 そこでワーグナー達の潜入を手引きした内通者が、今までシスター達の村を庇い続けた、黒獣傭兵団の元団員であるマチスであるという繋がりが生まれてしまう。
 今まさに疑われているマチスは、味方であるはずの共和王国側に銃口を向けられてしまった。

 その話を聞いたワーグナーは、始めこそ驚愕の面持ちを見せる。
 しかし話を理解するにつれて冷静な面持ちを戻し、再びマチスへ問い掛けた。

「それじゃあ、この襲撃にお前が居たのは?」

「既に共和王国むこうでは、この村を排除する事が決まっちまった」

「……ッ」

「だが俺達の雇い主は、黒獣傭兵団アンタたちをある事に利用しようとしている。だから万が一の場合、アンタ達への交渉役として顔見知りの俺が連れて来られた」

「……俺達に建設された同盟都市を襲撃させて、帝国と共和王国の王を殺すって作戦か?」

「な……っ。……何処で、その作戦を?」

「……マジなのかよ。おい……」

 ワーグナーはシスターから聞いた未来の話を思い出し、自分達が襲撃者に仕立て上げられたという事件を話す。
 それを聞いて驚きを深めたマチスの様子で、その作戦が本当に立てられている事をワーグナーは察してしまった。

 そして再び憤りを宿した瞳を見せながら、ワーグナーは問い掛ける。

「村人の虐殺に続いて、今度は王族殺しか? ……随分と黒獣傭兵団おれたちは、冤罪を着せられちまうようだな。……なぁ、マチスよ?」

「……」

「答えろよ、マチス。……お前はマチルダがいた村が襲撃される事も、知ってたのか?」

「……ッ」

「テメェも、マチルダや村の連中を殺すのに手を貸したのか? ……なんとか言えよ、オイッ!!」

 ワーグナーは怒鳴りながら口調を強め、過去の出来事をマチスに聞く。
 それを黙ったまま聞いていたマチスは、神妙な面持ちを見せながら口を開いた。

「……すまねぇな。俺には、ああするしかなかった」

「テメェ……ッ!!」

「そうしなきゃ、アイツ等に居場所を与えられなかった。……悪いな、ワーグナー」

「……アイツ等だと?」

 黒獣傭兵団じぶんたちが追われる立場となった冤罪の原因を、マチス自身が認める。
 それを聞き激昂して歩み出そうとしたワーグナーだったが、再びマチスから零れた言葉が足を止めた。

 そしてマチスは、仲間である黒獣傭兵団かれらを裏切った理由をワーグナーに明かす。

「……ワーグナー。俺の、本当の姿は見ただろ?」

「!」

「俺は鼠獣族そじゅうぞくっていう魔族と、人間の血を引いて生まれた魔人なんだ。……そして、この人間大陸には俺達みたいな魔人がかなりいる」

「……」

「人間大陸で生まれた魔人が、どういう扱い方をされるか知ってるかい? ……王国の貧民連中がマシに思える程の扱いだぜ」

「!」

「中には自分の身体に流れる魔力ちからをまともに扱えずに暴走して、死んじまう奴もいる。……同じ魔人として、とても見ちゃいられない」

「……マチス。お前が言ってるアイツ等ってのは、魔人か?」

「ああ、そうだ。……俺は、ウォーリスと取引をした。人間大陸で生まれて迫害される魔人を、この国に受け入れる条件に。そして、アイツ等の生きる居場所を得る為に」

「!!」

「だから俺は、ウォーリスの指示に従った。そして黒獣傭兵団を……アンタを裏切った」

 今まで憂いを帯びていたマチスの顔色が、一気に覚悟を秘めた表情へ変わる。
 その瞳には強い意思が宿っており、ワーグナーに裏切った真実を語っている事が伝わった。

 こうして姿を見せたマチスは、この襲撃事件の経緯と、自身が黒獣傭兵団を裏切った目的を明かす。
 それは人間大陸で生まれた魔人達の居場所を得る為に、ウォーリスと手を組んだという事実だった。
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