811 / 1,360
革命編 三章:オラクル共和王国
砂の制圧
しおりを挟む銃声と共に動き出す【特級】傭兵スネイクが率いる『砂の嵐』は、ついに村へ強行突入を開始する。
そして迎撃に向かうクラウスやワーグナー達は、武器庫の周辺に築いた建物や防波堤を盾にし、三十名余りの数が小銃を持ちながら待ち構えていた。
クラウスに肩を貸していたワーグナーは、クラウスを正面の迎撃位置にある防波堤に座らせる。
そして後から続いて来た少年達に対して、クラウスは助言するように伝えた。
「――……君達はシスターに鍛えられたと聞く。可能ならば、敵が投げられた爆弾を敵側へ投げ返してほしい。猶予は三秒以内。それまでに拾い投げられないと判断したら、躊躇せず他の者達と共に爆弾から離れてくれ。それと負傷者を下げる役目だ。出来るか?」
「分かった!」
「ワーグナー。お前は味方側に穴が出来た際、優先して補助に向かってくれ」
「了解。アンタは?」
「私は、敵を揺さぶってみる」
「ミネルヴァの件か?」
「ああ。もし『砂の嵐』がその事実を知らなければ、一時的に休戦が望めるかもしれん。上手く行けば、『砂の嵐』を味方側へ引き込める可能性もある」
「……分かった。アンタに任せるぜ」
クラウスはミネルヴァから得た情報を下に、『砂の嵐』の説得を試みる事を明かす。
それを聞いたワーグナーは険しい表情を見せながらも頷き、少年達と共に各方向へ散らばった。
それから数分間、待ち構える一同は息を飲みながら照準金具の向こうに見える景色を覗き見る。
ワーグナーは武器庫の左に位置する建物の影に身を潜め、耳を澄ませながら外周側を窺っていた。
「……!!」
その際、ワーグナーの耳に金属が擦れる高い音が聞こえる。
それが複数に重なって聞こえた時、ワーグナーは怒鳴りながら味方側に伝えた。
「下がれッ!!」
「!!」
ワーグナーはそう叫びながら建物の影から飛び出し、敷かれている防波堤の更に内側へ走る。
それと同時にワーグナーが隠れていた建物の向こう側から、円を描くように複数の小さな球体が投げ放たれた。
それを見た村の者達も目を見開き、遅れながらもワーグナーを追うように走る。
それから二秒にも満たない時間で、最前線とも言うべき防波堤に敵の爆弾が降り注ぎ、地面へ着いた。
敵の爆弾については村の者達にも情報共有されていたが、初めて見る爆弾が赤く光る様子で爆発の兆しを一目で理解できる。
投げ込まれた十数個の爆弾から全員が五メートル以上も離れ、それぞれが防波堤の内側に転がるように飛び込んだ。
とても投げ返せる数と量ではない為、少年達も躊躇せずに退避する。
すると五秒経過した爆弾達が、一気に赤い光を強めて爆発を起こした。
「うわっ!!」
「グッ!!」
再び爆発を見せた爆弾は、凄まじい爆風を全員に浴びせる。
辛うじて離れている防波堤は、爆風で揺れ動きながらも耐えられていた。
しかし間近に築かれていた建物や防波堤は爆発に巻き込まれ、その破片が爆風と共に襲い掛かる。
ほとんどは防波堤に阻まれる形で弾かれるか刺さるかに留まるが、即興で作った荒い防波堤では破片がすり抜けて来る。
幾人かに破片が刺さり、更に爆風で揺らぎ崩れた防波堤の素材が村人達に当たっていた。
ワーグナーやクラウスも爆風に耐えきり、共に舞う土埃に視界を遮られる。
それに合わせて二人は大声を放ち、村人達に声を向けた。
「……敵が来るぞッ!!」
「構えろッ!!」
「!」
二人は大声で状況を伝え、すぐに迎撃態勢を戻そうとする。
その声を聞いた村人達は小銃を再び持ち、防波堤越しに構え直そうとした。
しかし全員が迎撃態勢を戻す前に、各方角から銃声が鳴り響き始める。
それが敵からの発砲音だと思ったクラウス達だったが、思った以上に近い距離から聞こえる音ですぐに違うと判明できた。
鳴り響いているのは敵の発砲音ではなく、味方である村人達の発砲音。
クラウス達の声に反応した一部の村人が恐慌状態のまま銃を構え、敵がいると思しき場所へ発砲を開始し始めたのだ。
その銃声が呼び水となり、他の村人達も各方角へ発砲を開始し始める。
まだ土埃が晴れない中で味方のみが発砲するという状況に、クラウスは危うさを感じて再び叫んだ。
「発砲を止めろッ!!」
「えっ!?」
「敵は発砲をしていない! 恐らく、また――……!!」
クラウスは敵が発砲していない状況が何を意味するか察し、必死になって周囲の村人達の発砲音を止めさせようとする。
しかしその推測は悪い方向に当たり、味方の発砲音と土煙に紛れた中で小さな金属音が落下した事を、クラウスだけが気付いた。
「全員、もっと下がれッ!!」
「!?」
クラウスは負傷している右足に構わず、痛みを堪えながら立ち上がる。
そして全員に声を向けながら更に内側へ走り出し、今の位置から更に下がった。
それを聞いた幾人かはクラウスと共に下がったが、発砲音で聞き取れなかったり気付けなかった者達はその場に留まってしまう。
ワーグナーは微かに見えたクラウスの声と少年達の移動する様子を視界に捉え、彼等と同じように周囲の者達へ呼び掛けながら内側へ走った。
しかし今度は、避難も間に合わない。
クラウスが走り始めてから十秒後には、再び炸裂音と爆発が巻き起こる。
しかも一度目の退避で下がっていた防波堤が爆発で吹き飛び、その場に留まっていた者達はまともにその衝撃を受けてしまった。
「ぐわぁあああっ!!」
「うわぁっ!!」
ある者は起きた爆発を受けて様々な破片を浴びながら重度の火傷を負い、またある者は爆風で吹き飛んだ防波堤の大きな破片が身体の各所に刺さる。
クラウスと共に下がった村人達や少年達は辛うじて爆発からは免れたが、爆風の衝撃を受けて身体を倒し、地面に伏せながら必死に堪えた。
ワーグナーもまた強い爆風を受け、その背中に幾つかの破片が突き刺さる。
それによって地面へ倒れ、背中に感じる熱さと周囲の悲鳴を聞きながら表情を強張らせた。
そして爆風が治《おさ》まり、土煙が残る周囲の状況を見回すクラウスを上体を起こす。
僅かに見える光景には村人達が倒れる姿ばかりで、いずれも大なり小なり血を流す負傷を受けていた。
ワーグナーも背中に刺さる小さな破片をそのままに上体を起こし、痛みを我慢しながら立ち上がる。
そして地面に置いていた小銃を握り締め、クラウスが走っていた方向を見ながら呼び掛けた。
「……クソッ。クラウス、無事かっ!?」
「……ああっ!!」
「まずいよな、こりゃ……!?」
「……無事な者は、負傷した者達と共に下がれッ!!」
「!?」
「今度こそ、来るぞ……!!」
クラウスは起き上がりながら周囲に呼び掛け、次に起こる事も予測する。
既に村人達が築いた防波堤の最前列は決壊し、更に三十名余りいた村人達も半数以上が爆発の影響で死傷していた。
最初の爆発後では、すぐに村人達も迎撃の準備を行えて射撃さえも行って見せている。
しかし二回目の爆発で村人達の防衛網は崩れ、まともに銃を撃つ事も出来ない状況となってしまった。
これこそ、『砂の嵐』が作り出した状況。
村人達が迎撃不可能な状態へ追い込んでから、圧倒的な質量で踏み込み制圧する。
それを証明するように、土埃が舞う正面の空間から幾数十という軍靴を鳴らす音が、クラウスとワーグナーには聞こえていた。
0
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!
心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。
これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。
ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。
気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた!
これは?ドラゴン?
僕はドラゴンだったのか?!
自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。
しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって?
この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。
※派手なバトルやグロい表現はありません。
※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。
※なろうでも公開しています。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる