虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 四章:意思を継ぐ者

真偽の証拠

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 捕らえた狼獣族ろうじゅうぞくエアハルトと妖狐族ようこぞくクビアに会う為に地下牢獄で訪れたアルトリアは、そこで脅迫での交渉を持ち掛ける。
 それに応じたクビアは、アルトリアの問い掛けに素直に答える事を約束した。

 そして鉄格子を挟んだ状態を保つアルトリアは腕を組み、枷に嵌められたままのクビアに問い掛ける。

「まず、自己紹介でもしてもらおうかしら」

「私はぁ、クビアよぉ。妖狐族って知ってるかしらぁ?」

「妖狐族ね。確か魔族のエルフと同じように、魔術に長けた獣族だったかしら?」

「あらぁ。人間にとっては、その程度の認識なのねぇ。悲しいわぁ」

「次は、アンタの経歴を話して」

「経歴ってぇ?」

「魔人のアンタが人間大陸に居る理由よ。順を追って話しなさい」

「……そうねぇ。私は一応、フォウルの里で生まれたのよねぇ。でもぉ、里を出て人間大陸に来たのよぉ」

「その理由は?」

「フォウルの里ってさぁ、つまらないのよねぇ。娯楽みたいなのも少ないしぃ、やる事と言ったら修練ばっかりなのよぉ。だからぁ、ゴズヴァールと一緒に人間大陸まで来たのよねぇ」

「……ゴズヴァールって、あの牛男の事よね?」

「そうよぉ。そういえばぁ、貴方達は戦った事があるんだったわねぇ。人間大陸に降りてからは少し離れてたんだけどぉ、ゴズヴァールが人間の国に就いたって話を聞いてねぇ。しばらくだけどぉ、暇潰しに闘士部隊なんてのにも入ってたわぁ」

「……そういえば、闘士部隊の上位序列者はほとんど魔人で構成されてたって話を聞いた事があるわね。アンタもその一人だったわけ?」

「そうよぉ。ちなみに、私は闘士部隊の四席ねぇ」

「四席……」

 自身の経歴を伝えるクビアは、元はエアハルトと同じくマシラ共和国の闘士部隊に所属していた事を明かす。
 しかも第四席だったと聞いた時、アルトリアの脳裏には別の人物がよぎった。

 アルトリアの記憶にあるマシラ闘士の第四席とは、過去の自分アリアと行動していたケイルという女性。
 ケイティルと名乗っていたケイルは身分と素性を隠し、当時のマシラ闘士の第四席として過去の自分アリアと共闘した事もあった。

 その部分を思い出し、アルトリアは浮かんだ疑問を問い掛ける。

「ケイル……いや、ケイティルって女を知ってる?」

「知ってるわよぉ」

「アンタ達、どういう関係?」

「そうねぇ。私が闘士部隊を抜ける時にぃ、あの子を代わりに闘士部隊に推薦してあげたわねぇ」

「やっぱり……。じゃあ、アンタがケイルを【結社】に誘った張本人ね?」

「あらぁ、そこまでバレてたのぉ?」

「どうしてケイルを闘士にして、【結社】に勧誘したのか。その理由は?」

「あの子の為よぉ」

「ケイルの為……?」

「あの子ぉ、自分の家族とその一族の行方を捜す為に各地を転々としてたらしくてねぇ。だったらある程度の後ろ盾があればぁ、捜索する為の情報や資金にも困る事は無いでしょぉ? だから誘ってみたのよぉ」

「そしてケイルは、それを受けたわけね」

「そうねぇ。あの子の家族や一族の情報が手に入ったら優先的に教える事を条件にぃ、私の仕事の手伝いを御願いしたわぁ」

「仕事の手伝いって、【結社】関連のこと?」

「そうよぉ」

「そもそも、アンタはどうして【結社】に入ってたの? その口振りだと、闘士部隊に入る前から【結社】に所属していたみたいね」

「えぇ。だいたい、七十年くらい前かしらぁ。私が【結社】に誘われたのはぁ」

「アンタを結社に引き入れたのは、誰?」

「フォウルの里から下りて来た、『』の者よぉ」

「ね?」

「『十二支士じゅうにしし』と呼ばれてる徒党の一つよぉ。『』は諜報専門の徒党だと言えば、貴方には分かり易いかしらぁ?」

「なるほどね。でも、入った理由は?」

「勿論、報酬を得る為ねぇ。人間の大陸で自由に暮らす為にはぁ、ある程度のお金が必要ですものぉ。そうでしょうぉ?」

「アンタにとっての後ろ盾が、まさに【結社】だったわけね」

「そういうことぉ」

 愛想良く微笑むクビアは、自身が【結社】にも属している事を隠さずに教える。
 あまりにも素直に答えるクビアの様子に怪訝さを抱き始めるアルトリアだったが、自身の記憶と現状の重なりを合わせて矛盾が無い事を察し、新たな質問を投げ掛けた。

「アンタが【結社】から与えられてた役割は?」 

「仕事の斡旋と仲介、と言えば分かるぅ?」

「ええ」

「私はぁ、【結社そしき】が請けた依頼を構成員に渡す役目ねぇ。依頼が成功すればぁ、仲介料が入るのよぉ。それで生活してるわぁ」

「そう。なら今回も、【結社】を通じて依頼を受けたってわけ?」

「んー。それはぁ、ちょっと違うかしらぁ」

「違う?」

「これはぁ、私個人が請けた依頼と言うべきかしらぁ。報酬が良いからぁ、請け負っただけよぉ」

「……【結社】を通じて受けた依頼じゃないってわけ?」

「そうよぉ。それにねぇ、【結社】って貴方達が思ってるよりそこまで大々的な組織じゃないのよぉ。各国の内々に構成員を潜ませながらぁ、表沙汰に出来ないような事に対処するのがぁ、【結社】の本質なのよねぇ」

「……表沙汰に出来ないこと?」

「そうなのぉ。だから大騒ぎになるような依頼にはぁ、基本的に【結社】は関わらないようにしてるのぉ。私もそんな事に巻き込まれて指名手配にされたらぁ、人間大陸で自由に過ごせなくなるものぉ」

「……随分と記憶の印象と違うわね。【結社】って、滅茶苦茶な事しかやってない気がするんだけど?」

「何の話ぃ?」

「例えば、ルクソード皇国での騒ぎ。知らないとは言わせないわよ?」

「ルクソード皇国でぇ? ……あそこは確かぁ、バンデラスの管轄じゃなかったかしらぁ?」

「バンデラスも知ってるの?」

「当たり前よぉ。彼も元闘士部隊の三席なんだからぁ」

「!」

「バンデラスは基本的にぃ、フォウル国に意向に逆らわない生粋の戦士だったはずだわぁ。何か大事おおごとをやらかすはずがないんだけどぉ」

「……バンデラスは『青』と通じていて、ルクソード皇国の女皇ナルヴァニアやランヴァルディアって男の研究に手を貸してたはずよ。それも全部、【結社】が関係してるって話になってるわ。そうよね? バリス」

「はい」

 バンデラスに関連するルクソード皇国の不祥事を最も知る老執事バリスに、アルトリアは問い掛ける。
 それを肯定する返事を聞くと、クビアは不可解な面持ちで逆に問い掛けて来た。

「バンデラスがねぇ。本当にそうなのぉ?」

「何を疑問に思ってるのよ?」

「だってぇ、バンデラスだものぉ。癖こそあったけどぉ、人間の私利私欲を満たすような依頼を自分で率先してやるとは思えないわぁ。トラブルになるならぁ、逆に避けるようにするはずよぉ」

「……でも現に、バンデラスはルクソード皇国の事件に関わってわ。『青』の依頼で私を誘拐したり、『黒』の七大聖人セブンスワンを攫おうとしたりね」

「それだけよねぇ? 別に研究に手を貸してたわけではないんでしょぉ?」

「!」

「『黒』の七大聖人セブンスワンに関してはぁ、確かに【結社そしき】内では発見したら優先的に捕まえて『青』に引き渡すように言われてはいるけれどぉ。でもぉ、研究に手を貸すとはしないはずなのよねぇ」

「……バンデラスだって、お金欲しさに手を貸してたって可能性もあるでしょ? アンタが個人的に依頼を受けたようにね」

「そうねぇ、その可能性もあるわねぇ。……でもぉ、バンデラスの性格をよく知ってる身としてはぁ、正直に言って信じられないわぁ」

 バンデラスが【結社】としてルクソード皇国での変事に関わっていた事を聞かされたクビアは、首を傾げながら納得を浮かべない。
 そうしたクビアの様子を怪訝に思うアルトリアを見たバリスは、二人の会話に口を差し挟む形で【結社】に関連する話を伝えた。

「アルトリア様。少し私にも、御話をよろしいでしょうか?」

「いいけど」

「クビア殿。私はルクソード皇国のハルバニカ公爵家に仕える、バリスと申します。貴方に幾つか御聞きしたいのですが、よろしいですかな?」

「いいわよぉ」

「ありがとうございます。――……まず、ルクソード皇国の件についてですが。事件後に様々な証拠を通じて、元女皇であるナルヴァニアとランヴァルディアが【結社】に強く関係する事が判明しております」

「へぇ、そうなのぉ?」

「また傭兵ギルドに所属していたギルドマスターのバンデラス氏も、二年前の変事にて死亡している事を伝えている証言者もおります」

「!」

「二年前の変事もそうでしたが、更に追及すれば二十七年ほど前に起きたルクソード皇国の内乱にも【結社】は関与しております。女皇となるナルヴァニアが【結社】を通じて実親おやの復讐を果たし、更にルクソードの血筋に連なるケイル殿の親族と一族を罠に嵌め、生き残りを捕縛し、『青』が彼等を研究の素体として用いて死亡させている事も明かされています」

「ケイティルの……!?」

「貴方は、この情報を御存知なかったのですか?」

「……はっきり言って、知らなかった……というよりもぉ、有り得ないから信じられないって言えばいいかしらぁ?」

「有り得ない……?」

「『青』のことよぉ。『青』が『赤』の一族を使って研究するなんてぇ、ありえないわぁ」

「……どういう事ですか?」

「『青』とは何度か会った事があるんだけどぉ、基本的には優しいお爺ちゃんよぉ。敵対者には容赦こそしないけどぉ、『青』は七大聖人セブンスワンの一族にはとても寛容なのよねぇ。マシラ一族でもそうだったしぃ。だから、その『青』が自分から『赤』の一族を使って人体実験をしたなんて、信じられないわぁ」

「……しかし、ルクソード皇国内では証拠となる資料が事件後に幾つも出て来ています」

「それぇ、本当に信用できる証拠なのぉ?」

「!」

「そもそもぉ、自分の悪事を綴った証拠をあからさまに残すなんてありえないしぃ、凄く怪しいわよねぇ。逆にそんな証拠があったらぁ、私は証拠の捏造こそ疑うわぁ」

「証拠の捏造……!?」

「誰かが『青』に罪を擦り付けてる事も、よーく考えた方がいいわよぉ。……少なくとも『青』と通じてる【結社】の構成員がぁ、そんな依頼を請けさせるはずが無いんだものぉ。これはぁ、今まで『青』の依頼を仲介して来た私の経験則よぉ」

 クビアは自信に満ちた声と表情を見せ、ルクソード皇国で起きた変事にバンデラスが深く関わっておらず、またケイルの一族に関する過去の行いに『青』が関わっていない事を証言する。
 それはアルトリアやバリスの思考を困惑させるに十分であり、今まで根底として存在していた【結社】の害悪性を否定されているような心情を浮かべるしかなかった。

 こうして【結社】の依頼に深く関わって来た仲介役のクビアにより、アルトリアを始めとした人々が抱く【結社】の注意度を否定される。
 そしてクビアの言葉により、【結社】やそれを取り纏めて来た『青』とは別の存在が、【結社】という存在を利用している事も明かされたのだった。
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