虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 四章:意思を継ぐ者

宰相の仕事

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 オラクル共和王国から届いたウォーリス王の書状に関して、帝国内で決議が行われる。

 悪魔の存在やアルトリアの誘拐に関して思惑を感じている皇帝ゴルディオスと宰相セルジアスだったが、表立った事情から正当な理由も無くウォーリス王の謝罪を受け入れないわけない。
 そうした事情を知らない他の幹部達や、争いを起こす事を忌避する穏健派や和平派などが現状で占めている場で、それ等の意見を無視する事も出来ずにウォーリス王の来訪を受け入れる事が決まった。

 その際、ゴルディオスは帝都の警備に関する強化を各兵団と騎士団に促し、更にセルジアスにその指揮を委ねる。
 それを承諾したセルジアスは、政務を執り行いながら帝都の警備指揮も行うという多忙な状況に置かれた。

 またゴルディオス側でもセルジアスの負担を考え、自身も政務の一部を負う事を伝える。
 結果として二人は自身の職務に追われる形となり、リエスティアやアルトリアが匿われている別邸に赴くも出来なくなってしまった。

 そうした状況が一週間ほど続き、宰相室で執務を行う文官達が椅子や机に項垂うなだれながら疲弊している様子をセルジアスは見る。

 セルジアス自身はまだ疲弊した様子は見えなかったが、流石に常人である文官達はそうもいかない。
 この時期から『閃光事件』と呼ばれるようになった一連の騒動により、各地の復興作業に関する執務や魔法師と軍の出撃などに伴う予算の支出、更に警備強化に伴う各人事の選出などで一ヶ月以上に渡る激務で途中棄権リタイアする者も続出していたのだ。

 その負担すらもセルジアスは背負い、残る文官達と共に政務を行っている。
 しかし文官達の限界を悟ったセルジアスは、小さな溜息を漏らしながら項垂れ疲弊している文官達に伝えた。

「――……貴方達も、少し休みなさい」

「……えっ」

「後は私がやりますから。今日から二日程、休んでもらって構いません」

 そう告げるセルジアスの言葉に、文官達は疲弊した表情ながらも驚愕を浮かべる。
 そして自分達の机に置かれた書類の山々を見ながら、休むように促すセルジアスに動揺しながら伝えた。

「し、しかし……この量の書類ですよ……!?」

「近日中の期限の案件も、かなり……」

「貴方達まで倒れてしまっては、それこそ支障を起こします。重要度が高く期限が迫っている書類関係を振り分けた後、部屋に戻ってゆっくり休んでください。それと、他に休んでいる方達にも伝えてください」

「流石に、この量を閣下一人では……」

「こうした仕事ことには慣れていますから」

「し、しかし……書類の移動なども……」

「それは手の空いている他部門の文官や、騎士や衛兵達に手伝わせます。貴方達は気兼ねなく、ゆっくりと休んでください。これは命令でもあります」

「……で、では……」

 宰相として命じるセルジアスは、文官達に休むように伝える。
 それを聞き文官達がそれぞれに顔を見合わせながらも、命令に応じる形で重要度の高い案件書類を纏めた後に、それを振り分けた位置に置いて申し訳なさそうに宰相室から離れた。

 そして宰相室内に一人残るセルジアスは、外に控えている衛兵に伝えて手の空いている騎士や衛兵に書類関係の移動を手伝うように命じ、振り分けられた案件書類を自身の机に移しながら黙々と作業を行う。
 昼夜問わず宰相室内の明るさは保たれ、時には皇帝ゴルディオスに重要案件に関する承認を求めに赴き、各大臣や幹部達の仕事上の訪問に対応し、帝都警備の状況報告や簡易的な現場視察なども行いながら、寝る時間も与えられぬ状況で政務を行い続けた。

 そうした出来事から二日が経過し、文官達は二日の休息を得て宰相室の勤務に戻る。
 疲弊を僅かに残しながらも二日前よりは遥かに健常や様子を見せる文官達だったが、早朝だったにも関わらず執務室内で執務を行い続けるセルジアスに驚愕を浮かべた。

「――……あっ、閣下」

「おはようございます、皆さん」

「おはようございます。……閣下、今日もお早いですね」

「早い……。ああ、もう朝ですか。緊急度の高い案件は全て処理したので、残りの仕事に取り組んでいました」

「えっ」

 出勤した文官達はいつもの席に座りながら書類仕事をしているセルジアスの言葉に、動揺の表情を見せる。
 そして一人の文官が、恐る恐るセルジアスに尋ねた。

「……か、閣下。まさか、二日前あのときからずっとここで仕事を……?」

「そうですね」

「!?」

「皆さんが戻って頂いて助かります。こちらで振り分けて置いた各案件の書類がありますので、各々の席に置いてある仕事を御願いします」

 机に向かいながら執務を続けるセルジアスに対して、文官達は驚愕した面持ちを浮かべる。
 そしてそれぞれの机に予め置かれていた書類を見て、驚く文官達は動揺しながらも自分の席に着こうとした。

 そうした際に、セルジアスは何かを思い出したように伝える。

「……ああ、そうでした。皆さん、今日から夕刻時には帰って頂いて構いません」

「!?」

「ただその際に、期限が近く緊急度の高い案件書類は振り分けておいてください。私が目を通して対応しますので」

「……えっ」

「か、閣下……。閣下は、御休みにならないのですか……!?」

「必要を感じたら休みますよ」

 淡々とした様子でセルジアスはそう伝えると、文官達は動揺した面持ちを再び抱く。
 その動揺を言葉として口にし、激務続きの状況に追われているセルジアスに進言した。

「いや、それは流石に……!?」

「閣下も、どうぞ御休みになってください!」

「この一ヶ月以上、貴方は我々以上の働いてますよねっ!?」

「その上、帝都警備の指揮と準備もおこなっているのに……!!」

「このままでは、閣下が御倒れになってしまいます!」

「閣下も、どうぞ一日でも御休息をなさってください!」

 文官達は席を離れながら執務席に座るセルジアスの前に詰め寄り、それぞれが心配を伝える。
 しかしセルジアスは文官達に視線を向けぬまま、ただこう述べた。

「私は、宰相わたしに課せられた立場と仕事をおろそかには出来ません」

「……!!」

「私は立場に相応する仕事を行うにあたり、それを滞らせる事で悪影響が及ぶのは、私ではなく別の者達です。その影響を防ぐ為にも、私が仕事を怠るわけにはいきません」

「……か、閣下……」

「皆さんの御心配は、重々に承知しています。状況が落ち着いたら私も休みますので、安心して下さい」

「……し、しかし……」

「私の心配よりも、皆さんは各々の仕事に取り掛かってください。次の年も迎えるにあたり、それに応じて宴会場パーティーも行われます。各貴族領への招待状や、祝宴の見積もりと納入品の搬入準備なども今日から含まれますので、かなり忙しくなりますよ」

「……は、はい……」

 セルジアスは顔を上げながら詰め寄っていた文官達を見て、口元を微笑ませてそう伝える。
 それを聞かされた文官達は何も言えなくなり、それぞれに自身の席に戻り仕事を始めた。

 それからはセルジアスの言葉通り、文官達は忙しい執務で自身の仕事に追われてしまい、セルジアスを心配する暇すらも無くなる。
 しかし夕刻になればセルジアスが文官達に帰るよう命じ、それでも宰相室に残り続けるセルジアスは、深夜帯に暇な時間を見つけては風呂に入り着替えを行い仕事を続けた。

 そうした状況が一週間ほど続き、今夜もセルジアスは宰相室内に残っている。
 今日も文官達の机に残る書類を手に取り内容を確認しながら、訂正や承認などを行っていた。

 そんな時、宰相室の扉を叩く音が響く。
 いつも通り飛び込みの案件でも舞い込んだのかと考えるセルジアスは、扉から出て来た衛兵の言葉を聞いた。

「――……閣下。御忙しい中、申し訳ありません」

「いいえ。何か?」

「閣下に、御面会を申し出ている者がいるのですが……」

「来客ですか? 仕事に関わりの無い方でしたら、いつも通り御遠慮して頂くよう御願いしますが」

「仕事に関わりの無い方ではあるのです。ただ、皇后様が招かれている客人ゲストでもありまして……」

客人ゲスト?」

「はい。それが――……」

「――……おい、奴には会えないのか?」

「!」

「あっ、ちょっと! まだ御取次ぎ中ですので、外でお待ちください……」

 衛兵が来訪者の説明を行っている最中に、その背中越しから声が響く。
 その声はセルジアスにも聞き覚えがある声であり、皇后であるクレアが客人ゲストとして招いている事にも納得しながら小さな微笑みを浮かべた。

「……なるほど。どうぞ、通して頂いて構いませんよ」

「よ、よろしいのですか?」

「ええ。どうやら彼女は、私の知人でもあるようですから」

「そ、そうですか。では……」

 衛兵はセルジアスの言葉に応じ、留めようとしていた訪問者を室内に招く。
 そして客人を宰相室に通した後、衛兵は一礼をしながら室内から退いて扉の前に戻った。

 そこで相対するように二人となった客人に対して、セルジアスは微笑みを浮かべながら声を向ける。

「御久し振りです。パール殿」

「――……ああ」

 宰相室に訪れた者の名を呼び、互いが久方振りの再会を口にする。

 夜の宰相室に訪れたのは、ガゼル子爵領地の樹海に住むセンチネル部族の女勇士であり次期族長に選ばれているパール。 
 彼女は皇后クレアの招いた客人ゲストとして、帝城内に滞在していたのだった。
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