虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 四章:意思を継ぐ者

困難な説得

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 アルトリアとユグナリス達が隠れ住む別邸へ訪れたセルジアスは、二人にリエスティアに関する境遇について帝国内で改善できる策を伝える。
 それは皇帝ゴルディオスの名でユグナリスとリエスティアの二人の関係を公の場で認め、更に二人の子供シエスティナを正式にガルミッシュ皇族として迎える宣言させる事だった。

 その為に各帝国貴族家が一同に会する新年の祝宴場パーティーを用いると伝えるセルジアスの提案に、ユグナリスは驚きを見せた表情のまま問い返す。

「……お、俺とリエスティア……それにシエナも、新年の祝宴に参加するんですか?」

「そうだよ」

「でも、俺は今も謹慎処分を受けている状態ですし……。……公の場には、出席できないのでは?」

「君の謹慎処分については、祝宴に際して解ける予定だよ」

「えっ」

「少し前に起きた帝城しろの襲撃事件。あの時に侵入者と相対して撃退と捕縛に貢献したという功績で、君の謹慎処分を帳消しにする事を皇帝陛下から伝えられる事になっている」

「!」

「そうなれば、君は公の場に出席する事が許される。帝国皇子の立場としてね」

 微笑みながら謹慎処分が解けた事を伝えるセルジアスの言葉に、ユグナリスは再び驚きを浮かべる。
 それは謹慎が解けた事では無く、その処分を帳消しにしたという功績についてだった。

「……俺は、侵入者エアハルトと対峙こそしましたが、撃退は出来ていませんよ? むしろ気絶していて、捕縛もアルトリアやログウェル達が……」

「君達があの時に居た部屋には、君と侵入者まじんが拮抗した戦いを目撃している者達がいる」

「!」

「帝国騎士や従者達を瞬く間に倒す侵入者を相手に、君は立ち向かい拮抗して見せた。それだけでも十分な功績と言ってもいい」

「……ッ」

「これを功績と称さない限りは、君の謹慎処分をこの機会に解く事が出来ない。……君が納得できない理由も理解できるけれど、その不満を今は収めてくれないかい?」

「……分かりました」

 宥めるように説得するセルジアスに、ユグナリスは渋々ながらも応じる。
 そして席に座り直した後、セルジアスは改めて次の問いに移った。

「……私については、出席する分には問題ありません。ただ、リエスティアやシエスティナも出席させるのは……」

「反対かい?」

「……いえ。ただ気に掛けているのは、二人の体調面です。祝宴に参加するとなると、肉体的にも精神的にも疲弊するでしょう。リエスティアは出産してから一ヶ月程しか経っていませんし、シエスティナに至ってはまだ生後一ヶ月程度です。特にリエスティアの方は、体調も万全ではありませんから……」

「なるほど。……そこはリエスティア姫の主治医である者と、相談が必要だろうね」

「!」

 ユグナリスの言い分に納得するセルジアスは、敢えてそうした言い回しをしながら横に視線を逸らす。
 それに気付き同じ方向を見たユグナリスは、同じようにその場に居るアルトリアへ視線を集めた。

 その二人の視線を知りながらも、アルトリアは不機嫌な表情を見せる。
 セルジアスはそんなアルトリアに声を掛け、リエスティア達に関する情報を問い掛けた。

「……」

「アルトリア、主治医である君の判断を聞きたい。リエスティア姫とシエスティナ嬢を祝宴に出席させる事は、可能だと思うかい?」

「……何時間も祝宴場パーティーの中に居続けるのは無理よ。何百人と話し掛けられながら、その場に座り続ける体力も無い。ただし、短時間だけ出席して退席させる程度なら出来るわ。本人のやる気があれば、だけど」

「そうかい。なら後は、リエスティア姫の承諾も必要になるだろうね。後で私が尋ねるから、ユグナリスは承諾を得る際に一緒に来てくれるね?」

「わ、分かりました」

 主治医アルトリアの判断も聞けたセルジアスは、リエスティアに出席の承諾を得る為にユグナリスと共に説得する事を即時に決める。
 それを承諾したユグナリスの答えが伝えられた後、アルトリアは椅子から立ち上がりながら扉側へ歩き出した。

「これで話は終わりでしょ。私は忙しいし、失礼する――……」

「アルトリア」

「……ッ」

 客間から出ようとするアルトリアの背中を、セルジアスは一声で止める。
 嫌そうな表情を浮かべるアルトリアは、小さく舌打ちを漏らしながら振り返った。

「……何よ?」

「まだ話は終わっていないよ。特に君にはね」

「……私を呼んだのは、主治医としての判断が聞きたかっただけでしょ?」

「そうじゃないと、君も分かりきっているだろうに」

「……」

「アルトリア。君も、今回の祝宴パーティーには出席してもらうよ」

 嫌そうな表情を浮かべるアルトリアに対して、セルジアスは微笑みを強くしながら祝宴へ出席するように求める。
 それを聞いた瞬間、アルトリアは即答で答えた。

「絶対に、嫌よ!」

「そんなに嫌かい?」

「当たり前でしょ。第一、なんで私が出なきゃいけないのよ?」

「君も一応、私達と同じガルミッシュ皇族の一人なんだけどね」

「今はルクソード皇族からの賓客ゲストのはずだけど?」

「そうなんだよ。だから一応、君の許可も必要になってしまうんだ」

「……賓客ゲストじゃなかったら、強制的にでも出させるつもりなのね」

「そんな事を言っているわけじゃないよ」

 二人の兄妹は対極した表情と言葉を見せながら、互いの間に見えない火花を散らせる。
 それを感じ取り空気が張り詰める感覚を感じ始めたユグナリスは、セルジアスの方へ問い掛けた。

「ろ、ローゼン公。何故、アルトリアも出席が必要なんですか?」

「……そうだね。理由を強いて言うなら、君とアルトリアの関係性について周囲に知らせる為だ」

「えっ。俺と……アルトリアの?」

「婚姻関係を結んでいたユグナリスとアルトリアが喧嘩別れをして婚約破棄をしたというのは、既に帝国貴族達の中では周知の事実だからね。……もし君とリエスティア姫達だけが祝宴の場に出席して、帝都ここにいると知られているアルトリアが出席しなかったら、帝国貴族達しゅういはどう思う?」

「それは……俺の事を、アルトリアがまだ怒っているからとか?」

「そう考えもするだろうけど、もう一つ考えられる事はあるよ。――……君とリエスティア姫の関係を、元婚約者であるアルトリアが認めていないとかね」

「!」

「皇帝陛下が君とリエスティア姫の関係を認めたとしても、皇族であり元婚約者であるアルトリアが認めた姿勢を見せないと、後々に面倒事が起こる可能性が高い。一番高い可能性は、そう考える周囲が勝手にアルトリアを皇帝候補に推し立てて、ゴルディオス陛下が退任するまでに皇位を皇位に着かせようと画策するかもしれない」

「そ、それは……」

「その為に邪魔になるのは、やはり君とリエスティア姫、そして君達の間で生まれたシエスティナ嬢だ。……もしそうした派閥が出来てしまえば、君達の命が危険になる可能性も大きくなってしまう」

「……!!」

「そうした可能性を大きくさせない為にも、君とアルトリアが和解していると見せ、元婚約者としてリエスティア姫と君の関係を認めているという様子を公の場で明かす必要がある。……だからこそ、アルトリアの出席も必要になるんだよ」

 セルジアスは今回の祝宴でアルトリアの出席する意味を説き、ユグナリスもそれを理解する。

 確かにアルトリアからそうした様子を見せない限り、周囲の者達は今もユグナリスと険悪な仲であると考え、次期皇帝候補の対立者として相応しいと考えるだろう。
 そうなればユグナリスを皇帝にするべきでは無いと考える派閥が、セルジアスからアルトリアに目標を切り替えるかもしれない。
 そして邪魔となる皇子ユグナリス正妃リエスティア、そしてその子供シエスティナを排除しようと動くことも考えられる。
 
 そこまで理解できたユグナリスだったが、そこから重大な問題が既に存在している事を思い出す。
 それは扉の前に立ちながら嫌悪の表情を強めるアルトリアの様子を確認したユグナリスにとって、まさに自明の理となっていた。

「……ア、アルトリア……。その……」

「……私、さっき言ったわよね? ――……こんな馬鹿と和解なかよくするくらいなら、死んだ方がマシだわ!」

 腕を組み怒鳴りながら和解を拒むアルトリアは、そのまま振り返り扉を強く開閉して客間から去っていく。
 その怒りを表現した扉越しにアルトリアを見送るセルジアスとユグナリスは、互いに渋い表情を浮かべていた。

 こうしてセルジアスが今回の事態で策を巡らせるに辺り、一番に苦労する点が明らかになる。
 それはアルトリアを説得してユグナリスと和解したと見せるようにする、どんな難問よりも困難な命題となっていた。
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