虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
865 / 1,360
革命編 四章:意思を継ぐ者

嫌悪の秘密

しおりを挟む

 過去の出来事を改めて振り返ったユグナリスは、アルトリアとの亀裂がどのように生じたかを思い出す。
 そのきっかけがアルトリアに向けられた嫌悪の言葉である事をユグナリスは思い出し、その意味を問うように正面から問い掛ける選択をした。

 そうして向かい合うセルジアスは、怒りの無い真面目な表情でアルトリアに向かい合う。
 しかし視線を逸らしながら表情を強張らせるアルトリアは、その問いに関して返答する様子を見せない。

 暫しの沈黙が二人の間に起きた後、それに耐えられずに先に声を発したのは、問い掛けたユグナリス側だった。

「――……答えてくれよ。お前は俺の、何を嫌ったんだ?」

「……アンタと昔話なんて、する気は無いわ」

「!」

「こっちは、やる事があって忙しいのよ。暇なそうなアンタと違ってね」

 そう言いながらアルトリアはきびすを返し、振り向きながら建物の扉へ戻ろうとする。
 それを妨げるように素早く回り込みながら扉までの直線を塞いだユグナリスは、声色を強めながら制止した。

「!!」

「答えてくれるまで、ここは通さないぞ」

「……邪魔するなら、容赦なくぶっ飛ばすわよ」

「元々、そのつもりで来たさ」

「は?」

「お前が俺を嫌いな理由に、俺自身のがあるなら。俺はお前に何度だって殴られるつもりだ」

「……」

「だから答えろよ。お前はお前を嫌いだと最初に言ったのは、どんな理由からなんだ?」

 強硬に嫌われた理由を聞き出そうとするユグナリスの態度に、アルトリアは嫌悪の表情を強める。
 それから右側へ視線を逸らしながらユグナリスが塞ぐ道の空いた隙間スペースを確認したアルトリアは、視線を戻して睨んで呟いた。

「……そういうところが、嫌いなのよ」

「え――……ッ!!」

 ユグナリスは呟かれた言葉に気を取られた瞬間、アルトリアが素早く股下へ右足の蹴りを放つ。
 それに気付き咄嗟に反応したユグナリスは、頭と肩を下げて両手で咄嗟にアルトリアの右足の蹴りを止めようとした。

 しかしアルトリアの蹴り足は止まり、そのまま右足を地面へ着きながら身体を大きく捻る。
 そして身体を回転させながら右足を軸にした左回し蹴りを放ち、ユグナリスの左顔面へ直撃させた。

「グ……ッ!!」

 まともに左顔面へ蹴りを受けたユグナリスだったが、僅かに傾く程度で留まる。
 しかし右足を軸にしたまま左足を地面へ踏み込ませたアルトリアは、身体を傾けて広がったユグナリスの左側から塞がれた道を抜けようとした。

 左顔面の蹴りで左目を反射的に閉じていたユグナリスだったが、右目の視界から消えたアルトリアが左側を抜けようとしている事をすぐに察する。
 それに気付いた瞬間に下げていた左手を真横に伸ばし、通り抜けようとしてアルトリアの左腕を掴んだ。

「ッ!!」

「……捕まえたぞ、アルトリア」

「離しなさいよッ!!」

「また逃げるのかよ、俺から」

「はぁ!?」

 掴まれた左腕を振り切ろうと、アルトリアは強引に腕や身体を動かす。
 しかし掴み取った細い腕を逃さないユグナリスは、アルトリアを見下ろしながらそうした言葉を向けた。

「お前はそうやって、俺を嫌いだからという理由で逃げようとしている」

「!」

「二年前に帝国ここを逃げた時も、そして皇国に俺が来て頼んだ時も。お前はそうやって、俺を理由にして逃げてばかりだな」

「……知った風な口を聞かないでッ!!」

「俺も、お前のそういうところが嫌いだ」

「!」

「嫌いだからと俺を遠ざけて、歩み寄れる時間すら与えてくれなかった。……婚約を結んでからの十年間。俺がお前を好きになれる時間や機会も、何も与えてくれなかった」

「……!!」

「最初から、俺を嫌いな理由を伝えてくれれば。気に入らない事をしている俺の行動を、ちゃんと伝えてくれれば。お前がどんなに俺のやる事を否定しても、ちゃんと俺の事を思ってくれてるんだと考えられたかもしれない。……でもお前は、俺のやる事を否定するばかりで、何も伝えてくれなかった」

「……馬鹿に何を言ったって、しょうがないでしょ!」

「確かに、俺はお前より馬鹿だよ。……でも、馬鹿は馬鹿なりに考えるんだ。お前が前に言ったように」

「!」

「リエスティアやログウェルは、俺がお前にやって来た事が嫌われる原因だと言った。……でも、俺はそれが原因だとは思えなかった。だってお前の為に何かしようと思う前から、既に嫌われてたんだからな」

「……ッ」

「なぁ、アルトリア。……もう、俺から逃げるのを止めろよ」

 ユグナリスは見下ろしながらも真っ直ぐな視線を向け、自分から逃げようとするアルトリアを止める。
 そうしたユグナリスの様子に表情を強張らせるアルトリアは自由な右手を振り翳し、自分の能力ちからを込めながら放とうと構える様子を見せた。

 しかし攻撃が来るだろうと察しているにも関わらず動じないユグナリスに、アルトリアは歯を食い縛りながら大きな溜息を漏らす。
 そして構える右手を下げながら、真っ直ぐと見つめるユグナリスの視線から顔を逸らして呟いた。

「はぁ……。……だから、アンタみたいな馬鹿は嫌いなのよ……」

「……教えてくれ。なんでお前は、そんなに俺を嫌うんだ?」

「……言った通りよ」

「え?」

「言ったでしょ? 『甘やかされているアンタが嫌い』。それがそのまま、嫌いな理由よ」

「その、甘やかされてるって、どういう意味だ?」

「……」

「確かに俺は、セルジアス従兄上あにうえやお前みたいに叔父上クラウスから厳しく育てられてない。でもそれが、お前に嫌われ続ける程の理由になるのか?」

 アルトリアの答えにユグナリスは納得できず、再びそうした問い掛けを向ける。
 それに対してアルトリアは更に溜息を深めながら、掴まれたままの左腕を動かしながら言葉を繋げた。

「……腕、離して」

「……」

「逃げないわよ。だから離しなさい」

「……分かった」

 アルトリアの言葉を信じたユグナリスは、掴んでいた左手を離す。
 そして自由になった左腕を引かせたアルトリアは、背を向けながら渡り廊下に広がる塀と木々を見ながら話を始めた。

「……確か、アンタにそれを言った時。皇帝陛下と皇后様と一緒に、御茶会をした時だったわね」

「え? あ、ああ。そうだな。……その後で二人になった時に、お前から嫌いだと言われた」

「……アンタは良いわよね。あんなに優しい、父親と母親が居て」

「えっ」

「私は母親の顔すら知らないし、父親や周囲からは危険物バケモノ扱いされ続けた。まぁ、危険物その扱いは当然だけどね」

「……!」

「ても同じ皇族うまれのアンタは、幸せそうなかおをして、優しい両親に恵まれて、周囲に甘やかされて。……そんな光景を間近で見せられたら、嫌いになるのは当然じゃない?」

「……それって……」

 アルトリアが嫌う理由を話すにつれて、ユグナリスは驚愕の色を濃くしながら表情を強張らせる。
 それを話すアルトリアの背中にも、初めて哀愁を漂わせた雰囲気が宿り始めているようにユグナリスは感じていた。

 そして自分を嫌うアルトリアの理由を聞き、ユグナリスは自分自身で根幹となる原因を導き出す。

「……まさか、嫉妬してたのか? ……お前が、俺に……?」

「……だから嫌なのよ。こんな馬鹿に言うのは……」

 腕を組みながら悔やむように呟くアルトリアの言葉に、ユグナリスは唖然とした表情を向ける。
 そうして二人の間には再び沈黙が訪れ、その場には冬に冷え込む風が一つ流れていた。

 こうしてアルトリアとユグナリス間に生じていた嫌悪の亀裂が、ユグナリスによって明らかになる。 

 そのきっかけは、恵まれた才能と環境を持ちながらも、周囲から特別バケモノとして扱われ続けた一人の少女。
 そして周囲から暖かく育てられた少年に、その少女が羨望と共に生まれた嫌悪を向け続けた結果、十年に渡る二人の亀裂を広げ続けたのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】回復魔法だけでも幸せになれますか?

笹乃笹世
恋愛
 おケツに強い衝撃を受けて蘇った前世の記憶。  日本人だったことを思い出したワタクシは、侯爵令嬢のイルメラ・ベラルディと申します。 一応、侯爵令嬢ではあるのですが……婚約破棄され、傷物腫れ物の扱いで、静養という名目で田舎へとドナドナされて来た、ギリギリかろうじての侯爵家のご令嬢でございます……  しかし、そこで出会ったイケメン領主、エドアルド様に「例え力が弱くても構わない! 月50G支払おう!!」とまで言われたので、たった一つ使える回復魔法で、エドアルド様の疲労や騎士様方の怪我ーーそして頭皮も守ってみせましょう!  頑張りますのでお給金、よろしくお願いいたします!! ーーこれは、回復魔法しか使えない地味顔根暗の傷物侯爵令嬢がささやかな幸せを掴むまでのお話である。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...