虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
932 / 1,360
革命編 五章:決戦の大地

覗き込む視線

しおりを挟む

 『創造神オリジン』の権能ちからを得ようとするウォーリスの主導により、創造神の魂を持つと推測されたアルトリアは連れ去られる。
 そして肉体に呪印を施され魔法や生命力を大きく制限されたアルトリアは、何処かも分からぬ監獄に閉じ込められた。

 一方その頃、旧ゲルガルド伯爵領地の都市に潜入を試みていた帝国皇子ユグナリスと狼獣族エアハルトは、一時間程で思わぬ場所に姿を現す。
 そこは都市内部の道に点在する円形状のマンホールであり、それなりの道幅で人の気配が無い路地裏だった。

「――……誰も、いませんね……」

「さっさと出ろ。水路ここは鼻が曲がる」

「ちょっと、待ってくださいよ。……よっと……っ」

 マンホールを僅かに開けながら周囲を見渡すユグナリスを、右手と両足で梯子をのぼるエアハルトが不機嫌そうな声を発する。
 それに気圧される形でマンホールを押し開けたユグナリスは、身を乗り出しながら路地裏の地面へ足を着けた。

 それを追うように飛び出たエアハルトは、地面に着地しながら身を屈める。
 エアハルトが出た様子を確認したユグナリスは、ふたを閉じながら路地裏の先に見える景色を見据えた。

「……本当に、都市の中みたいですね。よく、あんなところから……」

「言っただろう。俺の鼻ならすぐ分かると」

「でも、地面と水路を壊しちゃいましたし。都市ここの人達には、いい迷惑かも……」

「馬鹿のくせに真面目とは、救いようがないな」

 そうした事を言い合う二人は立ち上がり、互いに両側に視線を向けながら警戒した様子を見せる。
 幸運にも路地裏に人影は無く、また出て来た路地裏は建物の壁が三方向に広がっており、十数メートル先に見える表通りらしき場所からは暗くて気付かれ難い立地をしていた。

 しかし表通りには、人の気配や声で溢れている
 それを知ったユグナリスは、改めて半裸状態のエアハルトを見ながら渋い表情を見せた。

「……流石に、その格好すがたで歩いていたら怪しまれますね」

「確かに、そんな服では悪目立ちするだろうな」

「ちょっと待ってください。なんで俺が怪しまれる話になるんです?」

「貴様の服に比べたら、半裸のほうが遥かに目立たん」

「いや、俺の方が目立たないでしょ。片腕だけに半裸姿って、なんでそれで怪しまれないって思うんですかっ!?」

「ふんっ。こんな姿をした連中だったら、今まで何度も見てきた。どうせ貴様は、そんな連中が居る場所になど行った事も無いのだろう」

「!」

「それに比べたら、お前の姿は誰よりも目立つ。金を持っていそうな獲物《カモ》だ」

 エアハルトは悪態を見せながらそうした言葉を向けると、ユグナリスは困惑した表情を見せる。
 この噛み合わない会話で違和感を得たユグナリスは、そこから想像力を働かせてエアハルトに問い掛けた。

「……エアハルト殿の出身は、何処なのですか?」

「知らん」

「えっ。でも、出身地くらいは……」

「覚えていない。薄汚い人間共が大勢いた場所の名など、覚える気も無い」

「ということは、人間の国で生まれたんですよね?」

「……その話を、今する必要があるのか?」

「い、いえ。……ただ少し、気になっただけです」

 その問い掛けに不快な表情を強めたエアハルトは、鋭い睨みを向けながら低い声を発する。
 それに気圧される形で言葉を引かせたユグナリスは、改めて表通り側を見ながらエアハルトに尋ねた。

「でも、これからどうするんです? 表に出たら、この格好の俺達だと怪しまれるでしょうし」

「……なら、何処かで不自然じゃない服を調達すればいい」 
 
「でも、服の注文をしているわけがないし……。お金も、持って来てなくて……。」

「……貴様、本気で言っているのか?」

「えっ。だって、服を手に入れるなら服飾店ふくしょくてんに注文する必要があるんじゃ?」

「……」

「ちょっ、なんですかその顔は……」

 然も当然のように話すユグナリスの様子に、エアハルトは眉間に皺を寄せた表情を強める。
 それを見るユグナリスは困惑しながら問い掛けると、それを無視するようにエアハルトは周囲を見渡し、三方向にある建物の壁を見据えながら呟いた。

「……登れるな」

「な、何なんです? 俺、何か変な事でも言いました?」

「どうでもいい。それより、この壁を登るぞ」

「えっ。……この壁を?」

「ああ」

「いや、だって……ほとんど出っ張りが無いですよ? これじゃあ、指を引っ掛ける場所が……」

「なら、俺の真似をして登れ。実際に見た方が早い」

「えっ」

 真っ直ぐとそびえ立つ建物の壁を見るユグナリスに対して、エアハルトはそう述べる。
 すると僅かに腰を下げて両膝を沈めた後、エアハルトはその場で凄まじい跳躍力ジャンプを見せた。

 そして建物の高さ半分に達する十メートル程まで跳躍した瞬間、右側の壁に右足を蹴り込む。
 すると身を翻しながら中空で身体を回転させたエアハルトは、更に左側の壁を両足で蹴りながら飛び上がり、壁に激突する前に両足を右側の壁に着けた。

 更に両側の壁を蹴りながら身体を跳ね上がるエアハルトは、十秒にも満たぬ時間で建物の屋上に辿り着く。
 そして路地裏を見下ろしながら、そこに立つユグナリスに右手で上がって来るように伝えた。

「……そんな登り方は、訓練して無いんだけどな……。……そうだ」

 凄まじい身体能力で壁を登ったエアハルトに感心しながらも、それを真似るよう求められるユグナリスは同じように身を屈める。 
 その瞬間に体内を巡る生命力と魔力を高めながら身体に纏った瞬間、凄まじい跳躍力ジャンプを見せた。

 しかしその跳躍力ジャンプは、先に跳んだエアハルトの倍以上まで伸びる。
 その凄まじい勢いによって、壁を蹴る必要も無いままユグナリスは建物の屋上へ着地して見せた。

 それを睨みながら見るエアハルトに、ユグナリスは自信に満ちた表情で口元に笑みを浮かべる。

「――……意外と、簡単に跳べましたね」

「……馬鹿が」

「え?」

 一度の跳躍ジャンプで屋上まで辿り着いたユグナリスに対して、エアハルトは苛立ちを含んだ声を向ける。
 それに思わず驚いたユグナリスだったが、その理由をエアハルトは明かした。

「どうして俺が、貴様のように身体強化をせずに登ったと思う?」

「え……」

「もし敵に魔力を感知できる魔人がいれば、高めた魔力に気付かれる。生命力オーラも同じだ。都市外そとならともかく、都市内に感知できる監視者がいたら気付かれる」

「……あっ」

「あの老人おとこ、こんな初歩的な事も教えていないのか。……単に、コイツが馬鹿なだけか」

 エアハルトの言葉で初めて自分が迂闊な事をしたと気付いたユグナリスは、焦りの色を濃くしながら表情を強張らせる。
 それに呆れるエアハルトは、愚痴を零しながらも屋上から周囲を見渡しながら警戒し続けていた。

 しかしエアハルトの視界には都市内にそびえる建物しか見えず、高い建物の硝子ガラス窓から自分達を見ている人影が居ない事を確認する。
 そして小さな鼻息を漏らしながら、再びユグナリスを睨みながら告げた。

「ここからは気配を殺せ。魔力も生命力オーラも使うな」

「は、はい……。すいません」

「フンッ。……干されている服を見つけて、適当にって着るぞ。貴様も見つけたら着替えろ」

「えっ、俺も? というか、それって人の服を盗むってことじゃ……」

「手に入らないなら奪えばいい。それに、ただでさえ目立つ赤髪かみ赤服ふくなんだ。貴様の正体があばかれないとでも思うのか?」

「ぐ……っ」

「あの女のように偽装できないなら、せめて服だけでも着替えろ。これ以上、俺の足を引っ張るな」

「……ッ」

 辛辣な言葉を向けるエアハルトに対して、ユグナリスはぐうの音も出ないまま気まずそうに頷く。
 エアハルトの言っている女がアルトリアである事を察し、過去に比較された事を思い出していた。

 しかし続くエアハルトの言葉が、ユグナリスの気持ちを保たせる。

貴様の女リエスティアを取り戻すんだろう。だったら、大事な事とどうでもいい事は切り分けろ」

「!」

「いざという時、それが出来ない奴が死ぬ。……死なずとも、俺のように失くした左手すがたを晒す事になる」

「……エアハルト殿……」

「チッ、何で俺が……。……行くぞ」

「あっ。――……はい!」

 悪態を吐きながらもそうした事を呟くエアハルトは、別の建物に続く屋上に向かいながら走っていく。
 そして跳躍しながら隣の建物に身体を跳び移ると、それを追うようにユグナリスも走りながら跳び始めた。

 そうして都市部の屋上を移動していく二人は、周囲を警戒しながら都市の中央区画へ向かっていく。
 しかし屋上を走る二人の姿を、遠く離れた外壁内部から覗き込む人影が捉えていた。

「――……侵入者が二人。一人は赤髪の男、もう一人は銀髪の男。……銀髪の方は、魔人だな。赤髪は、聖人ってとこか」

「どうしますか? 団長」

 外壁内部にたむろする男達の中に、団長と呼ばれながら片手に持つ望遠鏡スコープを覗き込む一人の男がいる。
 そして持っていた望遠鏡スコープを部下と思しき団員に投げ渡すと、傍に置かれている布に包まれた長筒を手に取った。

 すると巻かれている布を外しながら、長筒の中身を明かす。
 それは地味ながらも黒く美しい色合いで輝く長距離用狙撃銃ロングレンジライフルであり、銃床じゅうしょうには青に染まった宝玉は取り付けられながら怪しく光っていた。

「汚名返上の為にも、仕事は果たすさ。――……今度は直々に、俺達が撃ち抜いてやるよ。なぁ、イオルムよ」

『――……』
 
 そうした名で手に持つ狙撃銃に話し掛ける団長おとこに対して、周囲の部下達も狙撃銃を持って後に続く。
 彼等に標的として見定められた事を知らないまま、ユグナリスとエアハルトは都市内部を駆け回った。

 こうしてゲルガルド伯爵領地の都市に潜入した二人だったが、思わぬ人物がその都市の守りを担っている。
 それはオラクル共和王国にて『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァの確保に失敗した傭兵団であり、特級傭兵スネイクが率いる『砂の嵐デザートストーム』だった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...