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革命編 五章:決戦の大地
突入再び
しおりを挟む同盟都市建設予定地に向かっていた三人の若者達は、暗闇に聳え立つ黒い塔を目撃する。
それが未来で見たホルツヴァーグ魔導国の浮遊機能を担っていた魔鋼である事を即座に察したマギルスは、それと同じく上空に浮遊する事を考えた。
そんな時、三人の行く手を阻むように【魔王】が姿を現す。
しかし警告を向ける【魔王】と邂逅したマギルスは、互いにその素性を知るような話を交える。
それを終えた後、消えた【魔王】に関してそれ以上の詮索をしないマギルスは、再びエアハルトとユグナリスを伴いながら黒い塔を目指した。
「――……塔の根本が見えた!」
「なんだ、都市の真ん中に……?」
「……アレが多分、建設中だった同盟都市です。……あそこまで完成していたのか……」
マギルスは青馬の憑依した二輪車を操りながら、巨大な黒い塔の根元に見る。
それに続くように視線を動かすエアハルトは、都市の形状に模られた壁や構造物が周囲に散見する光景を目にした。
二人が見る都市を同じく見るユグナリスは、それが建設予定だった同盟都市である事を口にする。
ガルミッシュ帝国の建築技術に似通った都市構造ながらも帝都並の規模は、ローゼン公爵領地以外にはほとんど存在しなかったからだ。
それぞれにそうした状況を見た時、都市に突如として生え伸びたような黒い塔の存在が更に不自然な状況であると察する。
しかしマギルスだけは、その光景に見覚えを抱きながら呟いた。
「やっぱり、未来と同じだ。――……二人共、突っ込むよっ!!」
マギルスは取っ手を更に強く捻り、入射角を都市側に向けながら二輪車を加速させる。
そして側車に座る二人も魔力で形成された車体を掴みながら、その加速圧に耐えた。
そんな中、腐臭によって麻痺していたエアハルトの嗅覚に微かな匂いが届く。
「……この匂い、あの紙札だ」
「えっ!?」
「あの都市から、紙札の魔力が放たれている」
「じゃあ、同盟都市に……。でも、アルトリアとザルツヘルムのどっちがっ!?」
「両方だ。どっちか分からん」
「なら、リエスティアも同盟都市の何処かに……!」
エアハルトが嗅いだ魔力の匂いで、ザルツヘルムとアルトリアの持っていた紙札の魔力が同盟都市から流れ出ている事が判明する。
それを知ったユグナリスは、同盟都市にリエスティアがいる可能性に覚悟を強めた。
しかし次の瞬間、マギルスとエアハルトが同時に気付く。
すると車体を急停止させたマギルスによって、その勢いで飛び出しそうになるユグナリスはどうにか掴み留まりながら驚きを向けた。
「どうしたんですっ!?」
「分からんか」
「えっ?」
「……いきなり張られたね」
「張られた?」
「結界だよ。都市全体に張られたんだ」
「!」
二人は魔力感知によって、同盟都市全体に結界が張られた事を察する。
しかし生命力しか察知できないユグナリスは、言われて初めて結界が張られた状況に気付いた。
それでも構わず、マギルスは車体前方の連射砲を回し始める。
更に青馬と呼応するように、結界に向けて魔弾の連射を始めた。
「とりあえず、壊しちゃうもんねっ!!」
『ヒヒィンッ』
連射される魔弾は次々と同盟都市側に放たれ、張られた結界に着弾する。
それによって初めてユグナリスにも視認できるようになった結界は、襲い来る魔弾によって凄まじい衝撃と爆音を生み出した。
しかし合成魔獣を一撃で貫き破壊する魔弾を浴びながらも、その結界は破られずに揺らぐ様子さえ見せない。
それを見たマギルスは、眉を顰めながら呟いた。
「やっぱり、遺跡の結界は箱舟並の砲撃じゃないと突破できないかな?」
『ブルッ』
「だったら、あの方法しかないね!」
マギルスはそう言いながら微笑みを浮かべると、それに応じるように青馬の顔をした車体の目も青く光り輝き始める。
すると三人と車体を纏う青い魔力が変化し、車体の先端部分を中心に螺旋を描くような動きを出した。
側車に座る二人は可視できるその魔力を見ながら、二人は驚きの声を呟く。
「これは……!?」
「魔力を集めながら、一点に集中させている……。しかし集中力の無いマギルスが、これ程の魔力を練り上げるなど……」
「……よしっ、出来た!」
違う意味で驚愕する二人を他所に、マギルスは高めながら練り上げた魔力であるモノを作り出す。
それは切削工具を彷彿とさせる先端と螺旋を描いた魔力であり、普段は空気に溶け込むように揺らぐ魔力はまるで物質化したように空間に固定されていた。
しかし次の瞬間、形作られた青い魔力が螺旋状に回り出す。
その速度が少しずつ増していくと、数秒後には空気を切り裂く程の回転を見せ始めた。
それを見ながら驚く二人を他所に、マギルスは微笑みを強めて声を上げる。
「んじゃ、突撃ぃ!」
『ヒヒィンッ!!』
取っ手を強く捻りながら車体を動かすマギルスは、そのまま結界に突っ込まずに右折しながら半円を描いて逆相し始める。
しかしある程度の距離まで離れた後、再び右折しながら助走距離を確保した。
すると取っ手の捻りを全開にし、凄まじい速度で結界に突撃する。
そして側車に座る二人に対して、大声で警告を向けた。
「しっかり掴まっててねっ、落ちても拾えないよ!」
「!?」
結界へ衝突寸前にそう伝えるマギルスに、二人は表情を強張らせながら側車の両端にしがみつく。
そしてついに、青い魔力が結界に抉り込むように衝突した。
「グゥッ!!」
「うわっ!!」
「ク……ッ!!」
結界への衝突で凄まじい衝撃を感じる三人は、それぞれに身体を強張らせながら耐える。
そして凄まじい速さで回転する魔力が、透明な結界を穿つように亀裂を生じさせた。
「入った! どんどん掘っちゃえっ!!」
『ブルッ!!』
亀裂が入った先端は分厚い結界を徐々に掘り進み、その穴を広げていく。
遺跡の大結界とマギルスの魔力が衝突する事で、火花に似た魔力の光が周囲に飛び散り始めた。
そしてついに、車体の半分が結界を通過する位置まで潜り込む。
マギルスはそれを確認し、口元をニヤけさせながら大きく息を吐いた。
「もう十分だっ!!」
『ヒヒィンッ!!』
「……うおっ!!」
「グッ!!」
声を合わせたマギルスと青馬は、車体に纏わせていた魔力を解除する。
それと同時に纏わせていた魔力が全て推進力に回り、衝突時よりも更なる加速を見せながら結界の内部に突入した。
「これで、突破だぁ! ――……あっ!!」
嬉々とした声を上げるマギルスだったが、取っ手を操作しながら何かに驚く。
それを聞いた二人は、マギルスの方を見ながら驚くように問い掛けた。
「どうしたっ!?」
「ブレーキが効かないや!」
「……あの、ブレーキってっ!?」
「この二輪車を止める機能!」
「……えっ、それって……」
「ドワーフのおじさん達、コレ古いって言ってたもんなぁ。壊れちゃったかも。てへっ」
「……おい、前を見ろっ!!」
車体を止められない事を教えたマギルスは、苦笑いを浮かべながら微笑む。
それを聞いて表情を青褪めさせたユグナリスに続き、エアハルトが怒鳴るように声を上げた。
入射角を下げたままの車体は、凄まじい速度で同盟都市の内側に突っ込んでいく。
それを見たマギルスは躊躇する様子も無く、座席に足を飛び乗せながら大声を向けた。
「二人共、降りてっ!!」
「クソッ!!」
「お、降りるって――……うわっ!!」
「さっさとしろっ!!」
マギルスは車体に憑依させた青馬を戻し、そのまま跳び離れる。
それに続くエアハルトは躊躇うユグナリスの襟首を右手で掴みながら持ち飛ばすと、それぞれに別々の場所に落下しながら車体から離れた。
三人が離れた車体はそのまま同盟都市の地面へ激突し、凄まじい爆発を起こしながら周囲と共に四散する。
その爆風に耐えながら吹き飛ぶ三人は、それぞれ離れた場所に落下した。
それぞれの場所に落下した中で、マギルスとエアハルトは姿勢を整えながらも勢いよく地面を滑って着地する。
しかしユグナリスは高さのある建物へ突っ込み、その壁を破壊しながら転がるように着地した。
「……痛ぁ……ッ!!」
「チッ。相変わらずな奴だ……」
「……あーあ、二輪車壊しちゃった、ドワーフのおじさん達、怒るかな?」
『ブルルッ』
三人はそれぞれに無事な姿を見せながら、一息を漏らす。
そして周囲を見渡しながら、自分達が着地した位置を把握し始めた。
こうして同盟都市の突入に成功した三人だったが、それぞれ散り散りになってしまう。
そこで待ち受ける脅威も分からぬまま、三人はそれぞれの意思で同盟都市内を動き始めた。
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