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革命編 五章:決戦の大地
終わりなき悪夢
しおりを挟む合成魔人化したバンデラスと相対した狼獣族エアハルトと帝国皇子ユグナリスの二人は、個別に圧倒され瀕死の重傷を負わされる。
そうした最中に現れたマギルスと対峙するバンデラスだったが、合成魔人となった己の肉体を十全に操られていない事を見抜かれた。
大鎌すら抜かないマギルスに圧倒されたバンデラスはそれを指摘され、豹獣族の矜持を奪われたことを自覚して戦闘意思を消失させる。
そして自らの命を絶つようにマギルスに求めたが、それが実行される前に影から迫った悪魔騎士ザルツヘルムに取り込まれた。
戦意を失ったバンデラスに対して、ザルツヘルムは強要するように『悪魔の種』を取り込ませる。
そして否応なく悪魔化させられたバンデラスは、理性を失いながらドス黒い瘴気と魔力をその肉体から放ちながら夜空に吠えた。
「――……ウァアアアアアアッ!!」
「おじさんっ!!」
「グゥ……ッ!!」
叫ぶバンデラスは元々の様相から更なる変質を遂げ、悪魔化した者達と同様に黒い角と羽をその身に宿す。
更に魔人の肉体故か、その尻尾には鋭い鞭のような黒い尻尾まで出現した。
そうして変質するバンデラスの叫びと共に放たれる瘴気と魔力の波動が、傍に居るマギルスやエアハルトに刺さるように襲う。
しかしその傍で平然と立つザルツヘルムは、冷静な微笑みを浮かべながらマギルスに声を向けた。
「――……少年、彼もつまらぬ相手だっただろう」
「!」
「ならばこういう余興なら、少しは楽しめるかな?」
「……貴様、ザルツヘルム……ッ!!」
マギルスに対してそう声を向けるザルツヘルムだったが、別方向から吐血を零しながらも名を呼ぶエアハルトに視線を向ける。
するとエアハルトに対して視線を細めると、小さな溜息を漏らしながら声を向けた。
「お前達が生きているということは、スネイクは裏切ったということだな」
「!」
「だがもう、奴を処分するまでもない。……事態は既に、次の段階へ移行している」
「次だと……!?」
「それまでの間、お前達にはこの余興を楽しんでもらおう。――……バンデラス。奴等を殺せ」
「……ウァオオオッ!!」
「ッ!!」
そう述べるザルツヘルムは、大きな変化を終えたばかりの悪魔化したバンデラスにそう命じる。
すると短くも吠えるように唸るバンデラスは、マギルスではなく重傷のエアハルトに対して襲い掛かった。
動けず治癒での完治を望めないエアハルトは、その場を動けずに逃げる事も出来ない。
しかし真横から青い魔力を纏うマギルスが、突っ込むバンデラスの肉体に蹴りを浴びせて進攻を止めた。
「ガァアアッ!!」
「!」
それでも吹き飛ばずに地面を噛み締めたまま両足で持ち堪えたバンデラスは、今度はマギルスに対して襲い掛かる。
しかし大鎌を振り構えるマギルスは、迫るバンデラスの右手を逃れながらその手を大鎌で斬り裂こうとした。
「……ッ!?」
それでも悪魔化したバンデラスの右腕は傷付かず、肌の欠片一つとして落とさない。
逆に大鎌の刃を受け止めながら跳ね上げたバンデラスの左脚は、マギルスの腹部に膝をめり込ませた。
「グッ!!」
「ァアアッ!!」
左膝の直撃を受けたマギルスは、視界と意識が揺れながら重い衝撃で身体が吹き飛ばされる。
しかし歯を食い縛りながら表情を強張らせて耐えるマギルスは、激突寸前の建物側に魔力で編んだ物理障壁を展開し、身体を横にしたまま両足の足場にした。
「痛――……ッ!!」
「ウガァアアアッ!!」
痛みを堪えながらも呟こうとするマギルスに対して、その猶予すら待たずに赤く光る目を見せた狂気のバンデラスが襲い掛かる。
それに対してマギルスは初めて余裕の無い表情を見せながら、青い魔力を纏って精神武装を使った。
「『俊足形態』ッ!!」
「ァアッ!!」
「!?」
足に纏わせた青馬の精神武装によって、マギルスは足場にした物理障壁から跳びながら青い閃光を走らせてその場から消える。
しかしそれを目で追うだけではなく、最速の俊足形態を纏ったマギルスと同等の速度で追い掛けて来た。
合成魔人の肉体が悪魔の力によって増幅し、更に憎悪に因る本能によって身体能力の余す事なく発揮している。
理性によって抑制されていた動きが開放され、悪魔化した合成魔人としても本領を発揮できていた。
その身体能力がマギルスの速度にも追い付き、更に狂気を孕んだ表情と肉体で襲い掛かる。
追い付かれたマギルスはすぐに精神武装の形態を変えながら、迫るバンデラスの両腕を迎撃した。
「『剛腕形態』ッ!!」
「ウガァアアアアッ!!」
マギルスの両腕に青い魔力が集まり、太く巨大な鎧の腕へ変化する。
そしてバンデラスの握りながら振り下ろした両拳に対して、両腕を放つように衝突させた。
「グゥ……ッ!!」
「キアアアッ!!」
バンデラスとマギルスの剛腕が衝突し合い、凄まじい衝撃波を生み出しながら周囲一帯に亀裂を生じさせて破壊する。
しかし軽量のマギルスに対して、悪魔化し肉体を増幅させたバンデラスの体格は大きい。
更に真上から攻撃し振り下ろしているバンデラスに対して、マギルスは下から耐える姿勢となってしまっている。
足を着けさせられたマギルスは陥没する地面に沈み、強張りを浮かべた表情で相対する。
しかし相対するバンデラスの顔がマギルスに見えると、目を見開きながら驚愕を浮かべた。
「――……コ……テ……レ……」
「!」
「……ハ、ヤク……オレヲ、コロシテ……クレ……ッ!!」
互いに拳を合わせながら相対する中で、バンデラスは悲痛な声を見せる。
瘴気に侵された肉体に捕らわれたままの魂が藻搔くように零すその声は、狂気に飲まれながらも僅かに残るバンデラスの矜持でもあった。
それを聞いたマギルスは歯を食い縛りながらも口を微笑ませ、額から流す汗を見せながらこう言ってのける。
「僕は、命を刈り取るのが矜持だから……。だからおじさんの命も、ちゃんと刈り取ってあげるよ!」
「……タノ……ム。――……ァアアガアアッ!!」
マギルスの言葉に最後に口元を微笑ませたバンデラスは、再び理性を失い咆哮を上げる。
すると凄まじい負荷が両拳に掛かり、マギルスの身体を剛腕形態ごと押し潰そうとした。
対してマギルスは押されながらも口元の笑みを深め、身体に青い魔力を纏いながら高める。
更に白い生命力《オーラ》も織り交ぜるように放ちながら、この状況で新たな新技をマギルスは叫んだ。
「――……『精神武装』の強化――……『精命武装』ッ!!」
「!」
マギルスがそう叫ぶと同時に、両腕に纏わせた精神武装に劇的な変化が訪れる。
剛腕形態が一回りほど小さくなりながらも、魔力と同時に魔力を宿した生命力が剛腕形態へ変質した。
しかし小さくなった外観とは異なり、その腕力は跳ね上がるように高まる。
押されていたはずのマギルスが逆にバンデラスの両拳を押し返し始め、更に弾き飛ばすように上空に吹き飛ばした。
「ウガッ!!」
「まだまだ、次は『戦闘形態』だッ!!」
上空に飛ばしたバンデラスを見上げるマギルスは、嬉々とした笑みを見せながら剛腕形態を解く。
その解かれた魔力を自身の肉体に覆うように纏わせると、軽装ながらも青い外套を身に着けた姿へとマギルスは変化した。
更に手に持つ大鎌を振り上げると、大鎌の形態すらも変化し始める。
通常は鎌状に横へ曲がる刃が真上に向きながら固定されると、まるで大きな曲刀の形状になった。
更に胸部分には、青馬の顔をした胸当てが纏われる。
それによって瞬く間に変化をし終えたマギルスは、新たな戦闘形態となってバンデラスを見上げた。
「――……さぁ、刈り取ってあげるよっ!!」
「ァアアガァウウッ!!」
マギルスはそう声を向け、バンデラスは吹き飛ばされた上空で黒い羽を広げる。
そして凄まじい速さで急降下しながら迫るバンデラスは、マギルスを殺そうと瘴気と魔力を全力で乗せた右拳を迫らせた。
それを迎撃する為に跳ぶマギルスは、俊足形態と変わらぬ速度で真上に跳ぶ。
中空で衝突する二人は拳と曲刀を放ち合い、その場に凄まじい衝撃を生み出しながら青と黒の光を放った。
それを見上げるエアハルトは異次元にも思える戦いに目を奪われ、驚愕を浮かべながらその結果を見届ける。
衝撃と力が散開して視界が開けると、二人の戦いにどのような決着を齎したかをエアハルトに確認させた。
「……!」
目を見張るエアハルトが見たのは、首と胴体が切り離されながら落下していくバンデラスの姿。
それを見下ろすマギルスは、戦闘形態によって瘴気の傷を防ぎながらも、所々にボロボロになりながら一息を漏らしていた。
「――……ちゃんと、約束は守ったよ。おじさん」
落下するバンデラスの亡骸を見下ろしながら、マギルスはそうした呟きを送る。
しかし次の瞬間、マギルスとエアハルトは驚くべき光景を目にした。
「……!?」
「えっ!?」
首を切断されて落下していくバンデラスの亡骸が、突如として中空で羽を広げる。
そして落下する首を自らの手で拾い持つと、自分の首に戻すように付着させたのだ。
しかも付けただけの首が瘴気で縫い付けられ、何事も無かったかのように元通りになる。
それを見たマギルスとエアハルトは驚愕を浮かべ、信じ難い様子で声を上げた。
「僕の鎌で斬られて、傷が治るはず――……いや、違う。アレはくっつけだけ……!?」
「……奴は、不死身か……!?」
互いに違う印象ながらも、首を切断した程度ではバンデラスを殺せない事を否応なく察する。
そして中空に浮くマギルスを再び見上げたバンデラスは、虚しくも咆哮を上げて再び襲い掛かった。
「――……ウガァアアアアアッ!!」
「クッ!!」
復活したバンデラスに襲い掛かられるマギルスは、苦々しい表情を浮かべて『戦闘形態』の能力で浮遊しながら回避に入る。
しかし傷付いたマギルスは先程の攻防で多くの魔力と生命力を使っているのに対して、衰えないバンデラスはもはや理性の欠片も無く狂気のまま殺そうと襲い続けた。
そんな戦いが繰り広げられている中で、ある瓦礫が崩れるように落ちる。
そこには体の大半を瓦礫に埋もれさせたままのユグナリスが、完全に意識を途絶えさせていた。
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