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革命編 五章:決戦の大地
死の津波
しおりを挟む地響きと地割れを起こしながら浮遊する同盟都市に侵入する為に、エリクは合成魔獣や死体達を相手に突き進む。
その最中、突如として現れた未来で敵対していた魔導人形達が援護するように助けに入り、同盟都市までの侵入するエリクを援護し始めた。
それによって同盟都市の大結界を破り侵入できたエリクは、そのままアリアを探すように同盟都市内を走り抜ける。
しかし捕らわれているアルトリア達が何処に居るか分からず、未来で彼女が居た中央に聳え立つ黒い塔へとエリクは走り続けた。
こうして同盟都市周辺に集まる勢力が抗う中、それを魔鋼に覆われた遺跡内部から厳しい瞳で見つめる者がいる。
それは金色の瞳を魅せるウォーリスであり画面に映し出される魔導人形とそれ等を乗せている母船を確認し、操作盤を扱う側近アルフレッドの背後で苛立ちの籠る声を呟かせていた。
「――……まさか、魔導母艦か」
「マザーシップ?」
「第一次人魔大戦の時代、大帝が建造させていた航空戦艦だな。アレで魔大陸に侵略し、数多くの領土を魔族達から奪った。……しかしあの技術や施設は、始祖の魔王ジュリアとハイエルフの女王ヴェルズェリアに悉く滅ぼされたはず。アレを作れる可能性があるとしたら、私と同じ時代を生きた者だけ」
「では、やはり『青』が?」
「確かに、それ以外には考えられん。……しかし当時の『青』は、魔法関連に比類の無い才能はあっても、魔導に関して私よりも遥かに格下に位置したはず。……天変地異から五百年余りの時間で、私の目から隠れながらアレほどの数と性能の魔導人形と母艦を製造できるだけの技術力を得ていたというのか……?」
ウォーリスに宿るゲルガルドがそうした言葉を呟かせ、実際に目にする魔導人形達の技術力が第一次人魔大戦の人類技術に劣らぬモノだと明かす。
それでも腑に落ちない様子を見せる中で、最も懸念すべき対象が画面に映し出されると、ウォーリスの視線は更に厳しい鋭さを宿らせた。
それは同盟都市内部に侵入した傭兵エリクと、帝国皇子ユグナリスの二人。
その二人が映し出された別々の映像を見ながら、ウォーリスは苦々しい声を漏らす。
「……奴等も、既に至っているか」
「至っている?」
「人間も進化することで、常人を越えた能力を得る。それが『聖人』と呼ばれる存在。……だがその聖人にも、段階的な進化が存在する」
「!」
「アルフレッド。お前は『聖人』の初期段階。各能力こそ人間を上回り寿命も数百年程に延びているが、言ってしまえばそれだけだ。それ以外に特徴らしい特徴は無い」
「……ッ」
「だが更なる進化を遂げた『聖人』は、個別に特別な能力を得る。初期段階に比べて体内の生命力は増加し、生命力そのものが魂に影響されて大きく変質するんだ」
「変質……?」
「最初に『赤』となった七大聖人ルクソードは、自分の生命力を炎に変える事が出来た。故に奴が斬り、触れたモノは全て燃やし尽くされた。それは無機物や有機物に関わらず、実体では触れられぬ魔力や精神、瘴気や魂すらも燃やし尽くせたのだ」
「……では悪魔化したベイガイルが消滅し、同じく悪魔化していた合成魔人が一時的に元の状態へ戻ったのも……」
「ルクソードはあの生命力を、『生命の火』と呼んでいた。……帝国皇子にも覚醒の兆候があるとザルツヘルムから聞いていたが、ここに来て真の『聖人』に至るとは。やはり『赤』の血は侮れん」
ウォーリスの口を介して語るゲルガルドの言葉は、ユグナリスの異常な成長がどういう意味を指しているのかを語る。
それこそが真の『聖人』であると語る言葉を聞いた後、アルフレッドは僅かに渋い表情を浮かばせながら問い掛けた。
「……まさか、奴の炎は魔鋼も?」
「それに気付かせる前に、奴を始末せねばならん。――……こうなれば、私が出て直々に始末する」
「よろしいのですか? 合成魔獣達を同盟都市に転移させることも、可能ですが」
「真の『聖人』を殺す為には、合成魔獣や悪魔では欠ける。それがこの場に二人も現れたとあっては、ザルツヘルムでも対処できないだろう。……私が奴等を殺すまでの間に、他の雑魚共を殲滅するようにザルツヘルムに命じておけ」
「分かりました」
「アルフレッド、お前にも同盟都市の管理と地上の始末を任せる。頼んだぞ」
「お任せください」
映し出される二人の姿を改めて確認するウォーリスは、自らの手でユグナリスとエリクの始末を決意する。
そして後の状況をアルフレッドに託すと、部屋を出ながら都市表面に出る為の順路を辿るように歩き進んだ。
アルフレッドはそれを立ちながら見送り、席に座り直して装置の操作に戻る。
そして自ら一任された目標を果たす為に、各魔導装置を扱いながらその行動を呟き始めた。
「……敵の凡その行動目的、そして性能は把握した。ならば同盟都市以外に集まる敵戦力を、一箇所に集める。――……集める場所は、帝都だろうな」
操作盤を左右両手の指で叩くように弾くアルフレッドは、エリクの侵入を阻む為に集めていた死体や合成魔獣をある場所に続々と転移させる。
それは地図上に映し出されている、死体の大群に襲わせているガルミッシュ帝国の帝都だった。
その状況が反映される同盟都市周辺では、転移し消えていく合成魔獣達を【魔王】は見下ろす。
それによって敵側が同盟都市防衛の目的から攻撃的な姿勢に変えた姿勢を察知し、通信で繋がる『青』とテクラノスに伝えた。
「テクラノス、敵が行動パターンを変えたわ。何処かに戦力を集めて、私達の戦力を燻し出すつもりよ」
『ではどうする? 誘いであれば乗らぬのが常套だが』
「こんな嫌がらせをしてくるってことは、、それだけ相手が私達の存在を警戒してる証拠だわ。別動隊の連中も来てる途中だし、ここは乗ってやりましょう」
『了解した。場所は分かるか?』
「……また帝都だわ。近くて落し易い場所から戦力を集めて、落とし終わったら次の場所を潰し、私達を振り回そうとしてるのよ」
『ならばこちらも、帝都に魔導人形達を集める』
「了解、そっちは任せるわよ。――……『青』、聞いてる?」
『聞こえている』
「敵が動かせる戦力もかなり削られているはずだけど、それでも別の場所を襲わないとは限らない。各国への警戒、忘れないで」
『言われるまでもない』
「ここからが正念場よ。魔導師としての腕前、アンタ達に期待してるわ」
【魔王】はそうして二人に通信を終えると、再び浮上する同盟都市を見下ろす。
そして何かを待ち続けるように中空で待機し、状況の推移を見守り続けていた。
一方その頃、ガルミッシュ帝国の帝都に現れた箱舟は、生存者達の集まる貴族街の上空で着陸できる場所を探す。
しかし操縦席で操作する魔導人形の横に立つグラドは、艦橋越しに揺れる建物を確認しながら訝し気な表情を浮かべた。
「――……なんか、建物が揺れてるぞ。地震か?」
『……地震ではある。だが自然現象ではない』
「!?」
グラドの疑問に答えるように、操縦席に座る魔導人形が突如として機械的な音声を発する。
それに驚くように目を見開くグラドだったが、冷静な面持ちを戻しながら画面に目を戻した。
「何が起こってんだよ、いったい。それにこの箱舟や、ヤバそうな魔導人形を作ってたアンタ達も、何者なんだ?」
『それを話す前に、君達にはやるべき事がある。……もうじき、更なる異変が帝都を襲うだろう』
「!」
『この箱舟は輸送用に特化した建造故に、武装は最低限のモノしか積み込んでいない。この箱舟に出来るのは、せいぜい生存者達を運び出す程度だ』
「独立兵団 に、生存者達を詰め込めってんだろ。分かってるよ」
『頼んだぞ。私はまた自動操縦に戻る』
「ああ、任せときな。――……この下に箱舟を降ろす! 下に居る連中は、離れててくれよっ!!」
魔導人形を通じてそう話す相手に、グラドは任せられながら着陸地点に対する避難の呼び掛けを拡声機を用いて伝える。
その声が響き渡る地上に居た者達は真上から注がれる照明から逃げるように下がり、貴族街の大きな広場へと箱舟は着地した。
その場に駆け付ける帝国宰相セルジアスは、幾人かの騎士達や兵士達を伴いながら緊張した面持ちで箱舟に近付く。
すると箱舟の後部格納庫の大扉が開き、そこから姿を見せる皇国の若い兵士達は、鎧や武器を持たない身軽な衣服を身に着けていた。
それに僅かな不信感を抱くセルジアスだったが、兵士達の左腕に皇国兵団の証である紋章が刻まれた腕章を確認する。
すると皇国兵士達の背後から現れるグラドが、格納庫の扉先に集まっているセルジアス達に呼び掛けながら歩み寄った。
「――……皇国軍独立兵団、分隊長のグラド=フォン=アガードだ! ……その風貌、アンタがローゼン公爵様か?」
「その通りです! ――……アガード殿。この船は、いったい……?」
「あー。魔導国が絡んでるっぽいんだが、俺もよく分からんので詳しい説明は出来ん。だがさっきも言った通り、皇王シルエスカ様の勅命でアンタ達の救援に駆け付けた」
「!」
「操縦してる魔導人形の話では、この箱舟は輸送艦ってことらしい。碌な武器は無いが、千人くらいまでは乗せる事が出来る。だから帝都に居る連中を、安全そうな場所まで輸送しようって話だ」
「千人も……!?」
「とりあえずは、女子供優先で避難させちまった方がいいだろう。皇族でも生き残ってる方々がいるなら、その人等も乗せたほうがいい。どうする?」
「……ッ」
歩み寄りながら話し掛けるグラドの言葉に、セルジアスは驚きを深めながら箱舟を見上げる。
現代において海上を移動できる客船でも最大二百名前後の乗船がやっとにも関わらず、箱舟がその五倍以上の人数を運べる船である事に驚かされた。
しかしグラドの話を全て鵜呑みに出来ないセルジアスの躊躇いを待たずして、箱舟が降りた傍に着地した飛竜が大声で叫ぶパールを降ろした。
「――……おいっ、また変な奴等が来たぞっ!!」
「パール殿。――……いえ、彼等は皇国の兵士で……」
「そいつ等じゃない! 動く死体が来ている方角から、黒い化物共が来ている!」
「!?」
「確か、帝都が最初に襲われていた時にも来ていた奴等だ。このままだと、貴族街まで乗り込まれるぞっ!!」
上空から地上の動向を索敵していたパールは、死体の大群に混じるように現れた合成魔獣達の存在を確認する。
アルフレッドの戦術目的によって嗾けられた合成魔獣達は、再び帝都の人間達を喰らい尽くす為に狂気の瞳と牙を向けながら迫っていた。
その話を聞いてしまった周囲の者達には、市民街まで侵食して来た合成魔獣達の脅威を思い出しながら血の気を失う。
セルジアスも帝都を瓦解させた合成魔獣達が来襲したことを知り、躊躇いを失くしながら騎士や兵士達に命じた。
「すぐに避難民をこの区画に集めてください! 女性と子供、そして負傷者を優先して避難させますっ!!」
「は、はいっ!!」
「皇后様とシエスティナ様をここに! あの方達にも避難して頂きます!」
「ハッ!!」
「パール殿、飛竜はまだ戦えますかっ!?」
「……かなり疲弊している。まだ飛べるだろうが、合成魔獣の相手をするのは厳しい」
「そうですか。ではパール殿は、飛竜と一緒にこの箱舟の護衛をしてください」
「……お前はどうする?」
「私は、生存者が全て避難し終わるまで残ります。そしてフォウル国の方達と共に、帝都から脱出します。御安心を」
「……分かった」
セルジアスは各々にそうした命令を飛ばした後、パールに対して箱舟の護衛をしながら避難するように促す。
それを察したパールは何か言おうとしたが、飛竜無しでは碌な助けにもなれない事を自覚しているのか、苦々しい面持ちを見せながらも護衛を承諾した。
パールの承諾を確認したセルジアスは微笑みを浮かべ、グラドに顔を向けながら改めるように頼む。
「皇后様と、避難民を御願いします。避難場所は、帝国領の北方にあるゼーレマン侯爵領地の首都に。北方出身の騎士を一人、案内と橋渡し役に付けます」
「分かった。避難民の受け入れはこっちでやるから、アンタ等はそれまで、持ち堪えてくれよ」
「ええ。――……では、頼みます!」
セルジアスは深々と頭を下げた後、その場から走りながら貴族街の正門側へと向かう。
その後を任されたグラドやパール達は、不安を抱き続けている避難民の誘導と乗船を進めた。
そして正門側へセルジアスが赴いた時、パールから聞いていた情報が更なる変化を向けている事を兵士達から聞かされる。
それは押し寄せる合成魔獣に対抗しようとしていたフォウル国の戦士達に代わり、表面を銀色に輝かせた大小様々な魔導人形達が真っ向から相手をするという、困惑を浮かべるしかない状況だった。
応援ありがとうございます!
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