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革命編 五章:決戦の大地
妥協なき怒り
しおりを挟む浮遊する同盟都市内にて再会した傭兵エリクとウォーリスは、圧倒的な戦いを見せながら衝突する。
肉薄する二人の強さは互角を示し、魔法を織り交ぜながら対峙するウォーリスに対して、ドワーフから与えられた魔装具と高い生命力を活かした身体能力で激戦を繰り広げていた。
二人が纏わせる生命力が激しく衝突すると、その余波で同盟都市の地形を削り飛ばす。
互いに一歩も引かぬ状況で接戦を繰り広げるエリクとウォーリスは、大剣と手刀を交えながら弾けるように距離を開けた。
エリクは生命力を消費する魔装具の飛行を抑える為に地面へ着地し、すぐに姿勢を整えながら上空に滞空しているウォーリスを睨み構える。
一方で上空に留まりながらエリクを見下ろすウォーリスは、余裕の無い険しい顔を見せながら呟いた。
「――……到達者は到達者でしか殺せない。このまま持久戦となれば、私の勝利は揺るがない。……だが……」
「……」
「奴が鬼神の魂を宿し、フォウル国の巫女姫と接触した可能性がある以上、到達者となる可能性はある。……私の存在を脅かしかねない貴様は、どんな手段を使っても殺しきる」
ウォーリスに宿るゲルガルドは、エリクが同じ到達者となる可能性を危険視しながら確実な排除を目論む。
それを実行する為に握った両手を真横に突き出したウォーリスは、その両手に凄まじい生命力と魔力を込めながら巨大な複合魔球を作り出した。
再び砲撃が放たれる事を予感したエリクは肉体の生命力を高めたが、そこで思わぬ出来事が始まる。
ウォーリスは両手の先に浮かべる巨大な複合魔球を徐々に小さくし、拳よりも小さな球体になるまで圧縮した。
それを自らの両胸に叩きつけるように吸収したウォーリスに、エリクは僅かな驚きを見せる。
すると次の瞬間、ウォーリスの生命力が変質しながら自身の姿を変質させ始めた。
「……!」
「この肉体は、貴様と同じ境地まで達している。――……これが真の『聖人』が持つ能力だ」
自身の肉体を生命力で纏わせたウォーリスは、その様相が武具を身に着けるようになる。
頭から足の爪先まで生命力で形作った武装を身に纏い、その手には生命力で形成されている光剣が握られていた。
それを見たエリクは僅かな驚きを浮かべ、ある人物の様相と似た感覚を思い出しながら呟く。
「……マギルスの『精神武装』に、似ている……」
「――……消え去れ」
「ッ!!」
既視感を抱くエリクを他所に、形成された武装を纏ったウォーリスが右手に持つ光剣をその場で振り薙ぐ。
その瞬間、エリクが悪寒を感じながらその場から離れるように飛んだ。
すると次の瞬間、光剣が一閃した空間に凄まじい閃光が生み出される。
光に満ちながら地面を引き裂くように発生する極光は、同盟都市の一画を切り裂きながら吹き飛ばした。
「……これは、俺と同じ……いや、それ以上の……っ!!」
辛うじて一閃の直撃を免れたエリクだったが、放たれた攻撃が自身が得意とする気力斬撃の一種だと認識する。
しかし速度も威力も段違いであるウォーリスの気力斬撃は、もはや別物とも言える兵器と化していた。
ウォーリスはそのまま剣を振り続け、躊躇せずエリクに追撃を行う。
圧縮された気力斬撃の閃光が乱れ打ちされると、流石のエリクでも地に足を着けた状態で回避するのは難しいと判断した。
「ク……ッ!!」
上空から放たれ続ける気力斬撃に抗う為に、エリクは再び魔装具を使った生命力の飛翔を始める。
白い光を纏わせながら空を飛ぶエリクは、放たれる斬撃を逃れながらウォーリスへの接近を試みた。
ウォーリスはそんなエリクにも躊躇なく剣を振り続け、圧縮された気力斬撃を放ち続ける。
しかし光剣の動きで斬撃の射線を捉えるエリクは、それ等を紙一重で回避しながらウォーリスとの距離を詰めた。
「……ウォオオッ!!」
「フンッ」
間近で放たれた気力斬撃を回避したエリクは、そのまま上段で構える大剣をウォーリスに振り下ろす。
それを迎撃するウォーリスの光剣とエリクの大剣が激突し、空間を振動させる程の衝撃波がその場に流れた。
「――……グ……ッ!!」
「フッ」
しかし互いの武器が衝突し合うと、先程とは異なる結果が生まれる。
空中で加速し襲い掛かり大剣を振ったエリクは吹き飛び、ただ剣を振っただけのウォーリスは何事も無いように留まっていたのだ。
吹き飛ばされたエリクは再び地面へ返され、同盟都市の建物群を削りながら踏み止まる。
しかし両手に伝わる痺れは、エリクに改めてウォーリスの脅威を認識した。
「……これが、奴本来の力量か……」
「貴様とこの肉体では、そもそも『聖人』としての格が違う。――……このまま何も出来ずに、死んで逝け」
ウォーリスは今まで薙ぐだけだった光剣を振り上げ、両手で柄を握り締めながら生命力を更に圧縮させる。
浮遊している同盟都市の大地ごと切り裂きかねないウォーリスの光剣は、確実にエリクを殺す為に振り下ろされた。
その規模は先程までの斬撃を遥かに上回り、巨大な閃光を生み出しながら同盟都市を切り裂く。
更に速度は光の速さすら超え、エリクに避ける暇すら与えず斬撃の極光に飲み込ませた。
浮遊する同盟都市の大地が斬撃の極光で一部が割れ砕け、地表へ落下していく。
そしてウォーリスが見下ろすその場に巨大な亀裂を生み出しながら、底に見える魔鋼の表層を浮き彫りにさせた。
自身が生み出した亀裂を見下ろすウォーリスは、油断を見せずにエリクの生死を確認していく。
亀裂の内部や周辺を確認していくと、ある場所に視線を留めながらウォーリスが表情を強張らせた。
「……チッ」
小さな舌打ちを漏らすウォーリスは、亀裂の内部に浮かぶ生命力の光を確認する。
それが斬撃に飲まれながらも耐えたエリクだと察し、視覚を強化しながらその様子を確認した。
先程まで無傷だったエリクは額と身体の各所から血を流し、肉体と纏わせる生命力を突破した斬撃が傷を与えていることを証明している。
それによって初めて余裕を浮かべたウォーリスは、口元を微笑ませながら呟いた。
「フッ。流石に、無傷とはいかなかったようだな」
「……ッ」
「しかし、次の相手が控えているのでね。――……貴様の相手は、ここで終わりだ」
ウォーリスは重傷のエリクを見ながら光剣を動かし、最後の一閃を浴びせようとする。
それでも衰えぬエリクの眼差しが右手で握る大剣を動かし、逆にウォーリスに迫るように上空へ飛翔した。
しかし次の瞬間、ウォーリスに向けて凄まじい速さの青い光が向かう。
それを二人は認識すると、ウォーリスはエリクに向けようとした剣の軌道を変えて向かって来る青い光に放った。
「邪魔だ」
一瞥するような言葉と共に放たれたウォーリスの気力斬撃により、青い光が瞬く間に白い極光に飲み込まれる。
その瞬間、飲み込まれた青い光から飛び出るような赤い閃光が出現すると、放たれた気力斬撃を足場にしながら瞬く間にウォーリスへ迫った。
圧縮された時間の中で、ウォーリスは迫る赤い閃光の中に映る人影を見る。
その赤い生命力に包まれながら来るのは、燃えるような赤毛と憤怒の表情を宿した帝国皇子ユグナリスだった。
「ッ!!」
「――……ウォーリスッ!!」
生命力で放った斬撃の上を走るという常軌を逸した手段で迫るユグナリスは、ウォーリスの喉元に容赦なく剣を走らせる。
しかし喉に刃が喰い込もうとする瞬間、ウォーリスは転移魔法によってその場から瞬時に消え失せた。
空振りとなった剣を振ったユグナリスは、苦々しい面持ちを浮かべながら消える斬撃の道から外れるように落下し始める。
それを更に上空から見下ろすウォーリスは、自らの首元に左手を触れながら僅かな傷となっているを確認し、互いに悪態を漏らした。
「クソ……ッ!!」
「……チッ。あの皇子め」
首を跳ね飛ばせなかったユグナリスと、生命力の武装を易々と突破されたウォーリスは、互いに相手へ睨みを向ける。
そして落下し続けるユグナリスは深い亀裂の溝へ落ちようとしていたが、飛翔していたエリクがそれに近付いた。
エリクは落下するユグナリスの左腕を左手で掴み、その中空に留まりながら表情を強張らせる。
一方で落下を免れながらも自分を拾った相手を見て、ユグナリスは同じように表情を強張らせた。
「……お前は、前に……」
「……貴方は、確か……アルトリアと一緒に居た……」
互いに見知った顔である事を察するエリクとユグナリスだったが、二人が思い浮かべるその記憶は決して穏やかな過去ではない。
マシラ共和国へ向かう為の商船に乗ろうとしていたエリクとアリアを追って来た追跡者として、老騎士ログウェルと共に現れた赤髪の男。
その時にアリアに剣を向け、更にケイルを傷付けたユグナリスの行動は、あの時のエリクに怒りの感情を高めさせた記憶があった。
一方でユグナリスも、その直後にエリクによって腹部を強打されて死にそうな激痛を味わい、そのまま気絶させられた記憶がある。
最初に出会った時の記憶が明らかに悪印象な二人の中で、エリクが左腕を掴んだまま視線を向けて口を開いた。
「……今は、空を飛べないのか?」
「え?」
「飛べないなら下がっていろ。……奴は、俺が倒す」
「!!」
そう告げるエリクは、掴んでいたユグナリスの左腕を強く掴んだまま勢いよく上体を回す。
すると凄まじい膂力と腕力でユグナリスの肉体を投げ放ち、亀裂の向こう側にある地面のある都市部へと投げ込んだ。
投げ飛ばされたユグナリスは目を見開きながら驚愕するが、その表情に憤りが浮かび上がる。
そしてエリクの言葉を否定するように、自らの感情に呼応する能力を発現させた。
「――……いいや……。……ウォーリスは、俺が討つッ!!」
「むっ」
投げ飛ばされたユグナリスが強い意志を持ちながら赤く輝かせた生命力と魂から発する魔力を使い、輝く赤い光を肉体に纏わせる。
すると未来で成長したユグナリスと同じように、生命力と魔力の複合技術によって中空に留まりながら飛翔を始めた。
大男への対抗意識とウォーリスに対する敵対心から更なる成長を見せたユグナリスに、エリクは僅かな驚きを浮かべる。
逆に不愉快な感情を表情に宿すのは、その二人を見下ろすウォーリスだった。
「……あの成長速度、皇子は間違いなく異常だ。……『赤』の能力を全て発揮される前に、奴も始末するっ!!」
「!!」
ウォーリスはこの場に参じたユグナリスが更なる成長を見せた事で脅威へ至る事を察し、エリクと共に屠る事を決断する。
その高まる殺意と生命力を感知したエリクとユグナリスは、互いにウォーリスを討つという目的に協力する意思を見せないまま個々に対峙しようとしていた。
こうして空に浮かぶ同盟都市の内部で激しい戦いを繰り広げていたウォーリスとエリクの戦いに、ユグナリスも参戦する。
しかし参戦したユグナリスの感情は穏やかではなく、その表情に宿るのはウォーリスに対する明らかな殺意と復讐心によって高まる憤怒で染まりつつあった。
応援ありがとうございます!
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