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革命編 五章:決戦の大地

世界の破壊者

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 浮遊していく同盟都市の夜空そらで激戦を交えるウォーリスとエリクの戦いに、自らの憤怒を糧として燃やし急成長を遂げた帝国皇子ユグナリスが参戦する。
 しかし共通の敵ウォーリスを前に共闘する様子の無いエリクとユグナリスは、互いに我先にと上空へ飛びながらウォーリスに向かった。

 それに対してウォーリスは身に纏う生命力オーラの武装に更なる能力ちからを込め、僅かに様相を変化させる。
 右手だけに持っていた光剣けんを左手にも形成し、両手に握った光剣けんを振りながら迫るエリクとユグナリスの両者に高密度に圧縮した気力斬撃ブレードを乱れ撃った。

「クッ!!」

「ッ!!」

 自分達に降り掛かる気力斬撃ブレードの連射を回避するエリクは、身に着ける魔装具マントで飛翔しながらウォーリスまで近付こうとする。
 一方で初めて生命力オーラと魔力の複合技術で飛翔するユグナリスは、大きく飛び避けながら回避しながらも別の斬撃に直撃しそうな危ない様子を見せた。

 互いに飛翔するのは慣れていない様子ながらも、事前に練習していたエリクの方が飛翔の練度が高い。
 特に乱打される気力斬撃ブレードを回避する動きは顕著な差が出ており、先に斬撃の合間を掻い潜ったのはエリクだった。

「ォオオオッ!!」

「諦めの悪い男だ」

 生命力オーラと魔力が込められたエリクの黒い大剣が直に迫る様子を見ながら、ウォーリスは悪態を吐きながら左手に持つ光剣けんで迎撃する。
 エリクの膂力で放たれる大剣は凄まじい衝撃と威力を見せながら幾度も打ち込まれたが、中空に浮くウォーリスを僅かに後退させるだけに留めた。

「ッ!!」

「無駄だ」

 全ての剣戟を受け切られたエリクは表情を強張らせ、武装オーラの隙間から見えるウォーリスの金色に輝く瞳を垣間見る。
 しかし左手に持つ光剣けんを振りながら再びエリクの大剣ごと身体を弾き飛ばすと、右手に持つ光剣けんで素早く気力斬撃ブレードを放ちながら直撃させた。

「グァ――……ッ!!」

 大剣の腹部分を盾にしながらも斬撃に飲まれたエリクは肉体は再び吹き飛び、同盟都市の地面を削り飛ばす。
 しかし二人の攻防によって生じた間隙かんげきを突くように、下側から迫る赤い閃光をウォーリスは視界に捉えた。

「!」

「――……ウォーリスッ!!」

 気力斬撃ブレードが無くなった瞬間を狙い最速の飛翔で迫るユグナリスは、ウォーリスに対して突くように身体ごと剣を突入させる。
 それに対して左手の光剣けんで受け流したウォーリスは、右手の光剣でユグナリスの剣を抑え込んだ。

 間近で互いの顔を睨む二人の中で、先にユグナリスの言葉が飛び出る。
 それは憤怒の表情で吐き散らされる、ユグナリスの激昂した感情の言葉だった。

「ウォーリスッ!! 何故、どうして自分の娘を殺したっ!?」

「……娘?」

「リエスティアだッ!! 彼女の魂を消したんだろうっ!!」

「ああ、創造神オリジン肉体からだに入っていた魂か。――……ただのうつわに注がれていた不要なものを、捨てただけだ」

「……それでもお前は、父親かっ!?」

「!」

 実の娘リエスティアに対して親の情など持たぬ様子のウォーリスの言動に、ユグナリスは激怒しながら抑え込まれた剣に『生命の火』を灯し、相手の光剣けんを焼却する。
 無意識ながらも相手ウォーリス生命力オーラまで焼失させたユグナリスの生命力オーラを確認したウォーリスは、すかさずユグナリスの腹部に右膝の蹴りを放ちながら突き放した。

「グ、ォアアッ!!」

 更に左脚で放つ蹴りを浴びせたウォーリスの殴打により、ユグナリスは大きく吹き飛びながら離れる。
 しかし留まるように生命力オーラと魔力を放出させながら空中に留まり、ウォーリスを睨みながら向かい合った。

「お前は……ッ!!」

「……皇子。貴様は一つ、大きな誤解をしている」

「誤解……!? 何が誤解だっ!! この帝国くにで、状況ことを起こしておいてっ!!」

「そもそもアレは、私の娘ではない」

「……えっ」

「お前が愛していたのは、『創造神オリジン』のうつわに後から生じた自我に過ぎない。本来の器に宿っていた魂ではないのだ。……私の娘と呼ぶべき存在を語るのならば、あのうつわに宿り生まれた本来の魂を指すべきだろう」

「……!?」

「私の娘は、アレではないのだ。……この歪な世界に生まれ続けることを強要された少女こそ、私にとって本当の娘なのだよ」

「……何を、言って……!?」

 ウォーリスは淡々とした様子で自らの考えを伝え、ユグナリスに困惑を浮かばせる。
 その意味を改めて伝えるように、ウォーリスは溜息を漏らしながら言葉を向けた。

「私の娘は、『黒』の七大聖人セブンスワン。『黒』はどんな容姿の親からでも黒髪と黒い瞳で必ず生まれるという、異質な特性を持つ子供として生まれる」

「!」

「知っているか? 『黒』の寿命は、私達のような『聖人』とは異なる。肉体的な成長はニ十歳前後で止まりながら、百年間の寿命を終えて幾度も転生を繰り返す。この世界が在り続ける限り、永遠に」

「……!?」

「しかもその都度、『黒』の魂と肉体は死んだ直後から魔力に還元され、魔力が消耗し続けるこの世界を満たす。……それが『黒』に与えられている、この世界での役割だ」

「……えっ」

「この世界で我々が生き永らえているのは、『黒』が幾度も転生し世界を魔力で満たしてくれているからというわけだ。……だが言い返せば、我々とたった一人の少女を犠牲にし続け、この世界で生き永らえているということでもある」

「……!!」

「私は自分の娘が、そういう在り方をこの『世界』で強要され続けている事に憤りを感じている。……今の、貴様のようにな」

「……だから、どうしたって言うんだ……っ!!」

「私はただ、この『世界』の命運を背負わされ続けている一人の少女を、定められた運命から救いたいだけだ。……そして一人の少女にそれを強要し続けた『世界』を、私が終わらせる」

「……世界を、終わらせる……!?」

「その為には、どんな手段も犠牲もいとわない」

「……だから、リエスティアの魂と人格を消したっていうのか……!!」

「その部分も、些か事実とは異なる。……アレは今の話を聞き、大人しくうつわから消える事を受け入れてくれた」

「……!?」

「私も、アレに同情しなかったわけではない。『黒』であり創造神オリジンの肉体に生じた自我が過酷な日々を過ごし、魂となりながらもむごたらしく消失させるのは気が引けた。……だから輪廻むこうへ逝けるよう、私が送り届けてやった」

 リエスティアが自らの死を受け入れたという話を聞き、ユグナリスは困惑させた感情を強める。
 しかし彼女と交わし合った約束、そして自分達の娘であるシエスティナの事を思い浮かべたユグナリスは、その話をとても信じられなかった。

「……嘘を、嘘をくなっ!! リエスティア達が、俺やシエスティナを置いて……自分が死ぬのを受け入れるわけがないだろっ!!」

「この点に関してだけは、嘘ではない。……今の貴様に私に出来る事があるとすれば、輪廻むこうで死んだ者達と会わせてやることだけだ」

「……!!」

 ウォーリスは自らの両手に再び生命力オーラ光剣けんを生み出し、両腕を交差させながら気力斬撃ブレードを放つ。
 表情を強張らせるユグナリスは辛うじて斬撃を回避できたが、次に襲って来る気力斬撃ブレードは回避できずに白い極光に飲まれた。

「――……ァ、ァアッ!!」 

 斬撃の威力に気圧され腕や顔に裂傷が起こるユグナリスだったが、自らの生命力オーラを炎に変えながら浴びせられた気力斬撃ブレードそのものを燃やし尽くす。
 そして『生命の火』を纏わせた剣を薙ぐように振り、ウォーリスの気力斬撃ブレードを消失させながら再び迫ろうとした。

 それを見たウォーリスは両手に形成していた光剣けんを消失させ、次の瞬間に何も無い虚空に右手を翳す。
 隙にしか見えぬその様子を見たユグナリスは、強張らせた表情で歯を食い縛りながら叫び襲った。

「俺を、舐めるなッ!!」

「いいや。――……私も、本気だよ」

「!!」

 身体と剣に『生命の火』を纏わせたユグナリスは、そのまま上段に構えてウォーリスを脳天から斬り裂こうとする。
 しかし次の瞬間、ウォーリスは虚空の中に現れた黒い空間に右手を差し入れ、そこから黒い長剣を取り出した。

 その黒い長剣を握った右手を素早く振り翳し、ウォーリスはユグナリスの剣を受け止める。
 『生命の火』で纏わせたはずの剣で燃え尽きないウォーリスの黒い剣に、ユグナリスは驚愕を浮かべた。

「コレは……!?」

「私も持っているのだよ。特別な剣を」

「ッ!!」

「普段は使う必要すらないが……その厄介な『火』を使う貴様には、特別に見せてやる」

「……この……ッ!!」

 鍔迫り合いながら互いの刃越しに言葉を交えるウォーリスとユグナリスは、凄まじい膂力を込めながら互いの剣を押し合う。
 銀色と黒色の刃が火花を散らしながら身体ごと押し合う最中、ウォーリスは口元を微笑ませながら急速に身体と剣を引かせた。

「!?」

 怒りの感情と勢いに任せて唐突に飛び出したユグナリスは、身体を前に傾けながら慣れない空中で姿勢バランスを崩す。
 それを見計らっていたかのように右手に持つ黒い長剣を薙ぎ振ったウォーリスは、ユグナリスの左脇腹部分を切り裂いた。

「ぐ、あ……っ!!」

「例え能力ちからが優れていても、貴様自身が未熟は拭えない」

「――……が、は……ッ!!」 

 左横腹を深々と斬り裂かれ血を溢れさせるユグナリスに、ウォーリスは躊躇ちゅうちょの無い追撃を見せる。
 右腕を掲げながら右手に持つ黒い長剣を腕ごと振り下ろすと、その矛先がユグナリスの背中越しに心臓を貫いた。

「……ぁ……っ」

「さらばだ。不穏因子ユグナリス

 ウォーリスは突き刺した刃を捻りながら、ユグナリスと黒い長剣を切り離す。
 そして宙に放り出され口と胴体から血を溢れ出させるユグナリスに別れの言葉を送り、トドメと言うべき気力斬撃ブレードを右手に持つ黒い長剣から放とうとした。

 しかし次の瞬間、下側からウォーリスを襲う別の気力斬撃オーラブレードが襲う。
 それを迎撃するように気力斬撃ブレードを放ったウォーリスは、打ち消し合った先に映るその人物に視線を注いだ。

 それは地上に落とされながらも、再び飛翔しているエリク。
 逆に落下していくユグナリスを無視するウォーリスは、残るエリクに対して強気の言葉を向けた。

「残るは、お前一人だ。エリク」

「……ッ」

到達者エンドレスに匹敵する膨大な生命力オーラも、そして能力ちからも、所詮は使い手の技量次第。――……今の貴様達では、私には勝てないぞ」

 ウォーリスは敢えてそう口に出し、残るエリクを見下ろしながら対峙する。
 それでもエリクは両手で握る黒い大剣を振り構え、同じ魔鋼マナメタルで作られた黒い長剣を持つウォーリスに再び挑んだ。

 こうして個別に襲って来るユグナリスとエリクの相手をするウォーリスは、二人を凌駕する実力と能力ちからを見せながら圧倒し始める。
 そして『黒』の犠牲によって在り続ける世界を否定するウォーリスは、既存の世界を破壊する者としてエリク達の前に立ちはだかった。
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