虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 五章:決戦の大地

巨星激突

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 ガルミッシュ帝国の帝都へ再び押し寄せる合成魔獣キマイラの大群に対して、【魔王】勢力が率いる未来の魔導人形ゴーレムがその侵攻を阻む。
 更に箱舟ノアに乗りルクソード皇国から救援に赴いたグラド率いる独立兵団と妖狐族クビアの助けを得て、セルジアスやパールを含む帝都の生存者達は北方領地を束ねるゼーレマン侯爵領地へ避難する事に成功した。

 しかし朝日が昇る帝都の空には、異常とも言える景色が映し出される。
 それは巨大な大地が上空そらに浮かぶという、次なる異変が起こることを人々に予兆させる事態だった。

 そうした光景が見える前、時は帝都からの避難が始まった時期に戻る。

 まだ夜に閉ざされた大陸が揺れ動く中、その発生源である同盟都市は大きな振動が無くなり始めていた。
 その理由は、都市全体を覆う巨大な結界が切り離された大地を支え、重力と平行度を保ちながら上空に向けて浮遊しようとしていたからである。

 既に離れた大地からでは同盟都市に乗り込める手段は無く、半径五キロ以上はある大地が暗闇に浮かぶ光景は不気味さを醸し出す。
 しかし浮き上がる同盟都市の内部では、目的を持つ者達がうごめいていた。

 その一人である傭兵エリクは、そうした状況すら既に意識から離して走り続けている。
 未来と同じ場所にアルトリアが囚われていると思っているエリクは、同盟都市の中央にそびえ立つ黒い塔を目指していた。

 そうして走り続ける中で、エリクは区画の壁を飛び越えながら次の区画へ入る。
 建築途中の建物群が並ぶその区画を走る中で、エリクは僅かな気配が近くにあるのを感じ取った。

「――……この気配は、アリアじゃない。誰だ……?」

 微弱な生命力オーラを感じ取りながらも、目的の人物アリアではない事をエリクは察する。
 しかしそれほど離れていない位置にいる事を察し、エリクは相手の正体を探るべくその場所まで走り跳んだ。

 そうして瞬く間に辿り着いたエリクは、跳び乗った建物の屋上から気配がある場所を見下ろす。
 するとそこには、男らしき姿の人物が仰向けに倒れている光景が見えた。

 暗闇の中で目を凝らしながらその男を見るエリクは、何かに気付きながら呟く。

「……あの男は……」

 そう呟いたエリクは、建物から飛び降りながら倒れている男の前に着地する。
 すると見下ろす形で倒れている男の顔を見下ろすと、その男もエリクを見つめ返すように瞼を開けながら見知ったように名前を呼んだ。

「……アンタは……エリクか……」

「お前は、あの港で傭兵ギルドのマスターをしていた……確か、ドルフか」

 互いに互いに事を思い出し、名を呼び合いながら視線を重ねる。
 倒れているドルフは身体の各所や顔の半分に重度の火傷を負っており、体内に残る生命力オーラは衰え、立ち上がる事すら出来ない状況だった。
 
 そんなドルフの容態を視認したエリクだったが、この同盟都市に居るドルフに対してこうした問い掛けを向ける。

「何故、お前がここに?」

「……あの、御嬢様の憶測が……当たってたってことさ……」

「!」

「お前等に会うずっと前から、俺はゲルガルド伯爵家の駒だった……。……同盟都市ここに居るのは、待ち構えて侵入者を排除する為だった……」

「……」

「だが、失敗してこのザマだ……。……オマケに、アンタまで来るなんて……。まったく、ツイてないぜ……」

 乾いた笑いを浮かべながらそう語るドルフは、自らエリク達と敵対している勢力の駒であることを明かす。
 そしてこの場に現れたエリクが自分を殺すだろう事を考え、自らの終わりを覚悟した。

 しかしエリクは背負う大剣を抜かず、ただ静かにドルフを見下ろしながら口を開く。

「アリアが何処に居るか、知っているか?」

「……敵の俺が、教えると思うかい?」

「知らないのか?」

「……そう。俺は何も知らない、単なる駒だ。……使い捨ての駒だ」

「……」

同盟都市ここで何が起こってんのか、アイツ等の本当の目的が何なのか、俺には分からん……。……ただ、侵入者おまえらを排除しろと命じられただけ。……俺の相手をしてるだけ、時間の無駄だぜ?」

「……そうか」

 ドルフは自らが操られるだけの道化であることを明かすと、エリクは顔を背けながらその場から立ち去ろうとする。
 しかし何かを思い出しながら足を止め、倒れているドルフに顔だけを振り向かせながら伝えた。

「……お前の魔法を、アリアが褒めていた」

「……!」

「お前の魔法は真似できないと、そう言っていた。あのアリアが。……だから俺は、お前を凄い人間だと思っている」

「……何の、冗談だよ……」

「俺は、出来ないことの方が多い。……だが知識や技術の違い、優劣は無い。アリアは昔、そう言っていた」

「……ッ」

「お前は駒じゃない、人間だ。……それを忘れなければ、また立ち上がれる」

「……!!」 

 エリクはそうした言葉を向け、顔の向きを戻しながらその場から立ち去る。
 それを聞いたドルフは目を見開きながら、力の入らない身体を震わせていた。

 それからエリクは再び黒い塔を目指すように走り、建築層が分厚くなっていく中央地帯まで辿り着く。
 障害物となる建物が多い地帯であるが故に、エリクは建物の屋根や屋上を走りながら黒い塔まで目指し続けた。

 そして中央の最奥区画である壁を越えた時、未来で見た黒い塔と同じ景色が間近に映し出される。
 エリクはそれを見ていると、何かに気付きながら上空に顔と視線を向けながら大剣の柄を右手で握り締めた。

「!」

「――……また私の前に現れるか、エリク」

「……ウォーリス……」

 エリクが注力する視線の先には、夜空に浮かぶウォーリスの姿が見える。
 そしてウォーリスもエリクを見下ろすと、今度は一切の会話を行うことなく、互いに戦闘の意思を明かした。

 ウォーリスは右手に集めた魔力をそのまま粒子砲として放ち、エリクに浴びせ撃つ。
 それに対してエリクは背負う大剣を引き抜き、刃に埋め込まれた宝玉の仕掛けを起動して放たれる魔力砲撃を大剣に吸収した。

 しかし両手を突くように放ちながら魔力砲撃を連射するウォーリスは、エリクだけではなく周囲の地形や建物群も破壊していく。
 そして内壁部分も破壊し始めるウォーリスは、そこに立つエリクを傾かせるように足場を崩した。

「ッ!!」

「幾ら蓄えられようと、放てなければ意味もあるまいっ!!」

 足場が崩れたエリクにそう叫ぶウォーリスは、更なる威力と数の魔力砲撃を浴びせ続ける。
 高さのある建物は全て崩壊し、整備されていた地面も大きく削がれた場所は、土埃を回せながら地上の視界を失わせた。

 しかし砲撃が止まらぬ中で、その土埃の中から上空へ飛び出すような影が現れる。
 それはドワーフ族の作り出した魔装具マントで飛翔するエリクであり、自身の生命力オーラを原動力としながら上空に浮かぶウォーリスに再び空中戦を仕掛けようとした。

「――……ォオオオッ!!」

 エリクは吸収し蓄えた魔力を振り抜いた大剣から放ち、ウォーリスに浴びせるように襲わせる。
 しかしそれを看破するように、ウォーリスは周囲に生成した結界で浴びせられた魔力斬撃を逆に吸収するように結界へ取り込んだ。

「!!」

魔装具そんなものを使わなけらばならない貴様と、一緒にするなよ。――……今度は吸収できぬよう、生命力オーラと共に放つっ!!」

 飛翔しながら真っ直ぐ向かって来るエリクに対して、ウォーリスは結界に吸収した魔力と自らの生命力オーラを用いて巨大な複合魔球ミックスボールを作り出す。
 その魔球は一区画を覆える程に巨大であり、瞬時にそれを作り出したウォーリスは両手を向けながらエリクに放った。

 魔力と生命力と混ぜ合わせた複合魔球では、大剣の魔力吸収機能だけで対処は出来ない。
 それ故にエリクが瞬時に考えた対抗策は、自らも同じように大剣に蓄えられた魔力と自身の生命力オーラを混ぜ合わせて放つ、混合斬撃ブレードによる迎撃だった。

「ヌゥウウッ!!」

「オオォオオオッ!!」

 互いに放った魔力と生命力オーラの混合攻撃が衝突し、互いに押し合う形で僅かな拮抗を見せる。
 そして衝突した互いの力が弾けるように四散し、凄まじい衝撃と光を生み出しながら二人を天地へ分け隔てるように吹き飛ばした。

 同盟都市のある地上へ落下したエリクは建物群を貫通するように破壊しながら着地し、右手に持つ大剣を薙ぎ払いながら土埃と瓦礫を払い除ける。
 そして上空に吹き飛んだウォーリスを探そうと顎を上げた瞬間、目を見開きながら両手で大剣を握りながら生命力オーラを流し込み、自分の後方へ薙ぐように両腕を振り抜いた。

 するとエリクの後方に突如として現れたウォーリスは、右腕で放つ生命力オーラの手刀でエリクの背中を貫こうとする。
 転移魔法テレポートでの移動を察知していたエリクはそれを迎撃し、互いの大剣けん手刀けんが再び激突しながら衝撃波を生み出した。

 しかし次の瞬間、激突した二人の間に血飛沫が発生する。
 その場に舞う血の正体は、エリクの左肩を抉るように刻んだ裂傷と、切断され宙を飛ぶウォーリスの右腕からだった。

「グッ!!」
 
「チッ!!」

 互いの振るった刃が衝突した瞬間に描くはずだった軌道にズレが生じ、二人に狙った箇所を外れながらも深手を負う。
 そして真下から上方向に振り上げ両腕によって右半身の視界を塞がれているエリクの隙を突くように、ウォーリスは左手で作り出した生命力オーラ手刀けんをエリクの右横腹を貫こうとした。

 しかしエリクはそれすらも察知し、振り上げていた右手だけを大剣の柄から離し、迫るウォーリスの左手刀を肘鉄で叩き落とす。
 死角でありコンマ一秒にも満たない攻撃速度を瞬く間に打ち破ったエリクの肘鉄に、ウォーリスは思わぬ動揺で表情を強張らせた。

「なっ!!」

「……ウォオッ!!」

 その動揺が隙となり、エリクは深々と切り裂かれ負傷したはずの左肩と左手だけで持つ大剣を振り下ろす。
 素早く振られた黒い大剣の刃はウォーリスの右肩から左腹部まで袈裟懸けに斬り裂き、その胴体を真っ二つにしながら斬り裂いた。

 斬られたウォーリスは血飛沫を流しながら驚愕した表情を浮かべ、大きく開いた金色の瞳でエリクの顔を見る。
 しかしその驚愕の表情は微笑みに変わり、それを見たエリクは嫌悪するような予感に襲われた。

「……死ね」

「!!」

 ウォーリスはその一言だけ口から零し、自らの肉体を白く輝かせる。
 その輝きが過去に戦った『神兵』ランヴァルディアや未来の『アリア』の使った戦術わざだと理解したエリクは、その場から飛び退きウォーリスから離れようとした。

 しかし数メートルの距離も稼げないまま、体内の生命力を爆発的に高めたウォーリスは自身の肉体を自爆させる。
 『到達者エンドレス』という不死の肉体を利用した自爆戦術たたかいかたでエリクを始末しようとしたウォーリスは、自身の半径五百メートル近くを吹き飛ばした。

 白い極光が同盟都市の内部に発生し、地形を削りながら様々な景色を消失させる。
 そして地面を大きく抉りながら同盟都市の一画を吹き飛ばした中、爆発地点の中心地に右腕や衣服も含めて自らの肉体を瞬く間に復元させたウォーリスは、宙に浮きながら周囲を見渡してエリクの生死を確認した。

「――……やはり、この自爆ていどでは死なないか」

「――……ッ」

 吹き飛ばした景色の中でウォーリスが見たのは、自爆範囲から僅かに離れた位置で肉体全体を生命力オーラで高めながら防御しているエリクの姿。
 左肩の裂傷を除けばほぼ無傷の状態であるエリクの様子は、ウォーリスに驚きを与えずに冷静で在り続けさせた。

 そして二人は互いに視線を衝突させ、御互いに構えながら凄まじい速さで向かいながら衝突を始める。
 互いに白く輝いた生命力オーラを纏わせながら空中戦を繰り広げる光景は、巨大な星の光が衝突するかのような衝撃を生み出し続けた。

 こうして同盟都市内部で再会したエリクとウォーリスは、今度は言葉を交えることなく死闘を始める。
 二人が繰り広げる死闘こうけいは、まさに巨星の激突と呼ぶに相応しい状況を作り出していた。
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