虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 五章:決戦の大地

勝者と敗者

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 浮遊する同盟都市の地下に広がる魔鋼マナメタルで形成された遺跡内部で、狼獣族エアハルトは囚われていたアルトリアを発見する。
 そして外に連れ出す為に帰路を進む途中、【魔王】と自称する人物と遭遇し、更に未来の惨劇を生み出した一つである魔鋼マナメタルの黒い人形の襲来を受けた。

 それ等から逃走を選ぶエアハルトだったが、その途上で遺跡内部に潜入していた干支衆の『うし』バズディールと『さる』シンとも遭遇してしまう。
 全員がアルトリアを狙い別々の思惑で手に入れようとする動きを見せる中、エアハルトは渋々ながらも【魔王】の提案を受け入れて遺跡からの脱出を選んだ。

 しかしアルトリアに施された呪印が、【魔王】の転移魔法とその義体からだを浸蝕してしまう。
 【魔王】は緊急事態に否応の無い選択を迫られ、呪印の影響を受けていないエアハルトだけを転移させ、自らは義体からだを捨てアルトリアにその意思を託すように消失した。

 そして意識を失ったままのアルトリアは、黒い人形に運ばれて再び遺跡内にらわれる。
 一連のそうした状況は外部そとに居る者達に伝わらない中、外の状況にも変化が僅かな及んでいた。

「――……ふむ。もう日の出か」

「……」

「随分と長く、我々は戦っていたようだ。――……だが、決着はついたな」

 同盟都市の中央部分、黒い塔がそびえ立つ中空にて滞空しているウォーリスは、そう述べながら夜空を晴らす朝日が昇る光景を目にする。
 それから下側に視線を向けると、巨大な斬撃によって大きく崩壊した都市が見え、その一画にある崩れた建物に声を向けた。

 すると瓦礫が崩れながら動き出し、その中から一人の男が出て来る。
 それはウォーリスと戦い続けていた傭兵エリクだったが、その姿は血に塗れ身に着けている衣服や魔装具もボロボロの状態となっていた。

 唯一原型を留めているのは、もはや大剣けんだけ。
 対等に戦えるだけの武具を失い、更に大きく負傷している満身創痍のエリクを見下ろすウォーリスは、口元を微笑ませながら自らの勝利を伝えた。

「その生命力は、驚嘆に値する。私の斬撃を受け続けて、今も生き永らえるとは。……だが武装と飛行できる手段を失った貴様に、私と戦える術は無い」

「……」

「このまま嬲り殺すのは簡単だ。……だがその前に、もう一度だけ聞こう。――……私のもとくだれ。傭兵エリク」

 エリクにも聞こえる声量でそう呼び掛けるウォーリスは、再びエリクを仲間に引き入れようと誘う。
 しかし傷付きながらも戦意を衰えさせてはいないエリクは、鋭い眼光と表情を向けながら返答した。

「断るッ!!」

「……そうか。ならばこのまま、滅びる輪廻にしずんでけ」

 エリクの拒絶を聞いたウォーリスは、執着を見せずに右手に持つ黒い長剣の刃先を向ける。
 そして自らの生命力オーラと周囲の魔力を長剣けんに集束させ、凄まじい密度で圧縮した斬撃ブレードを形成し始めた。

 それに対して、エリクも迎撃する為に自らの大剣へ生命力と魔力を込めていく。
 互いに生命力オーラと魔力を複合させた最大の一撃となる複合斬撃ブレードを溜め地上と上空で対極となる大きな輝きを強めた。

 そうした状況となる中で、もう一組の戦いにも変化が生まれる。
 それは悪魔騎士デーモンナイトザルツヘルムと首無騎士デュラハンマギルスの戦いであり、互いに身に纏っていた鎧と甲冑が欠損した状態で向き合っていた。

「――……はぁ……っ」

「……ハァ……ッ」

 互いに荒い息を零しながら、手に持つ武器を握る柄を強める。

 ザルツヘルムは左手に持つ大きく欠けた大盾を前に突き出しながら、右手に持つ瘴気の長剣を引くように構えていた。
 マギルスもまた形状を変化させている大鎌の柄を強く握り、大剣のように見立てている。

 互いに消耗する様子を見せながらも、戦意が衰えているわけではない。
 しかし互いに限りのあるストックと魔力が底を尽きかけていたのは、マギルスの方が先だった。

 それを見破るように、砕けた甲冑の隙間から見える金色の瞳を向けたザルツヘルムが指摘の言葉を投げ掛けた。

「どうやら、限界のようだな」

「……おじさんが?」

「いいや。……魔力で形成している鎧に揺らぎが生じている。君の魔力が、安定していない証拠だ」

「……へへっ」

「だが、私は――……見ての通りだ」

 相手が身に纏っている精命武装アルマウェポンの魔力に揺らぎた生じているのを確認したザルツヘルムは、マギルスが騎士の姿を維持が出来ていないと悟る。
 しかし下級悪魔の血肉で形成されたザルツヘルムの鎧や大盾は、再び修復されながら元の形状へと戻った。

 二人の余裕の無さが姿から対照的となり、どちらに限界なのかが際立つ。
 しかしマギルスは口元を微笑ませたまま、挑発的な表情と声をザルツヘルムに向けた。

「……僕、まだまだ強くなるもんね」

「そうだろうな。……だがそれは、君がこの場で生き残れたらの話だ」

「そうだね……。……だから、本気の本気でやらなきゃねっ!!」

「!」

 マギルスはそう叫ぶように吠えると、肉体に纏わせ鎧にしていた青い魔力と生命力を解き放つ。
 そして変形させている大鎌に全ての生命力と魔力を込めると、再び大鎌の形態となった武器を振りながらマギルスは構えた。

 防御を捨てて全てを武器の攻撃力に振り向けたことを察したザルツヘルムは、甲冑ヘルムで隠れた口元を微笑ませる。
 そして自ら騎士の矜持を守るように、左手に持つ大盾を前に突き出しながら言い放った。

「いいだろう。君の一撃、今度は受け切ってみせよう。――……来い、マギルスッ!!」

「ウァアアアアッ!!」

 マギルスが放つ渾身の一撃を受け切る覚悟を示したザルツヘルムは、自らの瘴気オーラと魔力を大盾に集める。
 そして武器に全力を込めるマギルスは、その場から駆け出しながら青い閃光となってザルツヘルムに突っ込んだ。

 すると同時期、ウォーリスとエリクも溜めた互いの複合斬撃ブレードを放つ。
 更にマギルスとザルツヘルムの衝突が重なり、同盟都市に巨大な二つの閃光が生み出された。

「ウォオオオッ!!」

「フンッ!!」

「ァアアアッ!!」

「グゥウウッ!!」

 エリクとウォーリス、そしてマギルスとザルツヘルム。
 互いの強者が激突しながら己の力を衝突させ合い、同盟都市を更に崩壊へと導く。
 二つの閃光から発せられるパワーは、遺跡の上に築かれている都市が地面ごと崩し始め、全方位に亀裂を生じさせた。
 
 この衝撃によって同盟都市に離れていた大結界が粉々になるように吹き飛び、同盟都市そのものが衝突するそれ等の力に耐え切れず、地面ごと崩れ落ちていく。
 耐えられぬ地盤の中、力の衝突によって生じる閃光に飲まれた各々は、その場から一時的に姿が消えた。

 それから幾数分か経った頃、同盟都市にて生じた力の波動と閃光が収まる。

 土埃が上空まで舞う同盟都市は、もはや原型を留めている区画は存在しない。
 そうした都市部の上空には、ウォーリスの姿が見えた。

 その姿は身体に纏っていた生命力オーラの武装はほぼ破損し、ウォーリス自身も右腕から僅かに血を流している。
 しかし瞬く間に傷を治癒し、纏わり付く血を振り払うように右腕を振ったウォーリスは、握られている黒い長剣の風圧によって同盟都市に散布された土埃を全て外側へ散らした。

 そして原型を留めぬ都市を見下ろしながら、ウォーリスは確認するように周囲を見渡す。
 すると口元を僅かに歪めたウォーリスは、苛立ちの視線を見せながら呟いた。

「……気配が無い、生命力も感じない。……だが死体も見当たらない。……エリクめ、何処に消えた?」

 ウォーリスは崩壊した都市の中にエリクの気配や死体すがたが見えない事を確認し、苛立ちを含めた言葉を零す。
 先程の衝突によって自身の複合斬撃ブレードを突き破り傷を負わせたエリクを、殺せたという確信が得られないウォーリスは僅かに不安を過らせていた。

 すると崩壊した都市部の瓦礫が一部だけ大きく動き、ウォーリスはそちらに視線だけを移す。
 しかし先程までの厳しい目が僅かに柔和し、そこから現れた人物の名をウォーリスは口にした。

「……ザルツヘルム」

「――……ウォーリス様」

 瓦礫の中から出て来たのは、悪魔騎士デーモンナイトザルツヘルム。
 しかし下級悪魔レッサーデーモン達の血肉を武具として使っていた姿は剥ぎ取られ、悪魔化した姿を晒しながらも大盾を持っていた左腕と右腕、そして左半身を大きく欠損した様子を見せた。

 それでも影の中で従属させている下級悪魔レッサーデーモン達の血肉とストックを使い、ザルツヘルムは自らの肉体を修復させる。
 そして上空から見ているウォーリスに気付き、自らの背に形成されている悪魔の羽を使ってウォーリスの傍まで近寄った。

「ウォーリス様、御無事で」

「無事……と、言える状況ではないな」

「申し訳ありません」

「いや、これも私の失態が招いた事だ。……お前が相手をしていた小僧マギルスは?」

「連れ去られました。申し訳ありません」

「連れ去られた? どういうことだ」

少年かれは私に最後の攻撃を仕掛け、見事に大盾たてごと半身を砕き切りました。しかしそこで力尽き、私の反撃を受けるはずだった。……しかし……」

 ザルツヘルムはマギルスと衝突した際の出来事を明かし、ウォーリスに伝える。
 それは斬撃同士の衝突によってエリクが見えなかったウォーリスにとって、耳を疑いたくなるような情報だった。

 マギルスが全ての力を込めた最後の攻撃を仕掛けた時、その大鎌は見事にザルツヘルムの大盾と左半身を切断し消滅させる。
 しかし二撃目を放てず力尽き倒れようとしたマギルスに、ザルツヘルムは残る右半身と右手に握られた瘴気の長剣を使ってトドメを刺そうとした。

『見事だったぞ、少年――……っ!!』

 するとその瞬間、ザルツヘルムの振る右腕に思わぬ攻撃が飛び込む。
 それは魔力を集束し圧縮された魔力光線レーザーであり、瘴気の長剣を持つザルツヘルムの右腕を焼き切った光線《それ》を放つ人物をザルツヘルムは視認していた。

『貴様は……!?』

『――……お主を助けるのは、これで二度目か』

 ザルツヘルムが見たのは、青い法衣ころもと帽子を被り長い錫杖を持つ青髪の青年。
 しかしその顔立ちは、今まで対峙していたマギルスと酷似するような顔立ちをしていた。

 マギルスと瓜二つの青年は、瞬く間に錫杖の魔石部分を振り向けながら周囲に魔力の球体を生み出す。
 すると魔力を集束させた熱線レーザーを凄まじい数でザルツヘルムに浴びせ、マギルスから引き剥がすように撃ち放った。

『クッ!!』

 両腕の修復が間に合わぬ程の連射に、ザルツヘルムは残る右足だけで跳び避ける。
 しかしそれを見計らうかのように目視での短距離転移ショートワープを実行した青い衣を纏う青年は、屈みながら倒れるマギルスの身体に触れた。

 相手が転移魔法を使えると理解したザルツヘルムは、表情を強張らせながら跳び避けた身体を急ぎ戻そうとする。
 しかしそれよりも早く、相手の青年は自身とマギルスを転移魔法の光で包みながらザルツヘルムに声を向けた。

『悪魔の騎士よ。貴様のあるじに伝えよ』

『!』

『貴様の目論見は、我々が阻む――……』

『クッ!!』

 最後にそう言い残した青髪の青年は、マギルスと共に転移魔法で消える。
 それと同時にウォーリスとエリクが衝突させた複合斬撃ブレードの衝突によって生じた衝撃がザルツヘルムを巻き込み、崩壊する都市の瓦礫に飲まれた。

 その一連の流れを聞いたウォーリスは、更に厳しい表情を浮かべながら鋭い眼光をザルツヘルムに向ける。
 それを察するように、ザルツヘルムは頭を下げながら謝罪を伝えた。

「申し訳ありません。敵を取り逃がしてしまいました」

「……お前は命令を忠実に実行した。そこに新たな不穏因子イレギュラーが現れたというだけだ。……いや、不穏因子イレギュラーではないかもな」

「では、奴は……?」

「おそらく『青』だろう。やはり奴が『不穏因子イレギュラー』を主導し、我々の目的を阻もうとしているらしい。だとすれば、色々と理解も出来る。やはりあの不可解な|魔導人形《ゴーレムも、『青』が秘かに製造していたということか」

 ザルツヘルムの話を聞いたウォーリスは、この戦いに介入しマギルスを救った人物が『青』であると推測する。
 更に古代で製造された魔導人形ゴーレムの技術を使い、自分達の目的を阻むように動いていたのも『青』の主導に因るモノだと結論付けた。

 そして再びウォーリスの視線は都市部を見下ろさせ、消えたエリクの事についても考えさせる。

「ということは、エリクも『やつ』の手によって逃がされた可能性があるな。……『青』め、相変わらずさかしい男だ」

「『青』の始末が必要であれば、私が魔導国に赴きますが?」

「……いや、『青』は賢い男だ。奴程度では我々に敵わぬ事を理解している。我々を相手に勝算が無いからこそ、逃げに徹したと考えていい」

「では……」

「予定通り、計画は進める。――……日も昇った。もはや奴等に、私達を止める事は出来ん」

「ハッ」

 ウォーリスはそう述べた後、ザルツヘルムと共にその場から姿を消す。
 激戦の果てに繰り広げられたそれぞれの戦いはこうした形で決着がつかず、ウォーリスを討伐するという目的も果たせずに終わった。

 こうしてエリク達の戦いは目的を果たせず、ウォーリスは予定通りに計画を進める。
 それはこの場において、勝者と敗者の実力を決定づけるに足る光景モノである事は、当人達から見れば明らかだった。
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