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革命編 五章:決戦の大地
消えた大陸
しおりを挟む同盟都市で行われていたそれぞれの戦いは、勝敗を別つように決まる。
エリクとウォーリスは互いに渾身の力を込めた複合斬撃を放つ。
天地を境にしながら二人の斬撃は衝突し、同盟都市の表面を吹き飛ばす程の光景を生み出した。
その結果は、傷付きながらも生存するウォーリスの姿を明かす。
しかし対峙したエリクの姿は何処にも無く、同盟都市から消失するように姿を眩ました。
一方で、同じ同盟都市で戦っていたマギルスと悪魔騎士ザルツヘルムの戦いも、二度目の決着を迎える。
全ての力を攻撃に傾けたマギルスの一撃を受け切ることに成功したザルツヘルムは、反撃するように瘴気の長剣を振り翳そうとした。
しかしその決着を邪魔したのは、現在は青年の依り代を使っている『青』の七大聖人。
『青』は攻撃魔法と転移魔法を使用して窮地のマギルスを救い出し、更に同じように地上で吹き飛ばされていたエリクも転移魔法で救い出していた。
エリクとマギルスは『青』によって救い出されたが、戦いの結果は明らかとなる。
互角以上の戦いに持ち込みながらも、無数の命を従える到達者と悪魔に彼等は追い詰められた。
しかもアルトリアとリエスティアを奪還できず、同じく乗り込んでいた帝国皇子ユグナリスは心臓を貫かれて地面の亀裂に飲み込まれてからは生死不明となっている。
この結果を勝利と思える者は、誰もいない。
ウォーリスの計画を何一つと止められなかったエリク達は撃退され、同盟都市から姿を消した。
朝日を迎えたガルミッシュ帝国の空には、巨大な大地と共に浮かぶ同盟都市の光景が映る。
それに気付いた者達も少なくなかったが、その異常を気に掛けるまで帝国の状態は改善されていない。
しかし浮遊する同盟都市の内部で起きている事態は、今も継続している。
それどころか計画として朝を待ち勝利を収めたウォーリス達には、次の段階へと進む判断をさせるのに十分な猶予が生まれていた。
「――……アルフレッド。状況は?」
「ウォーリス様」
再び遺跡内部に戻って来たウォーリスは、側近アルフレッドが各種の操作を行っている部屋へ戻って来る。
それに対して応えようと席を立とうとしたアルフレッドだったが、ウォーリスは制止するように右手を上げて止めた。
「そのままで構わない。――……下の様子は?」
「はい。遺跡内部に突入されてから、約四時間程が経過しています」
「アルトリアは?」
「既に回収し、こちらの塔に移しています。遺跡内部の防衛に当たらせていた下級悪魔は全滅。防衛機能を作動させ、侵入者を排除していますが……」
「それほど時間が経っても、まだ排除は出来ていないということか」
「はい。内部の映像を確認しましたが、相手は魔人です。しかも数人ながら、強さと能力は野良の魔人とは比較できません」
「ならばフォウル国の十二支士、その干支衆達だろう。鬼姫の命令で同盟都市まで来ていたか」
「防衛機能の人形だけでは、始末は難しいようです」
「仮にも干支衆を名乗る連中だ。人形程度では押し殺すのに時間が掛かるだろう」
「では、私かザルツヘルムが排除に赴きますか?」
「いや。奴等には人形の相手をしたまま、ここから退場してもらおう。少し操作盤を借りるぞ」
「ハッ」
アルフレッドの報告と進言に対して、ウォーリスは即断するように侵入して来た干支衆達の対処方法を決める。
そして席を譲られたウォーリスは、ボロボロの衣服のまま両腕を走らせながら各指で操作盤を叩くように次々と弾く。
その速度はアルフレッドの操作を遥かに上回り、瞬く間に各施設の状況を映し出す映像機器の光景が変化する。
しかしそれ等の映像を確認しているアルフレッドは、何かに気付きを得ながらウォーリスに話し掛けた。
「ウォーリス様、まさか……」
「察しが良いな」
「よろしいのですか? 王国を乗っ取り、都市まで建設させた遺跡ですが……」
「構わない。帝国と王国の和平手段として、都合が良かったという理由だけで建てさせた都市だ。本来は都市の住民達から魂と生命力を吸い出す為の装置として予定だったが、それは今までの事態で十分に補充できた。それとも反対か? アルフレッド」
「ウォーリス様がよろしいのであれば、私からは何も」
「そうか。では遠慮せず、やらせてもらおう」
今から起こす事態を容認した二人は、互いの意思を確認し終えてとある作業を進めていく。
すると遺跡と同盟都市の地表全体を断面図として映し出した映像が表示され、中央に位置する巨大な黒い塔と下部分にある大地部分に赤い線が引かれるように浮き出される。
それと同時に起きたのは、同盟都市と地下に在る魔鋼の遺跡に大きな衝撃が走り始めた。
すると視点は遺跡内部に居る者達に移り、ウォーリス達が起こした出来事が反映されるような状況が作り出されていた。
「――……これは……!」
「うわっ、凄い揺れて――……うわっ……!!
遺跡内部で黒い人形達と戦っていた干支衆の『丑』バズディールと『申』シンは、巨大な地響きが鳴る状況に僅かな動揺を浮かべる。
それは他の場所に潜入している干支衆達も同じであり、全員が『創造神』を復活させるアルトリアとリエスティアの捜索と殺害を実行しようとする最中に起きた地響きに驚愕を浮かべた。
すると黒い人形を含め、干支衆達の足が床から離れるように浮く。
そして天井へ叩きつけられるのを回避する為に両腕で頭を守ったバズディールは、声を荒げながら天井に張り付くシンに呼び掛けた。
「これは、まさか……っ!! ……シンッ、タマモと合流するぞ!!」
「うぇっ!?」
「奴等め、この遺跡ごと俺達を殺す気だっ!!」
「!」
バズディールはそう叫びながらシンに伝え、天井にまで浮く現状がどういった現象かを即座に理解する。
そして両腕と両足を駆使しながら自身の膂力で廊下を飛びながら移動し、シンもそれに追従しながら後を追った。
その予測はウォーリスの思惑を的確に捉えており、再び視点はウォーリス達の方に移る。
画面を見上げる二人が見ているのは、巨大な黒い塔はそのままに、同盟都市の地表と地下の遺跡が落下していく二次元的な演出画面だった。
「……地下との切り離し、成功したようですね」
「ああ」
「しかし、地表に落としただけで奴等が殺せるでしょうか?」
「勿論、それだけではない。……アルフレッド。魔鋼がどういう性質のモノかは、覚えているか?」
「はい。魔力が物質化した黒魔耀鉱石という鉱物を精製した、特別な鋼ですね」
「そうだ。つまり魔鋼自体が、超質量の魔力貯蔵庫でもある。――……ではその魔力を自爆させれば、どうなるか分かるか?」
「!」
「新星爆発によって生まれるという魔力の結晶。それを精製した魔鋼が地表で爆発すればどうなるか、恐らく現代では誰も知らないだろう」
「……ウォーリス様は、その効果を御存知なのですか?」
「第一時人魔大戦の時代、大帝の命令で魔大陸で採取した魔鋼の原石である黒魔耀鉱石の調査を行っていた研究班が在った。……しかし黒魔耀鉱石を精製しようとした際、不幸な事故が起きってしまった事がある」
「!」
「その時は、研究施設の在った魔大陸の大地が大きく欠けるように地図から消し飛んだ」
「……それでは……」
「魔鋼は、通常の鉱物に対する知識や技術で扱える代物ではなかった。魔鋼の精製と加工方法を知っているのも、『創造神』から直接その知識を教えられた『火神』を務めていたドワーフとその一族のみだった」
「……!!」
「だからこそ大帝は、その一族であるドワーフを捕らえて魔鋼の精製方法を調べ上げるよう命じた。……魔族を滅ぼす為の、兵器として利用する為に」
ウォーリスの中に居るゲルガルドは、影を宿した深い笑みを見せながら魔鋼に関する過去の出来事を明かす。
それを聞いていたアルフレッドは固唾を飲みながら緊張を抱き、改めてウォーリスに問い掛けた。
「……あの質量を自爆させては、我々の居る塔にも影響が及ぶのではありませんか?」
「黒魔耀鉱石が爆発した際、鉱石自体に被害は無かったそうだ。だから爆発源をすぐに特定できた」
「!」
「安心しろ、何も全て爆発させようというわけではないさ。それでは地表が全て消し飛びかねない。……だからほんの少し、微量の魔鋼に火を点けてやるだけでいい。それだけで、奴等は下の大陸と共々に全て吹き飛ぶ」
「……なるほど」
「と、言っている間に。下に着いたようだな」
画面を確認したウォーリスはそうした声を見せ、アルフレッドも追従するように視線を動かす。
すると画面に映し出された地下遺跡は同盟都市の地盤ごと地表に落下し、巨大な穴の開いた大地を埋め尽くすような光景が映し出された。
その衝撃は大陸に巨大な地響きを生じさせ、帝国や共和王国の人々に動揺を与える。
しかしそんな動揺など意に介する事の無いウォーリスは、操作盤の一つを扱いながら口元を微笑ませ、中指でとある鍵盤に触れながら微笑みを浮かべた。
「これが本当の、王手だ」
ウォーリスは不敵な微笑みを浮かべ、中指が触れている鍵盤を押す。
すると次の瞬間、朝日によって照らされている地表に落下した同盟都市が巨大な黒い閃光に包まれた。
魔鋼から発せられた黒い閃光がガルミッシュ帝国とオラクル共和国の大陸全土を飲み込むように広がる光景が、ウォーリスとアルフレッドが見る画面に映し出される。
それを微笑みながら眺めるウォーリスと、驚愕しながら唖然とするアルフレッドは、その結果を見届けるように画面を見続けた。
黒い閃光が放たれてから数分が経つと、改めて黒に染まっていた大地の光景が映し出される。
そして真下にあったはずの大陸は何も存在しなくなり、巨大な黒い魔鋼が巨大な海に飲み込まれる光景を画面越しにウォーリス達は確認した。
その映像を確認したウォーリスは、黒い笑みを零す。
「ふ、ふふ……」
「ウォーリス様……」
「……やはり、力とは素晴らしい。そう思うだろう? アルフレッド」
「!」
「力があれば、どんな命でも、どれだけ巨大な存在であろうと、簡単に滅ぼせる。……我々が『創造神』の権能を手に入れた暁には、この世界すら滅ぼす事も可能になるのだ」
「……はい」
「さぁ、もうすぐ日食だ。――……行こうか。最初の神々が住んでいた、『天界』へ」
ウォーリスはそう微笑みながら席を立ち、操作盤や映像器から背を向ける。
それに追従するようにアルフレッドは後ろを歩き、二人はその部屋から退室した。
こうしてウォーリスの手により、多くの人々が暮らしていた一つの大陸が滅ぼされる。
ガルミッシュ帝国とオラクル共和王国の国民はそれに巻き込まれ、跡形も無く海の中へと消えていった。
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