虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 五章:決戦の大地

反抗の兆し

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 創造神オリジンの『魂』と『器』であるアルトリアとリエスティアの接触により、五百年前に起きた天変地異カタストロフィが再び起こされる。
 日食によって生じる巨大な穴が『天界』へ通じる通路みちとなり、黄金色に染まった空には巨大な歯車が数多く出現するという事態に世界は見舞われた。

 『天界』を掌握し新たな創造神オリジンとなる事を目論むウォーリスの中に居るゲルガルドは、自分達の居る黒い塔を黄金色に浮かぶ巨大な黒い穴へ向かわせる。
 それを阻むように現れたのは、未来では猛威を振るい、現代ではエリクを救うように現れた魔導人形ゴーレム魔導母艦マザーシップだった。

 魔導母艦マザーシップはウォーリス達が居る黒い塔を追跡し、眼を模した主砲から凄まじい魔導砲撃レーザーを放つ。
 確実に射線に捉えている魔導母艦マザーシップの主砲を壁に移る光景で確認しながらも、ウォーリスは慌てる様子も無く落ち着いた面持ちを見せていた。

 そして魔導母艦マザーシップの魔力砲撃が黒い塔を飲み込むように、凄まじい熱線と衝撃を浴びせる。
 しかし黒い塔の内部は微動すらせず、ウォーリスは微笑みを浮かべながら嘲笑を向けた。

「馬鹿め。その程度の砲撃で、魔鋼マナメタルで形成されたここを破壊できるものか」

「ウォーリス様」

「大丈夫だ。現代の水準レベルでは異端の技術だが、あの船は私から見れば玩具と変わらん。――……だが、追って来られるのも面倒だ。ここで撃墜するぞ、アルフレッド」

「はい」

 浴びせられる魔力砲撃は収まると、ウォーリスはアルフレッドに周囲に投影してある操作盤の一つを渡す。
 それを目の前で受け取ったアルフレッドは、ウォーリスを補助サポートするように両手で操作盤を扱い始めた。

 すると黒い塔の表面に変化が起き始め、滑らかな表面に刺々しい突起が数多く出現する。
 その突起の一つ一つに膨大な魔力が収束し、そこから凄まじい量の魔力砲撃が放たれた。

 それ等が追跡して来る魔導母艦マザーシップに向かい、浴びせるようが襲い掛かる。
 魔導母艦マザーシップに張られた結界がそれ等を遮ろうとしながらも、瞬く間に突き破られながらその船体に大きな損傷を与えた。

 大きく破損しながら爆発を起こす魔導母艦マザーシップを壁に映し出される光景で確認するウォーリスとアルフレッドは、口元を微笑ませる。
 しかし炎上し船体の部品が落下する魔導母艦マザーシップは浮遊したまま、諦めを見せずにウォーリス達の居る黒い塔を追い続けていた。

 それを見たウォーリスは僅かに眉を顰め、アルフレッドは再び操作盤に手を掛ける指を動かし始める。

「もう一度、攻撃を行います」

「ああ、頼む。……『青』め、相変わらず諦めの悪いことだ」

 アルフレッドが止めの一撃を放つ準備を進める中、ウォーリスは魔導母艦マザーシップを通して『青』の思惑を感じ取る。
 現代では異端と言える多くの魔導人形ゴーレム魔導母艦マザーシップを作り上げたのが『青』であると考えるウォーリスは、彼が自分の目論見を防ごうと襲撃して来たと考えていた。

 しかし良く出来た玩具程度の脅威だと認識する魔導母艦マザーシップは、損傷しながらも再び魔導砲撃を放とうと主砲に魔力を集めている。
 それを見ながら嘲うように口元を歪めたウォーリスは、壁に映し出された光景越しに魔導母艦マザーシップの最後を見届けた。

「さらばだ、『青』」

 ウォーリスの言葉と連動するように黒い塔から放たれた魔力砲撃は、魔導母艦マザーシップに再び浴びせられる。
 そして主砲を始めとした重要部に直撃を浴びながら貫かれた魔導母艦マザーシップは、大気を揺らすように爆発した。

 溜め込まれた魔力や船体の部品が爆発と共に周囲へ四散し、落下していく光景をウォーリス達は眺める。
 そして間違いなく撃墜を確認した後、ウォーリスは進行方向に視線を戻しながら改めて伝えた。

「さぁ、これで邪魔者は居なくなった。……行くぞ、『天界』へ」

「ハッ」

「ク……ッ!!」

 ウォーリスの言葉にアルフレッドとザルツヘルムは頭を下げながら短く応じ、黒い穴の中心地である光へ視線を送る。
 そして黒い石造オブジェクトに拘束されたままのアルトリアは、創造神オリジン権能ちからを扱えず苦々しい面持ちを浮かべながら連れて行かれるしかなかった。

 こうしてウォーリス達とアルトリアは、黄金色の空に浮かぶ黒い穴へと向かう。
 そして高高度に形成されたそのみちへ突入し、中心点である光の中へ飲まれるように消えて行った。

 そこで視点は変わり、とある場所に場面は移される。

 ウォーリスと戦い複合斬撃ブレードを衝突させた後、エリクはその衝撃によって吹き飛ばされた。
 しかし押し寄せる瓦礫に紛れ、ある人物が助けるようにエリクを回収し、転移魔法で崩壊していく同盟都市から消え失せる。

 それから身体に負った傷と多くの生命力オーラを用いた反動によって気絶していたエリクは、再び瞼を開けていた。

「――……う……っ」

「……おじさんも、起きた?」

 意識の覚醒と共に体の痛みで僅かに声を漏らすエリクは、朦朧とする意識と霞む視界で周囲を見る。
 すると仰向けになっている自身の横河から声が発せられ、その声を聞いたエリクはそのままの姿勢で呼び掛けた。

「……マギルスか?」

「うん」

「……ここは、何処だ?」

「分かんない。僕もさっき起きたとこだけど、なんかここって見覚えあるんだよね」

「……グ……ッ」

 マギルスが傍に居る事を確認したエリクは、痛みが残る身体を動かしながら上半身を起こす。
 そして朦朧とする意識と霞む視界を戻すように呼吸を整え、薄暗い周囲を見回しながら辺りの様子を探った。

 そこは室内にも見える部屋の中だったが、周りは鉄製の壁や扉で出来ている。
 自身とマギルスはその室内にある寝台に寝かされ、損傷した衣服や武装は外されながら二人の武器は傍の床に置かれていた。

 そしてマギルスと同じように、エリクも室内の景色に既視感を感じる。
 しかし既視感の時期を思い出せないエリクは、マギルスに呼び掛けながら状況を探った。

「……ここは……。……マギルス、俺達はどうなった?」

「死んでないのは、間違いないんじゃない?」

「なら、敵に捕まったのか?」

「それは、無いんじゃないかな。僕等の傷は、治療されてるみたいだし」

「……なら、ここは――……ッ!!」

「!」

 エリクは改めて自身の身体を確認し、負っていた傷が塞がっている事を確認する。
 わざわざ自分達を捕まえて傷を治す敵は居ないと考えるマギルスの言葉によって、エリクは不可解な表情を浮かべながら状況を把握しようとした。

 しかし次の瞬間、二人の耳に音が届く。
 それは鉄製の床を歩く音であり、それが自分達の部屋にあるだろう通路から響いているのを聞き取った。

 マギルスも極度の疲労を感じる身体ながらも、上半身を起こして近付いて来る相手に警戒を抱く。
 そして先に上半身を起こしていたエリクは、寝台から足を降ろしながら疲労と傷みが残る身体を立たせながら身構えた。

 すると外から鳴る足音は部屋の扉前で止まり、扉が横へ移動スライドしながら開かれる。
 そして訪れた相手を見るエリクは、そこに立っている人物を見て僅かな驚きを浮かべた。

「……マギルス……!?」

「え?」

 エリクが見たのは、マギルスと似た顔ながらも僅かに年上に見える青髪の青年。
 それを聞いたマギルスも寝台から扉に視線を向けると、そこに立つ青年の顔を見ながら訝し気な声を浮かべた。

 しかしマギルスとは異なり表情の変化が乏しいその青年は、起きている二人に対して口を開く。

「起きたか。エリク、そしてマギルスよ」

「……もしかして、『青』のおじさん?」

「!?」

 声を掛けて来た青髪の青年に対して、マギルスは訝し気な視線を送りながらそう問い掛ける。
 それを聞いたエリクは僅かに驚きを浮かべたが、それを肯定するように青年は頷き、自分を『青』である事を伝えた。

如何いかにも」

「やっぱり! あっ、その身体ってもしかして……僕と同じ身体やつ?」

「正確には、お前の身体と同時期に製造した複製クローンだ」

「そっか。んじゃ、似てるのも当たり前かな!」

「うむ」

 マギルスは自分と似た青年が『青』であると気付き、互いだけが理解できる話で納得を浮かべる。
 それに対して奇妙な困惑を浮かべるエリクだったが、目の前の青年が『青』だけは理解でき、構えを解かずに警戒しながら問い掛けた。

「お前が『青』なら、どうして俺達を? それに、ここは何処だ」

「有益な人材を、むざむざ殺されるわけにはいかん。故にお前達を回収し、同盟都市あそこから撤退した」

「!」

「そして、この場所だが。……ここで説明するのも、二度手間だな。起き上がれるのなら、ついて来るといい」

 『青』はそう述べながら説明を止めると、扉側に背を向けながら部屋から出て行こうとする。
 それに対してエリクとマギルスは、互いに顔を見合わせながらも頷きながら使えそうな魔装具を身に着けた後、武器を背負いながら部屋の外に出た。

 すると『青』は部屋の外の通路で待機し、二人の姿を確認して歩みを進める。
 それを追うように二人は付いて行くと、通路の光景に視線に送りながら再び既視感を強く感じた。

「……ねぇ、おじさん。ここって……」

「……ああ、思い出した。……だが、何故これが……?」

「僕達、また未来に来ちゃったのかな?」

「分からん……。……いや、そういえばあの魔導人形ゴーレム達も……。……いったい、どういう事なんだ?」

 二人は通路を歩きながらその作りを確認すると、既視感の正体に気付くようにある記憶を思い出す。
 しかしそれは未来で見た光景モノであり、二人は困惑を浮かべながらも『青』を見失わないように後を付いて行った。

 それから覚えのある通路を歩きながら、とある場所へ辿り着く。
 その場所にも覚えがあるエリクとマギルスは、その扉を開ける『青』の背中を追うように室内へ入った。

「……えっ!?」

「……お前達は……!」

 その部屋に入ったマギルスとエリクが見たのは、暗い室内の中で佇む複数の人影。
 更に外の景色が映し出されている機器の映像から照らされる黄金色の光によって、それぞれの顔が僅かに見えた。

 そしてその場に居る全員が振り返り、訪れた二人に視線を送る。
 すると『青』も振り返りながら、改めてエリクとマギルスに伝えた。 

奴等ウォーリスに対抗できる可能性がある者達を、人間大陸から集めてこの箱舟ノアに乗せた」

「!」

「ここに居る我々で、開かれた『天界』へ向かう。――……そして、ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルドと配下の悪魔達を討伐する」

 そう述べる『青』の背後で、それぞれの人物達が歩み寄りながら顔を見せる。
 エリクとマギルスはその面々の顔を見ると、驚愕を浮かべながら各人物の顔を見た。

 その室内に居るのは、全員で八名。

 一人目は、新たな青年ミューラーの身体を扱う『青』の七大聖人セブンスワン
 二人目は、エリク達と共に旅を続けていた現『赤』の七大聖人セブンスワンケイル。
 三人目は、ルクソード皇国の皇王であり元『赤』の七大聖人セブンスワンシルエスカ=リーゼット=フォン=ルクソード。
 
 四人目は、マシラ共和国のマシラ一族に仕える『牛鬼ミノス』ゴズヴァール。
 五人目は、マシラ共和国の奴隷ながらも元闘士部隊に所属していた魔法師テクラノス。
 六人目は、アズマ国の武士サムライでありケイルの師匠である月影流師範の武玄ブゲン
 七人目は、武玄ブゲンの妻でありながらも忍者シノビとして御庭番衆おにわばんしゅう頭領とうりょうを務めるトモエ
 八人目は、皇国建国時代からルクソード一族に仕えている元『緑』の七大聖人セブンスワンバリス。

 そこにエリクとマギルスを加えた十名が、ウォーリスを討つ為に集められた人間大陸の強者達だった。
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