999 / 1,360
革命編 五章:決戦の大地
反抗の兆し
しおりを挟む創造神の『魂』と『器』であるアルトリアとリエスティアの接触により、五百年前に起きた天変地異が再び起こされる。
日食によって生じる巨大な穴が『天界』へ通じる通路となり、黄金色に染まった空には巨大な歯車が数多く出現するという事態に世界は見舞われた。
『天界』を掌握し新たな創造神となる事を目論むウォーリスの中に居るゲルガルドは、自分達の居る黒い塔を黄金色に浮かぶ巨大な黒い穴へ向かわせる。
それを阻むように現れたのは、未来では猛威を振るい、現代ではエリクを救うように現れた魔導人形の魔導母艦だった。
魔導母艦はウォーリス達が居る黒い塔を追跡し、眼を模した主砲から凄まじい魔導砲撃を放つ。
確実に射線に捉えている魔導母艦の主砲を壁に移る光景で確認しながらも、ウォーリスは慌てる様子も無く落ち着いた面持ちを見せていた。
そして魔導母艦の魔力砲撃が黒い塔を飲み込むように、凄まじい熱線と衝撃を浴びせる。
しかし黒い塔の内部は微動すらせず、ウォーリスは微笑みを浮かべながら嘲笑を向けた。
「馬鹿め。その程度の砲撃で、魔鋼で形成された塔を破壊できるものか」
「ウォーリス様」
「大丈夫だ。現代の水準では異端の技術だが、あの船は私から見れば玩具と変わらん。――……だが、追って来られるのも面倒だ。ここで撃墜するぞ、アルフレッド」
「はい」
浴びせられる魔力砲撃は収まると、ウォーリスはアルフレッドに周囲に投影してある操作盤の一つを渡す。
それを目の前で受け取ったアルフレッドは、ウォーリスを補助するように両手で操作盤を扱い始めた。
すると黒い塔の表面に変化が起き始め、滑らかな表面に刺々しい突起が数多く出現する。
その突起の一つ一つに膨大な魔力が収束し、そこから凄まじい量の魔力砲撃が放たれた。
それ等が追跡して来る魔導母艦に向かい、浴びせるようが襲い掛かる。
魔導母艦に張られた結界がそれ等を遮ろうとしながらも、瞬く間に突き破られながらその船体に大きな損傷を与えた。
大きく破損しながら爆発を起こす魔導母艦を壁に映し出される光景で確認するウォーリスとアルフレッドは、口元を微笑ませる。
しかし炎上し船体の部品が落下する魔導母艦は浮遊したまま、諦めを見せずにウォーリス達の居る黒い塔を追い続けていた。
それを見たウォーリスは僅かに眉を顰め、アルフレッドは再び操作盤に手を掛ける指を動かし始める。
「もう一度、攻撃を行います」
「ああ、頼む。……『青』め、相変わらず諦めの悪いことだ」
アルフレッドが止めの一撃を放つ準備を進める中、ウォーリスは魔導母艦を通して『青』の思惑を感じ取る。
現代では異端と言える多くの魔導人形と魔導母艦を作り上げたのが『青』であると考えるウォーリスは、彼が自分の目論見を防ごうと襲撃して来たと考えていた。
しかし良く出来た玩具程度の脅威だと認識する魔導母艦は、損傷しながらも再び魔導砲撃を放とうと主砲に魔力を集めている。
それを見ながら嘲うように口元を歪めたウォーリスは、壁に映し出された光景越しに魔導母艦の最後を見届けた。
「さらばだ、『青』」
ウォーリスの言葉と連動するように黒い塔から放たれた魔力砲撃は、魔導母艦に再び浴びせられる。
そして主砲を始めとした重要部に直撃を浴びながら貫かれた魔導母艦は、大気を揺らすように爆発した。
溜め込まれた魔力や船体の部品が爆発と共に周囲へ四散し、落下していく光景をウォーリス達は眺める。
そして間違いなく撃墜を確認した後、ウォーリスは進行方向に視線を戻しながら改めて伝えた。
「さぁ、これで邪魔者は居なくなった。……行くぞ、『天界』へ」
「ハッ」
「ク……ッ!!」
ウォーリスの言葉にアルフレッドとザルツヘルムは頭を下げながら短く応じ、黒い穴の中心地である光へ視線を送る。
そして黒い石造に拘束されたままのアルトリアは、創造神の権能を扱えず苦々しい面持ちを浮かべながら連れて行かれるしかなかった。
こうしてウォーリス達とアルトリアは、黄金色の空に浮かぶ黒い穴へと向かう。
そして高高度に形成されたその穴へ突入し、中心点である光の中へ飲まれるように消えて行った。
そこで視点は変わり、とある場所に場面は移される。
ウォーリスと戦い複合斬撃を衝突させた後、エリクはその衝撃によって吹き飛ばされた。
しかし押し寄せる瓦礫に紛れ、ある人物が助けるようにエリクを回収し、転移魔法で崩壊していく同盟都市から消え失せる。
それから身体に負った傷と多くの生命力を用いた反動によって気絶していたエリクは、再び瞼を開けていた。
「――……う……っ」
「……おじさんも、起きた?」
意識の覚醒と共に体の痛みで僅かに声を漏らすエリクは、朦朧とする意識と霞む視界で周囲を見る。
すると仰向けになっている自身の横河から声が発せられ、その声を聞いたエリクはそのままの姿勢で呼び掛けた。
「……マギルスか?」
「うん」
「……ここは、何処だ?」
「分かんない。僕もさっき起きたとこだけど、なんかここって見覚えあるんだよね」
「……グ……ッ」
マギルスが傍に居る事を確認したエリクは、痛みが残る身体を動かしながら上半身を起こす。
そして朦朧とする意識と霞む視界を戻すように呼吸を整え、薄暗い周囲を見回しながら辺りの様子を探った。
そこは室内にも見える部屋の中だったが、周りは鉄製の壁や扉で出来ている。
自身とマギルスはその室内にある寝台に寝かされ、損傷した衣服や武装は外されながら二人の武器は傍の床に置かれていた。
そしてマギルスと同じように、エリクも室内の景色に既視感を感じる。
しかし既視感の時期を思い出せないエリクは、マギルスに呼び掛けながら状況を探った。
「……ここは……。……マギルス、俺達はどうなった?」
「死んでないのは、間違いないんじゃない?」
「なら、敵に捕まったのか?」
「それは、無いんじゃないかな。僕等の傷は、治療されてるみたいだし」
「……なら、ここは――……ッ!!」
「!」
エリクは改めて自身の身体を確認し、負っていた傷が塞がっている事を確認する。
わざわざ自分達を捕まえて傷を治す敵は居ないと考えるマギルスの言葉によって、エリクは不可解な表情を浮かべながら状況を把握しようとした。
しかし次の瞬間、二人の耳に音が届く。
それは鉄製の床を歩く音であり、それが自分達の部屋にあるだろう通路から響いているのを聞き取った。
マギルスも極度の疲労を感じる身体ながらも、上半身を起こして近付いて来る相手に警戒を抱く。
そして先に上半身を起こしていたエリクは、寝台から足を降ろしながら疲労と傷みが残る身体を立たせながら身構えた。
すると外から鳴る足音は部屋の扉前で止まり、扉が横へ移動しながら開かれる。
そして訪れた相手を見るエリクは、そこに立っている人物を見て僅かな驚きを浮かべた。
「……マギルス……!?」
「え?」
エリクが見たのは、マギルスと似た顔ながらも僅かに年上に見える青髪の青年。
それを聞いたマギルスも寝台から扉に視線を向けると、そこに立つ青年の顔を見ながら訝し気な声を浮かべた。
しかしマギルスとは異なり表情の変化が乏しいその青年は、起きている二人に対して口を開く。
「起きたか。エリク、そしてマギルスよ」
「……もしかして、『青』のおじさん?」
「!?」
声を掛けて来た青髪の青年に対して、マギルスは訝し気な視線を送りながらそう問い掛ける。
それを聞いたエリクは僅かに驚きを浮かべたが、それを肯定するように青年は頷き、自分を『青』である事を伝えた。
「如何にも」
「やっぱり! あっ、その身体ってもしかして……僕と同じ身体?」
「正確には、お前の身体と同時期に製造した複製だ」
「そっか。んじゃ、似てるのも当たり前かな!」
「うむ」
マギルスは自分と似た青年が『青』であると気付き、互いだけが理解できる話で納得を浮かべる。
それに対して奇妙な困惑を浮かべるエリクだったが、目の前の青年が『青』だけは理解でき、構えを解かずに警戒しながら問い掛けた。
「お前が『青』なら、どうして俺達を? それに、ここは何処だ」
「有益な人材を、むざむざ殺されるわけにはいかん。故にお前達を回収し、同盟都市から撤退した」
「!」
「そして、この場所だが。……ここで説明するのも、二度手間だな。起き上がれるのなら、ついて来るといい」
『青』はそう述べながら説明を止めると、扉側に背を向けながら部屋から出て行こうとする。
それに対してエリクとマギルスは、互いに顔を見合わせながらも頷きながら使えそうな魔装具を身に着けた後、武器を背負いながら部屋の外に出た。
すると『青』は部屋の外の通路で待機し、二人の姿を確認して歩みを進める。
それを追うように二人は付いて行くと、通路の光景に視線に送りながら再び既視感を強く感じた。
「……ねぇ、おじさん。ここって……」
「……ああ、思い出した。……だが、何故これが……?」
「僕達、また未来に来ちゃったのかな?」
「分からん……。……いや、そういえばあの魔導人形達も……。……いったい、どういう事なんだ?」
二人は通路を歩きながらその作りを確認すると、既視感の正体に気付くようにある記憶を思い出す。
しかしそれは未来で見た光景であり、二人は困惑を浮かべながらも『青』を見失わないように後を付いて行った。
それから覚えのある通路を歩きながら、とある場所へ辿り着く。
その場所にも覚えがあるエリクとマギルスは、その扉を開ける『青』の背中を追うように室内へ入った。
「……えっ!?」
「……お前達は……!」
その部屋に入ったマギルスとエリクが見たのは、暗い室内の中で佇む複数の人影。
更に外の景色が映し出されている機器の映像から照らされる黄金色の光によって、それぞれの顔が僅かに見えた。
そしてその場に居る全員が振り返り、訪れた二人に視線を送る。
すると『青』も振り返りながら、改めてエリクとマギルスに伝えた。
「奴等に対抗できる可能性がある者達を、人間大陸から集めてこの箱舟に乗せた」
「!」
「ここに居る我々で、開かれた『天界』へ向かう。――……そして、ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルドと配下の悪魔達を討伐する」
そう述べる『青』の背後で、それぞれの人物達が歩み寄りながら顔を見せる。
エリクとマギルスはその面々の顔を見ると、驚愕を浮かべながら各人物の顔を見た。
その室内に居るのは、全員で八名。
一人目は、新たな青年の身体を扱う『青』の七大聖人。
二人目は、エリク達と共に旅を続けていた現『赤』の七大聖人ケイル。
三人目は、ルクソード皇国の皇王であり元『赤』の七大聖人シルエスカ=リーゼット=フォン=ルクソード。
四人目は、マシラ共和国のマシラ一族に仕える『牛鬼』ゴズヴァール。
五人目は、マシラ共和国の奴隷ながらも元闘士部隊に所属していた魔法師テクラノス。
六人目は、アズマ国の武士でありケイルの師匠である月影流師範の武玄。
七人目は、武玄の妻でありながらも忍者として御庭番衆の頭領を務める巴。
八人目は、皇国建国時代からルクソード一族に仕えている元『緑』の七大聖人バリス。
そこにエリクとマギルスを加えた十名が、ウォーリスを討つ為に集められた人間大陸の強者達だった。
0
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる