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革命編 六章:創造神の権能
世界の大樹
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黄昏の空に沈む箱庭において、それぞれの人々が新たな希望で飛び立とうとしている頃。
再び『天界』側へ場面は戻り、その視点は神殿の最奥へ進んでいたウォーリスとアルトリアに移った。
白い魔鋼で築かれた神殿内の廊下を歩く二人は、果てしなく続くように思える通路を見上げながら進んでいる。
しかし廊下を歩く時間は既に十分を超えており、様変わりしない廊下の景色を見るウォーリスは訝し気な表情を浮かべながら呟いた。
「――……この廊下、奇妙だな。……アルトリア嬢」
「……何よ」
「廊下にも、何か仕掛けが施されているのではないかな?」
「……初めて来た私が、知るワケないでしょ……」
ウォーリスは直感を働かせながら、自分達が歩く廊下にも何かしらの仕組みが施されていると推測する。
そして創造神の生まれ変わりであるアルトリアにその事を尋ねたが、本人はそれを否定するように首を横へ振った。
すると小さな溜息を漏らすウォーリスは、左腕に抱え持つリエスティアに視線を落とす。
「やはりここでも、『鍵』が必要かな。……アルトリア嬢、『器』に触れたまえ」
「……ッ」
リエスティアの身体に触れるようウォーリスは強要すると、アルトリアは苦々しい表情を見せる。
しかしこの状況で逆らう事に意味が無いのを察しているアルトリアは、自ら抱えられているリエスティアの身体に右手を触れさせた。
すると次の瞬間、再び二人の身体が黄金色に輝く。
それと同時に廊下の景色が変化し、一瞬だけ霧状になりながらも晴れるように造形の異なる廊下が周囲に出現した。
ウォーリスはそれを確認し、微笑みを強めながら言葉を零す。
「なるほど、今までは創造神の仕掛けた幻の無限回廊だったというわけか。……向こうが出口のようだ。さぁ、来たまえ」
「……クッ」
新たに出現した廊下の先に光で輝く門が見えたウォーリスは、アルトリアに先頭を歩かせながら先へ進ませる。
それを聞き入れるしかないアルトリアは、そのまま光が漏れる廊下の先へを目指しながら歩いた。
「……えっ」
そうした最中、アルトリアの頬に暖かな風が吹き込むような感覚が生じる。
そして視界の右端に何かが通り抜けたような白い影が映り、思わずアルトリアは振り返った。
しかし振り返った場所には、ウォーリスと抱えられているリエスティアしかいない。
すると突如として振り返ったアルトリアに、ウォーリスは訝し気な視線を向けて問い掛けた。
「どうした?」
「……何でも無いわ……」
廊下の先へ顔を向け直したアルトリアに、ウォーリスは訝し気な視線を向け続ける。
そうしたウォーリスの思考とは裏腹に、アルトリアの脳裏には身に覚えのない郷愁が強まり始めていた。
それは光の門に近付くにつれて増していき、アルトリアの身体に懐かしい暖かさを感じさせる。
すると今度は、自身の聴覚に聞き慣れない声が響いた。
『――……神様、おかえりなさい!』
「っ!?」
アルトリアは声の聞こえた左側へ顔を向けると、そこには廊下の壁しか存在せずに更に困惑を強める。
そんな奇妙な様子を窺いさせるアルトリアを背中から見つめるウォーリスは、口元を微笑ませながら聞こえない程の声量で呟く。
「……何かしらの魔力干渉を受けているのか。いや、創造神の肉体で周囲の魔力効果は打ち消しているはずだし、何かしらの魔力の影響を受ければ呪印が反応するはずだが……」
そうした推測を立てながら奇妙な状況を観察するウォーリスは、それからもアルトリアが奇妙な様子を強めていくのを窺う。
歩きながら更に周囲に視線と顔を向けるアルトリアは、朧気ながらも見える幻視と、誰かに声を掛けられる幻聴を聞いた。
それに困惑した表情を強めているアルトリアだったが、不思議とそれ等の幻視や幻聴に嫌悪感は抱かず、むしろ懐かしさと暖かみを感じている。
しかし身に覚えのないそうした感覚は、少しずつアルトリアの神経を削りながら困惑を強めていた。
『――……神様、見てください! こんなに美味しい実が成ったんですよ!』
『今日、私の娘が子供が生みました。どうか、この子に祝福の名を……』
『この間、またフェンリル様とファフナー様が喧嘩しちゃって……』
『ダグラス様の火を借りて、陶器を作ってみたんです! これ、神様に差し上げます!』
『神様、また一緒に遊ぼうね!』
『――……私達は、いつまでも貴方の事を御慕いしています』
「……やめて……っ」
聞こえる幻聴から様々な人々の声が伝わり、視界の端々には今まで霞むような白い影が人の姿に変わっていく。
それ等はアルトリアの方に呼び掛けながら『神様』と呼び、親しみを込めた声で話し掛け続けた。
その声がアルトリアには不快に思えず、強く感じさせる郷愁が更なる困惑を抱かせる。
すると我慢の限界に達したのか、アルトリアは足を止めながら幻視される人々に対して怒鳴りを向けた。
「私は、違うっ!!」
「!」
「私は、アンタ達が言ってる神様でも、創造神でもなんでもないのよっ!!」
悲痛な叫びを周囲に向けるアルトリアに、流石のウォーリスも驚きを浮かべる。
そうして耳を塞ぎながら顔を伏せたアルトリアは、幻視や幻聴を感じない為に自ら閉じた瞼の闇に閉じ籠ろうとした。
そんなアルトリアに対して、再び幻聴が聞こえる。
しかしその声が今までのような親しみではなく、悲し気な声だった。
『――……ごめんなさい。貴方を苦しめて……』
「……!!」
『でも、貴方には知ってほしい。……私達が、ここに居たということを……』
そうした悲し気な声がアルトリアの脳裏に響いた瞬間、今まで聞こえていた幻聴が突如として止まる。
それに気付いたアルトリアは瞼を開けながら伏せていた顔を前に向け戻すと、そこには幻視される人々の姿も消えていた。
呆然とした様子で周囲を見るアルトリアだったが、その背後からウォーリスが声を向けて来る。
「――……やはり創造神の記憶に、干渉されているようだな」
「!」
「しかし、出口は目の前なのでね。歩けそうにないなら、私が――……」
「一人で、行けるわ……」
立ち止まったアルトリアに対して、ウォーリスは左腕を掴もうとしながら先に進ませようとする。
それを逃れるように左腕を引かせながら身体を前進させたアルトリアは、再び光が漏れている廊下の出口を目指し始めた。
以後アルトリアには幻視や幻聴は無くなったが、呪印を影響以上に精神的を疲弊を見せる。
そんなアルトリアを後ろから監視するウォーリスは、リエスティアを抱えたまま廊下を歩き続けた。
そして数分後に、緩やかな歩行速度で二人は光の出口へと辿り着く。
一度だけ足を止めながらアルトリアは、自らその光の眩しさで瞼の開きを薄めながらも、その先へと足を踏み入れた。
すると身体を進めたアルトリアに対して、光の出口は特に反発も無く通してしまう。
そして光の先に辿り着いたアルトリアは、完全に閉じていた瞼を青い瞳と共に開かせた。
「――……ここって……っ!?」
アルトリアは目の前に広がる光景に驚愕しながら、唖然とした表情を浮かべて言葉を失くす。
するとその背後から光の出口を通り抜けたウォーリスが歩み出ると、同じように目を見開きながらも微笑みを強くしながら言葉を発した。
「やはり、私の推測は間違っていなかった……!!」
「……これは……」
「輪廻の存在がそれを証明していたが、やはり天界にも在ったのだ……っ!!」
「……まさか、アレが……」
二人は対照的な表情を見せながらも、同じ物を注視する。
神殿と思われた内部にも関わらず、そこは見渡せない程の広大な自然と大地が拡がっていた。
更に外と同じように青い空が存在し、太陽と思しき光球もその世界には存在している。
しかしそれ以上に顕著だったのは、その大地の中心に生えている巨大過ぎる大樹の姿。
他の木々と比較しても数千倍以上の高さと太さがあることを遠目からでも視認でき、雲すら突破しているその大樹が普通の植物ではない事が窺える。
それを嬉々とした様子で見るウォーリスは、その大樹の名を明かした。
「あの大樹こそ、我々がいた箱庭で滅びたモノ。世界の『現世』と『輪廻』を構成している存在。……『マナの樹』だ!」
「……マナの樹……。……初めて見たのに、なんで……っ」
そう告げるウォーリスの言葉に、アルトリアは初めて視認する『マナの樹』を見上げる。
しかしアルトリアが抱く感情は、身に覚えも無く押し寄せる郷愁による驚愕でしかなかった。
こうして『天界』の神殿まで侵入したアルトリアとウォーリスは、その最奥で『マナの樹』を発見する。
それは人間と魔族が争った第一次人魔大戦の時代、『大帝』と呼ばれる者の主導で狩り尽くされた大樹。
まさに世界の主柱とも言える巨大な大樹を、アルトリアは自らの瞳で見据えていた。
再び『天界』側へ場面は戻り、その視点は神殿の最奥へ進んでいたウォーリスとアルトリアに移った。
白い魔鋼で築かれた神殿内の廊下を歩く二人は、果てしなく続くように思える通路を見上げながら進んでいる。
しかし廊下を歩く時間は既に十分を超えており、様変わりしない廊下の景色を見るウォーリスは訝し気な表情を浮かべながら呟いた。
「――……この廊下、奇妙だな。……アルトリア嬢」
「……何よ」
「廊下にも、何か仕掛けが施されているのではないかな?」
「……初めて来た私が、知るワケないでしょ……」
ウォーリスは直感を働かせながら、自分達が歩く廊下にも何かしらの仕組みが施されていると推測する。
そして創造神の生まれ変わりであるアルトリアにその事を尋ねたが、本人はそれを否定するように首を横へ振った。
すると小さな溜息を漏らすウォーリスは、左腕に抱え持つリエスティアに視線を落とす。
「やはりここでも、『鍵』が必要かな。……アルトリア嬢、『器』に触れたまえ」
「……ッ」
リエスティアの身体に触れるようウォーリスは強要すると、アルトリアは苦々しい表情を見せる。
しかしこの状況で逆らう事に意味が無いのを察しているアルトリアは、自ら抱えられているリエスティアの身体に右手を触れさせた。
すると次の瞬間、再び二人の身体が黄金色に輝く。
それと同時に廊下の景色が変化し、一瞬だけ霧状になりながらも晴れるように造形の異なる廊下が周囲に出現した。
ウォーリスはそれを確認し、微笑みを強めながら言葉を零す。
「なるほど、今までは創造神の仕掛けた幻の無限回廊だったというわけか。……向こうが出口のようだ。さぁ、来たまえ」
「……クッ」
新たに出現した廊下の先に光で輝く門が見えたウォーリスは、アルトリアに先頭を歩かせながら先へ進ませる。
それを聞き入れるしかないアルトリアは、そのまま光が漏れる廊下の先へを目指しながら歩いた。
「……えっ」
そうした最中、アルトリアの頬に暖かな風が吹き込むような感覚が生じる。
そして視界の右端に何かが通り抜けたような白い影が映り、思わずアルトリアは振り返った。
しかし振り返った場所には、ウォーリスと抱えられているリエスティアしかいない。
すると突如として振り返ったアルトリアに、ウォーリスは訝し気な視線を向けて問い掛けた。
「どうした?」
「……何でも無いわ……」
廊下の先へ顔を向け直したアルトリアに、ウォーリスは訝し気な視線を向け続ける。
そうしたウォーリスの思考とは裏腹に、アルトリアの脳裏には身に覚えのない郷愁が強まり始めていた。
それは光の門に近付くにつれて増していき、アルトリアの身体に懐かしい暖かさを感じさせる。
すると今度は、自身の聴覚に聞き慣れない声が響いた。
『――……神様、おかえりなさい!』
「っ!?」
アルトリアは声の聞こえた左側へ顔を向けると、そこには廊下の壁しか存在せずに更に困惑を強める。
そんな奇妙な様子を窺いさせるアルトリアを背中から見つめるウォーリスは、口元を微笑ませながら聞こえない程の声量で呟く。
「……何かしらの魔力干渉を受けているのか。いや、創造神の肉体で周囲の魔力効果は打ち消しているはずだし、何かしらの魔力の影響を受ければ呪印が反応するはずだが……」
そうした推測を立てながら奇妙な状況を観察するウォーリスは、それからもアルトリアが奇妙な様子を強めていくのを窺う。
歩きながら更に周囲に視線と顔を向けるアルトリアは、朧気ながらも見える幻視と、誰かに声を掛けられる幻聴を聞いた。
それに困惑した表情を強めているアルトリアだったが、不思議とそれ等の幻視や幻聴に嫌悪感は抱かず、むしろ懐かしさと暖かみを感じている。
しかし身に覚えのないそうした感覚は、少しずつアルトリアの神経を削りながら困惑を強めていた。
『――……神様、見てください! こんなに美味しい実が成ったんですよ!』
『今日、私の娘が子供が生みました。どうか、この子に祝福の名を……』
『この間、またフェンリル様とファフナー様が喧嘩しちゃって……』
『ダグラス様の火を借りて、陶器を作ってみたんです! これ、神様に差し上げます!』
『神様、また一緒に遊ぼうね!』
『――……私達は、いつまでも貴方の事を御慕いしています』
「……やめて……っ」
聞こえる幻聴から様々な人々の声が伝わり、視界の端々には今まで霞むような白い影が人の姿に変わっていく。
それ等はアルトリアの方に呼び掛けながら『神様』と呼び、親しみを込めた声で話し掛け続けた。
その声がアルトリアには不快に思えず、強く感じさせる郷愁が更なる困惑を抱かせる。
すると我慢の限界に達したのか、アルトリアは足を止めながら幻視される人々に対して怒鳴りを向けた。
「私は、違うっ!!」
「!」
「私は、アンタ達が言ってる神様でも、創造神でもなんでもないのよっ!!」
悲痛な叫びを周囲に向けるアルトリアに、流石のウォーリスも驚きを浮かべる。
そうして耳を塞ぎながら顔を伏せたアルトリアは、幻視や幻聴を感じない為に自ら閉じた瞼の闇に閉じ籠ろうとした。
そんなアルトリアに対して、再び幻聴が聞こえる。
しかしその声が今までのような親しみではなく、悲し気な声だった。
『――……ごめんなさい。貴方を苦しめて……』
「……!!」
『でも、貴方には知ってほしい。……私達が、ここに居たということを……』
そうした悲し気な声がアルトリアの脳裏に響いた瞬間、今まで聞こえていた幻聴が突如として止まる。
それに気付いたアルトリアは瞼を開けながら伏せていた顔を前に向け戻すと、そこには幻視される人々の姿も消えていた。
呆然とした様子で周囲を見るアルトリアだったが、その背後からウォーリスが声を向けて来る。
「――……やはり創造神の記憶に、干渉されているようだな」
「!」
「しかし、出口は目の前なのでね。歩けそうにないなら、私が――……」
「一人で、行けるわ……」
立ち止まったアルトリアに対して、ウォーリスは左腕を掴もうとしながら先に進ませようとする。
それを逃れるように左腕を引かせながら身体を前進させたアルトリアは、再び光が漏れている廊下の出口を目指し始めた。
以後アルトリアには幻視や幻聴は無くなったが、呪印を影響以上に精神的を疲弊を見せる。
そんなアルトリアを後ろから監視するウォーリスは、リエスティアを抱えたまま廊下を歩き続けた。
そして数分後に、緩やかな歩行速度で二人は光の出口へと辿り着く。
一度だけ足を止めながらアルトリアは、自らその光の眩しさで瞼の開きを薄めながらも、その先へと足を踏み入れた。
すると身体を進めたアルトリアに対して、光の出口は特に反発も無く通してしまう。
そして光の先に辿り着いたアルトリアは、完全に閉じていた瞼を青い瞳と共に開かせた。
「――……ここって……っ!?」
アルトリアは目の前に広がる光景に驚愕しながら、唖然とした表情を浮かべて言葉を失くす。
するとその背後から光の出口を通り抜けたウォーリスが歩み出ると、同じように目を見開きながらも微笑みを強くしながら言葉を発した。
「やはり、私の推測は間違っていなかった……!!」
「……これは……」
「輪廻の存在がそれを証明していたが、やはり天界にも在ったのだ……っ!!」
「……まさか、アレが……」
二人は対照的な表情を見せながらも、同じ物を注視する。
神殿と思われた内部にも関わらず、そこは見渡せない程の広大な自然と大地が拡がっていた。
更に外と同じように青い空が存在し、太陽と思しき光球もその世界には存在している。
しかしそれ以上に顕著だったのは、その大地の中心に生えている巨大過ぎる大樹の姿。
他の木々と比較しても数千倍以上の高さと太さがあることを遠目からでも視認でき、雲すら突破しているその大樹が普通の植物ではない事が窺える。
それを嬉々とした様子で見るウォーリスは、その大樹の名を明かした。
「あの大樹こそ、我々がいた箱庭で滅びたモノ。世界の『現世』と『輪廻』を構成している存在。……『マナの樹』だ!」
「……マナの樹……。……初めて見たのに、なんで……っ」
そう告げるウォーリスの言葉に、アルトリアは初めて視認する『マナの樹』を見上げる。
しかしアルトリアが抱く感情は、身に覚えも無く押し寄せる郷愁による驚愕でしかなかった。
こうして『天界』の神殿まで侵入したアルトリアとウォーリスは、その最奥で『マナの樹』を発見する。
それは人間と魔族が争った第一次人魔大戦の時代、『大帝』と呼ばれる者の主導で狩り尽くされた大樹。
まさに世界の主柱とも言える巨大な大樹を、アルトリアは自らの瞳で見据えていた。
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