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革命編 七章:黒を継ぎし者

兄弟の契り

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 自分以外の者達を全て道具にして己が目的を叶えようとするゲルガルドを倒す為に、若かりしウォーリスは活動を始める。
 その過程で友アルフレッドと侍女カリーナの助力を得て、異母弟おとうとジェイクと初めての対面を果たした。

 真夜中の庭園で密会する兄ウォーリスと弟ジェイクの姿は、双方の相手の姿を見ながら表情を強張らせる。
 互いに同じ父親ゲルガルドでありながらも、その容姿は大きく異なっていた。

 黒髪蒼眼の兄ウォーリスに対して、金髪翠眼の弟ジェイク。
 二人は互いに母親側の血を色濃く受け継いでおり、一見すれば血の繋がりを感じさせない容姿をしていた。

 そうして初めて異母弟ジェイクを見たウォーリスは、訝し気に自分を見る弟ジェイクに声を向ける。

『――……血が繋がっている兄弟だと言うのに、似てないな。私達は』
 
『!』

『でも、少し安心した。……君が父親の方に似ていたら、見た目だけで信用できないと思ってしまうからね』

 そう言いながら口元を微笑ませるウォーリスに、ジェイクは奇妙な瞳を向ける。
 すると今度は、ジェイクから兄ウォーリスに対して問い掛ける言葉を向けた。

『ウォーリス兄様の事は、幾度か耳にしていました。御病気で、庭園ここの近くに暮らしていると。……でもその御様子だと、完治されたということですか? それに、手紙に書かれていた……僕も知らない伯爵家いえの秘密って……?』

『……病気か。確かに、病気だったかもしれない。……ただしその原因は、やまいでも無ければ気が触れたなどという理由でもない。……その秘密に関わる事のせいだよ』

『え……?』

『君には、その秘密について知っておいて貰いたい。……これは君自身にも、そして君の母上の安否についても、大きく関係して来るだろう』

『母上にも……っ!?』

『もし君が母上のことを大事にしているなら、付いて来てくれ。……そこで君には、この伯爵家いえの真実を伝えたい』

『……ッ』

 ウォーリスはそう告げながら、ジェイクに背を向けて庭園の奥へと歩き始める。
 それに対して僅かに躊躇いを見せたジェイクだったが、その幼さから来る好奇心と初めて対面する異母兄ウォーリスの言葉を聞き、緩やかに歩き始めた。

 二人は月明りと星の光で僅かに照らされる静かな庭園の中を歩き、ジェイクはウォーリスの背中を追い続ける。
 沈黙したまま歩く二人の兄弟は、その目的地である庭園の奥に生える生垣の傍まで立ち止まった。

 そしてウォーリスはいつも通り、地下へ続く扉を開く為の言葉を口にする。
 すると生垣が開かれ地面から鉄の扉が現れると、それを見たジェイクが驚きを浮かべながら後退あとずさった。

『これって……!?』

『……私もこれを見た時には、君と似た反応をしたよ。……そしてあの男に、黙って付いて来いと言われた』

『!?』

『幼い私はそれに従い、大人しくこの地下の入り口を潜った。……だが君には、先に話しておくよ』

『え……?』

『この先には、君の……私達の父親が隠している、秘密の実験室があるんだ。……そして君は、あの男が今まで何をしてきたのか、知る権利がある』

『……ち、父上の……?』

『それを知りたかったら、付いて来てくれ。……安心してくれ、君に危害は加えない。……君はカリーナに、優しくしてくれたと聞いたからね』

『!』

 そう伝えながら微笑むウォーリスは、地下の扉を潜りながら階段を降りていく。
 するとカリーナの名を口にしながら柔らかな笑みを見せたウォーリスの表情を垣間見たジェイクは、少し遅れながらも覚悟を強めた表情で一緒に階段を降りた。

 それから兄弟は薄暗くも明かりが灯る地下の階段を降り、実験体が収められた大きな試験管が並ぶ通路に辿り着く。
 それを見たジェイクは怯える表情を浮かべながら後退あとずり、その姿を過去の自分と重ねたウォーリスは優しく声を掛けた。

『大丈夫。コイツ等は保管されている、ただの実験体モルモットだ』

『モ、モルモットって……。……父上は、ここで何をやってるんですか?』

『実験だよ、色んなね。……そして私も、その実験体モルモットの一人になったんだ』

『!?』

『ここで七年間、色んな実験をされたよ。……そして君の言う、病気にさせられていたんだ』

『そ、そんな……。あの父上が、そんな事を……!?』

『私も始めは、信じたくなかったよ。実験中も、悪い夢を見ているんじゃないかって思い続けた。……でもアレは、悪い現実……いや、地獄だった』

『……!』

『君は、君が知る父親のことだけを信じたいと思うなら、まだ地上に戻れる。……でもそう遠くない時期に、君もここに連れて来られるだろう。今度は私にではなく、あの父親に導かれて。私の時と同じようにね』

『……ッ』

 予言染みた言葉を伝えるウォーリスは、再び先頭を歩きながら地下の通路を歩く。
 それを聞いたジェイクは表情を強張らせながらも悩みを浮かべ、それでも周囲にある不気味な実験体モルモット試験管いれものを恐る恐る見ながら、再びウォーリスを追うように歩き始めた。

 それからウォーリスはアルフレッドの脳髄が収められた部屋に訪れ、ジェイクもその部屋に入る。
 すると予想通り、ジェイクは脳髄の形をした金属に収められた試験管を見て怯える表情を浮かべながら再び問い掛けた。

『こ、ここは……。……それにアレって、医学書で見た……人間の……』

『彼は、私の友だよ』

『えっ』

『君に、彼を紹介しよう。――……アルフレッド、弟のジェイクを連れて来たよ』

『――……初めまして、ジェイク様。私はアルフレッドと申します』

『!?』

 脳髄の収められた試験管から赤い点滅と共に機械の声が発せられると、ジェイクは再び驚愕しながら怯えた表情で後退あとずさる。
 そのジェイクの様子を見ながら、ウォーリスはアルフレッドの方を見て皮肉染みた言葉を向けた。

『やはり、怖がられてしまったようだ』

『仕方ありません。こんな姿ですから』

『人形を出せるかい? それでちゃんと、弟に挨拶をしてやってくれ』

『そうしましょう』

 ウォーリスは改めてそう頼むと、アルフレッドは壁部分の黒い金属から人型の人形を一つ出現させる。
 それに再び怯えるジェイクだったが、その人形が姿勢を整えながら跪いて礼を向ける様子を見て、驚きと共に興味を示した。

『……あの、この人形を……兄上の、友という方が?』

『そうだよ。彼はこんな姿だけれど、ちゃんとした意思を持つ人間なんだ。私達と同じでね』

『……でも、その姿は……?』

『彼もまた、私達の父親からこんな姿にされたんだ。そして、強制的に従わされているんだよ』

『そんな……!?』

『私と彼は、二人ともあの男の実験体になった。……その証拠を見せても良いけれど、それは見るも恐ろしいモノだ。それでも見たいと、君は思うかい?』

『……見せて下さい』

『そうか、君は勇気があるんだね。……アルフレッド。彼にあの映像を、見せてあげてくれ』

『分かりました』

 ジェクトの同意を得たウォーリスは、アルフレッドに頼みながら室内に備わる投影装置を起動させる。
 すると黒い壁に光が浮かび上がり、アルフレッドが記録し続けた二百年近くに渡るゲルガルドの実験記録が映し出された。

『……ッ!?』

『これが、私達の父親……いや、ゲルガルドという男が行い続けて来た、実験の記録だ』

『……うっ!!』

『動物や魔物、魔獣だけじゃない。奴は人間や魔人も含めて、色んな生命いのち実験体モルモットにし続けている。……そして彼等に施した実験を経て、奴は様々な能力ちからを手に入れた』

『ウッ、ゲェ……ゲハッ、ガハ……!!』

『すまないね。こんな証拠モノでしか、君に奴の所業を証明できるモノがない。……そしてこれが、私にも施された実験の記憶かずかずだよ』

『……ッ!!』

『私は、こんな実験を七年間も受け続けた。……その後遺症で、病気と称されて隔離されていたんだよ』

『……こんな……こんな事を、父上は……ずっと……!?』

『それだけじゃない。奴は次の当主となる後継者を育てては、その身体を乗っ取って生き永らえているんだ。既に数百年以上もね』

『えっ!?』

『実際に奴がどれだけ生きているのか、私達にも分からない。……でも、これだけは分かる。次に奴から身体を乗っ取られる後継者は、私か君のどちらかだ』

『!!』

『奴は自分の血を引く子供を、単なる次の身体いれものとしか思っていない。……そして要らなくなった身体は、必ず捨てられる。どちらが選ばれてもだ』

『……そ、そんな……』

『そして当然、乗っ取った身体に不都合な要素も排除する。言動の違いなどで正体が見破られる可能性があるから。……だから君が身体を乗っ取られた場合、君を最も知るだろう母上や屋敷の者達が、排除対象となる』

『……みんな、一緒に……!?』

『アルフレッド、ありがとう。もう止めていいよ』

 そう述べて実験の映像記録を止めさせたウォーリスは、振り返りながらジェイクを見る。
 あまりにも凄惨な実験の映像を見て吐瀉物を床に吐いたジェイクは這い蹲り、息を乱しながら歩み寄るウォーリスを見上げた。 

『ジェイク。君はこんな事を続けて来た父親の……あの男の所業を、許せるかい?』

『……父上が、ずっと……こんな事を……』

『そうだ。そして次は、君を……君が親しく思う者達がこんな目に遭うのかもしれない』

『ッ!?』

『君は、それを許せるのかい?』

『……そんな事、許せるわけ……ありません……っ!!』

『私も同じ気持ちだ。……だからジェイク、私達と一緒に協力しないか?』

『……協力?』

『私達で、あの男を倒すんだ。そして自分を……いや、それだけじゃない。私達が親しくしている者達を、守るんだ』

『……!!』

『その為に、君の協力が不可欠だと考えている。……ジェイク、私達に協力してくれ。頼む』

 ウォーリスは真摯な様子で左膝を落とし、吐瀉物が吐かれた床に跪く。
 そしてジェイクに右手を差し伸べ、ゲルガルドを倒す為の協力を頼んだ。

 それを受けたジェイクは兄の真剣な表情と言葉を受け取り、左手で口を拭いながら上体を起こす。
 すると自身の右手を差し伸べ、二人の兄弟は右手を重ねながら互いの異なる瞳を見つめて声を向け合った。

『……僕にも出来る事があるなら、喜んで協力します。兄上』

『ありがとう、ジェイク』

 こうして二人の兄弟は互いに力強く手を重ね、秘かに協力関係へ至る。
 それは大事な者を守るという共通目的によって結ばれた、兄弟の契りだった。

 それを見届けるアルフレッドと共に、この三名は打倒ゲルガルドの意思を強固にする。
 更にジェイクと結び付いた事により、ウォーリスの計画は次の段階へ移行する事になった。
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