虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
1,054 / 1,360
革命編 七章:黒を継ぎし者

忠義の使者

しおりを挟む

 ゲルガルド伯爵家に生まれた異母弟おとうとジェイクに対して、ウォーリスは父親ゲルガルドの秘密を教える。、
 長年に渡り続けられていた悍ましい実験の数々と、自分達がゲルガルドが用意している代替品の肉体であることをウォーリスは明かし、自分達の父親を打倒する事を提案した。

 それを聞いた弟ジェイクは、兄ウォーリスの提案を受け入れ協力を受け入れる。
 それから侍女カリーナを通じて二人の兄弟は情報を交換し合いながら、一つの策を進めようとしていた。

『――……分かりました。兄上』

 侍女カリーナから兄ウォーリスの書き記した策を受け取ったジェイクは、ある人物に宛てた手紙をしたためる。
 それをカリーナに渡し、侍女や従者達が利用する配達人を通してガルミッシュ帝国の外に送り届けた。

 更に半年が経った頃、雑事を担当していたカリーナはジェイク宛に届けられた一つの手紙を配達人から受け取る。
 それを直接ジェイクは受け取ると、その内容を見てすぐにウォーリスに宛てた手紙をカリーナに持たせた。

 その手紙を受け取ったウォーリスは、表情を明るくさせながらカリーナの前で笑顔を浮かべる。

『――……やった!』

『ど、どうしたんですかっ!?』

『ジェイクを通して出した手紙から、母上の返答が届いたんだ!』

『ウォーリス様の、御母上?』

『今、ルクソード皇国に居る……ナルヴァニア=フォン=ルクソード。それが私の母上だよ』

『あっ、そうでした! 私が買われる前に居たという御方なので、よく知らなくて……』

『いいんだよ。それより重要なのは、母上に私の状態を伝えられたことだ』

『!』

『もし母上が皇国貴族にこの伯爵家いえの秘密を教えて動いてくれれば、あの男を倒す為に帝国が動いてくれるかもしれない。もしかしたら、皇国の七大聖人セブンスワンも動いてくれるかも』

『セブンスワン……?』

『凄く強い人間ひとたちらしい。母上からそうした人達に働きかければ、奴を倒す為に何らかの策を講じてくれるはずだ……!』

 ウォーリスはそうした期待を込め、手紙に同封されていた母親ナルヴァニアからの手紙を読む。
 すると嬉々としていた表情は次第に険しくなり、表情を青褪めさせながら言葉を詰まらせた。

『……そんな……っ』

『どうしたんですか? ……何か、悪い事が?』

『……皇国は今、内乱中らしい』

『えっ!?』

『しかもその内乱は、自分が引き起こしたモノだと……母上は書いている』

『ウォーリス様の、御母上が……!?』

『母上は、自分の出生がルクソード皇族ではないとあの男に教えられて……それで、義兄あにである皇国の皇王おうに毒を盛って、後継者争いを引き起こしたと……』

『……そんな……』

『その内乱には、帝国このくにも巻き込まれているらしい。帝国の第二皇子クラウスが後継者の一人に選ばれて、皇国に来てるそうだ。そしてその皇子と協力して、冤罪に陥れた皇国貴族達を追い詰めていると書いてある』

『……でも、それだと……?』

『そうだ。そんな状況では、皇国や帝国はすぐには動けないだろうと、母上は仰っている……。勿論、母上自身も……』

『ウォーリス様……』

『……クソッ、動くのが遅過ぎたのか。私は……っ!!』

 帝国と皇国の状勢がそうした内乱モノになっている事を初めて知ったウォーリスは、憤怒と悲哀を混ぜた表情で自身の膝を握り拳で叩く。
 既にこの時点でルクソード皇国は内乱の佳境へ向かっており、その発端となったナルヴァニア自身も自身の家族を冤罪に貶めた皇国貴族達に対する尋問と拷問を行い、復讐心を色濃くさせていた頃だった。

 そうした状況になる前に母親ナルヴァニアとの連絡を試みる事が出来なかったウォーリスは、苦々しい後悔に苛まれる。
 カリーナはそんなウォーリスの苦悶を見ながら心配そうな表情で視線を逸らすと、ジェイクの封筒に入っているもう一枚の紙を目にした。

『あの、ウォーリス様。もう一枚、手紙があるみたいですけど……』

『……?』

 そう述べるカリーナに導かれ、ウォーリスは伏せた顔を封筒側に向ける。
 確かに残されている一枚の紙を見つめ、それを手に取りながら広げて内容を確認した。

 するとウォーリスは読み進むにつれて細くしていた青い瞳を見開き、驚くような声で呟く。

『……二枚目には、母上が最も信頼している者を帝国こっちへ渡らせると書いてある』

『!』

『そして私と合流し、あの男の思惑を阻止する為に協力してくれるらしい。滞在先の予定地と到着予定日も書いてある』

『ウォーリス様の御母上が信頼されている方が来るのなら、とても頼もしいですね!』

『……それでも、ゲルガルドに対する警戒は必要だ。ジェイクはこの手紙を?』

『御読みになっています。それでも、ウォーリス様の判断が必要だからと、御返事を御待ちしています』

『そうか。……私から母上の使者に対して手紙を送る。その機会タイミングは、次に父親やつが外出する時に頼むとジェイクに伝えてくれ』

『分かりました!』

 ウォーリスは再び弟ジェイクとカリーナを頼り、自身の手紙を母親ナルヴァニアが寄越した者に届くようにする。
 すると一ヶ月後、再びカリーナが受け取った手紙の中にその使者と思しき人物の手紙がジェイクに宛てて届けられた。

 それを受け取ったウォーリスは、僅かに驚いた表情を浮かべる。

『――……既に、この領地に来ているのか』

『えっ』

『かなり頭の切れる人みたいだ。ジェイクが出した手紙を別の人に受け取らせて、彼はこの領内に侵入していたらしい。そして滞在先の人物と魔道具で連絡を取り、すぐにこの手紙を届けさせた』

『……それって、凄いんですか?』

『いや、これだけでも手際が良いと言えるけど。……母上の使者は、私が望む事を承知してくれている』

『ウォーリス様の?』

『私達の策が暴かれないように、細心の注意を払ってくれているんだ。……でもそれ以上に、私が彼と直接会うことを望んでいると察してくれている』

『直接ですかっ!? でも、それって……』

『ああ、かなり危険が伴う。最悪の場合、私達がやっている事がゲルガルドに全て暴かれるかもしれない。……だからその日時を、向こうは私に尋ねている』

『!』

『私の返事次第で、彼はすぐに動いてくれるようだ。……カリーナ、もしかして手紙の配達人が変わっりしたかい?』

『えっ。……あっ、そういえば。以前に来ていたのはおじさんだったんですけど、今回の方はそれよりずっと御若い男の人でした!』

『やっぱり。……恐らくその配達人が、母上の使者だ』

『!』

『カリーナ。今度また彼が来たら、私の手紙を渡してくれ。直接ね』

『は、はい! 頑張ります!』

 素直に応じるカリーナに微笑みを浮かべるウォーリスは、再びしたためた手紙をカリーナに渡す。
 そして次の週に訪れた配達人が前回も訪れた年若い男である事を確認すると、秘かに忍ばせていたウォーリスの手紙を渡した。

『――……あの、これを……』

『……確かに、受け取りました』

 他の配達物とは別に差し出されるカリーナの手紙を、その年若い配達人は受け取り自身の懐に忍ばせる。
 それから何事もなく配達人は去った後、数日後にゲルガルドがジェイク等と共に領外に離れる予定日となった。

 そして屋敷からゲルガルドが居なくなった日の深夜、ウォーリスが瞼を閉じて眠る納屋の扉を叩く音が響く。
 それを聞きすぐに瞼を開けて口元を微笑ませながら上体を起こしたウォーリスは、扉側に向けて声を向けた。

『扉は開いていますよ』

『――……貴方が、ウォーリス様ですね』

 ウォーリスの声に応じるように、扉は緩やかに開かれる。
 そこには闇夜に紛れ易い黒い布地の外套を羽織った、年若い男の声をした人物が立っていた。

 そして扉を閉めながら納屋の中に入ったその人物は、顔を覆っていたフードを脱ぐ。
 するとその顔を見せながら、改めて寝台ベットに座るウォーリスと話を交えた。

『私がウォーリスです。……貴方が、母上の使者ですね?』

『はい。――……私の名前は、ザルツヘルム。ナルヴァニア様の従騎士を務めております』

 そうして名を明かす年若い男はザルツヘルムと名乗り、初めてウォーリスと会話を交える。
 それは幼い頃からナルヴァニアを慕い続け、その息子であるウォーリスを救う為に遣わされた忠義の使者だった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...