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革命編 七章:黒を継ぎし者
憎悪の深堀
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エカテリーナの実家を動かし挙兵の動きをさせたウォーリスは、それを陽動にして事態を治める為に動くゲルガルドを屋敷から引き離す事に成功する。
そして軟禁されていた異母弟ジェイクを転移魔法で連れ出したウォーリスは彼の頼みを引き受け、屋敷に囚われたままの継母とそれに近しい従者達を脱出させる為に戻った。
闇夜に紛れながら再び屋敷に戻ったウォーリスは、内部で動く者達の様子を探る。
エカテリーナを始めとした従者達が拘束されている為か、人手不足もあってジェイクが部屋に居ない事にはまだ気付かれてはいなかった。
そうした屋敷の中を偽装魔法と身のこなしを併用しながら掻い潜るウォーリスは、屋敷の地下へと続く階段まで辿り着く。
しかし唯一の入り口には見張りの従者が立っており、そこで足を止めたウォーリスは左手の袖口から小さな石礫を取り出した。
すると壁の影を利用しながら、ウォーリスは石礫を見張りの従者がいる傍の壁へ投げる。
その凄まじい速度は見張りの従者には捉えられず、突如として壁を叩いたような音に驚愕しながらそちらの方向へ視線を逸らした。
『な、なんだ――……ッ!?』
『……すまんな』
通路から視線を逸らした見張りは、瞬く間に移動したウォーリスに隙を突かれて首筋を打たれる。
そして刈り取られた意識のまま倒れようとする見張りの身体を、ウォーリスは抱き留めながら物陰に隠した。
それから地下の牢獄に繋がる扉の前に立ちながら周囲を見渡し、内部の気配を読み取りながら他に人間の気配が無い事を確認して静かに開く。
すると仄かに灯されている地下へと続く階段を確認し、ウォーリスは覆われている顔の中で微妙な面持ちを浮かべた。
『……まるで、あの日と同じ階段だな』
幼い頃に父親に連れられた地下の実験室に続く階段と、牢獄に続く階段が奇妙な重なりをウォーリスに感じさせる。
それはウォーリスに対して一層強い警戒心と緊張感を抱かせながら、周囲に魔法式を用いた罠がないか探りながら進んだ。
しかしその緊張感と警戒心とは裏腹に、そこまで深くなかった地下室へウォーリスは辿り着く。
そして高める視力で薄暗い地下室の中を問題なく歩き、人の気配と僅かな声が漏れる鉄扉に視線を注いだ。
『……あそこか』
ウォーリスは警戒を緩めずに鉄扉まで歩き、罠が無いかを探る。
そして魔法式や物理的な罠が無いことを確認し終えると、鍵の掛かっていた鉄扉を高めた腕力で強引に抉じ開けた。
それによって響く異質な音が、扉の先に居る者達に僅かな悲鳴と驚きの声を漏らさせる。
しかし彼等の反応を考慮に入れないウォーリスは、抉じ開けた扉を潜りながら幾つかの牢屋が設置されている地下を眺め見た。
『――……全部で、十三名か』
地下の牢屋に囚われている人数を高めた視力で確認したウォーリスは、ふとある人物に視線を留める。
それに対して感情も見せぬままそちらの方向へ歩み出すと、その人物が捕えられている牢屋の前に立った。
するとその人物を見下ろしながら、ウォーリスは小さな溜息を漏らしながら呟く。
『……エカテリーナ』
『――……だ、誰……!?』
その牢屋に囚われていたのは、ジェイクの母親であるエカテリーナ。
両手を鉄鎖の付いた枷によって封じられ、床に力なく座るその姿には、屋敷の中で見えたような威厳の欠片が僅かに垣間見えた。
そんなウォーリスは顔に纏う黒い布地の隙間から見える青い瞳が灯る明かりによって僅かに照らされ、エカテリーナは僅かに表情を強張らせる。
すると憎々しい表情を浮かべ、周囲の驚きを無視しながらウォーリスに対して怒鳴り声を向けた。
『お前は……ウォーリスッ!!』
『!』
『……』
『化物め……! よくも、私達の……ジェイクの邪魔を……。……お前だけは、絶対に許さないッ!!』
目の前に現れた相手がす自分がこうなった元凶だと察したエカテリーナに対して、ウォーリスは冷ややかな青い瞳で見下ろす。
そんな憎悪に塗れた翡翠色の瞳を向けるエカテリーナに、ウォーリスは溜息を漏らしながら話し掛けた。
『……そのジェイクが、お前の馬鹿な行動を止めようとしたはずだ。それを聞き入れていれば、こんな事にはならなかっただろうに』
『なにぃ……っ!!』
『お前の軽率な策略が、この事態を招いたのだ。それは自覚しておけ』
『ウルサイッ!! ……私を笑いに来たつもりかっ!?』
『哀れだとは思うが、笑える程に私の立場も良くはないのでな。……本来ならばお前に対する義理などないが、良く出来た息子に感謝しておけ』
『な……!?』
憎悪と悪態を向けるエカテリーナに対して、ウォーリスは左腰に携えた剣を引き抜く。
そして生命力を纏わせながら鍵が掛けられた鉄格子の扉を容易く切り裂くと、僅かな金切り音を響かせながら扉が開けられた。
更に牢屋の中に踏み込み、エカテリーナに対して剣を向ける。
それに対して憎悪よりも怯えが上回ったエカテリーナが悲鳴を上げる前に、素早い二つの剣戟がエカテリーナが繋がれている鉄枷を切り裂いた。
『キャアアッ!!』
『……ふっ』
短い悲鳴を上げたエカテリーナの肌や腕には一切の傷を与えず、ウォーリスは背を向けながら牢屋を出る。
そして他にも囚われていた従者達の牢屋にも赴き、鉄格子の扉を開けて繋がれている枷を切り裂きながら解放した。
ウォーリスの思わぬ行動に従者達が驚きを浮かべる最中、立ち上がるエカテリーナは訝し気な表情に宿す憎悪と怒りを再び向け放つ。
『……何のつもりよ、化物っ!!』
『言ったはずだ。お前の息子に感謝しろとな』
『!!』
『ジェイクに頼まれた、お前達を救い出して欲しいとな。そうでなければ、お前達など私が助けるはずがない』
『なに……っ!!』
『私を暗殺しようとしたことは、まだ納得も出来る。……だが私の娘まで巻き込もうとしたお前に対して、敵意以外の情を抱くつもりは一切ない』
『……ッ!!』
エカテリーナに対する敵意を殺気として向けるウォーリスは、地下の空間に凄まじい圧力を散らす。
それに当てられた十二名の従者達は怯えの表情を強め、エカテリーナも強面だった形相を青くさせながら身を引いた。
それでも彼女が持つ矜持が、ウォーリスに対して強気な態度を見せる。
『これ以上、化物の助けなど要らないわっ!!』
『……そうか、ならば勝手にしろ。ジェイクにも、お前達が自力で脱出を試みたと伝えておく』
『待ちなさいっ!! ジェイクは何処に居るの!?』
『都市で身を隠している。……お前が始めた事だ。後始末も、自分達でやるんだな』
ウォーリスはそう言うと、ジェイクに対する義理を果たし終えてたと考えながら転移魔法を使う。
そして地下室の中から転移し、再びジェイクの居る宿まで戻った。
残された従者達は白い光に包まれながら消えたウォーリスを見て、驚きを見せる。
しかしエカテリーナだけは憎悪に塗れた表情を強めながら、ウォーリスに対する嫌悪を強めながら解放された従者達に言い伝えた。
『……お前達。外に出たら、武器を手に入れなさい』
『!?』
『エカテリーナ様……!?』
『こうなれば、あの化物だけではなく、それを生み育てた当主も殺すしかないのよ……!!』
『そ、それは……』
『全てを失うか、全てを手に入れるか。もう私達には、その二つしか手段は残されていない! ……さぁ、行くわよっ!!』
『……ッ』
歩み始めたエカテリーナの怒声を聞きながら、周囲の従者達は渋るような表情を強めながらも付き従う。
そして牢屋のある地下室を上り、屋敷内で武器が保管されている別棟を目指しながら向かい始めた。
息子の想いとは裏腹に暴走を続けるエカテリーナは、その果てに凶行へ至ろうとする。
それを止める者もいないまま、ゲルガルド伯爵家内部で起きる内紛は混迷とした様相を見せ始めていた。
そして軟禁されていた異母弟ジェイクを転移魔法で連れ出したウォーリスは彼の頼みを引き受け、屋敷に囚われたままの継母とそれに近しい従者達を脱出させる為に戻った。
闇夜に紛れながら再び屋敷に戻ったウォーリスは、内部で動く者達の様子を探る。
エカテリーナを始めとした従者達が拘束されている為か、人手不足もあってジェイクが部屋に居ない事にはまだ気付かれてはいなかった。
そうした屋敷の中を偽装魔法と身のこなしを併用しながら掻い潜るウォーリスは、屋敷の地下へと続く階段まで辿り着く。
しかし唯一の入り口には見張りの従者が立っており、そこで足を止めたウォーリスは左手の袖口から小さな石礫を取り出した。
すると壁の影を利用しながら、ウォーリスは石礫を見張りの従者がいる傍の壁へ投げる。
その凄まじい速度は見張りの従者には捉えられず、突如として壁を叩いたような音に驚愕しながらそちらの方向へ視線を逸らした。
『な、なんだ――……ッ!?』
『……すまんな』
通路から視線を逸らした見張りは、瞬く間に移動したウォーリスに隙を突かれて首筋を打たれる。
そして刈り取られた意識のまま倒れようとする見張りの身体を、ウォーリスは抱き留めながら物陰に隠した。
それから地下の牢獄に繋がる扉の前に立ちながら周囲を見渡し、内部の気配を読み取りながら他に人間の気配が無い事を確認して静かに開く。
すると仄かに灯されている地下へと続く階段を確認し、ウォーリスは覆われている顔の中で微妙な面持ちを浮かべた。
『……まるで、あの日と同じ階段だな』
幼い頃に父親に連れられた地下の実験室に続く階段と、牢獄に続く階段が奇妙な重なりをウォーリスに感じさせる。
それはウォーリスに対して一層強い警戒心と緊張感を抱かせながら、周囲に魔法式を用いた罠がないか探りながら進んだ。
しかしその緊張感と警戒心とは裏腹に、そこまで深くなかった地下室へウォーリスは辿り着く。
そして高める視力で薄暗い地下室の中を問題なく歩き、人の気配と僅かな声が漏れる鉄扉に視線を注いだ。
『……あそこか』
ウォーリスは警戒を緩めずに鉄扉まで歩き、罠が無いかを探る。
そして魔法式や物理的な罠が無いことを確認し終えると、鍵の掛かっていた鉄扉を高めた腕力で強引に抉じ開けた。
それによって響く異質な音が、扉の先に居る者達に僅かな悲鳴と驚きの声を漏らさせる。
しかし彼等の反応を考慮に入れないウォーリスは、抉じ開けた扉を潜りながら幾つかの牢屋が設置されている地下を眺め見た。
『――……全部で、十三名か』
地下の牢屋に囚われている人数を高めた視力で確認したウォーリスは、ふとある人物に視線を留める。
それに対して感情も見せぬままそちらの方向へ歩み出すと、その人物が捕えられている牢屋の前に立った。
するとその人物を見下ろしながら、ウォーリスは小さな溜息を漏らしながら呟く。
『……エカテリーナ』
『――……だ、誰……!?』
その牢屋に囚われていたのは、ジェイクの母親であるエカテリーナ。
両手を鉄鎖の付いた枷によって封じられ、床に力なく座るその姿には、屋敷の中で見えたような威厳の欠片が僅かに垣間見えた。
そんなウォーリスは顔に纏う黒い布地の隙間から見える青い瞳が灯る明かりによって僅かに照らされ、エカテリーナは僅かに表情を強張らせる。
すると憎々しい表情を浮かべ、周囲の驚きを無視しながらウォーリスに対して怒鳴り声を向けた。
『お前は……ウォーリスッ!!』
『!』
『……』
『化物め……! よくも、私達の……ジェイクの邪魔を……。……お前だけは、絶対に許さないッ!!』
目の前に現れた相手がす自分がこうなった元凶だと察したエカテリーナに対して、ウォーリスは冷ややかな青い瞳で見下ろす。
そんな憎悪に塗れた翡翠色の瞳を向けるエカテリーナに、ウォーリスは溜息を漏らしながら話し掛けた。
『……そのジェイクが、お前の馬鹿な行動を止めようとしたはずだ。それを聞き入れていれば、こんな事にはならなかっただろうに』
『なにぃ……っ!!』
『お前の軽率な策略が、この事態を招いたのだ。それは自覚しておけ』
『ウルサイッ!! ……私を笑いに来たつもりかっ!?』
『哀れだとは思うが、笑える程に私の立場も良くはないのでな。……本来ならばお前に対する義理などないが、良く出来た息子に感謝しておけ』
『な……!?』
憎悪と悪態を向けるエカテリーナに対して、ウォーリスは左腰に携えた剣を引き抜く。
そして生命力を纏わせながら鍵が掛けられた鉄格子の扉を容易く切り裂くと、僅かな金切り音を響かせながら扉が開けられた。
更に牢屋の中に踏み込み、エカテリーナに対して剣を向ける。
それに対して憎悪よりも怯えが上回ったエカテリーナが悲鳴を上げる前に、素早い二つの剣戟がエカテリーナが繋がれている鉄枷を切り裂いた。
『キャアアッ!!』
『……ふっ』
短い悲鳴を上げたエカテリーナの肌や腕には一切の傷を与えず、ウォーリスは背を向けながら牢屋を出る。
そして他にも囚われていた従者達の牢屋にも赴き、鉄格子の扉を開けて繋がれている枷を切り裂きながら解放した。
ウォーリスの思わぬ行動に従者達が驚きを浮かべる最中、立ち上がるエカテリーナは訝し気な表情に宿す憎悪と怒りを再び向け放つ。
『……何のつもりよ、化物っ!!』
『言ったはずだ。お前の息子に感謝しろとな』
『!!』
『ジェイクに頼まれた、お前達を救い出して欲しいとな。そうでなければ、お前達など私が助けるはずがない』
『なに……っ!!』
『私を暗殺しようとしたことは、まだ納得も出来る。……だが私の娘まで巻き込もうとしたお前に対して、敵意以外の情を抱くつもりは一切ない』
『……ッ!!』
エカテリーナに対する敵意を殺気として向けるウォーリスは、地下の空間に凄まじい圧力を散らす。
それに当てられた十二名の従者達は怯えの表情を強め、エカテリーナも強面だった形相を青くさせながら身を引いた。
それでも彼女が持つ矜持が、ウォーリスに対して強気な態度を見せる。
『これ以上、化物の助けなど要らないわっ!!』
『……そうか、ならば勝手にしろ。ジェイクにも、お前達が自力で脱出を試みたと伝えておく』
『待ちなさいっ!! ジェイクは何処に居るの!?』
『都市で身を隠している。……お前が始めた事だ。後始末も、自分達でやるんだな』
ウォーリスはそう言うと、ジェイクに対する義理を果たし終えてたと考えながら転移魔法を使う。
そして地下室の中から転移し、再びジェイクの居る宿まで戻った。
残された従者達は白い光に包まれながら消えたウォーリスを見て、驚きを見せる。
しかしエカテリーナだけは憎悪に塗れた表情を強めながら、ウォーリスに対する嫌悪を強めながら解放された従者達に言い伝えた。
『……お前達。外に出たら、武器を手に入れなさい』
『!?』
『エカテリーナ様……!?』
『こうなれば、あの化物だけではなく、それを生み育てた当主も殺すしかないのよ……!!』
『そ、それは……』
『全てを失うか、全てを手に入れるか。もう私達には、その二つしか手段は残されていない! ……さぁ、行くわよっ!!』
『……ッ』
歩み始めたエカテリーナの怒声を聞きながら、周囲の従者達は渋るような表情を強めながらも付き従う。
そして牢屋のある地下室を上り、屋敷内で武器が保管されている別棟を目指しながら向かい始めた。
息子の想いとは裏腹に暴走を続けるエカテリーナは、その果てに凶行へ至ろうとする。
それを止める者もいないまま、ゲルガルド伯爵家内部で起きる内紛は混迷とした様相を見せ始めていた。
応援ありがとうございます!
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