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革命編 七章:黒を継ぎし者

夢の目覚め

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 創造神オリジン精神世界にくたいから脱出したアリアは、循環機構システムを通じて世界の破壊を止められるよう自身と同じ創造神オリジンの生まれ変わりである者達を一つの肉体に集めようとする。
 その一人であるユグナリスに対しては創造神オリジンの精神世界に留まらせ今の自分アルトリアを預けると、アリアは現実の死体からだへと精神を戻した。

 一人目アルトリア二人目ユグナリスの魂を創造神オリジンの肉体に集まると、アリアは三人目となる人物へ視線を向ける。
 それはアリアとエリクが共に旅をして来た、女剣士ケイルだった。

「――……それにしても、まさかケイルまでそうだったなんて……。……ルクソード皇族の血筋で三人もいるとか、どういうことよ……」

 アリアは理想郷に飲まれて以後から意識が戻らないケイルの顔を見て、そうした言葉を漏らす。
 自分アルトリアを含めユグナリスやケイルは『赤』の七大聖人セブンスワンの血を引いており、その血族から三名も創造神オリジン転生者達うまれかわりとなっているのは、何かしらの因果があるようにアリアには思えた。

 しかしそうした因果を今は考えるよりも、アリアはすべき事を考えながら右腕を軽く上げる。
 そして意識の無いケイルの額に右手を開きながら置くと、瞼を閉じながら意識を集中し始めた。

「……やっぱりケイルの精神は、深層意識ねむりから戻っていない。よっぽど手放したくない理想郷ゆめを見てるみたいね……」

 ケイルの精神が表層おもてに戻って来ない理由を悟ったアリアは、深い溜息を漏らしながら額から右手を離す。
 すると今度は結界内の近くに落ちている小枝を拾い、意識の無いケイルが横たわる地面の周囲に複数の魔法陣を囲むように書き込んだ。

 それを書き終えた後、アリアは小枝を落としながら両手を叩くように重ねる。
 更に書き込んだ魔法陣へ両手を重ねると、書き込んだ魔法陣の線を通じて七色の魔力が迸らせた。

 アリアは自身の魔法陣が成功した事を確認し、ケイルを見ながら再び呟く。

「こうなったら、無理矢理にでも起きてもらうわよ。ケイル――……!!」

「……っ!!」

 そうした事を述べるアリアに対して、魔法陣から放たれる七色の奔流を浴びるケイルは表情を僅かに強張らせる。
 それは同時に、深層意識に沈んでいるケイルの精神体《いしき》に変化を起こしていた。

『――……もう御目覚めの時間よ。ケイル』

「……え?」

 理想郷ディストピアから脱し切れず、感応されたままの意識で理想ゆめを見続けていたケイルは、自分の家族と共に暮らす天幕テントの周囲で驚くべき光景を目にする。
 それは身体を発光させながら薄く身体を透けさせているアリアが、何故か真横から話し掛けて来た光景だった。

「……」

『ちょっと、無視するんじゃないわよっ』

 奇妙な人物アリアを見てしまったケイルは、それを無視するように日常の仕事に戻ろうとする。
 しかしそれを引き留めたのは、真横まで迫りながら詰め寄って話し掛けて来るアリアの声だった。

『この秘術わざ、長時間は出来ないんだから。さっさと目覚めなさいよ』

「……昨日の酒、飲み過ぎたかな……。……変なのが視える……」

『変なのって何よ! ……なに? もしかして私の事も忘れてるわけ? そこまで理想郷ゆめに溺れてるの?』

「……後で、姉ちゃんに酔い覚ましを貰おう……」

 自身の理想郷せかいに現れた奇妙な人物アリアに明確な動揺を浮かべるケイルは、そうした言葉を呟く。
 それを聞いたアリアは、理想郷ディストピアに汚染された影響でケイルの記憶が理想と混濁している事をすぐに理解した。

『汚染がここまで酷いなんて……。……私自身アルトリアならともかく、ケイルの精神体に直接触れるわけにはいかないし、表層おもてに出すには自力で目覚めてもらう必要があるのに』

 理想ゆめの中で意識だけを飛ばしてケイルに見せているアリアに、直接的な精神への干渉は出来ない。
 他者の精神が肉体に介入し持ち主の人格に接触しようとすれば、互いの精神が反発して損傷を負ってしまうか、逆に精神同士が強く干渉し人格が破壊されてしまう。

 アリアやアルトリア、エリクやフォウルのように同一の魂から生み出された精神であれば多少の干渉を行っても問題ない。
 元は同じ創造神オリジンの生まれ変わりであるケイルでも、同じ結果になるとは考えていないアリアは危険性を考えて意識だけで精神に呼び掛けていた。
 
 しかしケイルはアリアを幻覚な何かだと認識したまま、まともな態度で取り合おうとはしない。
 逆に現実の心象を中途半端に感じ取っているのか、嫌悪感を強めながらアリアを忌避する表情すら窺えた。

 それでもアリアは許される時間の限り、強気な態度でケイルに呼び掛け続ける。

『ケイル! 私の話を聞きなさいっ!!』

「母さん。羊の乳、持ってきたよ」

『もうすぐ世界が破壊されてしまう! それを阻止する為には、貴方のちからが必要なの!』

「父さん。言われた通り、弓の弦を張り替えて置いたから。今度は切れないようにね」

『そんな仕事こと、やってる暇があったら起きなさいよ。……私の姿も見えてるし、声も聞こえてるんでしょう?』

「姉さん! 今度さ、機織りの仕方を教えて欲しいんだけど――……」

『……ッ』

 ケイルは呼び掛け続けるアリアの意識を無視するように、理想ゆめの家族と共に日常を過ごす。
 それはケイル自身が望み続けた理想の光景でもあり、その支配は非常に強い事をアリアは悟り始めた。

 そうして姉レミディアの理想すがたを追おうとするケイルに、アリアは今までのような怒鳴り声ではなく、ただ静かに落ち着き払った声を背中に向ける。

『エリクが、一人で戦ってるの』

「!」

『今も彼は、一人で戦い続けてる。……私や貴方を守る為に』

「……エリク……?」

『エリクをお願いって、私は貴方に御願いしたわよ。螺旋の迷宮スパイラルラビリンスから脱出しようとした、あの時に』

「……!!」

『そんな貴方が、こんなところで在りもしない理想ゆめを見たまま、何もしない気? ――……だとしたら、私は貴方を心の底から軽蔑するわ――……』

 そう告げた後、アリアの意識体は時間切れとなってケイルの理想ゆめから姿を消す。
 言葉それを聞き足を止めながら振り返ったケイルは、耳に強く残る『エリク』という名前と、幻覚アリアの皮肉めいた言葉に僅かな動揺を浮かべた。

 そんなケイルに対して、後ろから理想ゆめの姉レミディアが呼び掛けて来る。

「リディア。どうしたの? またぼーっとしちゃって」

「……姉さん」

「ほら。時間が出来たから、機織り教えちゃうよ。一緒に行こう」

 そう言いながら微笑む姉レミディアに手を引かれるケイルは、それに抗うように踏み止まる。
 するとレミディアは不思議そうな首を傾げ、動揺した面持ちを浮かべるケイルに話し掛けた。

「リディア?」

「……ごめん、姉さん。……アタシ、行かなくちゃ……」

「行くって、どこに?」

「……分からない。……でも、行かなきゃいけないような……そんな気がするんだ……。……アイツの、ところに……」

 そう言いながら僅かに後退るケイルに、レミディアは僅かな驚きを浮かべる。
 しかしその後、微笑むような表情でこうした言葉を送った。

「そっか。……ねぇ、リディア」

「……?」

「ちゃんと、幸せになってね」

「……姉さん?」

「私は、それだけが心残りだったから。――……貴方の大好きな人を、守ってあげて」

「……!!」

 優しく語り掛けながら抱擁する姉レミディアに対して、ケイルは動揺した面持ちを浮かべる。
 するとレミディアは抱き締めたケイルの両肩に手を置きながら振り返らせると、そこにある二人の人物が立っていた。

 それは厳しき幼少時代に師事を仰いだ、武玄ブゲントモエの姿。
 そして無言の武玄ブゲンが差し出す見覚えのある刀を両手で受け取ったケイルは、そこで初めて理想ゆめではない現実の記憶を思い出していた。

「……そうか。アタシは……理想ゆめを見ちまってたんですね。師匠……。……確かに、良い理想ゆめだったけど……。……もう、理想そういうのなんて必要ない」

 そう言いながら自らの姿を現実と同じ装備ふくに変化させたケイルは、差し出された刀を自らの左腰に差し戻す。
 それを微笑みながら見つめる師匠達もまた淡い光と共に消え崩れると、ケイルは振り返ることなく理想郷ゆめから現実へと歩き出した。

 すると現実世界において、ケイルの瞼が重くも開かれ始める。
 そして濃くも赤深い瞳を見上げると、膝を着きながら見下ろす人物の顔を確認した。

「――……チッ。この世で一番、見たくないやつを見ちまった……」

「あら、私はそうでもないわよ」

 ケイルは真横に座るアリアの姿を見ながら、そうした言葉を零す。
 するとアリアもまた嫌味を含んだ微笑みを浮かべ、ケイルの目覚めを確認していた。

 こうして本当の意味で理想郷ゆめから脱したケイルは、現実世界に意識を戻す。
 これで創造神オリジンの生まれ変わりは三人揃った形となり、後は残り一名だけとなった。
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