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革命編 七章:黒を継ぎし者
英雄の居場所
しおりを挟む創造神の世界破壊計画が進行する中、それを止める為に『黒』の提案をアリアは実行する。
それは自身を含んだ創造神の転生者達を集め、一つの肉体に四つの魂を用いて一時的に循環機構へ命じられるよう復活を促す事だった。
一人目と二人目の魂は既に創造神の中に介在しており、アリアは三人目となるケイルの意識を理想郷から現実へ戻す。
そうして意識を戻した状態で再び顔を見合う二人の中で、特にケイルが表情を厳しくさせ鋭い視線を向けながら問い掛けた。
「――……また未来の時みたいに、自分の死体を操ってるのか?」
「ええ」
「そうかよ。――……ッ!!」
「!」
ケイルは上体を起こしながら応急処置が行われている左腕の痛みを我慢し、膝と腰を立たせる。
すると凄まじい速さで左腰に収めてある小太刀を右手で引き抜き、瞬く間にアリアの首に添えながら教え当てた。
それに驚きながらも動揺を浮かべないアリアに、ケイルは殺気に満ちた鋭い眼光を向けながら問い掛ける。
「別に、驚く事でも無いだろ。未来で殺し合った仲なんだからよ」
「……まぁ、そうね」
「お前も『黒』に選ばれて、『青』に手を貸してるってのは天界に来るまでに理解してたさ。……だがな、現在と未来とは話が別だぜ」
「……」
「お前があの未来でやってた事は、例えアタシ等を助ける為に記憶を失っていたからだと言っても、許容の範囲を超えちまってる。……そんな死人のお前が、今更になって世界を救うだの、どんな神経で宣うつもりだ?」
ケイルはそうした言葉を向けながら、理想の中でアリアの意識体が伝え続けた言葉の真意を説く。
それはケイルの心根で深く突き刺さるアリアへの猜疑心から来る言葉であり、それがどのような意図で行おうとしているか見定める為の問い掛けでもあった。
そんなケイルの猜疑心に、アリアは青い瞳を向けながら口を開く。
「そうね……。……本音を言えば、こんな世界なんてどうなってもいい。そう思ってる自分がいるわ」
「……ッ!!」
「私を殺して虐げるような世界なんか要らない。地上の奴等がどうなろうと、知ったことじゃない。……未来の自分《わたし》と融合した私自身は、そう思っているのよ」
「……じゃあ、なんで……」
「決まってるじゃない。――……この世界には、エリクがいるからよ」
「!!」
嫌味を秘めるような微笑みを浮かべるアリアは、そう言いながら視線を横に逸らす。
するとその先には『神兵』達に孤軍奮闘しているエリクの姿があり、ケイルもまたそれを確認しながら言葉の続きを聞かされた。
「前に、貴方には言ったでしょ。私がエリクを何にしたがっているかって」
「……まさか、マシラの時に言っていた……」
「そう、私はエリクを英雄にしたいのよ。――……そして人々から賞賛され、讃えられる存在にしたい。彼がこの世界で、彼として在り続ける為に」
「……!!」
「エリクを英雄にする副産物として、私は世界の破壊を止めたいだけ。手柄なら全部、アンタ達に上げるわよ」
「……お前、どうしてそこまで……ッ!!」
影のある微笑みを浮かべながらエリクを英雄にする事に固執し語るアリアに、ケイルは理解し難い感情を浮かべる。
すると不思議そうに首を傾げたアリアが、然も当然のように言葉を続けた。
「あら。貴方が一番、理解してくれると思ったけど」
「何をっ!!」
「自分が認めた男が、中途半端な立場を彷徨ってるのは嫌じゃない?」
「……え?」
「エリクは良い男よ。強くて、いつも真っ直ぐで。何より、人を惹き付ける魅力もある。……そんな彼が、いつまでも罪人や流浪の傭兵と呼ばれ続けるなんて、私が我慢できないのよ」
「……!」
「だからエリクには、誰もが認める英雄になってもらおう。……そうすれば、エリクには居場所が出来る。唯一の居場所だった私一人に、拘ったりしなくなるでしょ?」
「……お前……」
「エリクは私が、あの森から連れ出した。でもあの時から、エリクは私の隣を唯一の居場所だと考えて、囚われ続けている。……もう彼には、そんな不自由な思いはさせたくないのよ」
アリアは初めてエリクを英雄にする為の本音を話し、それをケイルに聞かせる。
それは未来の出来事を経て、アリアが考え続けたエリクとの正しい別れ方でもあった。
例えエリクは、自分が死んでもその存在に固執し続ける。
そして自分という存在がエリクの思考を淀めてしまい、彼自身の自立を促せない事をアリアは自覚していた。
だからこそ、エリクを誰もが認める英雄にする。
名前と姿を見ただけで褒め称えられるような存在となり、自分以外に彼の居場所となる場所が出来上がれば、自然とエリクも自立できるのではないかと考えていたのだ。
そうしたアリアの言葉を聞き、ケイルの鋭かった視線が僅かに見開く。
しかし首に沿えた小太刀を強く握り直したケイルは、ある決意を秘めた瞳を向けながら再び問い掛けた。
「……世界を救った後、お前はどうする?」
「消えるわ。勿論」
「!」
「私は元々、死人の魂よ。それが『黒』の意思で生かされて、過去に戻されているだけ。……用事が終わったら、輪廻に戻るか、死んだ未来に戻って成就するんでしょうね」
「……」
「ああ、勿論。今の私はどうにかして生き返らせるわよ。でもそれに取って代わろうなんて思わないし、記憶の無いあの子だったらエリクをうざがって遠ざけようとするでしょ。だから、何も問題は無いわ」
「……お前は、それでいいのか?」
「良いも悪いも無いわよ。――……私は今も昔も、貴方が嫌いな身勝手で我儘な御嬢様なのよ」
淀みの無い言葉と笑みで伝えるアリアの意思に、ケイルは瞼を重くするように閉じる。
そして首に沿えていた小太刀の刃を遠ざけると、左腰にある鞘に納刀しながら一息を吐き出した。
すると左手の無い状態で立ち上がりながら、同立するアリアに対して言葉を向ける。
「……アタシは、何をすればいい?」
「一時的に貴方の精神を創造神へ移すわ。そこで私達と一緒に、創造神の肉体を制御してほしいの」
「創造神の肉体を、制御?」
「ある特定の魂を複数集める事によって、創造神の肉体を完全に制御できるようになるの。そして制御した後、循環機構に命じて創造神の破壊計画を止めるわ」
「……よく分からんが、その制御ってのにアタシの魂も必要なんだな?」
「ええ。お願い出来る?」
「……仕方ないだろ。ちゃんとアタシの魂、元の身体に戻しとけよ」
創造神の転生者などの話を省きながらも、アリアはケイルへ魂の助力を頼む。
それを受け入れたケイルは渋々な様子を浮かべながらも、頼みに応じる形で引き受けた。
するとアリアは口元を僅かに微笑ませながら、ケイルから視線を外して呟く。
「これで三人目まで完了ね。……問題は、もう一人」
「もう一人?」
「後一人、魂の助力が必要なんだけど……」
「……おい、まさか。それって……」
アリアが視線を向ける相手に気付いたケイルは、最後の一人に選ばれている人物に驚きを浮かべる。
そしてアリア自身も視線を向けながらも、それが現状では難しい事を一番に理解していた。
二人が視線を向けるのは、『神兵』達と相対する傭兵エリク。
そしてアリアが目標としていたのは、彼の中に存在する鬼神だった。
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