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革命編 七章:黒を継ぎし者
原点回帰
しおりを挟む再び再会したアリアとケイルは、未来の戦いを経て感じ取っていた互いの遺恨を取り払う。
これで三人目となる創造神の転生者となる魂が揃った事で、残る四人目へとアリアは意識と視線を向ける事になった。
それこそが、『神兵』達を相手に孤軍奮闘する傭兵エリク。
しかしその瞳が向けているのはエリク本人ではなく、その魂の中に介在するもう一人の鬼神フォウルだった。
その切っ掛けとなる『黒』との話を思い出すアリアは、表情を渋らせる。
『――……三人目は、私を嫌ってるケイルってことね。それで、四人目は誰なの?』
『彼だよ』
『……これって……エリクじゃないっ!?』
深層意識にて投影されたエリクの姿を見て、流石のアリアも困惑を強める。
そして今度も、エリクが創造神の転生者である事を否定の言葉で口にした。
『エリクが創造神の生まれ変わりのはずないでしょっ!! エリクはね、鬼神フォウルの――……』
『そう、彼は鬼神フォウルの転生者。そして鬼神フォウルこそ、下界に七本ほど存在したマナの樹から生まれた、創造神の転生体なんです』
『な……!?』
『鬼神の人格を形成しているのは、創造神の怒り……【憤怒】という感情でしょう。それ故に魂が怒りに呼応すると、凄まじい能力を得て発揮する。それが鬼神フォウル、過去にも最強の到達者に数えられていた一人でした』
『……でも、それが本当だとして。それじゃあ、エリクの魂も必要ってこと?』
『必要なのは、魂によって形成された精神です。そして彼の中には、二つの精神が存在している』
『……!!』
『エリクとフォウル。どちらの精神でも問題は無いと思いますが、この状況で主人格であるエリクの精神を肉体から抜き取ってしまうと、戦う事が出来なくなる可能性が高いと思います。なので、用いるとしたら――……』
『……フォウルの精神を、どうにかして創造神まで持って来ないといけないわけね?』
『そういうことですね。……現状では、この四人を天界に集めるのが限度です。後は、貴方に御任せします。アルトリア』
四人目のことを伝え終えた後、『黒』の集合意識は瘴気の中へと消える。
そして表層まで自身とアルトリアの精神体を逃れさせたアリアは、創造神の転生者達を集め始めた。
その最後となる四人目を連れて来る方法を考えるアリアは、エリクを取り囲む『神兵』達を見ながら呟く。
「――……そもそも、エリクと鬼神の精神を切り離しても問題ないのかって話よね……」
「え?」
「こっちの話よ。……ケイル、貴方はこの結界の中にいて。私は、エリクをこちらに呼び戻すから」
「あっ、おい!」
説明を大幅に省きながら創造神の結界を出たアリアは、飛び出すようにエリクが居る場所へと走る。
それを追おうと僅かに躊躇いを見せたケイルだったが、薄く張られた創造神の結界から身体を出さず、その場に踏み止まらせた。
するとエリクが放つ赤く強力な斬撃が、『神兵』達を上手く一掃する。
その合間を縫うように跳び現れたアリアが、張り上げた声でエリクに呼び掛けた。
「エリク!」
「――……アリアッ!?」
その時になって再び死体を使ってアリアが動き出していた事に気付いたエリクは、意識と首を振り向ける。
ウォーリスの制御によって『神兵』達の出現速度が遅れていた事もあり、瞬く間にエリクはアリアへと駆け寄った。
「どうしたんだ、創造神を起こせなかったのか?」
「違うわ。――……エリク、鬼神と話せる?」
「え? ああ、出来るが。それにこの会話は、鬼神にも聞こえている」
『――……あ?』
唐突に呼ばれるフォウルの名前に、エリクと本人は反応を示す。
それを確認したアリアは、単刀直入にフォウルへ協力を打診した。
「フォウル、貴方の手を貸して。貴方の精神を、一時的に創造神まで移したいの」
『……何言ってんだ、この嬢ちゃん?』
「どういう事なんだ? アリア」
「創造神の肉体は、蓄積された憎悪の瘴気によって満たされてしまっているの。それを一時的に解いて循環機構を制御できるよう人格を制御する為には、幾つかの精神と魂の助力が必要なのよ」
『……おい、エリク。その女に触れろ』
「あ、ああ」
求める役割を伝えたアリアに対して、フォウルはエリクに命じるように肉体同士を接触させる。
するとエリクが握った細腕を通して、フォウルは自身の思考をアリアに伝えた。
『……この俺に、創造神の瘴気を跳ね除ける役目をやれってか?』
「ええ、そうよ」
『断ると言ったら?』
「世界が滅ぶ。それだけよ」
短くも明確に忌避する声色と言葉を浮かべたフォウルに、アリアは端的な回答を答える。
それを聞いたフォウルが沈黙を浮かべると、今度はエリクが何かを考えながら言葉を口にした。
「……ここは、俺がなんとかする。だからフォウル、お前はアリアを手伝ってくれ」
『あ? なんで俺が……』
「お前が助られるなら、助けた方が良い。……俺は、俺が出来るやり方で助けるだけだ」
『……チッ』
エリクはそう言いながらマナの大樹へ視線を移すと、再び『神兵』達が出現する光景を確認する。
そしてエリクの言葉に淀みや迷いが無い事を理解できるフォウルは、短い舌打ちを鳴らした後にこう述べた。
『……おい、嬢ちゃん。繋ぎ直した俺との回線、まだ使えるはずだな』
「ええ」
『だったら、それを使って俺を創造神の中に呼べ。俺の精神が余裕で通れるくらいの空間は、開けておけよ』
「分かったわ――……ッ!!」
「また来るッ!!」
フォウルの説得を完了させた後、再びマナの大樹から出現した『神兵』達がエリクへ襲い掛かる。
それを飛び避けるアリアと立ち向かうエリクは、触れ合わせていた肉体を離れさせた。
『神兵』達に対応するエリクの背中を見ながら、アリアは再び創造神の結界外まで戻って来る。
「『黒』! 聞こえてるなら、結界の中に入れてっ!!」
「!?」
アリアが突如として『黒』の名を呼びながらそう告げると、創造神が張っていた結界の一部が円形状に解ける。
そしてアリアが入れる程の隙間が生み出されると、そこに跳び込んだアリアは再びケイルと合流して見せた。
それに驚くケイルに対して、アリアは有無を言わさずに右腕を掴む。
「お前、さっき『黒』って――……!」
「その話は、創造神の中に入ってからよ!」
「お、おいっ!!」
「さぁ、三人分の魂を追加よ。――……行くわっ!!」
「ッ!!」
アリアは右手を創造神に触れさせると、そこに白い閃光が走る。
それが痛みとなってアリアとケイルの肉体を通過すると、二人の精神が創造神の中へと流れ込み始めた。
それを背中で見届けるエリクは、再び『神兵』達と対峙する。
こうして創造神の転生者達は、再び創造神という原点へと回帰したのだった。
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