虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 八章:冒険譚の終幕

天才の行先

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 ベルグリンド共和王国の国王ヴェネディクトの相談役になっていたクラウスと再会したエリクは、同行するワーグナーと共にメディアの話を聞く。
 しかし人間と思っていた彼女メディアの実態は、エリクが考える以上に特殊な存在である事が判明し始めた。

 その一端とも呼べる容姿の変貌について聞いた後、エリクは考えながら問い掛ける。

「……その女メディアは人間なのか? 実際に肉体からだを変えられる人間なんて、俺は見た事も聞いたこともない」

「人間か……。……そうだな、メディアは人間ではないかもな」

「なら、魔人か? 魔人のように、姿を変えられる者もいる」

「可能性はある。……だが私にとって、それはどうでもいい事だったのでな。気にした事は無い」

「なに?」

「いや、正確には気にしなくなったと言うべきか。……私だけが知る世界が全てではない。それをログウェルやメディアが同行した旅を通じて、知ったからな」

「!」

「メディアが帝城しろが預けられてから一年後、ログウェルが戻って来た。そして一般教養を身に着けたメディアに対して、ある程度の修練を行うと言ってな」

「修練?」

「俺も修練それの詳細は知らない。それから五年が経った後、ログウェルと共に成長したメディアは戻って来た。そして私と兄上は、二人に連れられる形で人間大陸の各地を旅する事になった」

「王族が、どうして旅を?」

「『緑』の七大聖人セブンスワンがある程度まで見込んだルクソード皇族を連れて旅をするのは、内密だが慣例的な行事だった。皇国にいる元『緑』の七大聖人セブンスワンバリスも、皇国建国から同じような事をしていたそうだからな」

「かんれい……風習のようなものか?」

「そうだ。その慣例としてログウェルに見込まれた私と兄上は、三年という期限で人間大陸の中を旅して回った。実際に世界の状況を目にし、様々な国々の統治方法を学び、私達に実戦訓練を施す為にな」

 クラウスはそうした情報を明かし、『緑』の七大聖人セブンスワンに関わるルクソード皇族の慣例を話す。
 それを聞いていたワーグナーは納得しながらも、気付くように声を浮かべた。

「で、その帰り道に旧王国ここへ寄って、俺と殴り合ったわけか。……待てよ。じゃあ、あの時の爺さんが……?」

「そう、師匠だったログウェルだ。お前達はあの時、既にログウェルと会っていた事になるな」

「もしかして、そのメディアって奴も一緒に居たのかよ?」

「一緒に居た。だがお前と殴り合った時には、まだ宿に居たはずだ。だから見ていないかもな」

「……宿に。……あぁ、そうか。あの女が……」

 旧王国ここに来ていたクラウス達とワーグナー達が会った際、メディアが宿そこに居た事が明かされる。
 するとエリクの記憶が呼び起こされ、当時その宿を見上げた際に窓から自分に手を振っていた十代前半の少女を思い出した。

 その少女の顔とアルフレッドから渡されたメディアの映像すがたが重なり、ようやく彼女の姿を見て記憶が刺激される原因が判明する。
 幼い頃の自分エリクがメディアを実際に目にし、出会っていた事を呟きながら思い出した。

 すると箱舟ふねにあるメディアの映像も思い出したエリクは、クラウスに対して声を向ける。

「実は、俺が探しているメディアという女の姿絵が箱舟ふねにある。実際に見て、本人か確認できるか?」

「メディアの姿絵? ……分かった、後で確認に向かおう」

「頼む。それと、俺が知っているメディアの行動について知りたい事がある」

「なんだ?」

「メディアは三十年近く前に、ルクソード皇国に行っていたらしい。俺達が会った時から、数年は経った後のはずだ。その時は、お前達からメディアは離れて動いていたのか?」

「……いや。その時期なら、メディアは私と共に行動していた」

「お前と?」

「皇国のハルバニカ公爵家からの要請で、次期皇王候補者となる皇子を帝国側は求められてな。ハルバニカ公爵家の直系血筋である兄上と私が候補に立てられ、私が皇王候補者として皇国に向かった。その時、メディアも一緒に同行していた」

「!」

「ただ私がハルバニカ公爵家に庇護下に置かれる形となってからは、メディアは離れて活動していた。それから内乱を終えるまで、私はメディアと会ってはいない」

「……内乱が終わった後には、会ったのか?」

「ああ。その時には私は皇王候補から自ら退しりぞき、メディアがいつの間にか知り合ったというナルヴァニアから請け負ったという仕事で、宗教国家フラムブルグへ共に渡った」

「!!」

「その時に、メディアは私と関係を持った。更に色々と宗教国家フラムブルグで騒動を起こしている最中、私の子を身籠った事を明かしてきた」

「関係を持って、子供を身籠った?」

「なんだ、言い回しが分からんか。ようするに、メディアと性交渉セックスをしたんだ。向こうから誘われてな」

「!?」

「……せっくす?」

 率直にメディアと性交渉かんけいした事を話すクラウスに、エリクとワーグナーは驚愕を浮かべる。
 しかしエリクが性交渉それに関して首を傾げる最中、彼女に関する事前情報を知った上でワーグナーは恐る恐る問い掛けた。

「……男にも女にもなれる奴と、ヤったのかよ?」

「その時には、メディアを女だと思ってたからな。そういう体質だと知ったのは、帝国に戻って開拓を始めてからだ」

「ふぅん。……で、そん時に出来た子供が現ローゼン公セルジアスか」

「そういうことだ。……だが実際、皇族の私が子供を得るというのは、既に皇太子として次期皇帝となる兄上の権威を妨げる可能性がある。本来であれば、私は子を持つつもりが無かった」

「じゃあ、なんで二人も……」

「メディアが望んだのだ。子供を作ってみたいとな」

「!?」

「ナルヴァニアと会い、彼女が子供という存在を大事にしている事が気になったらしい。自分も子供を持てば、その気持ちを理解できるのではないかと知りたがっていた。……だからメディアは、子供を得る為に私と関係を持つ事を望んだ」

「……それって、なんつぅか……アンタへの照れ隠しとかじゃねぇのか?」

「いや。アレは私への愛情よりも、興味本位で子供を持ちたいという本音だった」

「……体質だけじゃなくて、性格も変わってるな。そのメディアって奴も」

「私もそう思うがな。……だが当時の私も、皇族同士の争いで荒んだ精神を癒すようにメディアに強く惹かれていた。だから関係を持つこと自体に、さほどの抵抗は無かった」

 そうしてメディアとの間に子供が出来た経緯を話すクラウスに、ワーグナーはいまいち理解を示せず表情を渋らせる。
 そんな会話をしている二人に首を傾げるエリクは、率直に問い掛けた。

「よく分からないが、男と女が何かすると子供が出来るのか?」

「おい、ちょっと待て。……どういうことだ、ワーグナー?」

「……あぁ、そういえば……。……コイツエリクにそういうことを教えたことも、そういう所に連れて行った記憶もねぇな……」

「まさか、本気で言っているのか?」

「しょうがねぇだろ。俺は俺で惚れてる女マチルダがいたし、コイツはコイツで戦闘と訓練ばっかだったし。基本的に俺達で行動すると、そういう所に近寄りもしなかったんだよ」

「……まさか、お前も……女を知らんのか?」

「俺はちげぇぞっ!? コイツだけだっ!! それにコイツも、そういう情事ことがあるのは知ってんだよ。でもそういうのを見る機会が、ほとんど盗賊とかが女を攫ってヤってた時の光景モンだし。俺達の師匠おやっさんが特にそういうのを嫌う人だったから……」

「……なるほど。そういう行為モノが禁じられた行為だと、無意識に忌避しているのか」

「?」

 三十年近く王国傭兵をしながらも性知識そういうことに関してあまりにも乏しい理由を、元相棒であるワーグナーは推察する。
 それは幼い頃から傭兵として活動する弊害であり、同時に黒獣傭兵団かれらの成していた気質がそういう知識や行為を遠ざけていたのが原因だった。

 そんな二人の会話を聞いても首を傾げているエリクを見ながら、クラウスは改めて話を戻す。

「まぁ、話が脱線したが。そういう理由で、私はセルジアスとアルトリアという二人の子供を持った。……だがアルトリアが生まれてから半年後、メディアは姿を消した。それからどうしているかは知らない。知っている可能性があるのは、ログウェルだけだろう」

「ログウェル……あの老騎士じいさんか」

「アルトリアが二歳の頃に起こした事件については、何か聞いているか?」

「……確か小さな頃に、友達を傷付けたという話は聞いた」

「それだな。その時の事件を切っ掛けに暴走したアルトリアは、私を殺そうとした。それでしばらく拘束していたのだが、ログウェルの紹介で来たという『青』の七大聖人セブンスワンガンダルフに預ける事になった」

「!」

「恐らくメディアが自分の娘アルトリア能力ちからについて、再会したログウェルに伝えたのだろう。そうでなければ、ログウェルが『青』に頼むはずがない」

「だからあの老騎士《ログウェル》が、失踪したメディアと何処かで会ったと?」

「多分な。私達の修練を終えた後、ログウェルはすぐに帝国を発った。それから帝国から戻っていたという情報が無い以上、そう考えるのが自然だ」

「……そうか。……なら、老騎士やつを探すしかないか」

 クラウスの推察を聞いたエリクは、メディアの行方を探る為にログウェルから聞く必要がある事を理解する。
 そして腰を下ろしていた長椅子ソファーから立ち上がると、クラウスに向けて伝えた。

「情報、感謝する。俺はこの後、ログウェルを探しに行く」

「そうか。私達もログウェルを見つけたら、そちらの箱舟ふねに知らせよう」

「頼む。それと、メディアの姿絵だが……」

「確認が必要なら、行こう。――……おい、ヴェネディクト! 起きろっ!!」

「ひゃぁっ!?」

「少し席を外す。その間、しっかり政務に励めよ」

「わ、分かってるよぉ……」

 眠気に負け机に突っ伏して寝ていた国王ヴェネディクトを怒鳴り起こすクラウスは、そのままエリク達と共に王城から出る。
 そして王都の外に着陸していたエリクの箱舟ふねに乗り、メディアの映像すがたが視れる艦橋ブリッジに赴いた。

 同行しているワーグナーも含めて、三人は魔導人形ゴーレムが映し出したメディアの姿を目にする。
 するとクラウスは渋い表情を浮かべ、頷きながら話した。

「――……この姿は、確かにメディアが普段の偽装で用いていた姿だな」

「ならやはり、アリアの母親と同一人物か。……んっ、普段の偽装?」

「そうだ。メディアは普段、好んで使う偽装の姿がある。私達と一緒に修行の旅をしていた時は、常にこの偽装すがただった」

「……まさかお前は、メディアの本当の姿を知っているのか?」

「知っているぞ。幼少時は偽装などしていなかったからな。だが魔法を学んでからは、この映像に近い偽装を常に行っていた」

「なら最初は、どんな姿だった?」

「確か、珍しい髪と目の色をしていたな。……そうだ、白に近い銀髪で赤い目をしていた」

「銀髪に、赤い目……」

金髪碧眼われわれとは対照的な見た目だったので、物珍しかったから覚えている。だが一週間も経つと魔法を覚えて、すぐにこの映像通りの茶髪と翠の目になっていた」

「……まさか……。いや、だが……」

 クラウスの話す真の姿を聞き、エリクはその容貌がある人物と重なる。
 そうして悩むエリクに、魔導人形ゴーレムがある報告を伝えた。

『――……音声通信オンセイツウシントドキマシタ。通話ツウワ開始カイシシマスカ?』

「なに? ……誰からだ?」

魔力周波数マナシュウハスウハ、マシラ共和国キョウワコク提供テイキョウシテイル箱舟ノア八号機ハチゴウキカラデス』

「マシラ共和国? ……開始してみてくれ」

『ハイ』

 マシラ共和国の箱舟ふねから通信が届いた事を知らされたエリクは、それに応じるよう魔導人形ゴーレムに命じる。
 そして操作盤を扱い、通信装置を経由して艦橋内ブリッジに相手側の声が届いた。

 その声を聞いたエリクは、その人物が誰かをすぐに察する。

『――……おーい、誰か聞こえてるー?』

「この声……マギルスか?」

『あっ、その声! エリクおじさんだね!』

 互いに発せられた声が届いたのか、二人は互いに相手の存在を認識する。
 そして唐突な通信と共に、マギルスは用件を伝えた。

『おじさん、共和国こっちにおじさんとアリアお姉さん達が来てないかって帝国むこうから連絡があったみたいだけど。みんなでどっか行ってるの? 僕だけ置いてけぼり?』

「俺達は人探しをしている。だが俺は、アリア達とは別行動だ」

『人探し? 誰を?』

「『白』が言っていた、創造神オリジンの欠片を持つ者達だ。アリア達も俺も、その可能性がある人物達を探している」

『へぇ、そうなんだ。おじさんは誰を探してるの?』

「メディアという女……いや、女かどうか分からないが。女の風体をした魔法師らしい」

『メディア? あれ、それどっか聞いたなぁ。――……そうだ、あの時だ!』

「?」

『ほら、僕達がフォウル国の里に来た時。おじさんが休んでる僕を担いで、牛のおじさん達と何か話してたでしょ。その時に出てた名前じゃなかったっけ?』

「……そうだ、思い出したっ!!」

 うろ覚えながらもメディアの名を記憶していたマギルスが、その名を始めて聞いた時の事をエリクに思い出させる。
 それは彼等がフォウル国へ赴き里の中を歩いている際に、干支衆の『牛』ゴズヴァールと『戌』タマモが話していた人物の名だった。

 こうしてマシラ共和国に残っていたマギルスと連絡が取れたエリクは、意図しない形でメディアの情報を思い出す。

 それは当時の彼等にとって、ほぼ無関係だった為に聞き流した名前。
 魔大陸に向かったとされる人間の女性であり、彼女もまた『メディア』という名で魔人達に記憶されて存在だった。
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