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革命編 八章:冒険譚の終幕

足跡を求めて

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 ベルグリンド共和王国へ再び訪れたエリクは、クラウスからメディアについて話を聞く。
 そして彼の口から明かされる情報は、メディアの人物像において更に謎を深めながらも、明確な姿を見せ始めた。

 そして箱舟ふねに備わる通信装置を用いて、マシラ共和国に残っていたマギルスから連絡と取れる。
 するとエリクがメディアの事について話すと、マギルスの口からメディアについての情報が思い出された。

 彼等が既に聞いていた情報の中で、最も有力なメディアの行先。
 それは『牛』バズディールが語った話であり、エリクは自分の記憶を確認するようにマギルスへ問い掛けた。 

「――……確かにフォウル国の里あそこで、『メディア』という名は聞いた。そして、ログウェルも同行していたと……」

『あっ、その名前も言ってたね。誰か知らないけど!』

「メディアという者は帝国から姿を消した後に、ログウェルと合流しているという話になっていた。そして二人は合流しフォウル国に向かったのなら、辻褄は合う」

『じゃあ、おじさんの探してる人はその人で確定? でもその人、魔大陸に行ったんじゃなかったっけ?』

「確か、そう言っていたな」

『じゃあ、魔大陸まで探しに行かなきゃなのかぁ。どうする? おじさん』

「……」

 メディアの行先を聞かされていた二人は、それを探す為に魔大陸へ渡る必要がある事を理解する。
 しかし魔大陸の何処へ向かったのか分からず、魔大陸に関する知識をほとんど有していない彼等にとって、その行先を探るのは非常に困難な状況だった。

 するとエリクは必死に自身の記憶を呼び戻しながら、メディアの手掛かりを知る可能性がある人物を思い出す。

「……奴に、巫女姫に会おう」

『巫女姫に?』

「確か巫女姫やつは、魔大陸むこうに行こうとしたその女メディアと会って話していたと聞いた覚えがある。もしかしたら、何か知っているかもしれない」

『そうだっけ。じゃあ、フォウル国に行く?』

「ああ」

『じゃあ、僕も行くよ! 丁度、暇になったしさ!』

「暇? ……そういえば、共和国そっちで何をやっていたんだ?」

『ゴズヴァールおじさんと戦ってた!』

「!」

再戦リベンジしたんだ、そして勝ったもんね! これで目標の一つは達成!』

「……まさか、殺したのか?」

『殺してないよ、ちゃんとまいったって言わせただけだもんね! 驚かせるくらい成長したなって褒めてくれたし!』

「そうか。良かったな」

『うん! それより、何処で合流しよっか?』

「帝国のローゼン公爵家は?」

『そこ分かんないよ。僕、帝国そっちの場所って詳しくないから』 

「その箱舟ふねで来れないか? 魔導人形ゴーレムに命じれば行けるはずだが」

『……この箱舟ふね共和国ここで使うから持っていかれると困るってさ。だから自分で飛んで行くよ!』

「そうか。なら、どうするか……」

 帝国ガルミッシュ共和王国ベルグリンドの地理に詳しくないマギルスと合流する為に、エリクは何処へ向かうべきかを思案する。
 すると同じ艦橋ブリッジに居るワーグナーが、思い出すように声を向けた。

「エリク。フォウル国ってのは、確か魔人の国だよな?」

「ああ、そうだ」

「なら、そこに一瞬で行ける奴を知っているぞ。多分、マギルスって奴がいる共和国くににもそいつなら行けるんじゃないか?」

「なに? 誰なんだ、それは」

「帝国に住んでる、クビアって女の魔人だ。あの女、確か転移魔術ってのを使えるらしくて。何度かフォウル国ってのにも転移魔術それで行ってるって話を聞いた」

「!」

「確かマチスの奴が、その女魔人クビアと連絡できるモンを貰ってるはずだ。頼めるよう伝えてみるか?」

「頼む」

「おう、ちょっと待ってろ。呼んで来るから」

 ワーグナーは過去にマチスと繋がりがあった妖狐族クビアの存在と転移魔術について教え、エリクにそうした提案を向ける。
 その案を信じたエリクは、マチスを箱舟ここまで連れて来るよう頼んだ。

 するとワーグナーは初老の身体ながらも、軽く走りながら艦橋ブリッジを出て行く。
 そうした会話を通信越しに聞いていたマギルスは、その案に異論を挟まずに伝えた。

『じゃあ、僕は共和国ここで待ってた方がいい?』

「そうだな。もし共和国そっちに行けそうなら、こっちから連絡する。それまで待っていてくれ」

『分かった! じゃあ、僕は一眠ひとねむりするね。ゴズヴァールおじさんと昨日からずっと戦ってて、眠ってないんだぁ』

「ああ」

『じゃ、また後でね――……』

 欠伸を漏らすマギルスの通信が途切れた後、エリクは状況の進展に関して改めて頭を整理しようとする。
 しかし艦橋ブリッジに残っていたクラウスが今までの話を聞き、沈黙を保っていた口を開いて声を向けて来た。

「……エリク」

「?」

「私も、その巫女姫という者がいる場所へ連れて行けるか?」

「!」

「メディアが魔大陸に居る可能性は理解した。だが、どうして魔大陸に向かったのか。それを知りたい」

「……まさか、魔大陸に行く気か?」

「そう思わんでもない。……だが恐らく、私では魔大陸には踏み込む事も出来ないだろう」

「!」

「魔大陸が常人では耐えられない魔境だというのは知っている。二十年前の私ならまだしも、五十代いまの私では魔大陸に挑むのは無謀に近い。……だから、せめて……」

 メディアに対する未練を持つクラウスは、その手掛かりを知るかもしれない巫女姫から話を聞きたいと望む。
 しかし改めてクラウスを見たエリクは、残酷ながらも言い難い言葉を告げた。

「……お前では、恐らく巫女姫に会えない」

「どうしてだ?」

「巫女姫は、魔人の神と呼ばれる到達者エンドレスだ。奴の肉体から放たれる生命力オーラと魔力の圧は、普通の人間では耐えられない。……恐らく今のお前が近付こうとしただけでも、死ぬかもしれない」

「……そこまでか」

「里周辺の環境も人間大陸に比べればかなりキツイが、耐えれば里までは行けるだろう。……だがきっと、巫女姫には会えない」

「……そうか。……分かった。ならば素直に諦めよう」

「いいのか?」

「私も多くの者達から救われた。そんな私が己の欲望で命を危険に晒せば、私を救う為に命を賭けてくれた者達に顔向けが出来なくなる」

「そうか」

「メディアを探すのなら、お前に任せよう。……だが、一つだけ忠告しておく」

「?」

「メディアは一筋縄ではいかない相手だ。それに奴自身の倫理観も独特で、実力も相まっている為に常人から見れば脅威にも見えるだろう。……そして最も恐るべきは、高過ぎる『好奇心』だ」

「好奇心?」

「メディアは自分の知らないモノが存在すると知ると、それを知りたがる癖があった。例えそれが禁忌と呼ばれるモノであったとしても己の好奇心を優先させて動き、それを全て暴こうとする。それがメディアだ」

「……!」

「メディアの好奇心に見境は無い。そして逆に言えば、既に知っていたり知り終わったモノについては驚くほどに興味を失う。……恐らく私達も、メディアの好奇心きょうみから外れたのだろう。だから奴は躊躇いや言葉も無く、私達の下から立ち去った」

「……そうか」

「メディアというのは、そういう人物だ。……もし奴を見つけて何かをさせようと思うなら、強く興味を引かせるような交渉手段モノを用意しておけ。でないと、決して何事にも応じないだろう」

「……分かった。ありがとう」

 クラウスの忠告を聞いたエリクは、メディアの性格を改めて理解する。
 それは好奇心によって左右される天邪鬼あまのじゃくのような行動原理であり、誰もが持つだろう心理的特徴を極端に高めたような気性だった。

 そうして二人が会話をし終えてから数十分後、ワーグナーと共に杖を着いたマチスが箱舟ふねまで訪れる。
 すると下まで降りていたエリクとクラウスがそれを出迎えると、マチスは懐に忍ばせていた紙札を取り出しながら放し始めた。

「――……これが、クビアのあねさんと連絡できる紙札だ」

「この紙が……。……どうやって連絡を?」

「こう、紙札に魔力を流すんだ。身体に魔力を流すのと、同じ感覚でさ。俺が姐さんクビアに連絡するから、エリクの旦那は俺に触ってくれ。そうすりゃ、向こうの声が聴ける」

「分かった」

 紙札の機能つかいかたについて話すマチスに応じたエリクは、その右肩に手を置く。
 するとマチスは自分の体内から発生させる魔力を紙札に通しながら、その向こう側に居るであろうクビアに声を向けた。

あねさん。クビアのあねさん、起きてるかい?」

『――……んぅ……』

「やっぱりまだ寝てるか。おーい、あねさん! 起きてくれよぉ!」

『……もぉ、何よぉ……うるさいわよぉ……』

 既に早朝を終えそうな時間になりながらも、眠そうな女性の声が紙札を通じて聞こえ始める。
 そして幾度かマチスが大声で呼ぶと、その女性は眠そうで不機嫌な声を漏らしながら応えた。

 ようやく反応が返って来た事に安堵の息を漏らすマチスは、改めて用件を伝える。

「クビアのあねさん、マチスだ。ちょっとあねさんに、お願いがあるんだけどよ」

『……パスしまーすぅ……』

「いやいや、パスしないでくれよ。ちゃんと依頼金も出すから。仕事だと思って受けてくれよ」

『仕事ぉ……? 何よぉ、また何か運ぶのぉ……?』

「ああ、里に人を運んで欲しい」

『……里に人をぉ……? 誰を運ぶのよぉ……』

黒獣傭兵団うちの団長と、その仲間だよ」

『アンタ達の団長ぉ……? その仲間ってぇ……えっ』

 面倒臭そうな声を漏らしていたクビアの声が、その言葉を聞いて突如として驚きに変わる。
 するとエリク自身も言葉を発し、クビアに頼み事を伝えた。

「俺ともう一人、フォウル国に運んでくれ。巫女姫に会いたい」

『……その声、あの鬼神の依り代のぉ……?』

「そうだ。依頼金なら、俺が持っている金を半分ほど渡す。好きに使ってくれ」

『半分ってぇ……?』

「白金貨を一万枚持っているらしいから、半分で五千枚だな」

『白金貨でぇ……五千枚っ!?』

「無理なら、自分でどうにかするが」

『やるぅ! やりますぅ! ちょっと待ってねぇ。準備して行くからぁ! 共和王国ベルグリンドの首都に行けばいいのよねぇ!?』

「あ、ああ」

『それじゃあぁ、三十分……いや一時間後くらいに行くからぁ! ちょっと待っててぇ!』

 報酬金額を聞いた途端に喜々とした様子で飛び付いたクビアの声が発せられると、それから向こうの環境音が騒がしく鳴り響き続ける。
 そしてクビアの声が発せられなくなった紙札に魔力を通すのを止めたマチスは、苦笑を浮かべながら話した。

「ははっ。相変わらずあねさんは、金に目がねぇなぁ」

「金が好きな魔人なのか?」

「まぁ、その辺は色々と事情があるんだ。今のあねさん、帝国の子爵になってるから」

「子爵? 帝国の貴族なのか」

「そうそう。貴族になって貰った領地で、魔人の子供達を育ててくれてるんだ。それにも色々と物入りで、しかも姐さんは消費癖が激しいから。いつも金に困ってるんだよ」

「そうなのか。なら、俺の金を全部渡すか?」

「いやいや、白金貨で五千枚とか十分過ぎるって」

「どっちにしても、俺はそんな大金を使えない。マチス、それにワーグナー。残りの金は黒獣傭兵団おまえたちで使ってくれ」

「えっ」

「後で渡すよう傭兵ギルドへ伝えておく。使い方は、お前達に任せる」

「……相変わらずコイツは、金の使い方が……」

 大金を得ながらも使い道を考えないエリクは、その資金を黒獣傭兵団に全て渡す事を伝える。
 それを聞いて呆れる様子を浮かべるワーグナー達に見られながら、クビアの到着を待つことになった。

 そして約束通りの一時間が過ぎた辺りで、マチスの持つ紙札が青い輝きを持ち始める。
 すると箱舟ふねの周辺に派手な着物姿の金髪女性が突如として現れ、扇子を広げながら仰々しくも華々しい声を発した。

「――……お待たせしたわぁ! 運び屋クビア様のぉ、参上よぉ!」

「……アレが、さっきの?」

「ああ、クビアのあねさんだ」

「相変わらず、派手な格好してんなぁ」

「……干支衆の女に似ているな……」

 初めて目にするクビアの姿を目にしたエリクは、彼女が干支衆の中に居た女魔人タマモと瓜二つの顔をしている事に気付く。
 しかし派手過ぎる服や言動を見て同一人物では無いと気付き、それ以上の詮索は考えなかった。

 こうしてメディアの手掛かりを探る為に、エリクは妖狐族クビアを紹介される。
 そして彼女が最も得意とする転移魔術を用いてマギルスと合流し、フォウル国の巫女姫へ会う準備を整えたのだった。
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