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革命編 八章:冒険譚の終幕

探し人の目的

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 マギルスと合流したエリクは、雇い入れた妖狐族クビアの転移魔術で再びフォウル国へ訪れる。
 しかし姉タマモとの再会を望まぬ様子のクビアを里の外に待機させ、二人は以前にも通った里への抜け道へ向けて歩き始めた。

 その最中、エリクは今まで得た情報をマギルスにも伝える。
 それを聞いたマギルスは感心を見せながら、互いの認識を擦り合わせるように話を重ねた。

「――……ふぅん。じゃあそのメディアって人が、アリアお姉さんやおじさん達と同じ創造神オリジンの欠片なのは確定?」

「まだ分からない。だが【始祖の魔王】や【勇者】と呼ばれている者達と同じ存在なら、可能性は高いかもしれん。……何より、あのアリアの母親だからな」

「アリアお姉さんのお母さんかぁ。どんな人なんだろうね?」

「かなり凄い性格をしているらしい」

「凄い性格かぁ。でも魔大陸に行くくらいだから、凄く強いんだろうね。一回、ってみたいなぁ!」

「ふっ」

 呑気に微笑みながらそう話すマギルスに、エリクは呆れ混じりの笑いを零す。
 そうして二人はアルトリア達の行動やメディアについての情報共有をし合った後、魔人の里まで再び辿り着いた。

 すると里の前で警備をしている十二支士の門番が、二人の姿を確認しながら呼び掛ける。

「――……エリク殿、それにマギルス殿。おかえりなさい」

「ああ」

「ただいまー!」

「御話は伺っています。巫女姫様、そして干支衆の皆様がほこらにて御待ちです」

「分かった」

 既に『青』を通して来訪が伝えられていたのか、門番はエリク達の来訪と共にそこで待つ巫女姫達のことを教える。
 それに応じるように二人は里へ入り、特に案内役も付けられずにそのまま祠がある場所まで歩き始めた。

 そうして里の中を歩いていると、二人の姿を見た住民達が挨拶混じりに呼び掛けて来る。

「――……あら、マギルスじゃない! 久し振りね」

「あっ、料理屋のおばさんだ! 久し振りー!」

「元気そうで良かったわ。またウチの料理、食べにいらっしゃい」

「わーい、ありがとー! 後で寄るねー!」

「――……おかえりなさい、鬼神様」

「あ、あぁ」

「今回の御活躍、闘士や干支衆の方々から御聞きしております。流石は鬼神様で在らせられると――……」

「さ、先を急ぐ。すまないな」

「いえいえ、足を止めさせてしまい申し訳ありませんでした」

 こうした調子で出会う住民達からは顔馴染みのように扱われ、様々な意味で声を掛けられる。
 マギルスは気軽に話しかけられる一方で、ここたてまつられる鬼神フォウルの生まれ変わりであると云われるエリクには、住民達から崇拝の声さえ上がっていた。

 そんな対象的な二人の対応に、彼等自身が感想を述べる。

「おじさん、なんか凄いね。流石は鬼神の生まれ変わり?」

「……俺は、鬼神フォウルではないんだが。それよりマギルスも、いつの間にここ住民達ものたちと仲良くなっていたんだ?」

の森から修業が終わった後かなぁ。十二支士とか干支衆と戦う訓練をして、里の中をよく行き来するようになってから! おじさんはその時、地下に籠ってたよね」

「ああ」

「その間に、皆と仲良くなったもんね。……あっ、そうだ。ちょっとおじさん達に会って来ていい?」

「おじさん達?」

「ほら、ドワーフのおじさん達だよ。エリクおじさんの大剣ぶきとか、僕達の装備を作ってくれた人!」

「……ああ、バルディオス達か。……そうだな、ついでに挨拶をしておくか」

 二人はそうした会話を交えると、今回の異変において用意されていた数々の装備と魔道具を作り上げたドワーフ達に寄り道として会う事を決める。
 そして二人はドワーフ達のいる場所へ向かい、巫女姫がいる祠とは別に里から外れた位置に存在する大きな工房へ訪れた。

 工房そこは特に熱気が強く、内外には様々な魔導装置や工房器具などが置かれている。
 そして金属音や溶鉱炉の音を耳にしながら、二人は工房の門を潜り扉を開いた。

 すると小柄ながらも筋骨逞しい身体としげるような口髭を纏う男達が、様々な作業をしている光景が見える。
 様々な音や魔力の波動が流れている為に彼等は来訪者ふたりにも気付いた様子はなく、仕方なくマギルスが大声で呼び掛けた。

「――……おじさん達、久し振りっ!! 元気してた?」

「ん? ――……なんだ、マギルスじゃねぇか」

「なんだなんだ?」

「おっ、エリクもいるじゃねぇか。久し振りだな、お前等!」

 一人が気付きで連鎖的に工房内のドワーフ達に話が広まり、エリクとマギルスが戻って来たことを彼等は知る。
 そしてそれぞれに作業を中断できる者は手を止め、二人に歩み寄りながら声を掛けて来た。

 すると二人の格好を見て、ドワーフ達が首を傾げながら尋ねて来る。

「お前等、その格好どうした?」

「俺達が渡した装備は?」

「ごめん、全部壊しちゃった! だから謝りに来たんだ」

「壊したぁっ!? ……まさか、あの自走二輪バイクもかっ!?」

「うん! 結界に自走二輪アレごと突っ込んだら、壊れて地面に激突しちゃった」

「お前なぁ……。アレは昔の連中ドワーフが作った、古代武装の一つじゃったのに………」

「あれ、おじさん達でも作れないの?」

「解析も設計図も残っとるが、作るのに手間も時間も掛かるんじゃよ。何より、今の里や人間大陸では手に入らん素材ばかりで作られとるからな」

 ドワーフ達は自分達が渡した装備がほぼ全損していると聞き、それぞれに思う表情を浮かべる。
 するとマギルスとエリクは、そうしたドワーフ達に改めて感謝を伝えた。

「でもおじさん達の装備があったから、凄く助かったよ。ありがとね!」

「ああ。お前達のおかげで、俺達はあの戦いを乗り越えられた」

「……そ、そうか?」

「じゃあ、まぁいいか!」

「壊れたモンは、また作ればいいだけじゃからな!」

「そうじゃそうじゃ」

「それより今度は、もっと頑丈で良い性能の装備もんを作ってやるからな!」

「わーい! ありがと!」

 結果として壊れながらも二人の戦いで助けとなった事を聞いたドワーフ達は、それぞれに満足気な様子を浮かべる。
 そんな彼等に感謝を伝えた二人だったが、工房内を見回しながらある人物がいないことに気付き、首を傾げて問い掛けた。

「……バルディオスは?」

「親方なら、巫女姫様の祠に行っとるぞ」

あそこに?」

「巫女姫様に用事を頼まれてな。儂等も詳しくは知らんが」

「そうなのか」

「親方に用事か?」

「いや、バルディオスにも礼を言いたかっただけだ。それに俺達も、ある用でそこに向かうところだ」

「そうなのか。だったら用事を終わらせたら、後で酒場に行くか! マギルスももう大人じゃろ、酒を飲んでみるか!」

「時間があったらな」

「僕も同じ!」 

「そうか。まぁ、必要な装備があったらいつでも来い。また良いのを作ってやる!」

「ああ、その時は頼む」

 そうしてエリク達はドワーフ達に挨拶を交えた後、工房そこを離れる。
 するとその足で里がある方角とは別方向に歩き始め、巫女姫の波動ちからを結界で遮り祠まで続く通り道となっている場所に辿り着いた。

 するとそこでは、以前と同じように干支衆の『牛』バズディールと『戌』タマモが待機しているのが見える。
 自分達の出迎え役として待っていたであろう二人は、エリク達に声を向けた。

「――……待っていたぞ。エリク、そしてマギルス」

「『牛』のおじさん、それに『戌』のお姉さん、久し振り!」
 
「遅かったようやけど、寄り道でもしてたん?」

「ああ。待たせてすまない」

「ええよ、別に。巫女姫様も待っとるから、さっさと行きましょか」

「ああ」

 二人にそうした声を向けた後、タマモは紙札を用いて敷かれた結界を通り抜けられるようにする。
 そして合流した四名は結界の中に入り、巫女姫の波動ちからが漂う空間に辿り着いた。

 しかし以前とは異なり、エリクもマギルスもその波動ちからに怯える様子を見せない。
 その感覚に彼等自身も驚きを浮かべ、互いに声を向け合った。

「前のような圧力あつを、感じないな」

「そうだね。前は結構、ドーンって来る感じだったのに。波動ちから、弱くなった?」

「……それは、お前達が強くなった証拠だ」

「!」

「巫女姫様の……いや、到達者エンドレスの波動を感じても苦にしない程、お前達の身体がこの波動ちからに対応できているのだろう」

「そうなのか」

「僕達、凄く強くなったもんね!」

 巫女姫の放つ波動ちからを克服できるようになった二人に対して、『牛』バズディールはそうした意見を向ける。
 そして以前より遥かに早く祠の前まで訪れた二人は、先導する二人に続いて中に入った。

 以前にも通った空洞を通り、二人は仄かな灯火が浮かぶ祠の奥に辿り着く。
 そこには姿勢正しく木床に正座している巫女姫レイだけではなく、以前には居なかった様々な種族の干支衆の十名が傍で待機していた。

 その中にドワーフ族の長であるバルディオスも含まれており、巫女姫レイを含めた十四名がエリク達の来訪を迎える。
 すると言葉を最初に向けたのは、巫女姫であるレイ自身だった。

「――……よく御越しになりましたね。エリク殿、そしてマギルス殿も」

「ああ」

「久し振り! 干支衆そっちも、ドワーフのお爺さんもね!」

 僅かに頭を下げて礼を向けた巫女姫レイに続き、干支衆達やバルディオスも頭を下げて二人を迎える。
 そして靴を脱いで床に上がった二人が向かい合うように座ると、頭を上げ戻した巫女姫《レイ》は話し掛けた。

「『青』から話は聞いています。二十年前にここへ訪れた彼女について、御聞きしたいということで間違いありませんか?」

「そうだ、俺達はその女を『メディア』と呼んでいる。魔大陸に行ったと聞いたが、今は何処にいるか分かるか?」

「残念ながら、その後の彼女については聞き及んでいません。ただ確かに、貴方の言う名前メディアを名乗っていました」

「そうか……」

「ただ、彼女が何を目的として魔大陸に向かったのか。その理由は聞いています」

「理由?」

「彼女はこう言っていました。『暇潰しに魔大陸を探検したい』と」

暇潰ひまつぶしで、探検……?」

「そして、こうも言っていました。――……『この世界に忘れられた彼女を、探してみる』と」

「!!」

「……おじさん、それって……!?」

 巫女姫レイが明かすメディアの目的に、エリクとマギルスは互いに驚愕の表情を浮かべる。
 それは『白』から聞いていた真新しい情報であり、五百年前に自らの存在を代償として世界に忘れられた彼女じょせいだと二人は思い至れた。
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