虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 八章:冒険譚の終幕

二重の極意

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 『生命の風』と併用し圧倒的な格闘技術を誇るバリスは、参戦した武玄ブゲンやシルエスカすらも一蹴できる実力差を見せる。
 しかしその場に赴いていた干支衆の『牛』バズディールと『戌』タマモは、バリスに対する切り札として狼獣族エアハルトを連れて来た。

 三大魔獣の一種と呼ばれる銀狼獣フェンリルと同じ『雷』の能力ちからを持つエアハルトは、三年前とは比べ物にならない実力を得てバリスと互角以上の戦いを見せる。
 そうした一方の戦闘が見える中、初代『緑』であるガリウスと対峙していたトモエは神殿入り口の前で静寂に近い戦闘を見せていた。

「――……影分身の術っ!!」

 両手で印を結び自身の生命力オーラを分散した分身体かげを幾つも周囲に作り出したトモエは、ガリウスとの間合いを縮める為に近付こうとする。
 しかし同じ生命力オーラの弓と矢を作り出すガリウスは、一射で夥しい数に分散した矢を放ち、寸分違わずトモエ本体と影分身を狙い撃った。

 その矢の速さと発射動作はトモエにすら知覚できず、本体である彼女自身は戦闘経験で培った勘だけで跳び避ける。
 しかし生命力オーラを操作し動かす分身体達の反応は遅れ、易々とその身体を矢が貫き、命中した部分をぜさせた。

「ッ!!」

影分身それは、千代嬢で見飽きておってな」

 トモエの母親である千代の影分身わざを良く知るガリウスは、本体よりも反応速度が遅い分身体かげの弱点を見抜く。
 そして一早く反応し避けたトモエ本人にも照準を合わせ、凄まじい速さの矢を放ち向けた。

 しかしトモエは再びいんを結び、矢の直線上に自身の影分身ぶんしんを三体ほど作り出す。
 影分身それに矢を受けさせる身代わりにしようとしながらも、それすらも見抜くようにガリウスは微笑んだ。

「それも同じだな」

「ッ!?」

 影分身での防御術を知るガリウスは、命中寸前の矢を更に分裂させる。
 一本の太い矢が数十本近い細い矢に分裂すると、瞬く間に身代わりにした影分身を貫通し、トモエ本体に矢を浴びせた。

 襲い来る矢を完全に避けるのが不可能だと判断したトモエは、全身と後ろ腰に帯び握る小太刀に気力オーラを纏わせる。
 そして襲い来る夥しい数の矢を払う為に小太刀で迎撃しながらも、凄まじい速さで迫る矢はトモエの全身を貫いた。

「クッ!!」

 最低限、頭部と急所を守るトモエの腕や脚部分に矢が貫く。
 しかし先程の矢とは効力が異なるのか、先程のような爆発は起こさずただ影分身とトモエの身体を貫通するだけに留まった。

 そして一発の矢が顔の位置を掠め、トモエの顔を覆う仮面の紐を貫き切る。
 すると整いながらも痛みで表情を歪めるトモエの顔が見え、それを眺めながらガリウスは微笑みを向けた。

「若い頃の千代嬢に似ている。親子だな」

「……ッ」

めておけ」

「!」

「お嬢ちゃんでは、この距離を縮めることすら不可能だ。大人しく治癒に専念しろ」

「……やってみなければっ!!」

 再びいんを結ぼうと血が流れる腕を動かしたトモエに対して、ガリウスは警告を向ける。
 しかしそれに逆らうように印を結んだトモエは、自身の両頬を膨らませながら勢いよく息を吐いた。

 それと同時に、トモエの口から大量の黒紛が周辺に撒き散らされる。
 すると黒紛それはガリウス側に流れ、後方うしろへ飛び退いたトモエは、胸元から印字を刻まれた紙札が張られた一本の苦無クナイを放った。

「『ばく』っ!!」

 右手のみでいんを結ぶトモエは、苦無クナイに張られた紙札に刻まれた印字こうかを発動させる。
 それと同時に紙札が爆発を起こすと、黒紛に引火するように膨張した爆発が発生した。

「……!?」

 拡大する爆発によってガリウスが炙られる事を狙ったトモエだったが、次の瞬間に異変を察する。
 起きる爆発が拡大を防がれ、爆発の音すら漏らさずに巻き起こる風が吸い込み始めた。

 そして黒紛諸共に爆発を吸引しているのが、ガリウスと構え向ける弓の矢だとトモエは気付かされる。
 するとガリウスは爆発を吸引した矢の照準を彼女ともえに向けたガリウスは、落ち着いた面持ちながらも冷酷な目を向ける。

「返そう」

「ッ!!」

 静かにそう言い放ったガリウスは、爆発を吸い込んだ矢をトモエに放つ。
 その速度は変わらず素早いながらも、先程よりも距離を取れていたトモエは再び矢が分裂しても最小の負傷キズで留められるよう避ける動きを見せた。

 しかしその選択うごきを否定するように、ガリウスは呟く。

「判断力は、千代嬢ははおやより悪いな」

「……!?」

 ガリウスはそう呟き、トモエに対する落胆を僅かに見せる。
 するとトモエは完全に射程外へ逃れられたと思った瞬間、離れている彼の放った矢が突如として爆発を引き起こした。

 爆発規模は散布した黒紛以上の範囲を誇り、かなり離れていたトモエすらも爆発に飲み込まれる。
 爆発そのものを吸収させた『生命の風』が矢に蓄積させた爆炎を高め、それがトモエすら想定しない火力を生み出したのだ。

 そして大気を揺らす程の振動と爆音が起こると、エアハルトとバリスの戦闘を見ていた武玄ブゲンが驚愕した様子で目を向けながら短くも驚愕の声を発する。

トモエっ!!」

「――……ぐぁ……っ!!」

 叫ぶ武玄ブゲンの声と同時に、爆炎の中からトモエが転がるように出て来る。
 しかし全身は爆発によって炙られ、所々に火傷を負った様子を見せながら地に伏す姿勢となった。

 全身から血を流し焼け焦げた身体になりがらも、トモエは意識を保ち起き上がろうとする。
 しかしそんなトモエに対して、ガリウスは容赦なく追撃の矢を構えた。

「残念ながら、お嬢ちゃんは失格だ」

「……っ!!」

 そう告げるガリウスは、トドメとなる一射を放つ。
 避けられる態勢ではないトモエは印すら結べず、襲い来る矢に対処できない。

 それを見て向かい始めた武玄ブゲンも、気力斬撃ざんげきを飛ばして矢を撃ち落とすにも距離が離れ過ぎている。
 こうして二人が対処に遅れる中、ガリウスの無慈悲な矢はトモエの眉間を撃ち抜こうとした。

「――……ッ!!」

「むっ」

 しかし次の瞬間、その場に赤い閃光ひかりが走る。
 それと同時にガリウスの放った矢が一つの鍔鳴りと同時に斬り落とされ、白い魔鋼マナメタルの地面へ突き刺さった。

 それを見たガリウスは、自分の矢を撃ち落とした相手を見ながら微笑みを浮かべる。 

「ほっほぉ。向こうに居たルクソードの子孫か」

「……軽流けいる……!」

「――……テメェ……よくもトモエさんを……っ!!」

 トモエを守る為にその場に現れたのは、彼女トモエの弟子であり義娘むすめでもあるケイル。
 その形相かおと声には憤怒が宿ると同時に、右手に握る長刀と身体からは発せられる生命力オーラは今まで見えなかった炎のような赤い輝きと揺らめきが生じていた。

 それに驚くトモエ武玄ブゲンとは別に、ガリウスは『赤』の一族であるケイルに及んだ状況を理解する。

「『火』の一族が覚醒するのは条件トリガーは、身内かぞくを傷付けられた際の怒りだったか。……アズマのことわざに言えば、『藪蛇やぶへびつついた』というやつか」

トモエさん、動けるなら離れてくれ。……あの糞爺クソジジイは、アタシがるっ!!」

 ケイルは義母トモエを傷付けられた怒りから『生命の火』を覚醒させ、自身の纏う生命力オーラに変化を及ぼし始める。
 それと同時に瞬時に『無我の境地』へ至りながら右手で握る刀を鞘に納め直し、生命力オーラに宿らせたいかりをそのままに表情と動作うごきから感情おもいを取り払いながら駆け向かった。

 その移動速度は先達者ユグナリスに及ばずながらも、確かに自身の肉体そのものを『生命の火』に変えつつある。
 しかしガリウスはその速度にも対応するように弓と構え、『生命の風』を纏わせた矢を幾百本も同時に放った。

 そして襲い来る矢に対して、ケイルは迎撃する様子すら見えずに突っ込む。
 すると『無我の境地』で行う無意識の動作だけで矢を僅かな隙間を掻い潜り、瞬く間にガリウスとの距離を縮めた。

「!」

 常人であれば不可能な回避を見せたケイルは、そのまま第二射をさせずに左腰に下げた長刀を右手で引き抜き振り下ろす。
 それに対して生命力オーラの弓を掲げながら長刀の刃を受け止めたガリウスは、笑みを見せながら歓喜の言葉を漏らした。

「これはナニガシの刀……それに極意わざを習得してるのか。ルクソードの子孫が……面白いっ!!」

「!」

 ケイルの無駄が全く無い動作が、『茶』の七大聖人セブンスワンナニガシの極意わざだとガリウスは気付く。
 それに喜々とした表情を浮かべるガリウスに対して、『無我の境地』へ至るケイルは左手を動かして左腰に携える小太刀を逆手で引き抜き、ガリウスの喉を切り裂こうとした。

 しかしガリウスは全身から『生命の風』を放ち、鍔競り合うケイルをその場から吹き飛ばす。
 更に纏わせていた『生命の火』を四散させ、再び距離を置きながら弓を構えながら言い放った。

「『生命の火』とナニガシの極意わざ。ルクソードとは違う意味で楽しめそうな小娘むすめだ」

「……そのニヤけたツラ、首ごとぶっ飛ばしてやる」

 対象的な表情を向ける二人は、互いに持つ武器を構えながら再び向き合う。
 そして磨き上げた極意わざと無意識に覚醒させた『生命の火ほのお』を駆使するケイルは、ガリウスを討つべくこの戦況に参戦した。

 しかしそうした傍らで、二人が戦う場所から大回りをしながら神殿へ向かおうとする者達がいる。
 それはリエスティアとシエスティナの母子を連れて動く、妖狐族クビアだった。
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