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革命編 八章:冒険譚の終幕
家族の背中
しおりを挟む初代『緑』の七大聖人ガリウスと対峙した巴は、彼の操る『生命の風』と生命力で作り出された矢によって窮地に追い込まれる。
その窮地に駆け付けたのは夫である武玄ではなく、二人の弟子であるケイルだった。
しかもケイルは憤怒の感情を宿し、家族と呼べる巴を殺そうとしたガリウスに敵意を向ける。
それが条件となりユグナリスとシルエスカと同様に、『火』の一族が持つ『生命の火』をケイルを顕現させた。
『茶』のナニガシによって高められた極意と、覚醒した『赤』の能力。
二つの極意を得たケイルに対して、ガリウスは不敵な笑みを見せながら生命力の弓を構える。
すると弦を引き右手で引く生命力の矢は一瞬で太さを増すと、両手に大小の刀を持ち構えるケイルを見ながら微笑む。
「――……いくぞ、若いのっ!!」
「!」
そう言い放った瞬間、幅一メートル程まで生命力を圧縮された矢がガリウスから放たれる。
更に『生命の風』を纏わせている矢は魔鋼の地面すら削り、数々の激戦を潜り抜けたケイルが辛うじて知覚できる速さで迫った。
すると瞬時に『無我の境地』へ入り無意識になったケイルは、両手に持つ刀を逆手に持つ。
それと同時に向かって来る矢に自ら走り、『生命の火』となった生命力を纏わせながら左右の刀を交差させた気力斬撃を飛ばした。
『生命の火』を宿した二つの斬撃は、矢を迎撃するように互いの中空を走る。
しかし次の瞬間、矢は分裂しながら幾百本になりながら中空を満たした。
「また……!!」
別の方角で起き上がっていた巴は、自分を傷付けた分裂する矢だった事を理解する。
しかし無意識のままのケイルはその状況に動揺する様子も見せず、自身が飛ばした二つの斬撃に視線を向けていた。
するとケイルが飛ばした斬撃に、大きな変化が起きる。
それは先に放たれた長刀の斬撃に小刀の斬撃が追い付き、それが衝突しながら混じると同時に放った『生命の火』が壁のように拡がる光景だった。
「!」
「ほっほぉ、俺の『風』を取り込んだか」
衝突した斬撃が生み出す炎壁にガリウスの放った無数の矢が飲み込まれ、それが貫通する様子を見せない。
逆に炎壁が分厚くなる様子を見せると、『生命の火』が『生命の風』を吸収していることをガリウスは即座に理解した。
覚醒させて間も無い『生命の火』を『無我の境地』で使いこなすケイルは、ガリウスの攻撃に即座に対応して見せる。
それに対して本人は悔しがる様子など見せず、むしろ喜々とした笑みを浮かべながら言葉を零した。
「さっきの男もかなり能力を使えてたが、この娘も中々に――……むっ」
「……!」
そうした声を見せていた時、炎壁を境に二人は上空を見る。
するとそこには暗雲が生み出されており、そこから雨が降り注ぎ始めていた。
それは遥か上空《そら》でユグナリス達と対峙していた真竜が起こした豪雨であり、それが天界の大陸にも降り注ぎ始める。
しかしその豪雨は、ケイルが作り出した『生命の火』の壁を徐々に鎮火させていった。
それを見ていた巴は、その状況に困惑した面持ちを浮かべる。
「ケイルの炎が……」
「……三代目の天候か。……となると、楽しめる勝負はここまでだな」
巴の驚きとは裏腹に、ガリウスは降り出した雨がどういう意味を持つかを理解しながら笑みを引かせる。
するとケイルや巴とは別方向に顔を向け、誰も居ない場所を見た。
それから一秒にも満たない時間で、雨が本格的に魔鋼の地面を濡らし始める。
するとガリウスの視線にある光景が浮かび上がり、そこには妖狐族クビアと連れ沿うリエスティアとシエスティナの母子が見え、彼女達の周囲に大きく張った透明化の結界が崩れ剥がれる光景が見えた。
これを見てケイルが無意識から意識を戻し、姿が見える彼女達に驚愕を浮かべて声を向ける。
「――……お、おい! 見えちまってるぞっ!?」
「え……えぇっ!? もしかしてぇ、結界……解けちゃったぁ?」
「……この雨のせいです」
「!」
「この雨が、貴方達の能力を消してしまう……。……それを起こしているのは、ログウェル様……」
自身の発生させた透明化の結界が解けた事態を動揺するクビアに対して、後方に付くリエスティアはそう呟く。
彼女の未来を見通す『黒』の瞳はそれを予見しており、この状況についてそう語った。
それを聞いたクビアは、ケイルの方へ顔を向けながら状況を伝える。
「この雨は上空のお爺ちゃんが起こしててぇ、私達の能力を消しちゃってるみたいよぉ!」
「マジかよ……。……クソ、生命力が上手く練れねぇ……!!」
クビアの声で状況を理解したケイルは、改めて自身の生命力を手で握る刀に纏わせようとする。
しかし雨が滴る刀には生命力が込められず、更に濡れた肉体自体にも生命力が湧き起こらない事を悟った。
そうして動揺する一同を見ながら、ガリウスは落ち着いた面持ちで声を向ける。
「無駄だ。この雨の中では、お前さん達の能力は何も使えない」
「!?」
「だが、俺達は違う。……この通り。弓と矢も、『生命の風』も使いたい放題だ」
「……クソッ」
雨に降られながらも自身の能力を行使できているガリウスを見て、ケイルは表情の強張りを強める。
生命力を用いた技術を封じられた中、相手だけが能力を使えるという状況は、ケイル達の形勢を一気に不利へ傾けた。
するとガリウスは笑みを失くした表情を向けながら弓を構え、炎壁が消えたことで視認できたケイルに矢を向ける。
「……っ」
「もっと楽しみたい勝負だったが、こうなるとな。――……残念だが、これで終いだ」
「ケイルッ!!」
ガリウスは躊躇せず矢を放ち、生命力を練れないケイルを襲う。
気力操作で強化した五感によって補足できていた攻撃は通常では補足すら出来ず、ケイルは自前の運動能力と避けるしかなかった。
それに対してガリウスの矢は再び幾百にも分裂し、ケイルの逃げ場を完全に失わせる。
避ける事を諦め可能な限り纏える生命力と自身の肉体で防御するしかないと悟ったケイルは、急所である頭や心臓を両腕で覆いながら守った。
すると次の瞬間、ケイルの目の前を覆うように影が出現する。
その影が揺れ動きながら襲い来る矢を防ぎ、自分の身を守ったケイルを庇った。
更に金属が折れ砕けながら地面へ落ちる音が、その場に響く。
それに気付いたケイルは、自分を守り影を覆わせている人物に声を向ける。
「……し、師匠っ!?」
「――……ぐ……っ」
ケイルが見たのは、自分の剣を教えた師である武玄の背中。
彼はこの状況において瞬時にケイルの危機を悟り、自らの身体を正面にしながら夥しい数の矢から守っていた。
しかしその正面には夥しい数の矢が突き刺さり、両腕や両足、更には腹部すらも貫いている。
それでも両手に握る刀は気力を込められないまま矢を撃ち落とした為か、半分に折られて刃の先端が地面へ落ち、即死しかねない顔や心臓を守った様子が窺えた。
それでも踏み止まる武玄は倒れず、地面へ身体中から滴る血を流し落とす。
ケイルはそれを見ながら驚愕し、武玄の横に立ちながら呼び掛けた。
「師匠、なんでっ!?」
「……娘を守るのは、父親として当然のこと……」
「!!」
「そうじゃろ、巴……」
「――……そうですね」
「!」
そうした言葉を見せる武玄の呼び掛けに応じるように、二人の巴が駆け付ける。
すると血を流しボロボロの姿を見せる二人は、衰えぬ戦意を眼光に乗せながらガリウスを見ながらケイルに呼び掛けた。
「奴の相手は私達に任せて、貴方達は行きなさい」
「でも……!」
「奴の相手など、儂等だけで十分だ」
「む、無茶だ……。今は気力が使えないのに……!」
「その程度の事態、問題は無い」
「!?」
「自分がやるべきだと思った事を果たして来い。――……お前は、儂等の娘なのだから」
「……!!」
武玄と巴はそう述べ、ガリウスの対峙を自分達が担う事を告げる。
それを聞いたケイルは二人の背中を見ると、表情を強張らせながら両手に握る大小の刀を鞘に戻した。
そして二人の背中を見ながら、この言葉を伝える。
「……絶対に、死なないでください。……もう、家族を失うのは嫌だから……っ」
「当たり前だ」
「当たり前です」
「……この場は、御願いしますっ!!」
ケイルは二人の背中に礼を向け、その場から離れクビア達がいる方向へ走り出す。
その背中を守るように立つ武玄と巴は口元を微笑ませ、改めてガリウスに覚悟の表情を向けた。
それに対してガリウスは矢を射る構えを見せず、二人の姿を見ながら口元を微笑ませて感想を零す。
「やはり、アイツ等の子供だな。……失格と言ったのは訂正しよう。――……だから、容赦はしてやらんぞ」
「やれるな、巴」
「はい、武玄様」
巴は胸元から『爆』の紙札が付いた苦無を取り出し、その両手に広げ持つ。
そして武玄も折れた刀のまま構えを見せ、二人は同時にガリウスへ駆け出した。
それを迎え撃つように弓を構えたガリウスは、『生命の風』を纏わせた矢を放つ。
豪雨すら歪める矢に向かう二人は、決死の表情を見せながら対峙した。
こうしてケイルは師匠であり家族でもある二人の背中に守られ、ガリウスとの対峙を任せる。
それは家族を全て失ったことがあるケイルに歯を食い縛らせ、その場に残りたいという衝動に抗わせながら薄らと涙を浮かべさせていた。
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