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革命編 八章:冒険譚の終幕
風雷激闘
しおりを挟む『生命の火』を覚醒させ『無我の境地』の極意と共にその能力を発揮するケイルは、その実力を初代『緑』であるガリウスに認められる。
しかし天界の更に上空で発生した暗雲から降り注ぐ豪雨の天候により、ユグナリス達と同様に自身の『生命の火』を封じられてしまう。
そんな彼女にガリウスは躊躇いなく矢を放ち、それを武玄が自らの肉体と刀を犠牲にして受け止める。
更に巴と共に愛弟子を守る立ち姿を見せ、その場を自分達に任せるよう告げた。
家族と呼べる二人の覚悟を理解したケイルは、彼等から背を向けながら走り出す。
そして妖狐族クビアとリエスティア達が居る場所まで駆け付ける中、武玄と巴は左手で弓を構えるガリウスに向かい走った。
そんな二人の特攻に対して、ガリウスは右手に作り出す生命力の矢を四本ほど作り出す。
しかもそれ等の矢には『火』『水』『風』『地』となる各属性の魔力が込められ、その四本の矢を絡ませるように弓の弦に左手を掴ませ引いた。
「その覚悟に応えて、全力で射よう。――……『天を射抜く矢よ』っ!!」
「!!」
ガリウスの左手から四色の矢は放たれ、それが向かって来る武玄と巴に迫る。
更に色別れしていた四本の矢は、その途中に混じりながら様々な色の混じる巨大な極光の矢へと変化した。
その極光が通過する魔鋼の地面は勢いよく削られながら粉々に巻き上げられ、凄まじい速度で二人に迫る。
武玄と巴はその威力が先程とは比較できない脅威だと即座に理解し、互いに左右に別れながらその範囲から跳び避けようとした。
そしてギリギリながらも、二人は極光を避けられる範囲まで逃げられる。
しかし二人の間を通過した極光は、先程と同じ状況を作り出した。
「避けても無駄だ」
「ク――……『爆』ッ!!」
次の瞬間、通過する極光が様々な色合いから真っ白な極光となって膨張する。
それが周囲に満ちるように拡がりながら魔鋼の地面を抉り削ると、避けた巴と武玄を飲み込むように迫った。
その瞬間、巴はガリウスに対して両手に持つ紙札付きの苦無を投げ放つ。
しかしそれはガリウスの新たに放つ最小の矢によって迎撃され、中空を舞うよう幾つかの苦無が『爆』の起爆札によって爆発を起こした。
すると爆発の中から幾つかの苦無が落下し、ガリウスの前方となる左右の地面に落ちる。
「ッ!!」
「さらばだ」
そのまま巴と武玄は成す術も無く極光に飲まれ、ガリウスは別れを告げる。
魔鋼すら破壊できるガリウスの極光によって、二人は消滅したように見えた。
しかし次の瞬間、ガリウスは驚くように瞳を見開く。
その視線の先には、武玄と巴が先程と同じ姿のまま自分の左右前方へ現れたのだ。
「これは、『瞬身』……!?」
二人が転移によって現れた事を理解したガリウスは、二人の傍に落ちる苦無に目を向ける。
そして二人が転移すると同時に紙札の印字が消失するのに気付き、先程の苦無に巻かれた紙札が『爆』の符術ではなく、忍者の使う忍術の一つである『瞬身』だったことに気付いた。
『瞬身』は陰陽術によって編み出されたアズマ国流の転移魔法であり、その使い手は一部の高位陰陽師やその血族以外には伝えられていない。
それでも忍者の家系に生まれあらゆる忍術と符術を使える巴は、『瞬身』も身に付けていた。
しかしガリウスが驚いた理由は、『瞬身』の術を巴が覚えていた事ではない。
『緑』以外の魔力や生命力を用いた能力は降り注ぐ天候によって封じられているにも関わらず、何故か『爆』や『瞬身』の符術を使えていたことにある。
その状況に改めて懐疑した落ちている苦無に向けたガリウスは、自分が見逃したモノを視認する。
「油で雨を防いだか……!!」
ガリウスが見たのは、苦無を不自然に輝かせるように塗られた油。
それは起爆札の爆発効果を高めている為に塗られていた油であり、同時に降り注ぐ雨を弾く為の防御膜にもなっていた。
巴はこの戦いの直前、自分と武玄に『瞬身』を用いる為の紙札を胸部分に貼り付けさせている。
更にこの雨が自分達の生命力や魔法の類を封じる事を理解すると、懐に潜ませていた『瞬身』の苦無に油を満遍なく油で濡らした。
そして起爆札の苦無と同時に投げ放ち、『爆』の爆発力を利用して一時的に雨を遮ることで『瞬身』の紙札を濡らして油が落ちるのを防ぐ。
これによりガリウスの極光に完全に飲まれ消滅する前に、二人で同時に『瞬身』を成功させた。
「――……巴、よくやったっ!!」
「!」
咄嗟の状況が続く中、能力を封じる天候《あめ》に対応した巴を武玄は賞賛して名を叫ぶ。
そして一気に近付いたガリウスに対して、血塗れの武玄は駆け出しながら刃先が欠けた刀を振るいながら迫った。
それに対して武玄に弓を構えようとしたガリウスだったが、同じように駆け出す巴も向かって来る。
更に『爆』の印字が刻まれた紙札付きの苦無を投げ放ち、それにも油が塗られている事をガリウスは目で追いながら口元を大きくニヤけさせた。
「なかなか良いな、お前達はっ!!」
「!?」
ガリウスは武玄に向けようとした弓を真上に掲げ、瞬時に左手で形成した生命力の矢を放つ。
その矢は空高くまで向かい、迫る武玄や巴の苦無を迎撃できない位置まで昇った。
その意図を理解できずとも迫る武玄は、折れた刀をガリウスに向けて薙ぎ放つ。
「ヌウゥ――……ッ!!」
気力の身体強化がされていない武玄は、それでも常人ならば捉えられない技の冴えでガリウスの首を獲ろうとする。
しかし右手を下に戻し生命力の弓を盾代わりにしたガリウスによって、その刃は防がれた。
更に左手に形成した生命力の矢はそのまま放ち、向かって来る起爆札付きの苦無を撃ち落とて巴に撃ち返す。
それを避けながら小刀を構えて迫る巴に対して、新たなに作り出した左手の矢で迎撃し受け止めた。
「ッ!!」
「……弓手の俺が、また接近戦をやらされるとは。――……ちゃんと次の世代は育ってるようで、嬉しいなぁ!」
「グッ!?」
「ガハッ!!」
歓喜の表情と声を見せるガリウスは両腕を激しく突き出し、受け止めていた二人の刃を押し返す。
それと同時に僅かに態勢を崩した二人は同時に別々の位置へ刃を向かわせようとする中、ガリウスは身を捻りながらそれを跳び回避し、両脚を回しながら二人の顔面に蹴りを直撃させた。
それによって二人はその場から吹き飛ばされ、魔鋼の地面へ倒れる。
しかしすぐに起き上がろうとした二人に対して、ガリウスは右手の人差し指を真上に向けながら言い放った。
「楽しいぞ。ナニガシと千代の子供よ」
「グ……ッ!!」
「だが、これはどうする。――……『天より降り注ぐ矢よ』」
「ッ!!」
次の瞬間、武玄と巴は真上から降り注ぐ夥しい矢を目撃する。
それは分裂した生命力の矢であり、先程にガリウスが上空に放ったモノだった。
何手か先を読んで矢を放ったガリウスの矢に対して、武玄と巴は互いに同じ思考を抱きながら立ち上がる。
そして躊躇いも無くガリウスへ向かい、互いの刀を握りながら襲い掛かった。
それを見たガリウスは、微笑みの声を向ける。
「正解だ。矢は俺の居る場所には――……落ちて来ないっ!!」
「っ!!」
「はぁあっ!!」
二人は矢を射った張本人が居る場所こそ安置だと気付き、互いに接戦を求めるように迫る。
それを迎撃するガリウスは両手に作る生命力の弓と矢で受け止め、その場で激しい攻防を繰り広げ始めた。
ニ対一の攻防ながら、ガリウスは精神体であり生命力で身体能力を強化できている。
一方で身体に纏わり付く雨が生命力を身体強化を妨げている二人の攻撃は、接近戦を得意としないガリウスでも対応を可能にしていた。
しかし長年連れ添う二人はその不利を補うように連携し、ガリウスに攻撃の隙を与えないようにしている。
そして上空から矢が降り注ぎ終えるのを待ち、この状態を保ちながらガリウスを仕留める気概を見せていた。
それでも気概だけでは結果に繋がることは無いことを、僅か五秒にも満たない時間でガリウスが証明する。
「――……遅いっ!!」
「グッ!!」
「武玄様っ!!」
既に重傷とも言える傷を負う二人は多くの血を流しており、その痛みと失血に耐えて動き続けている。
その状況は彼等の動きを本来の実力から更に遠ざけ、ガリウスにその隙を突かせることになった。
前蹴りを放ち武玄の腹部を穿ったガリウスは、その立ち位置から弾くように蹴り飛ばす。
それが武玄を安全圏から離し、上空から降って来る矢に襲われそうになった。
それに気付く巴は、再び忍ばせていた『瞬身』の紙札を巻く苦無を左手で握ろうとする。
『瞬身』を遣い武玄を傍に傍に転移させようとしたが、それに気付いているガリウスは左手で握る矢を突き出し、巴が動かす左手の甲を的確ぬ貫きながら左肩に付けて抑えた。
「ぐっ!!」
「これで、一人目だ」
『瞬身』での回避を止めたガリウスはそう言い放ち、降り注ぐ矢に無防備なままの武玄を見る。
そしてコンマ数秒にも満たない時間で地面に矢が突き刺さろうとする瞬間、武玄の真上に金色の雷光が走った。
すると武玄に命中するはずだった降り注ぐ矢は、その雷光に焼かれて消滅する。
それを見た武玄と巴は驚愕を浮かべ、ガリウスは雷光が放たれた場所へ視線を向けた。
「……向こうの狼獣族か」
「!!」
ガリウスが見たのは、自分と同じ『緑』の二代目と戦っていた狼獣族のエアハルト。
彼はこの天候でも身に纏う『雷』の能力を維持し、豪雨や暴風を分解する電撃を身に纏っていた。
しかも真正面から激突するバリスとは脚撃だけで対応し、隻腕の右手を向けて武玄を救う電撃を纏わせた斬撃を放っている。
更にそれと連動する動きで身を捻ると、右手だけを地面に着けながら両脚でバリスの防御を吹き飛ばす程の脚撃を浴びせた。
「むぅッ!!」
「遅いっ!!」
バリスは両腕の防御を弾かれると、エアハルトはその隙を突くように逆立ちのまま鋭い右蹴りをその胸に浴びせる。
それによってバリスは胸を電撃で焼かれながら、ガリウス達がいる場所近くまで大きく吹き飛ばされた。
対戦相手の隙が見えた中、エアハルトは追撃せずに視線をガリウスへ向ける。
そして電撃によって強化された神速を持ってガリウスに接近し、上空に跳び上がりながら傍に立つ巴に言い放った。
「邪魔だ、女っ!!」
「!」
そう言い放つエアハルトの右腕に溜めた電撃が瞬時に溜められ、その意図を即座に察した巴は矢が強引に矢が刺さる左手と左肩を引き抜きながら跳び下がる。
すると巴が離れたことを確認し、エアハルトは右手を振り下ろしながら凄まじい電撃をガリウスに放った。
ガリウスは巴が引き抜いた矢をそのまま弓に運び構え、電撃を迎撃するように矢を放つ。
そして電撃と矢が衝突し、その中空を電撃と暴風に満たした。
辛うじて電撃の直撃を防いだガリウスだったが、その傍に着地しながら睨みを向けるエアハルトへ視線を向ける。
更に起き上がる武玄と離れて立つ巴に視線を運んだ後、少し離れた位置で倒れるバリスに声を向けた。
「お前が手こずるとは、相当にやるようだな。その狼獣族」
「――……ええ。どうやら彼は、以前に対峙した時よりも遥かに強くなっているようです。それに、あの電撃も厄介でして」
電撃を纏わせた脚撃を受けた胸部分や防御していた手足が焼け焦げている様子を見せるバリスは、エアハルトに対してそうした評価を向ける。
そしてガリウスは自らの意思で跳び下がりながらバリスの傍に立ち、エアハルトはそんな二人の正面に立ちながら睨みを向けた。
しかしその後方に立つ武玄と巴に対して、エアハルトは苛立ちの声を向ける。
「さっき言ったはずだ。見物でもしていろと」
「!」
「コイツ等の相手は、俺だけで充分だ」
エアハルトは二人にそう言い放ち、自ら纏わせている電撃を更に強める。
すると人型の様相を変化させ、人狼へ魔人化した。
それと同時に電撃を纏わせている全身の毛を金色に染め上げ、改めてガリウスとバリスを睨む。
魔力や生命力を使った能力を無効化する天候すら分解させる程の『電撃』を前に、『緑』の二人は微笑むように声を見せる。
「……金毛の狼獣族か。アイツを見てると、五百年前に戦ってボロ負けした狼獣族の小僧を思い出しちまうな」
「第二次人魔大戦で戦ったという、狼獣族の青年ですか。では、貴方が再戦でもしてみますか?」
「いいのか? お前の相手だろ」
「最後まで御相手したいのは山々ですが、どうやら精神体の私では実力不足のようです」
「そうか。――……じゃあ、あの狼小僧に呆れられないよう。こっちも本気でやるか」
「お願いします」
『緑』の初代と二代目は意思を統一し、目の前に立つエアハルトを本気で対応するに足る相手だと認識する。
しかし二人は対峙するエアハルトではなく、彼等自身に歩み寄りながら『緑』の聖紋の刻まれている右手と右手を重ねた。
すると次の瞬間、降り注ぐ暴風や豪雨を吹き飛ばす程の緑色の極光と突風が二人から発生する。
その極光が消えると、その場に居たはずの二人は姿を消し、代わるように一人の緑髪を持つ中年男性が立つ姿が見えた。
それを見たエアハルトは、訝し気な目を向けながら低い声を向ける。
「……なんだ、貴様は?」
「――……俺達が融合した姿さ」
「融合?」
「『緑』の聖紋は歴代継承者の魂と人格を精神体にして取り込み、次の継承者にその経験を引き継がせる。……だからこそ、俺達の精神体を分裂させることも出来れば。こうして一つに統合させるのも可能だ」
「……フンッ。よく分からんが、融合がなんだと言うのだ」
「俺達の能力を全て扱える『暴風』が、誕生したということだ」
「……!!」
この時にユグナリスとマギルスにも起きていた融合体と同様に、ガリウスとバリスの精神体が融合を果たす。
その融合体から生み出される暴風は、エアハルトが身体から発している電撃すらも散らす程の勢いを見せ始めた。
それを見るエアハルトは、融合体と同じように口元を微笑ませる。
「丁度いい。俺が更なる実力を付ける為に――……貴様を喰らってやるっ!!」
「やってみろ、狼獣族の小僧っ!!」
互いに暴風と電撃を巻き起こしながら凄まじい速さで駆け跳び、互いの右拳を激突させる。
その衝突によって暴風と電撃が交じり合い、その一帯の空間を満たす程の巨大な衝突と衝撃を起こした。
その衝撃と電撃混じりの暴風に巻き込まれぬよう、その場から武玄と巴も退避するしかない。
そして完全にエアハルトへ戦いを委ね、その決着を見届ける様子を見せた。
こうして三年前の天変地異を経て更なる修練を積んだエアハルトは、狼獣族の特性である『雷』を遺憾なく発揮する実力を見せる。
それに対抗する『緑』の七大聖人である融合体は、死闘と呼べる激戦を始めたのだった。
応援ありがとうございます!
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