虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 八章:冒険譚の終幕

蒼穹の光

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 地上は真竜ログウェルの起こす天候そらに覆われ、天界エデンの大陸にて行われる戦いにもそれが影響する。
 歴代の『緑』を除くほとんどの者達は生命力オーラ魔力マナを用いた能力ちからを封じられ、まともに戦える状況では無くなっていた。

 しかしその天候ちからに対抗して見せたのは、三年の時を経て大幅に成長した狼獣族エアハルト。
 彼の一族である三大魔獣の一つ銀狼獣フェンリルは『雷』の到達者エンドレスに連なる一族であり、その能力ちからは『緑』の七大聖人セブンスワン達が持つ天候すらも分解し消滅させる事が出来た。

 言わば天敵とも言うべき狼獣族エアハルトに対して、『緑』の初代ガリウス二代目バリスは対抗するように精神体を合わせた融合体ひとりとなる。
 そして『雷』と『風』の能力ちからを最大限に高めた二人は右拳を交え、その場に電撃を帯びた暴風あらしを巻き起こした。

 それに晒される周囲の者達は、無差別に襲い走る暴風あらし電撃かみなりを辛うじて避けながら距離を離す。
 するとバリスやガリウスとの戦いで重傷を負ったそれぞれの者達は集まり、二人の激闘を見ながら言葉を交えた。

「――……大丈夫かっ、武玄ブゲン! トモエ!」

「え、ええ……」

「何とかな。……あの魔人エアハルト三年前あのときとは比べ物にならぬ実力ちからだ」

「ああ。……やはり、治癒魔法も上手く使えない。この雨のせいか……」

 重傷のトモエ武玄ブゲンに駆け寄ったシルエスカは、手に持つ和槍やりを置きながら二人に両手を触れさせる。
 そして治癒魔法を施そうとしながらも、浴びてしまった豪雨あめ魔力マナを使った魔法を阻害し、上手く治癒を施す事が出来なかった。

 そんな三人の歩み寄るのは『青』であり、シルエスカに代わるように告げる。

「儂がやろう」

あお……。だが、魔法が……」

「魔法ばかりが、この世の全てではない」

「!」

 シルエスカに代わり二人に両手を触れた『青』は、触れている箇所ばしょにあるちからを流し込む。
 するとトモエ武玄ブゲンの肉体に空いた矢の傷口が徐々に塞がり始め、豪雨と共に溢れ落ちる流血を止めた。

 それを見るシルエスカは、この状況で回復手段を扱える『青』に驚きを浮かべて問う。

「どうやって?」

「奴等だけが豪雨あらしの影響を受けていない状況を見て、その性質は理解できた」

「性質?」

「奴等は精神体アストラルとして顕現し、以前の能力ちからを使えている。ならばこの豪雨あめに影響されないのは、恐らく精神体たましいだけだ」

「!」

精神体たましい原動力エネルギーとした能力ちからであれば、この豪雨あらしの影響は受けない。ならばそれを応用し、この者達の精神体たましいをそのままエネルギーとしながら肉体の治癒力に変換すればいい。寿命は僅かに縮むが、このまま回復できずに死ぬより良いであろう」

「……流石は、大魔導師と呼ばれるだけはある」

 この状況において真竜ログウェルの操る天候そらがどういった能力なのかを冷静に分析した『青』は、そこから行使できる能力ちからも見極め扱う。
 それを聞いていたシルエスカは僅かに不服染みた様子を見せながらも、『青』の分析力について改めて感心を見せた。

 そうして四人が集まる場に、共に同行していた干支衆の『牛』バズディールと『戌』タマモも歩み寄る。
 すると『青』は二人の応急処置かいふくを終えた後、その干支衆達ふたりに話し掛けた。

「……話には聞いていたが、あの狼獣族エアハルトがここまで強くなっているとはな。……干支衆おまえたちの修練による効果か?」

「いや。アレは奴自身のえまぬ努力の賜物だ」

「独力か?」

魔人われらの里にも狼獣族ろうじゅうぞくをいない。故に狼獣族の効果的な鍛錬方法は知らん。……だからこそ奴自身が危険な環境に身を置き、生死の境を幾度と彷徨った結果、自分の能力ちからを高め続けた」

「……流石は狼獣族ろうじゅうぞくだ。自己鍛錬だけであの境地にまで至れるとは、魔獣王フェンリルの血を継ぐ最強の獣族と云われるだけはある」

 バズディールと『青』はそうして言葉を交え、現在のエアハルトが高い実力を身に着けた事を話す。
 すると雨に濡れた扇子を閉じながら袖に戻すタマモは、こうした声を見せた。

「バズ。この騒動さわぎが終わったら、次の『いぬ』はあの子エアハルトに指名してえぇ?」

「むっ」

「はっきりうて、干支衆うちらでも今のあの子エアハルト一対一タイマンで勝てるのらんやろ。だったら干支衆うちらの中に入れとくのも手やない?」

「……いや。奴ならば、誘っても拒むだろう」

「そうなん?」

「奴には奴なりの目的がある。だからこそ、この場に自分から来たいと言ったのだからな」

「ふーん、勿体もったいないわぁ」

 魔人の中でも突出した実力を持つ干支衆ふたりは、エアハルトの実力が既に自分達を追い抜いている事を明かす。
 そうした会話を聞いていたその場の者達は、改めて電撃でんげきと暴風の中に微かに見えるエアハルトの実力がこの状況において頼もしいとすら感じていた。

 するとバズディールは顎を上げ、暗雲が発生し雷鳴が起きている上空そらを見上げながら呟く。

「……向こうは、上手くやっているだろうか」

「やっててくれんと、ウチ等が困るんやけど」

「そうだな」

 何かを期待するように話す二人は、上空の状況について気にする様子を見せる。
 そして丁度その頃、ドワーフ族長のバルディオスが操る機動戦士ウォーリアーに同乗したエリクが到着し、真竜ログウェルと眼光を合わせながら見合う光景となっていた。

 しかしエリクはすぐに視線を落とし、機動戦士ウォーリアー手中に収めたマギルスと帝国皇子ユグナリスを見る。
 ユグナリスは辛うじて意識を保ちながらも大きく疲弊した様子を見せ、マギルスは意識を失ったまま目覚める様子すら見えない。

 そんな二人が居る手の平ばしょへ跳び足を着けたエリクは、意識を持つユグナリスにマギルスの容態を聞く。

「マギルスはやられたのか?」

「……はぁ……はぁ……。……マギルス殿は、俺と融合して……そのせいで、魂が燃え尽きようとしているって……」

「融合? ……死にそうなのか?」

「た、多分……」

 半精神生命体ハーフアストラルであるマギルスはその大元とも言える精神体たましいを『生命の火』に吸収し燃料とされた為に、その魂そのものが消失し掛けている。
 それを真竜ログウェルから聞いていたユグナリスは、自分の『生命の火ちから』を原因としてマギルスが死にそうになっている事を明かした。

 エリクはその話を聞きながらも詳細を理解できず、マギルスが死にそうだという話だけは状況で察する。
 するとマギルスの傍まで歩み寄り、片膝を落としマギルスを見下ろしながら口元と胸に手を置いて何かを探った。

「……呼吸も、鼓動も無い。それに、魂もほとんど感じない」

「!?」

「マギルスは、もう死んでいる」

「そ、そんな……!?」

 瞼を閉じたまま眠るように横たわるマギルスが、精神体たましいすらも消失し掛けている事をエリクは察する。
 それを聞いたユグナリスは顔を下側へ沈め、自分の『生命の火ちから』がマギルスを殺してしまった事を強く後悔し絶望し始めた。

 しかしエリクは落ち着きを見せたままマギルスの状態を詳しく手で探り、何かを考えた後に自身の左手を見る。
 更に右手の親指を近付けると、僅かに伸びた爪で左手の中指を切って見せた。
 
 そこで大きな粒のように溢れる自身の血を見るエリクは、マギルスの僅かに空いた口へ血が溢れる中指を近付ける。
 すると中指そこから滴る粒のような血が、マギルスの口内に入るように落ちた。

 それを傍で見ていたユグナリスは、エリクの行動が分からずに問い掛ける。

「な、何を……?」

「黙って見ていろ」

「……!」

 ユグナリスの問い掛けに答えないエリクは、それからマギルスの様子を確認する。
 すると数秒後、マギルスの身体から赤い光が仄かに発せられ、ユグナリスを驚かせた。

「こ、これは……!?」

「やはり、そういうことか」

「え……!?」

「俺の血は……いや、到達者フォウルの血は『マナの実』と一緒だ」

「!」

鬼神フォウルが前に言っていた。別未来あのときに俺が死んだ後、鬼神やつの血を飲んで俺は生き返ったと。……だったら、今のマギルスなら……」

「……!!」

 エリクは自身の経験と知識をもとに、マギルスを復活させる為に『マナの実』と同質と云われる到達者じぶんの血を飲ませる。
 それによりエリクと同様の状況がマギルスにも起き、その肉体を赤く輝かせた。

 そして数秒後、マギルスから発せられた赤い発光ひかりおさまる。
 するとマギルスの瞼が微かに動き、薄らと目を開けながら声を呟かせた。

「……あれ……?」

「マギルス」

「マギルス殿っ!?」

「……エリクおじさんだ……。……どうなってんの?」

「俺の血を飲ませて、お前を生き返らせた」

「……え?」

 意識を戻したマギルスは目の前に存在するエリクの顔を見上げ、その状況を聞いて朦朧とした意識から呆気の声を零す。
 するとエリクはマギルスの復活を確認し、僅かに安堵の息と言葉を向ける。

別未来まえに俺が死んだ時と、同じ事をした」

「……あぁ、あれかぁ。……あれ、おじさんって……マナの実、持ってたんだっけ……?」

「俺の血も、それと同じらしい効果ちからがあるらしい」

「……それって、凄いじゃん……」

「ああ。……ありがとう、マギルス。お前は本当に、頼りになる男だ」

「……へへぇ、そうでしょ……。……後は、おじさんがお願いね……」

「ああ、任せろ」

 この状況において自分の精神たましいを削るまで戦っていたマギルスを見て、エリクは今まで共に戦い続けた彼に対する信頼を向ける。
 その言葉を聞いて朗らかな笑みを浮かべたマギルスは疲弊の色濃い様子を見せながら、再び眠りに落ちた。

 それを確認したエリクは立ち上がり、機動戦士ウォーリアー操縦席コクピットに座るバルディオスの声を向ける。

「バルディオス! マギルスとこの男ユグナリスを頼む」

「頼むって……お前さんはどうするんじゃ?」

「俺は……奴と戦う」

「奴って……あのドラゴンとかっ!?」

「そうだ」

 エリクはそう言い放ち、遥か上空に見える真竜ログウェルを睨む。
 それを聞いたバルディオスが動揺を浮かべる中、同じように聞くユグナリスが疲弊した様子で身体を起こしながら声を向けた。

「おっ、俺もやります……!!」

「……とても戦えるようには見えない。大人しく下がっていろ」

「あそこに居る真竜は、ログウェルで……。……俺は、弟子だから……だから……!」

弟子それがどうした」

「!!」

「あの老人も、メディアという女も。俺の大事な仲間ものたちを苦しめてしいたげる奴等を、俺は許さない。……奴等は、俺が倒す」

「で、でも……この天候あめは、俺達の能力ちからを封じている! こんな状況じゃ、貴方でも真竜ログウェルまで届かない……!」

「そうでもない」

「えっ」

 ユグナリスが状況を教えるも、エリクはそれを意に介する様子を見せずに上空そらを見上げる。
 そして次の瞬間、エリクの全身から凄まじい生命力オーラが放出された。

 それを見たユグナリスは瞳を見開き、この天候で生命力を使えるエリクに驚愕を浮かべる。

「えっ!? こ、この天候そらの中だと生命力オーラは使えないんじゃ……!?」

「この天候あめは、奴の魔力で作られているということだろう。……だったら、今の俺には効かない」

「え……」

 自信を持つエリクはそう言い放ち、暴風で揺れる黒獣傭兵団の外套マントめくれる。
 すると背中側の腰部分に白い布を巻いたモノを携えている様子が見え、それが白い発光を僅かに放ちエリクの肉体を天候あめを遮らせていた。

 そしてエリクは機動戦士ウォーリアー手中から離れ跳び、頭部まで跳び移る。
 更に後ろ腰にげる太めの鞘からはみ出る白い布を握り抜き、その布を剥ぎ取りながら覆われていた『聖剣』を見せた。

 するとエリクは全身から滾る生命力オーラを『聖剣』に移し、剣を振る構えを取る。
 その視線の先には真竜ログウェルを捉え、握る柄に力を込めながら言い放った。

「……鬱憤晴らしには丁度いいだろう。お前の力を見せてみろ――……『聖剣せいけん』っ!!」

『――……リィインッ!!』

 エリクの声に応えるように、『聖剣』に嵌め込まれた宝玉から共鳴音が響く。
 そしてエリクが上空に向けて『聖剣』を薙ぎ振った瞬間、凄まじい極光ひかりが放たれた。

 それは同時に暗雲で覆っていた天候そらの満たし、真竜ログウェルすらも飲み込むような極光ひかりとなる。

『こ、これは――……ッ!!』

「この光は……!?」

「ひ、ひぃっ!! 『聖剣』を全開で使いおった……!? おっ、お前さん達も入れっ!!」

「えっ!?」

 あの真竜ログウェルですら驚愕を浮かべる『聖剣』の極光ひかりに対して、ユグナリスは状況が分からず困惑した面持ちを見せる。
 逆にバルディオスは『聖剣』を使った極光ひかりだと即座に理解し、手の平に収める二人を操縦席コクピットに詰め込み、自分の身を守る為に扉を閉めた。

 それをきっかけに凄まじい暴風が吹き荒れていた地上から見える空が、夥しい極光で覆われる。
 人々はそれによって視界を奪われる程の極光で空を直視できなくなり、しばらく目を逸らし地面へ顔を傾けた。

 それから十数秒後、人々は極光が薄れたことを理解し空を見上げる。
 すると暴風と豪雨が吹き荒れていた暗雲の空は、いつの間にか日常とも言える蒼穹そらを取り戻していた。

 こうしてエリクは手に入れた『聖剣』を使い、真竜ログウェル天候そらを消滅させて見せる。
 人間大陸の全てを覆う程の天候そらを全て浄化して見せた『聖剣』の威力は、まさに伝承に恥じぬ能力ちからを持っていた。
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