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革命編 八章:冒険譚の終幕
天敵の再戦
しおりを挟む上空に浮遊する天界の大陸にて、『緑』の初代と二代目を相手に『青』は不利な対峙を行う。
その窮地に現れたのは、ケイルを含む武玄や巴の師弟達。
更に魔人である妖狐族のタマモとクビアの姉妹、そして元『赤』の七大聖人シルエスカも加わり、数において有利を得る事になった。
しかし臆する様子を見せない『緑』の二人は、それ等の面々と相対する。
特に武器を持つ面々と無手のまま対峙するバリスは、躊躇いなく魔導師の『青』を最初に潰しに掛かった。
「――……まずは、『青』からっ!!」
「ッ!!」
凄まじい速さで跳び来るバリスは、中距離から両拳で放つ拳圧に『生命の風』を乗せる。
すると凄まじい突風と拳圧が加わり、魔法を得意とする『青』を最初に潰そうとした。
それに対抗するように『青』は錫杖を前へ向け、生命力を含めた障壁を発生させて拳圧を防ぐ。
しかし拳圧が命中した瞬間に障壁は砕かれ、止まらないバリスは『青』に迫りながら直接的に拳を打ち込もうとした。
それを防ぐように飛び込むのは、和槍を握り真横から迫るシルエスカと、『青』の後方から飛び込む武玄。
両者が互いに武器を振るいながら気力斬撃を生み出すと、バリスの進撃を阻まれながら身軽な動きで引きながら三人から距離を置いた。
そうして前に出た二人は、後方に立つ『青』に呼び掛ける。
「下がっていろ」
「バリスの相手は、我等がやる」
「……いや。奴等を倒せるのは、この場では儂だけだ」
「!」
下がるように告げるシルエスカと武玄に対して、『青』はそうした言葉を見せる。
すると対面するバリスを見ながら、改めて彼等にも『緑』に関する推測を伝えた。
「奴等の『緑』の聖紋に宿る精神体だ。姿こそ実体に見えているが、アレは仮初の精神体に過ぎない。生命力や物理的攻撃では、恐らく消滅までには至れない」
「!?」
「精神体の奴等を倒すには、精神を構成している魔力とそれを司る核を消滅させる必要がある」
「精神体の核……?」
「それを破壊できるのは、その秘術を知る儂だけだ。……だからこそ奴は、真っ先に儂を殺そうとした」
「……!!」
精神体である『緑』の二人を知る『青』は、彼等を倒す為に必要な情報をシルエスカ達に共有する。
そうした話をしている面々に対して、バリスは余裕の微笑みを見せながら声を向けた。
「その通りです。我々の核を見つけて消滅できるのは、この場では『青』だけでしょう」
「!!」
「シルエスカ様の『生命の火』でも核を消滅させるのは可能でしょうが、貴方の能力はまだ進化に至れていない。帝国皇子と違ってね」
「ク……ッ」
バリスはそう言いながら両腕を胸元に引き付け、両拳を重ねるように叩く。
すると次の瞬間、そこに凄まじい突風が生み出されながら目の前にいる彼等に吹き荒れた。
そしてバリスが両腕を広げながら構えると、彼の全身は『生命の風』に纏われる。
攻守を『生命の風』に委ねながら戦えるその状態を見せると、彼は深く腰を落としながら言い放った。
「数の有利は、貴方達にある。……しかし『聖人』の戦いは、数ではなく質であることをお忘れか?」
「……っ!!」
「老いた聖人に遅れを取らぬよう、気を引き締めなさいっ!!」
怒鳴るように言うバリスの言葉と同時に、殺気を含む凄まじい圧力が目の前にいる彼等に向けられる。
それに向かい合う三人はそれぞれに圧力に負けぬ意思を保ち、突風となって迫るバリスを見ながら迎撃を始めた。
槍と刀という武器を持つ二人に対して、バリスは無手の拳だけで迎撃し鋭い気力を纏う刃を打ち払う。
更に素早く腕を引きながら左脚を跳ね上げ、身を捻りながらシルエスカの右脇腹を襲った。
「クッ!?」
シルエスカは辛うじてその脚撃を見切り、生命力を纏わせた和槍の柄で受け止める。
しかしそれを貫通するようにバリスの左脚に纏った『生命の風』が発生し、シルエスカh右腕と右脇腹部分に流血を起こさせた。
更に打ち払われたはずの左脚を地面に着けたバリスは、それを軸足にしながら右脚で武玄の腹部を狙う。
その一瞬の攻防を見て防御不可能な『生命の風』を見抜いた武玄は、受け止めずに跳び避ける事を選んだ。
しかし回避すらも許さぬように、バリスの左脚に纏った『生命の風』は鋭い鞭のように跳び避けた武玄の全身を切り刻んで流血を起こさせる。
「なにっ!?」
「『生命の風』は、何者も防げない」
防がれ回避される拳や脚には、『生命の風』が纏っている。
それが手足以上に攻撃範囲を広げ、思わぬ殺傷力を与えていた。
すると再び身を捻りながら突いた右脚を素早く引かせ、地に着いた両足で跳躍しながら中空に回転跳躍を行う。
更にコンマ数秒単位で態勢を崩した二人に向けて、『生命の風』を纏わせた両足を顔面に向け放った。
しそれを防ぐ為に『青』は動き、目の前でやられそうになる二人を援護に入る。
「むぅっ!!」
「!」
中空で蹴りの両足を広げるバリスに、『青』は周囲に展開している水球を向け放つ。
するとバリスは二人の顔面から目標を変え、向かって来る水球を両足で打ち払いながらそれを足場にして再び跳び下がった。
それで辛うじてバリスの攻撃を回避できた二人に対して、『青』は言い放つ。
「奴に接近するな! 距離を保ち、気力斬撃と『生命の火』で攻撃を加えろ」
「……っ!?」
「奴は歴代の七大聖人でも、最も格闘戦を得意とした武人。近付くのは、奴の思う壺だ」
「……バリスが、ここまでの実力を持っていたとは……っ」
「でなければ、以前の天変地異で奴を名指しで呼ぶモノか」
そう語る『青』は、二代目として選ばれた『緑』の七大聖人バリスの実力について改めて忠告する。
それを聞きながら態勢を戻した二人は跳び下がり、バリスの接近を警戒しながら身構えた。
しかしそうして距離を量る者達に、バリスは失望にも似た瞳を向ける。
「そうですな。今の貴方達ではそうした手段しか取れない。それが残念でなりません」
「……何が言いたい?」
「言ったでしょう。この老いぼれに挑むことすら躊躇うのならば、私は貴方達に価値を見出せない。……だが、そちらは違うようだ」
「!!」
「いるのでしょう? 出て来なさい」
バリスは正面に居る彼等から視線を外し、更に後方に立つ妖狐族のタマモへ言葉を向ける。
すると扇子を広げて状況を観察していたタマモは、溜息を漏らしながら口を開いた。
「なんや、やっぱりバレとるな。奇襲したろ思っとったのに」
「――……ならば、出る方がいいだろう」
そうして佇むタマモの隣から、透明となっている人物が声を発する。
それと同時に彼女の施していた魔符術が解けて背中から離れ落ちると、その場に二メートルを超えた大男が現れた。
それを見たバリスは微笑みを浮かべ、改めてその人物に挨拶を交わす。
「やはり居られましたか。先日の天変地異に御会いして以来ですか、バズディール殿」
「そうだな」
バリスはそうして呼び掛け、その場に現れた干支衆の『牛』バズディールに挨拶を向ける。
それに応えるバズディールは向かい合い、厳かな表情と言葉を向けた。
「俺を指名か」
「えぇ。干支衆の纏め役である貴方ならば、私の相手も十分に出来ましょうぞ。……貴方の息子とも、昔は楽しませて頂きましたからな」
「そうか、俺の息子と戦ったか。……だ今回、俺はただの見届け役だ」
「見届け役?」
「お前と戦いという者を連れてきた。そいつが倒されたら、俺がやろう。――……タマモ、頼む」
「はいはい」
バズディールの言葉を聞き、バリスは首は不思議そうな表情を浮かべる。
そこで広げた扇子の中から一枚の紙札を取り出したタマモは、それを自身の左側に投げながら魔力を通した。
すると次の瞬間、紙札が消えると同時にその場に一人の人物が現れる。
それを見た時、その場に居る全員が驚く様子を見せた。
それはバリスも同様であり、僅かに微笑みを見せながらその人物の名を呼ぶ。
「これはこれは。確か貴方は――……エアハルト殿でしたな?」
「――……ああ」
タマモの転移魔術によってその場に現れたのは、隻腕の狼獣族エアハルト。
以前にガルミッシュ帝国で一度だけ戦闘を行った二人は、互いの存在を認知しながら向かい合った。
するとエアハルトは周囲に一目も向けず、そのまま前へ歩み出る。
それを見たシルエスカは、その対応を止めるように呼び掛けた。
「待て! まさか、一人で戦うつもりかっ!?」
「当たり前だ」
「無茶だ、ここは我々と共に!」
「奴も俺の獲物だ。……お前達は邪魔だ、大人しく見物でもしていろ」
「な……っ!!」
制止するシルエスカに対して一瞥すらも向けないエアハルトは、そう言いながらバリスへ向かい歩く。
そして互いに二メートルの距離も無い空間で向かい合い、改めて眼光と声を向け合った。
「もう、貴様には負けない」
「それは頼もしい限りですな」
「――……ッ!!」
互いにそうした一言を向け合った後、二人の右腕は目にも止まらぬ速さで前方に突き出される。
それと同時に互いの右拳が激突し、その場に突風と同時に雷撃が待った。
すると拳を突き合わせたバリスは僅かに驚嘆した瞳を開き、エアハルトの右拳に宿る電撃を見ながら口元を微笑ませて話す。
「そういえば貴方は、狼獣族でしたな」
「それがどうした」
「天から降り注ぐ『雷』を喰らう銀狼の一族は、『風』の一族が生み出す天候をも喰らっていたと聞く。……どうやら貴方は、私達にとって天敵のようだ!」
「ッ!!」
互いに『風』と『雷』という特異な能力を持つ二人は、拳を伝いながら互いの能力を相殺し合う様子を見せる。
その一瞬で能力の相性を判別したバリスは衝突させた互いの拳を弾き押し、凄まじい速さで殴打を繰り出した。
それに対してエアハルトも右腕と両脚を繰り出し、バリスと激しい攻防を繰り広げる。
更に二人が放つ突風と雷撃が周囲の空間に散り満ち、それが力場となって周囲の者達が近付けない空間を作り出した。
「ッ!!」
「こ、これは……!?」
「……『風』と『雷』……。そうか、その手段があったか」
「どういうことだっ!!」
「銀狼獣を先祖に持つ狼獣族は、自身の生命力と魔力で『雷』を作り出す。その能力は、『生命の火』や『生命の風』の原理に近い」
「!?」
「しかも『雷』の能力は、魔力や生命力、そして瘴気すらも分解する効力を持つ。……あの狼獣族の『雷』は、奴の『風』すらも分解できているのだ」
「……狼獣族に、そんな特性が……!?」
『青』は二人が戦う周囲の力場を見ながら、吹き荒れる『生命の風』がエアハルトの『雷』に喰われるように分解している様子を理解する。
更に殴り合う二人の光景には、先程とは異なる明確な有利不利が見えた。
「……ッ!!」
「オォオッ!!」
「……バ、バリスの手が……!?」
「焼け焦げている……!?」
「やはり狼獣族の『雷』は、魔力で作られている奴の精神体にも有効なようだな」
「!」
「『雷』を纏う身体を殴るだけでも、奴の精神体を傷付けられる。恐らくあの『雷』なら、核を焼き潰すことも。……あの男は、奴にとって天敵だ」
圧倒的な実力と格闘技術を持つバリスが電撃を纏うエアハルトとの接触を嫌うように避ける様子を見た時、『青』は光明を見出す。
それは『火』の一族に圧倒的優位を誇る『風』の一族にとって、『雷』の末裔であるエアハルトの能力が有効である事を証明していた。
こうして天界の戦いに参戦した狼獣族エアハルトは、悪魔との戦いで覚醒した『雷』の能力を用いて優勢を勝ち取る。
更に三年間よりも高い格闘技術に合わせた魔力や生命力の操作技術を身に着け、隻腕ながらもバリスと互角の格闘を繰り広げていた。
応援ありがとうございます!
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