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革命編 八章:冒険譚の終幕
冒険譚の終幕
しおりを挟む創造神の欠片を持って生まれたログウェルは、『緑』の七大聖人に選ばれることでその権能を解放できる『聖紋』を手に入れる。
しかしそれが引き金となり、彼は『黒』が予言していた『世界を滅ぼす者』へとなった。
それを防ぐ為に協力関係となったログウェルと『黒』は、滅びる未来を変える為に必要な者達を導く。
その最初の一人は、聖域において自分の娘と戦う『マナの実』が生命となったメディアだった。
丁度その頃、ログウェルは天界の更に上空でエリクとユグナリスに自身の目的を明かす。
それを傍に投影している映像で見ていたメディアは、土埃が舞う中で姿を見せながら視線の先へ声を発していた。
「――……と、言うわけで。ログウェルは未来の『黒』と協力して、この未来まで辿り着いた私や君達を見守っていたのさ」
「――……っ!!」
ログウェルに関する物語を伝えるメディアが、その対面した位置でアルトリアに声を向けている。
しかしその様相は先程よりもボロボロの姿でありながらも、辛うじて身を屈めながら意識を保っていた。
そして右手を正面へ払い向けた瞬間、アルトリアは真横へ大きく跳び避ける。
すると次の瞬間、その場に凄まじい生命力が斬撃のように飛ばされ、聖域の地面と森林を削り飛ばした。
メディアは淀みの無い様子で土埃の中から現れ、地面へ倒れるアルトリアへ視線を向ける。
すると彼女は額から顎へ汗を流し、身を起こしながら荒げた声で問い掛けた。
「……なら、どうして……こんな事を……っ!!」
「あら、分からない? ――……世界を変える事は出来ても、ログウェルの未来は変わっていないんだよ」
「!?」
「『世界を滅ぼす者』の運命は決まってしまっている。彼の持っている権能は彼自身の能力と同調し、この世界に在る全ての生命を吸い尽くしてしまうんだ。それが創造神の【暴食】を受け継いでしまった、彼の結末なんだよ」
「……!!」
「それを阻止するには、ログウェルを殺すしかない。でも到達者になった彼を殺せるのは、同じ到達者しかいない。……でもログウェルはね、ただ殺されるのが嫌だったんだ」
「な……っ」
「ログウェルには一つの夢があったんだ。彼が子供の頃に読んだ本に描かれた騎士のような、最後を迎えることが」
「!」
「『老いた騎士は旅の果てに、一人の戦士と出会う。同じ夢を持つ二人は互いの強さを競う為に、剣を交えた――……』。……そこで、その本の話は終わってしまったみたいだけど」
「……『老騎士の冒険譚』も、確かそんな展開で終わってたわね。でもそれから十数年間、続巻は出てないはず……」
「実はあの本の内容ね、ログウェルが子供の時に見た本の構成を真似たんだってさ」
「!」
「あの本の原本は、五百年前の天変地異で文明ごと消失してしまったんだって。ログウェルが読んでたのは、途切れ途切れの写本だったみたいだよ」
「……なんで、そんな事を……」
「憧れたんだよ。ログウェルも、その本に描かれた騎士にね」
「!」
「何者にも従わず、ただ自分の夢に従っていた騎士の生涯。ログウェルはそれに憧れて、世界を旅できるように自分自身を鍛え上げたんだ。……そして自分の運命を知ったログウェルは、自分と対峙する戦士と出会った」
「……エリク」
「そう、彼がログウェルの探していた戦士だった。……まさかあの時に会った男の子が、ログウェルの求めてた戦士だったなんて。私でも予測できなかったよ」
「……ッ!!」
「しかも成長した彼が、私の娘と一緒に旅をしていたなんてね。……ログウェルからの頼みで、ナルヴァニアやウォーリス君達を助けた結果がこの未来に繋がってるんだから。本当に凄いよね、『黒』の予知ってさ」
「……まさか、アンタがウォーリス達に手を貸してたのは……【結社】の依頼じゃなくて……!!」
「全部、『黒』から未来を聞いたログウェルの依頼だよ?」
「!!」
「拾い育てた私をナルヴァニアやウォーリス君達の助けにすれば、未来が大きく変わる。漠然とした予知だったみたいだけど、君達はウォーリス君やゲルガルドと敵対して戦い、その中で戦士の彼は到達者になるほど強く成長した。……全部、ログウェルが望んでいた展開だったんだ」
微笑みながら語るメディアに対して、アルトリアの表情は更に強張る。
そしてこれまでの話に不可解さを強めながら、立ち上がり真正面を向けながら怒鳴り聞いた。
「……到達者と戦って殺されるだけなら、エリクじゃなくても良かったはずよ……!!」
「私もそう思った。でもログウェルに聞いたら、彼じゃないとダメだったんだって」
「なんでよっ!?」
「彼も権能を持ってるから」
「……!」
「知ってるよね? 創造神の欠片を持つ者は、同じ創造神の欠片を持つ者を殺すことで相手の権能を得る。……でも今の世界には、ログウェルと同じ権能を持った到達者は一人しか誕生しなかった」
「……それは……っ」
「同じ権能を持ってる中で、ログウェルに勝てそうなのは『白』だけど。でも『白』は到達者を上回る能力は持てても、殺して権能を奪うことまでは出来ない。『白』自身も到達者ではないから」
「!!」
「仮に権能の無い到達者がログウェルを殺したとしても、『緑』の聖紋によって開錠された権能はログウェルの意識を世界へ残して循環機構を支配し、この世界の概念となって全ての生命を吸い尽くす。そうなったら、結局はログウェルが見た未来へ繋がってしまう」
「……その話が本当なら、事態を解決する方法は……たった一つだけ……」
「権能を持つ到達者がログウェルを殺して、彼の権能を奪う。そして『緑』の聖紋を、権能を持たない別の誰かに譲渡するしかない」
「……ッ」
「この手段でないと世界は救われない。ログウェルはね、自殺も出来ないんだよ。……だから敢えて、ログウェルは世界を滅ぼす側に立った。そして自分と同じ権能を持つ戦士の『敵』として、戦うつもりなんだよ」
「そんなこと――……ッ!!」
ログウェルが抱く真の目的を理解したアルトリアは、背負う六枚の翼を広げて聖域の出入り口となっている時空間の穴へ向かおうとする。
しかしそれを阻むようにメディアは右手を軽く振り、凄まじい生命力を放ってアルトリアの飛翔を阻んだ。
「ログウェルから頼まれてるんだ。君を聖域に足止めして欲しいってね」
「……私を誘い込んだのは、エリクとの戦いを邪魔させない為……!?」
「それがログウェルの目的ではあるけど。君に渡した権能を返してもらうつもりなのは、本当だよ」
「……!!」
「二人の戦いを止めたかったら、私を倒すしかないわけだ」
「……なんでそこまで、ログウェルに肩入れしてるのよ。アンタ、この世界や生命がなんかどうなってもいいんでしょっ!?」
ログウェルに協力する行動に、アルトリアは不可解さを示す。
その疑問を聞いたメディア本人は、当然のように答えた。
「私にとって、彼が父親みたいなものだからかな」
「!」
「百年以上前、私は聖域で生まれた。でも母親の樹と樹海以外は何もないこの時空間で、私は何をすればいいかも分からなかった」
「……」
「でもそんな私をログウェルが見つけて、下界に連れて行ってくれた。私にとって、ログウェルは世界の事を教えてくれた恩人でもあるんだ」
「……その父親が死ぬのを、黙って見てるつもりっ!?」
「ログウェルに死ぬつもりはないよ」
「!」
「ログウェルは一度だって、わざと負けるような戦い方はしたことない。ちゃんと勝つつもりで戦士とも戦うよ。……その結果、ログウェルが勝つなら世界が滅ぶ。それでも良いと、ログウェルや私は思ってるんだ」
「……アンタ……」
「本当だったら、私がログウェルと戦って殺してあげたいんだけどね。その為には到達者になる必要があるんだけど……でも、ログウェルには断れちゃった」
「!」
「あの日から、ログウェルはずっと成長した彼と戦いを楽しみにしていたから。……存分に楽しんでね、ログウェル」
投影し映し出されるログウェルの姿を見ながら、メディアは微笑む様子を見せる。
すると思い出すように顔を動かし、アルトリアに声を向けた。
「なんなら、一緒に見る? 親子らしく、仲良く寄り添ってさ」
「……絶対に、お断りよっ!!」
自分の権能を奪う相手に対して、アルトリアは近付く事を拒否する。
そして再び飛翔しようと試み、背負う六枚の翼を羽ばたかせながらマナの大樹付近まで向かおうとした。
しかしそれを阻むように、メディアは簡単に追い付き蹴りを放つ。
それを受けた一枚の翼が粉々に破壊され、アルトリアは再び森林を削りながら墜落した。
そうした娘の姿を見て、メディアは腕を組みながら考えて呟く。
「うーん。……これが反抗期って時期かな?」
「――……ク……ッ!!」
「親になるっていうのも、大変なんだなぁ。……子供の躾は、しっかりしないとね」
辛うじて残る翼に包まれ身を守る自分の娘に対して、母親はそうした思いで妨害を続ける。
こうして言い争う二人の映像は地上でも投影されており、多くの人々がその会話を聞いていた。
その中には、ログウェルを身近にして知る者達も多い。
特に彼を師事し成長した元ローゼン公クラウスは共和王国の王城にて、メディアの話からログウェルの現状を知って驚愕を浮かべながら表情を強張らせていた。
「――……ログウェル……。……クソッ!!」
「!?」
「使える箱舟は、何処かに無いのかっ!?」
「だ、駄目です! 通信は回復したのですが、この大陸にある箱舟は全て使用不能になっていると……」
「クッ!! ……ログウェル、何故だ……。……何故、俺達には……俺や兄上に、教えてくれなかったんだ……っ!!」
メディアとログウェルが行う出来事に対して自ら天界へ向かおうとしていたクラウスだったが、先程の天候によって箱舟は全て使用不能となる。
それにより地上へ足止めされてしまい、二人が居る天界へ向かえずに険しい表情を強めていた。
その表情の奥には、自分の師が抱き続けた苦悩を察せられなかった自分自身に対する怒りが宿っている。
それは彼に憧れ教えを受けた弟子としての矜持と、師匠に対する敬愛も込められていた。
こうしてアルトリアや地上に残る人々は、メディアの伝える映像を介してログウェルの目的を知る。
それは『世界を滅ぼす者』という運命を背負った老騎士が、最後に出会う戦士と決着を望む冒険譚の終幕だった。
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