虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 八章:冒険譚の終幕

神の怪物

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 復活し激闘を交える【始祖の魔王ジュリア】と【鬼神フォウル】だったが、それによって互いが本来の実力ちからを出し切れていない事が伝わる。
 その理由を互いに推測する中で、フォウルは介する肉体エリクが自分の生まれ変わりではない事を明かした。

 しかしエリク本来の前世たましいは、無敵と称された【鬼神】フォウルを殺したと語られる【最強の戦士】ドワルゴン。
 彼は【始祖の魔王ジュリア】の顔見知りでもある魔族の配下ハイオークでもあり、更に鬼神フォウルが持っていた権能ちから到達者エンドレスを倒す事で引き渡されるエネルギーと共にドワルゴンに引き継がれた。

 その生まれ変わりであるエリクに本来の持ち主である鬼神フォウル権能ちからが引き継がれた事で、二人の精神じんかくが一つの魂内部に存在してしまう。
 当初はそのせいでエリクが自分の生まれ変わりだと誤解していた事を明かしたフォウルは、自身を皮肉ひにくるような言葉も述べた。

 それでも全ての権能ちからを集め人間大陸と人間を滅ぼす目的を止める気が無いジュリアに、フォウルは更なる情報を明かす。
 それはジュリアが真っ先に殺そうとした人間の女性アルトリアが、前世で伴侶を務めたハイエルフの女性、【魔大陸を統べる女王ヴェルズェリア】だという話だった。

 しかしそれを聞かされたジュリアは最初こそ唖然としながらも、次第に激昂した表情を浮かべ始める。

「――……あの女が、ヴェルズの生まれ変わり……? ……アタシを止める為に、そんな嘘まで吐くのかよ。テメェはそういう卑怯マネはしないと思ってたんだがな。見損なったぞ、クソオーガ

「……本当に、嘘だと思ってんのか?」

「あ……?」

「今、循環機構システムはテメェが手中に収めてるんだろ。……だったら探せよ、輪廻むこうに居るはずのヴェルズあの女の魂をよ。それぐらい、これを聞いた瞬間にやってんだろ?」

「……ッ」

「その様子だと、やっぱり輪廻むこうには無いんだろ。ドワルゴンも、そしてヴェルズの魂もよ」

「……」

「そういえば、『アイツ』が言ってたらしいな。『五百年前に死んだ到達者エンドレス達が、五十年前すこしまえから現世こっちに生まれ変わってる』ってよ。……ようするに、コイツ等もその予言なかに含まれてるってことだ」

「……それでも、アタシは信じねぇ」

「だったら殺すか? ヴェルズェリアやドワルゴン、嬢ちゃんアイリが守りたかった連中の生まれ変わりを」

「!!」

「テメェがやってることも、嬢ちゃんアイリを裏切ってることに変わりねぇことも分かってねぇのか。……今のテメェと人間共に、何の違いがある?」

「……うるせぇ」

「テメェがそんな連中も殺して、守りたかったモンも何も無くなった世界にあの嬢ちゃんアイリを起こしてどうするってんだ? ……だからクソガキなんだよ。お前は、昔からな」

「……ウルセェッ!!」

 ジュリアの目的と矛盾する行動を罵りながら指摘するフォウルは、腕を組みながら自信に満ちた厳つい顔でそう言い放つ。
 それに対して反論できないジュリアは、再び両手に小さな太陽エネルギーを作り出しながら投げ放つような構えを見せた。

 しかしフォウルは鋭い眼光を向けるだけで、構える様子を見せない。
 そんな相手に、ジュリアは怒鳴り聞いた。

「じゃあ、テメェはどうなんだよっ!! テメェだって、一度は人間大陸を滅ぼそうとしたんだろうがっ!!」

『!』

「……アイツから聞いたのか?」

「ああ、そうだ! 人間大陸で暴れ回って、幾つも人間の国を潰したんだろっ!! テメェだって、人間共のやってることにはムカついてたんだろうがっ!!」

「……まぁな」

「だったらっ!!」

「だが、今のテメェと一緒にすんな」

「!?」

第一次人魔大戦あのとき、テメェ等が人間大陸ここの連中を滅ぼそうとしたのはしゃーないとは思ってるがな。……今のテメェがやってるのは、あの嬢ちゃんアイリを言い訳にした鬱憤晴らしだろうが」

「……ッ!!」

嬢ちゃんアイリが今の世界を見て滅ぼすって考えるなら、それはしゃーないと思って見てやれるがな。……それをテメェが勝手に決めてるやろうとしてんのが、俺は気に食わねぇんだよ」

「……なんだよ……。……何だよ、そりゃ! テメェだって、人間に……『大帝アイツ』に自分の息子フォルスを殺されてるくせにっ!!」

『!』

「……」

「それでもテメェは、人間が滅ぼしたいほどにくくねぇってのかよっ!! アタシ達を騙して、アイツを……フォルスを殺した、人間共がよっ!!」

 更に太陽エネルギーを膨張させながら、ジュリアはそうして怒鳴り聞く。
 それに対してフォウルは瞼を閉じた後、数秒ほど考えてから瞼を開いて答えを返した。

「フォルスの馬鹿が死んだのは、自業自得だろ」

「!?」

「テメェ等が【勇者やつ】の言葉を信じて、【大帝アイツら】の本拠地までノコノコ和平なんぞ結びに行くのが悪い。普通は罠だって分かるだろうが。……それが間抜けだってんだよ、テメェ等がよ」

「……クソ鬼が……。それが死んだ息子フォルスに対する言葉かよっ!!」

「それ以外にどう言えばいい? それとも、こう言ってほしいのか。『俺の息子フォルスが死んだのは、ジュリアテメェのせいだ』ってな」

「!!」

「フォルスの馬鹿は人間を信じ過ぎた。自分が人間との間に生まれた半鬼人ガキだからって、人間とも仲良く出来るなんて抜かす能天気な野郎だったからな。……そんな馬鹿息子フォルス空想ゆめに付き合って人間共に騙されたテメェもヴェルズの奴も、馬鹿だったんだよ」

「……ァアアアッ!!」

『!!』

 突き放すようにそう答えたフォウルは、ジュリアが求めた返答こたえを完全に否定する。
 するとそれに激昂を高め、ジュリアは右手に蓄えた灼熱の太陽エネルギーをフォウルに投げ放った。

 それに対してフォウルは避けようとせず、そのまま太陽エネルギーが着弾し膨大な灼熱の炎が周囲一帯を覆い尽くす。
 しかし灼熱の中で薄らとフォウルの人影ひとが見えると、その轟音の中で一切崩さぬ姿勢と罵声こえを向け続けた。

「――……そんなヌルい熱で、俺を殺せると思ってんのか?」

「!!」

「こちとら、クソ爺バファルガスにもっとヤバい場所に連れ回されたんだ。こんな灼熱ねつ、あの溶岩マグマの中に比べたらぬるま湯みてぇなもんだぜ」

「……クソッ!!」

 フォウルは太陽のような熱量を放つ灼熱ほのおの中で無傷のまま、微動せず声を発し続ける。
 それを聞いたジュリアは左手にあるもう一つの太陽エネルギーを向けて放ち、フォウルは更に劫火の中に飲まれた。

 しかし次の瞬間、胸の前で組んでいた両腕をフォウルは解く。
 そして右手を動かし、薙ぐように腕を振りながら周囲を覆う灼熱ほのおを瞬く間に消し去った。

「!?」

「――……かねぇっつったろうが、馬鹿が」

「……ありえねぇ。本物の鬼神テメェならともかく、残りカスみてぇなテメェが、その肉体エリクで耐えれるわけが……っ!!」

「ま、少し前なら効いたかもな。……だが少し前そのときと今じゃ、全然違うんだよ」

「……!!」

 フォウルはそう言い放つと、薙いだ右腕を動かしながら手の平を広げる。
 すると次の瞬間、その肉体を覆う緑色の粒子ひかりが微かに垣間見えた。

 それを見たジュリアは赤い瞳を見開き、灼熱ほのおを耐え切ったフォウルの能力ちからをようやく理解する。

「吸収した、もう一つの権能ちからか……!」

『やはり、ログウェルの……?』

「まぁな。あの老騎士おとこの持ってた権能ちからは、あらゆるモンを『分解』する能力だったみてぇだな」

『分解……。それで、あの炎を全て効かなくしていたのか』

「そういうこった。……さて、クソガキ」

「!」

「どうする、このまま戦い続けるか? 俺はそれでも良いがな。……それとも、無い尻尾でも巻いて逃げてみるか? 俺からよ」

「……ッ!!」

「別に逃げてもいいぜ、追わねぇよ。――……だが逃げるなら、二度とそのツラ人間大陸ここに見せんな。それが出来ないってんなら……例え肉体コイツが壊れても、お前を全力で殺してやるよ」

「……上等だ。……だったらテメェを殺して、その権能ふたつを奪ってやる」

 フォウルの挑発を受けたジュリアは動揺を鎮め、再び冷静で冷徹な表情かおに戻る。
 そして二人は向かい合い、改めて身構えながら両拳を握り締めた。 

 すると二人が衝突する為に動き出そうとした瞬間、彼等に向かって来る凄まじい閃光エネルギーが周囲を照らす。
 それを視認した二人はその場から消え跳び、二人の間を遮るように巨大な閃光エネルギーが通過しながら聖域の大地を貫いた。

 そして貫かれた大地の奥底には海水が流れ込み始め、奥底すら視認できない巨大な穴が聖域に作り出される。
 フォウルとジュリアはその閃光エネルギーを放った者を確認する為に顔を向け、双方に目を見開きながら悪態を漏らした。

「チッ、もう来やがった」

「……相変わらず、馬鹿げた巨大デカさだぜ……」

 二人が見たのは、暗雲の先を切り開くような巨大な穴と、その先に見える一匹の巨大生物。
 それは閃光エネルギーを放った巨大な口を閉じ、その周囲には巨大ながらも小さく見える程の体格差があるドラゴンを幾百匹も伴っていた。

 更にその下に見える地上からは、凄まじい速さで走り抜けて来る巨大な雷光かみなりが見える。
 その巨大な雷光かみなりに追従する幾百もの小さな雷光かみなりが伴われながら、二人が戦う聖域ばしょまで迫っていた。

 そして暗雲を突き抜け、その中から大陸規模にも及ぶ巨大生物ドラゴンが姿を見せる。
 更に雷光かみなりを纏う巨大な四足獣ケモノも止まり、二人が視認できる位置に姿を見せながら声を発した。

『――……グハッハッハッハ! 久し振りだな、鬼のガキフォウル! それにエルフのガキジュリア!』

『――……随分と懐かしい匂いのする御馳走メシだと思えば、やはりお前達だったのね』

「なんだ、まだ生きてやがったのか。ファフナー」

「……相変わらず、アタシ等を食い物メシ扱いかよ。フェンリル」

 天地を分けて現れながら『念話テレパシー』で言葉を届ける怪物達に対して、フォウルとジュリアは互いに表情を渋らせる。
 そしてそれぞれ現れた顔見知りである怪物達の名を口にし、戦いの手を止めた。

 上空そらを飛びながら大陸規模の巨体を誇る古代竜エンシェントドラゴン、【覇王竜】ファフナー。
 彼は魔大陸の一角を担う到達者エンドレスの一匹であり、数多の竜族ドラゴンを従えている竜の王ドラゴンロード

 そして雷光かみなりを纏い体長五百メートルを超える巨大と銀色の美しい体毛に覆われる銀狼獣オオカミ、【魔獣王】フェンリル。
 彼女もまた魔大陸を主な棲み処とする到達者エンドレスの一匹であり、狼獣族エアハルトの祖にして銀狼獣族オオカミを従える魔獣の王ビーストキング

 この世界において『三大魔獣』に数えられている二種族の王が、ジュリアとフォウルが激突する人間大陸に現れる。
 そしてこの二匹こそ『創造神オリジン』によって生み出された八つの属性を冠する、『風』と『雷』の魔力マナを司る原初さいしょ到達者エンドレスでもあった。
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