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革命編 八章:冒険譚の終幕
蚊帳の外でも
しおりを挟む同じ人物の事を考えながらも意思を曲げない【始祖の魔王】と【鬼神】は、本格的に敵対し互いに殺し合う決意を見せる。
しかしそうして向き合う二人の間に現れたのは、魔大陸に君臨する怪物達の王、【覇王竜】ファフナーと【魔獣王】フェンリルだった。
二匹は巨大な姿を人間大陸に現し、多くの眷属を引き連れながらジュリアとフォウルが相対する聖域へ辿り着く。
その光景は同じ聖域付近で退避していた機動戦士と、それに乗っている者達にも視認できていた。
『――……なに、あのデカいの……!?』
「あの黒い鱗、それにあの巨体……。……まさか、ファフナーか?」
『……それ、どっかで聞いた事あるかも。なんだっけ?』
「【覇王竜】と呼ばれておる竜種の到達者じゃ。……ということは、あの周りを飛んでおる竜達は眷属じゃな……」
『あっちには、大きな狼も見えるよ。銀色の』
「大きな銀毛の狼? ……まさか、フェンリルまで来とるのかっ!?」
『フェンリル? それもなんか聞いた事あるかも』
「【魔獣王】と呼ばれておる魔獣種の到達者じゃ。過去に数多の魔獣種の王達を全て喰い尽くし頂点に立ったことから、魔獣の王と呼ばれとるんじゃよ」
『……あっ、思い出した! 皇国で黒が言ってた名前だ! 三大魔獣がどうとか!』
「そう。世界三大魔獣の内、『竜族』と『銀狼族』をそれぞれ従えておる到達者。……その二匹が群れを引き連れ、一箇所に集まるとは……!!」
操縦席に座りながら精神武装を纏わせた機動戦士を動かすマギルスは、手に乗せているバルディオスの言葉を聞く。
そうして驚愕するバルディオスの傍では、妖狐族クビアが回復用の魔符術で負傷者している三人の手当を続けていた。
しかも【魔獣王】の名を聞いた瞬間、彼女は九つの尾を逆立てながら振り返って怯えた様子を見せる。
「フェンリルってぇ、マジなのぉ……!?」
「ん? ……そういえば、妖狐族の王だった九尾を殺したのもフェンリルじゃったな」
「そうよぉ! だから狼獣族はぁ、妖狐族の天敵なのよぉ!」
「……どちらにしろ、アレに気付かれん方が良いじゃろうな。マギルス、樹海の中に隠れてくれ。今は衝撃波も止んでおるし、これだけ離れておれば瓦礫も飛んでは来ないはず……じゃからな」
『はーい!』
樹海が残る聖域の空を飛んでいた機動戦士は、バルディオスの誘導に従う。
そして機動戦士を隠せる程の高さがある樹海に降り、片膝を曲げながら地面へ着ける様子を見せた。
すると機体を覆っていた精神武装は解け、操縦席から出たマギルスは手首部分に跳び乗って声を向ける。
「――……みんなの怪我、どう?」
「三人はぁ、とりあえずは治りそうだけどぉ。……やっぱり問題はぁ、この子ねぇ……」
「……お母さん……っ」
クビアに対してそう問い掛けたマギルスは、バルディオスの腕から降ろされたリエスティアとその傍に付き添うシエスティナが目に入る。
【始祖の魔王】の生み出した太陽の灼熱を受けた者達の中で、アルトリアやケイル、そしてユグナリスが受けた火傷は治癒が効いている姿が見えた。
しかし魔力を受け付けないリエスティアには、同じ魔符術の治癒が施せない。
それでも『黒』の肉体を持って大人となり聖人に達しているリエスティアは、辛うじて生き永らえていた。
そうした四人の中で、最初に瞼を開く者がいる。
それは最も負傷と疲労の少なく、『生命の火』を纏い灼熱に耐性を得ていたケイルだった。
「――……ぅ………っ」
「ケイルお姉さん!」
「……マギルス……? ……ア、アイツは……ッ!?」
目覚めたケイルは朧気だった意識を覚醒させ、自分達が陥った状況を思い出す。
そして上体を起こしながら周囲を見て、自身の身体に張られた幾つかの紙札と、その傍に倒れるアルトリア達を見た。
それにマギルスは、微妙な面持ちで応える。
「お姉さん達の代わり、エリクおじさんが戦ってたんだけど。……ちょっと、色んな事が起きてるみたい」
「エリクが……。……コイツ等は、無事なのか……!?」
「アリアお姉さんも、そっちのお兄さんも死んでないよ。……でも……」
「……!」
応えているマギルスは視線を動かし、ケイルもそれを追うように顔を動かす。
するとその先で横にされているリエスティアの姿を確認し、クビアの紙札が施されず治癒がされていない様子を見ると、その状況を理解しながら言葉を向けた。
「そういや、魔力が効かないんだったな。……クビアの魔符術も効かないのか」
「うん。……どうしよう」
「……どうしようっつったって、どうしようも……」
「――……ケイル……」
「……アリア!」
重傷のリエスティアに対して治癒の施しようがない状況に、その場の全員が表情を悩ませる。
そうした最中、上体を起こしたケイルの横から呼び声が掛かった。
それは瞼を開き目覚めたアルトリアの声であり、横になったまま顔と視線を向けている。
すると彼女は、ケイルを見ながらある方法を伝えた。
「……ケイル。貴方の持ってる、権能なら……」
「!」
「貴方の権能で、リエスティアに……生命力を……」
「気力を……。……まさか、気功で治せってのか?」
「それと似た方法で、私もリエスティアを治した事がある。だから、貴方にもできるはず……」
「……やるしかないか」
過去の自分が施したリエスティアへの回復方法を、アルトリアは息を荒くしながら伝える。
ケイルは表情を渋らせながらもそれに応じ、腕と足に力を込めながら彼女の傍まで歩み寄った。
創造神の肉体とそこから模倣された権能の一つを持つケイルは、その身体に両手を触れさせる。
するとその傍で不安気な表情を浮かべるシエスティナは、ケイルに問い掛けた。
「お母さん、治る?」
「……さぁな。……まぁ、精一杯……やってみるさ……!」
確約はせずとも懸命に行う事を告げるケイルは、全身に生命力を滾らせる。
そして高めた生命力を両手に注ぎ、触れさせているリエスティアに注ぎ込み始めた。
『気功』とは、アズマ国が生命力を用いて行う回復術。
本来は自身の肉体を回復させ傷や疲労を癒す気術の一つであり、気力を用いるアズマ国の武人にとっては基礎と呼ぶべき技術でもある。
しかし魔力を用いた回復魔法や治癒魔法とは違い、自分の気力を他者に向ける技術は攻撃に用いる場合がほとんど。
自身の気力を他者に注ぎ入れても、肉親以外の場合だと気功を用いた回復や治癒は行えないのはアズマ国の技術を知る者にとっては常識だった。
それでもケイルとリエスティアには、『創造神』から模倣された権能と肉体を持つという関連性がある。
権能を持っていたアルトリアはそれを実践し成功した事を伝え、ケイルにも同じ事が出来ると確信するかのように教えた。
ケイルもその言葉を信じ、『気功』を施す。
そして額から血と別に流れる汗を滴らせ、大量の生命力をリエスティアの身体に与え続けた。
すると十数秒後、その効果は肉体側に現れる。
メディアによって受けた左肩の裂傷が塞がり始め、顔や腕に帯びていた火傷が癒えて元の肌が再生し始めた。
それを見たマギルスとシエスティナは、喜ぶ様子を見せて顔を向け合う。
「お母さん、治ってる!」
「治ってるね! ケイルお姉さん、凄いじゃん!」
「お姉ちゃん、凄い!」
「話し掛けんな、気が散る……!」
喜ぶ二人に対して気功を持続させ続けるケイルは、そのまま生命力を注ぎ続ける。
そうした傍らで両腕を支えに上体を起こすアルトリアは、傍に座るクビアに問い掛けた。
「……今、どうなってんの……?」
「よく分かんないけどぉ、貴方の相棒が戦ってるみたい……だったんだけどぉ……」
「……?」
「なんかぁ、フェンリルとかファフナーとかぁ、かなりヤバそうな到達者が来たっぽくてぇ……」
「……フェンリルとファフナーって……。……魔大陸に居るっていう、伝説の怪物じゃないのよ。どうなってんのよ?」
「だからぁ、私も知らないわよぉ。……ちょ、ちょっとぉ! まだ立っちゃ駄目よぉ!」
「……エリクが、戦ってるなら……私も……っ!!」
まだ癒し終えていない身体のまま立ち上がろうとするアルトリアだったが、胸に響く痛みによって膝を崩し倒れ掛ける。
それを両腕と身体で支えるクビアは、溜息を漏らしながら横に戻して留めた。
「その身体で行ってもぉ、邪魔になるだけよぉ。……それにもぉ、私達なんかじゃ立ち入れない領域になってるわぁ……」
「……っ」
「今はともかくぅ、待ちましょうよぉ。……それでもどうしようもなかったらぁ……」
「……なかったら?」
「足掻くか逃げるかぁ、どっちかにすればいいわぁ。まぁ、私は逃げるけどねぇ」
「……ふっ、そうね……」
割り切るようにそう話すクビアに、アルトリアは嘆息を漏らしながらもその言葉を受け入れる。
そして瞼を閉じながら意識を集中し、亀裂が走り傷付き過ぎた自身の魂へ意識を向け、それを補強する為に精神を集中しながら周囲の魔力を呼吸で取り込み始めた。
こうして更なる異常事態に対して、それぞれが自分の出来る事を進め続ける。
しかしそうした思いとは裏腹に、新たに現れた二匹は自身の目的を遂げる為に動き出そうとしていた。
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