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革命編 八章:冒険譚の終幕

神を従えし者

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 突如として現れた巨大生物達に対して、傷を癒すアルトリアやケイル達は各々がやるべき事を行い始める。
 しかしそんな彼等の存在など目も向けない【覇王竜ファフナー】は、現れた上空から巨体を降下させ始めた。

 そして広大で頑丈な聖域の大地に後方の二足を着けて巨体を降ろすと、空中に浮かぶジュリアやフォウルに再び『念話こえ』を向ける。

『――……人間大陸こっちに居るのは知ってたが、随分とよわっちくなったなぁ。鬼のガキフォウル

「……フンッ」

『お前もだ、エルフのガキジュリア。……今のお前等だったら、簡単でえちまいそうだ』

「……チッ」

 黒い鱗に覆われた巨大で長い首と顔を見せるファフナーは、その視線の先に見える二人に対して口を開きながらそう述べる。
 それに呼応するように警戒して構えるジュリアとフォウルだったが、それに割り込むようにファフナーの巨体からだ雷光ひかりが着弾した。

 ファフナーは開いていた口を閉じ、長い首を動かしながら鋭い眼光を地上したへ向ける。
 するとそこには銀毛に電撃を帯びて発光しているフェンリルの姿が見え、鋭い眼光と『念話こえ』を向けて来た。

『――……ファフナー、これは私の御馳走エモノですよ』

『あ? 俺が先に着いたんだから、俺が喰うんだろうが』

『は? 私が先に着いたでしょう。だから私が喰うんです』

『あぁ? 俺が先に仕掛けただろうが。だから俺が喰う』

『はぁ? だったら私は、先に嗅覚はなで二人の出現を感じ取っていましたが?』

『あぁ?』

『はぁ?』

 ファフナーとフェンリルは互いに目の前の御馳走ふたりを喰らう事を目的とし、この場に集まった事を告げる。
 すると二匹は互いに凄まじい殺気を向け合った後、ジュリアとフォウルに視線を向けながら問い掛けた。

『おい、俺が先に着いたよな?』

『私が先に着いたわよね?』

「……いや……」

「……同時じゃなかったか?」

『同時、同時か。……マジか?』

『同時……。……じゃあ、仕方ありませんね』

『まぁ、同時そうならしゃーないか。……じゃ、片方ずつにするか?』

『そうしましょうか。では、どちらにしましょうか?』

『俺は鬼のガキフォウルだ。コイツには逆鱗うろこを剥がされた事もあるしよ』

『では、私はジュリアを。前に少し食べた時には、とても美味しかったですから。――……では、いただきます』

「お、オイオイッ!?」

「クッ!!」

 ファフナーとフェンリルは互いに声を向け合い、それと同時に取り決めた獲物に狙いを定める。
 すると次の瞬間、フォウルの方には巨大なファフナーの口が凄まじい速さで迫り、ジュリアには凄まじい速さで跳躍する雷光ひかりが迫った。

 それに対して二人は凄まじい反射神経と速度で回避しながらも、互いにその余波と衝撃を身体に受ける。
 そして止まらぬ捕食こうげきを回避しながら別れた方向へ跳び、二匹に対して声を向けた。

「テメェ、ファフナー! こんな時にっ!!」

『グハッハッハッ!! 逆鱗うろこを毟った恨みだ、腹に入れ! 鬼のガキフォウル!』

「フェンリル、テメェッ!!」

『大人しく腹の足しになりなさい、ジュリア』

 互いの食欲を満たす事しか考えていない二匹は、目の前に居る二人ふたりに対して口を開きながら迫り続ける。
 顔見知りであり膨大なエネルギーを持つ到達者エンドレスであっても、二匹にとって極上の獲物エサでしかないように見えていなかった。

 二匹は二人に比べて遥かに巨体であり、その口撃くちは彼等を飲み込み鋭い牙で簡単に咀嚼そしゃくできてしまう。
 更にフェンリルには雷光かみなりが、ファフナーには口を閉じた瞬間に響く衝撃波が、避ける二人を傷付けながら襲い続けた。

 しかし次の瞬間、彼等の頭上に存在する暗雲から巨大な時空間の穴が出現する。
 するとそこから人影が降り立ち、二人に迫るファフナーとフェンリルを止めるように巨大な結界が敷かれた。

『ガッ!! ……な、なんだ?』

『結界……。……これは、貴方の仕業ですか――……バフォメット』

「!」

「!?」

 巨体を覆う強固な結界によって捕食を阻まれた二匹は、時空間の中から現れた人影に目を向ける。
 そしてフェンリルが口にした名前を聞いた二人の中で、特に【始祖の魔王ジュリア】が驚愕の表情を浮かべた。

 すると人影は降下を始め、暗い暗雲から姿を明かす。
 そしてその姿を明かし、彼等の前で丁寧な礼を見せながら声を向けて来た。

「――……御無礼を御許しを、フェンリル様。ファフナー様。御二人に好き勝手をさせぬようにとの、我が神の御命令オーダーですので」

「バフォメット!」

「おや、ジュリア様。千と五十七年ぶりで御座います」

 その場に現れたのは、黒髪と眼球を黒く染めた金色の瞳を持つ人間の見た目をした紳士服の中年男性。
 しかしその背中には悪魔と思しき羽が六枚も広げられ、頭には小さくも山羊に似た黒角が四本ほど生えていた。

 そしてジュリアと見知ったように声を向け合うのを見たフォウルは、二人を見ながら呟く。

「……バフォメットだと? ……そうか、コイツが【悪魔公爵デーモンロード】か」

『デーモンロード……?』 

「魔大陸にいる悪魔族デーモン到達者エンドレスだ。確かドワルゴンやヴェルズェリアと同じ、【始祖の魔王ジュリア】の配下だったな」

『!』

 フォウルは自身の記憶からバフォメットと呼ばれる者の正体を思い出し、精神内に居るエリクに教える。
 しかしそれの反論するように、バフォメットはフォウルにも視線を向けながら響く声を向けた。

この方ジュリア様御仕おつかえしていたのは、既に過去の話です。今はより崇拝するに足るかたへ御仕えしております」

「!」

「そしてこの方こそ、我等が御仕えする偉大なたましいを持つ神。――……【魔神王デーモンキング】ジャッカス様でらせられます!」

「!!」

「な……っ!?」

 たからかにそう宣言するバフォメットは、上空に出現している時空間に両手を掲げる。
 そしてフォウルとジュリアは互いに顔を上げ、時空間の穴を凝視した。

 すると次の瞬間、そこから一つの影が落下して来る。
 それを微笑みながら見るバフォメットは、掲げた両腕を僅かに前方へ動かし、そこに落ちて来た小柄な人影ものを掴み取った。

 そしてバフォメットの両腕に抱かれた者を見て、フォウルとジュリアは互いに驚愕した声を漏らす。

「お前は……!」

「マジかよ……。お前が、魔神王デーモンキング……!?」

「――……よ、よぉ! フォウルの旦那。……それに、そっちがジュリア様……でいいんだよな?」

「……確か、あの村で串焼き作ってた……ゴブリンジャッカスかっ!?」 

 二人が見たのは、自分達の半分ほどの体格にしか満たない緑色の肌を持った魔族。
 それは『小鬼族ゴブリン』と呼ばれている魔族であり、魔族の中では小柄で非力に分類されている種族だった。

 しかしその小鬼ジャッカスを見る二人は、意味の異なる驚愕と動揺を浮かべている。
 更にフォウルを見知った様子で声を向ける小鬼ジャッカスは、自身の素性を肯定しながら言葉を続けた。

「そう、アンタの知ってる串焼き屋ゴブリンだよ。――……フェンリルさん、それにファフナーさんよ!」

「!」

人間大陸こっちに向かったって聞いて、案の定だったぜ。っちゃ駄目だって言ったでしょう!」

『……ちょっとくらい良いだろ?』

『そうですよ、腕一本ちょっとくらい』

「いや駄目ですって! その代わり、今度も美味い料理を食わしてあげますから!」

『……しょうがないな。肉料理にしてくれよ?』

『私もです』

「はいはい、分かりましたよ。……バフォメットさん、よくめてくれた。ありがとな」

「いえいえ。魔神王あなたの御命令であれば、どのような願いも叶えて差し上げましょう。なんなら、世界を全て貴方の手に御渡しすることも」

「そ、そういうのはいいって」

 巨大な到達者エンドレスである二匹を言葉だけで留めた【魔神王ジャッカス】は、それを止めたバフォメットにも礼を言う。
 そして苦笑いを浮かべながら、今度はジュリアとフォウルに視線を向けながら声を掛けた。

「とりあえず、積もる話もあるだろうからさ。一回落ち着いて、皆で話をしようぜ。……ジュリア様も、フォウルの旦那も……な?」

「……ッ」

の話ってのは、アイリの事でもあるんだ。二人とも、知ってるんだろ?」

「!?」

「アイリって……。まさか、お前も覚えてるのかよっ!?」

 説得する【魔神王ジャッカス】からその名前が出た時、対面する二人は改めて驚愕の表情を見せる。
 そしてジュリアが驚きながら問い掛けると、【魔神王ジャッカス】は渋る表情を見せながらも苦笑いで答えた。

「いや、えっと……実は俺も忘れてるみたいなんだけどさ。……でも、あの人から聞いたんだよ。あの子の名前や、あの子が俺達にとってどんな存在かってさ」

「……あの人?」

「それも含めて、落ち着いて話がしたいんだ。……だからもう、戦うのはめてくれよ。二人ともさ」

「……チッ」

「……フンッ」

 【魔神王ジャッカス】はそうした内容で頼むと、ジュリアもフォウルも表情を強張らせる。
 しかしそれに応じるように、互いに舌打ちと鼻息を漏らしながら戦闘態勢かまえを解いた。

 戦う意思をめた二人の様子に安堵する【魔神王ジャッカス】は、抱えるバフォメットに頼み地面へ降下していく。
 それを追うように二人も降下し、四人は地面に着地した。

 こうしてその場に現れた【魔神王デーモンキング】ジャッカスは、その場に居る到達者エンドレスを全て言葉だけで説き伏せる。
 それは【魔神王かれ】の存在が、彼等にとって無視できないほど重要である事を示していた。
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