虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
1,300 / 1,360
終章:エピローグ

騎士の親子

しおりを挟む

 元皇国宰相ゾルフシス=ハルバニカを通じて、老騎士ログウェルがのこした一冊の本が最後の弟子ユグナリスに渡される。
 それを受け取ったユグナリスは一気に気力を取り戻し、本の内容と向き合った。

 本に書かれていたのは、腑抜けている最後の弟子ユグナリスを予想していたであろうログウェルの言葉《しかり》。
 そして誰にも明かされなかった、この世界に生まれた一人の男の生涯だった。

 ――……約四百年前。
 人間大陸にとっては一度目の天変地異カタストロフィが起きた百年後に、一人の男児が生まれた。

 当時の人間大陸は百年前に存在した主だった国々が滅び、天界エデンから降りて来た新大陸などがようやく行き来できる程の技術文明を取り戻し始める。
 しかし主だった巨大な新大陸には既に各七大聖人セブンスワンがそれぞれの国の前身を築き、国家となる頭角を見せ始めていた。

 そうした中、天変地異によって滅びた国が分裂して出来た小国にその男児が生まれる。
 彼は農民家系の三男坊として生まれながらも、幼い頃から一種の『天才』と呼ばれるべき才能を示した。

 五歳の頃に手伝っていた農作物の収穫中、それを奪いに来た魔物の群れをたった一つのクワで仕留める。
 更に七歳の時には、森を散策中に遭遇した大型の下級魔獣レッサーを短剣だけで仕留めた。

 しかし彼の偉業は、家族や同じ農村の者達にとって賞賛よりも恐るべき才能モノだと感じさせてしまう。
 家族や故郷の人々から恐れられ怖がられるようになってしまった彼は居心地の悪さを感じ、十歳になると自ら村を出て小国そのくにの都へと足を運んだ。

 そして彼はくにの兵士になることを志願し、僅か十一歳という異例の年齢で兵士となる。
 彼は熟練の兵士達すら容易く倒す力量を持ち、魔獣討伐や人災によって起こる事件の数々を討伐した事で武勲を打ち立てると、国王に気に入られ僅か十五歳にして『準騎士爵』の爵位くらいと『騎士』の立場を得る事に成った。

 しかし十五歳にして『騎士』と爵位を得た彼の立場は、当時の国内でもまた異端と見られる。
 彼に対する貴族達の風当たりは非常に強く、また同じ騎士達からも幼さに見合わぬ彼の才能すがたは恐れられ、虐げられこそしないものの遠ざけられる扱いを受けた。

 それでも彼がその国に留まっていたのは、兵士となって出会った一人のお転婆な女の子が切っ掛けとなる。
 彼女はその国においては王女という立場ながらも、彼女は国王の愛妾との間に生まれた子であり、その奔放過ぎる性格やお転婆てんばな振る舞いによって別の意味で異端に扱われていた。

 異端と呼ばれる二人が偶然にも城の中で出会うと、最初こそ険悪になりながらも会話を重ねる毎に互いを理解し、自然と打ち解けた仲になる。
 そして割愛されながらも紆余曲折を経て、彼が十八歳になって男爵位を得た時、十六歳となった彼女と婚約を結び結婚するに至った。

 そこまで本の内容を見たユグナリスは、僅かに驚く声を浮かべる。

『――……ログウェル、結婚してたのか。……それに、この話……。……なんだか、俺とリエスティアの関係に似てる……』

 若きログウェルの結婚事情を知ったユグナリスは、そこに書かれた王女との関係性が自分達と重なるように感じる。
 そして次のページをめくり、続きを読み始めた。

 ――……彼がニ十歳になり『子爵』の爵位を得た頃、妻である王女との間に一人の男児が生まれる。
 騎士隊長の立場となっていた当時の彼は、自身の子供を育てる役目を妻や従者達に任せることにした。

 そうさせた要因としては、彼の生い立ちが関わっている。
 農村出身でまともな貴族教育も受けた事が無い彼では、王族の末席に生まれた息子を育てる程の教養が無く、また兵団や騎士団に勤めた経験から化物染みた自分ではまともに育てられないと考えていた。

 そしてもう一つの要因は、その息子が自分とは異なり、母親の方に似ていた事にもある。
 普通の子供として生まれた息子の素養を見抜いた彼は、化物のような自分に似た強さは得られないと理解できてしまったのだ。

 彼は父親として息子と接する機会を自ら遠退かせ、争いの絶えない国内を行き来する生活を続ける。
 しかし母親や従者達を通じて聞き及ぶそれ等の偉業は成長する息子に刺激を与え、父親かれの背中を追うように騎士の道へ進めさせた。

 そして彼が三十三歳になり、『伯爵』の爵位を得た頃。
 十二歳になった息子は父親かれと同じ騎士を目指す為に、貴族の子弟が集まる騎士学校に行きたいと告げる。
 彼は父親としてそれに反対せず、両親の合意を得た息子は騎士学校に入学した。

 しかしそこで、彼の息子に残酷で歪な現実が振り掛ける。
 高名な父親と王族の母親から生まれた息子には、周囲からの期待が集まっていた。

 しかし学内で見せる息子の成績は平凡を越えず、父親と同じく突出した剣の才能も無い為、息子に抱いた周囲の期待は落胆へ変わる。
 更に成り上がりの父親かれに悪意や敵意を持つ高位貴族の子弟達が、そんな息子を無能と嘲り罵声を浴びせ、学内で虐げ始めたのだ。

 寄宿舎で暮らす息子は家族である両親にその話を伝えられず、また自身が選んだ騎士学校しんろである為に出戻りする事も出来ない。
 そうした悪意に満ちた生活が二年ほど続き、精神を病みながら周囲に対する不満を抱え込み始めた息子は、卒業を間近に騎士学校から姿を消した。

 両親である父親かれや母親はその知らせを聞き、息子の行方を追う。
 しかしその消息を分からず、彼等の息子は行方不明となった。

 そして彼が四十歳になった時、国内で革命が起こる。
 ある地方領地の一つが武装決起した農民達によって占拠され、領主を務めていた高位貴族とその家族が処断ころされたのだ。

 それを機に悪政を敷く貴族達に対する反抗勢力がその領地に集まり、総勢三万を超える革命軍を結成してしまう。
 すると国の首都にもその情報が届き、革命軍を率いる首謀者リーダーの素性が知れ渡る。

 それは六年前に姿を消した、彼の息子だという話だった。

『――……そ、そんな……』

 読み続けていたユグナリスは驚きで手を止めながらも、唇を噛みながら次のページを捲る。
 そして彼等の顛末を読み進め、更には表情を強張らせる事になった。

 息子が革命軍の首謀者リーダーである事が伝わると、その父親である彼と妻である王女は王命を受けた騎士や兵士達に捕まる。
 そして尋問と言う名の拷問を受け、革命軍との関わりを調べられた。

 彼は妻の身と案じながら革命軍との関与を否定し、息子の無実を訴える。
 そうした状況となってから一ヶ月後、彼は重武装の騎士や兵士達に拘束されたまま、国王と接見した。

 そこで言い渡されたのは、革命軍の殲滅と首謀者リーダーである息子を、父親である彼が討ち取れという王命。

 この命令を果たすことで自分達を減刑するという条件を付けられた彼は、妻を人質にされたも同然の状態となる。
 既に国王には正妃との間に王太子むすこが存在し、愛妾の間に生まれた彼女つまを排除しても問題ないことを理解した彼は、その王命に従い革命軍と息子の名を語る首謀者を討ち取ることに応じた。

 しかし討伐の為に必要な戦力として彼に与えられる兵数が、投獄している犯罪者達で構成された五百にも満たない即席部隊であることを大臣の一人が明かす。
 更に騎士団長である彼自身が統率していた騎士団の動員は認められず、三万以上が集まる革命軍に対して圧倒的に不利な采配が行われた。

 嫌がらせにしても度が過ぎるこの内容に、彼は自分を死地に送りたい高位貴族達の思惑を察する。
 更にそうした高位貴族が革命軍を裏で操り、息子の名を騙らせていると考えた彼は、兵力を借りずに独力ひとりで討伐することを伝えた。

 それを聞いた大臣達、更に参列していた高位貴族達や他騎士団の高官達は嘲笑う声を向ける。
 しかし手足や首を拘束している頑丈な鉄枷を意図も容易く引き千切るように破壊して剥ぎ取った彼は自らの足でその場を去ると、嘲り笑っていた者達はその瞳に恐怖を浮かべた。

 その時、彼は既に『聖人』に達している。
 本来ならば武装した数百人に襲われても無傷で倒せる実力を有していたが、妻と息子の不名誉を晴らす為に敢えて捕らわれ、最初から息子の名を語る革命軍を討ち取るつもりだったのだ。

 そして宣言通り、彼は単身で革命軍が占拠した領地へ向かう。
 身に付けるのは旅服と左腰に提げた鞘に収めた一つの鉄剣のみであり、馬に乗る彼は一週間後に目的地に到着し、革命勢力に賛同する者を装って領内に侵入し、革命軍とその首謀者リーダーが居るとされる小都市に辿り着いた。

 そこで彼が見たのは、悪政から解放され喜び活気に満ちた民の姿。
 更に革命に意欲的な様子を見せる若者達の姿に、彼は困惑を抱いた。

 すると小都市の中央広場に設置された高台を囲む多くの民を目撃し、その中心地から響く若い男の声を耳に届く。
 その声の主が解放を謳い民から『解放の騎士』と称されている首謀者リーダーだと聞いた彼は、息子の名を騙る偽者を見るために衆人環視に紛れて高台に立つ男の姿を見た。

 そこに居たのは、彼にとって面影のある姿の男性。
 二十歳になり凛々しくも逞しく成長した、彼の息子だった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...