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終章:エピローグ
刺さる言葉
しおりを挟む時は遡り、場面は一年前に起きた『大樹事変』の当日に戻る。
【始祖の魔王】がマナの大樹に戻った後、すぐにアルトリアやエリク達が居る場所にある者達が訪れた。
それは【覇王竜】ファフナーと【魔獣王】フェンリルであり、機動戦士すら覆う二匹の巨体が影となる。
それに気付き全員が驚愕した面持ちを浮かべながら身構えると、二匹はこう言い放った。
『――……実は貰ったし、俺様は帰るぞ。暇になったらまた遊ぼうぜ、鬼のガキ』
『!?』
『定命の者達よ。せいぜい私達の機嫌を損ねずに、静かに暮らしなさい。……今回は見逃しましたが、また天変地異を起こしたら。今度は私達が制裁に来ますよ』
二匹は『念話』を用いると、その場に居る者達に自身の言葉を響かせる。
すると【覇王竜】は暗雲が晴れる上空に待機していた眷属の竜達を率いるように巨体を飛び立たせ、その場に凄まじい突風を生み出した。
【魔獣王】もまた自身が伴って来た眷属の銀狼獣族がいる方角へ頭を向け、自身の体毛を発電させながら凄まじい速さで駆け出す。
二匹の放つ膨大な衝撃波に対して、返す言葉も向けられない全員は機動戦士を影にして踏み止まり堪えるのが精一杯だった。
そして魔大陸の到達者達が視界から消えた後、機動戦士の影から各々が姿を出し始める。
治療を受けているユグナリスとリエスティアも、クビアやバルディオスによって庇われながら辛うじて吹き飛ばされずに済んだ。
こうして魔大陸の到達者達が去った後、改めてアルトリアとエリク達は言葉を交わす。
『――……あの二匹って、もしかして【覇王竜】と【魔獣王】? あんなのまで来てたの……』
『ああ。大樹に成るマナの実を食べに来たらしい』
『……流石は太古から居る到達者ね。マナの実を食事にしてたなんて――……え?』
『ん?』
『……さっき、実を貰ったって言ってたけど……。……まさか、マナの実? ……あの大樹から取ったのかしら?』
『多分……』
『でも、マナの実は樹に一個ずつしか生えないんじゃ……』
『――……百五十年分ずつ渡したんだよ。私の身体を千切ってね』
『あぁ、そう――……っ!?』
『!?』
アルトリアとエリクが会話を行っている最中、突如として異なる声が紛れ込む。
あまりにも自然に入り込んだその声を聞いたアルトリアは気付きが遅れながら驚愕の表情を向けると、ケイル達も同様にそちらへ振り向いた。
するといつの間にか、機動戦士の右腕部分に屈んだ姿勢で乗る人物がいる。
それは銀髪紅眼で赤黒い外套を羽織った、メディアだった。
その瞬間、彼女と交戦したアルトリアとケイルが同時に構える。
しかしそんな二人や周囲の者達に、メディアは溜息交じりの落ち着き払った声を向けた。
『大丈夫、もう何もしないよ』
『ッ!?』
『母さんの望みはもう無くなっちゃし。黒にここまでされてたんじゃ、この勝負は私達の負けで終わりさ』
『ゲームだと……!?』
『そうだよ。そもそもこの勝負を企画したのはログウェルで、私はそれに協力しただけ。母さんも、ついでに集まる欠片と一緒に、人間を滅ぼそうとしただけだし』
『……!!』
『それも全部失敗して、これでこの勝負は終わり。……とりあえず私の身体から実を作って、二匹に渡したから。それで今回の騒ぎは許してもらったよ』
メディアはそう微笑みながら伝えると、その場に居る全員が訝し気な表情を浮かべる。
しかしそうした態度のメディアに対して、遺恨を持つケイルは言い放った。
『……それで、めでたしめでたしにしたいってか? ……ふざけんじゃねぇよ』
『?』
『アタシは、テメェを許してねぇ。……父さんと母さん、そして一族の皆の仇……っ!!』
『ケイル!』
メディアに向ける復讐心を消せないケイルは、そう言い放ちながら『生命の火』と纏わせる。
それを止めようアルトリアは前へ踏み出し、エリクも事前に知っていた情報から状況を理解して無謀な復讐を止めに入ろうとした。
しかしその時、メディアが首を傾げながら呟く。
『えっ、仇? ……あぁ、そうか。そういう誤解をしてたんだ、なるほどね。だったら違うよ』
『あぁ!?』
『君の両親を襲って捕まえたのは――……そこで死んじゃってるログウェルだよ』
『!?』
『な……!?』
『皇国でナルヴァニアからの依頼を受けた時にさ、ログウェルに相談したんだよ。赤の血が混じってる部族を狩っちゃっていいかって。そしたら自分がやるって言って、転移ですぐ皇国に来てくれたんだよね』
『!?』
『理想の為に手を汚すのは、自分だけでいいってさ。そういうところか真面目だよね、ログウェルって』
『……で、でも……お前が母さん達を吹き飛ばして……!?』
『そう、風魔法で吹き飛ばして全員無力化させたね。アレ、ログウェルだよ?』
『!?』
『ついでに、君達の部族を追い込む為に暴風を起こしたのもログウェルだね。……今回も見たでしょ? 彼の暴風は』
『……じゃあ、お前は……!?』
『私も付き添いで傍に居たけどさ。基本的に暴力を使ったことは全部ログウェルがやっちゃってた。あの時は、私が姉妹を見つけて話し掛けただけ。……あれ、ザルツヘルム君を捕まえたって聞いたんだけど。彼、言ってなかった?』
心の底から不思議そうな問い掛けを向けるメディアに、ケイルは唖然とした様子を見せる。
しかしエリクは自分の聞いたザルツヘルムの供述と異なる内容を聞き、訝し気な様子で問い掛けた。
『ザルツヘルムは、お前が暴風を起こしてケイルの家族達を捕まえたと言っていたが?』
『そうなの? ……まぁ、彼ってあの性格だったし。君達に気紛れで嘘吐いただけかな』
『!!』
『彼、ナルヴァニアに傾倒してるのに嫌ってたみたいだからさ。それを彼女の前で聞いたら、凄く驚いた顔しながら否定してたけど。それから私のこと嫌いになってたみたいだし、細やかな嘘でも吐いたんでしょ』
『……そう、なのか……』
笑いながら話すメディアの言葉に、エリクはその脳裏にザルツヘルムの姿が浮かぶ。
確かに矛盾を持ちながら主君に仕えていた彼ならば、嫌いな相手に対してそうした嘘も吐くだろう。
その嘘が響けば、自分達が探しているメディアと相対した時に敵対関係になる可能性は高い。
エリクはその話を聞き、初めてそれがザルツヘルムの遺した嘘だという事に気付いた。
それを聞いていたケイルは動揺を浮かべながらも、鋭い眼光をメディアに向けたまま怒りの言葉を収めない。
『……そ、それが本当だとしても……。テメェが関わってた事に、変わりはないだろ……!!』
『まぁ、そこは否定しないけどね。……でもそれを言うなら、そんな依頼をしたウォーリス君達が悪いってことになるけど。その辺はどう?』
『!!』
『依頼したウォーリス君達は許して生かすけど、実行反の私達は許せないってことなら、それもまた理不尽な矛盾かな。……そもそもナルヴァニアがそういう風に堕ちてしまったのも、元を正せば君の師匠が原因の一つでもあるんだけどね。そう思わない? エリク君』
『!』
『え……!?』
『君の師匠、確かガルドニアだっけ? そもそも彼が皇王暗殺の依頼を受けて実行しなければ、ナルヴァニアもその家族も冤罪に掛けられず、皇国で無事に過ごせてたわけだけど。……そういう意味では、君の仇はエリク君の師匠も含まれるかな? それとも、弟子の彼も含まれる?』
『……ッ!?』
『そもそも、この現在も黒が導いた未来だし。それなら黒も仇として殺さなきゃだね。なら、そこで寝てるリエスティアちゃんも殺しとく?』
『テ、テメェ……!!』
『例え元凶がゲルガルドっていう小物でも、結局その因果は絆と同じように連鎖して他の人達に繋がってるんだよ。……君達の大事な絆も、大きな因果が在ってこそ繋がってるんでしょ?』
『……知った風な、口を……っ!!』
メディアのそうした言葉に対して、ケイルは反論できずとも敵意を剥き出しにする。
そんな彼女達に対して、仲裁するように間に身体を入らせたのはアルトリアだった。
『――……止めなさい、ケイル』
『!!』
『アイツの挑発に乗っちゃ駄目よ。……アンタも、何もしないって言った割には随分と煽るわね?』
『そんなつもりは無かったよ。でも、こっちにも言いたい事は山ほどあるのさ』
『じゃあ、その山の中からここに来た理由をさっさと吐き出して欲しいんだけど?』
『ああ、そうだった。――……ログウェルは貰っていくから、良いよね?』
『!』
この場に現れた理由を改めて問い掛けたアルトリアに対して、メディアはその解答を向ける。
すると機動戦士の手に乗せられたままの亡骸を一瞥した後、アルトリアは改めて問い掛けた。
『死体をどうする気? ……まさか、生き返らせるつもりじゃ……』
『そんなつもりは無いよ。……この企画に参加した時、ログウェルに頼まれたんだ。万が一にでも自分が負けて死んだら、死体はある場所に埋めてくれってさ』
『ある場所?』
『ログウェルが家族が埋まってる、お墓の隣』
『!』
『自分が殺した息子と死なせた奥さんが埋まってる隣で、自分の死体を埋めて欲しいんだってさ。……邪魔をするんなら、君達を殺してから持っていくけど?』
そう言い放ちながら屈んだ姿勢から立ち上がるメディアは、改めて周囲に居る者達に威圧を向ける。
エリクやマギルスはそれに反応して身構えながら対応しようとすると、そうした動きを止めるようにアルトリアは答えを返した。
『分かったわ、持って行きなさい』
『ありがと。良い子だね、アルトリアは』
『……ッ』
承諾の返答を貰い微笑みながら威圧を解いたメディアに、その場の全員が冷や汗を浮かべる。
もしここで拒否し邪魔すれば本当に殺す事も厭わなかった事を感じさせるメディアの態度は、改めて彼等に人外の者である事を感じさせた。
するとメディアは機動戦士の広げる両手に乗り、そこに置かれたログウェルの死体を両手で抱え持つ。
そして空中に浮遊し始めると、思い出すように彼等へ言葉を向けた。
『あっ、そうそう。言い忘れてたけど、母さんからの伝言があるんだよ』
『伝言?』
『聖剣が邪魔で時空間が作れないから、聖域から持ってさっさといなくなれってさ。長居すると消し飛ばすってよ』
『クソ剣……聖剣のことか?』
『そうそう。向こうの方に在るから、忘れずに持って帰ってね。――……あ、そうだ。ついでに言っておこ』
『?』
『エリク君はそこそこだけどさ。他の子達なんかは、凄く弱過ぎるんだよね』
『!?』
『だからさ、もっと強くなりなよ。権能もちゃんと育ててさ。――……でないと、次こそあっさり殺されちゃうよ?』
『ク……ッ!!』
煽るような微笑みと言葉を向けたメディアは、浮遊した上空で転移し姿を消す。
それを捨て台詞を聞きながら見送る形となってしまったアルトリアやケイルを含めた一同は、図星を突かれ苦虫を噛むような表情を浮かべる事になった。
それからエリクやケイルは聖剣を探し、突き刺さった場所を見つける。
するとその傍に落ちていたエリクの大剣に嵌め込まれていた装飾玉も発見し、共に持ち帰る事になった。
一方で機動戦士を発見し転移して来た『青』達は、休んでいたアルトリア達と合流する。
そしてここで起きた事情を知り負傷した全員と共に各々が聖域から離れると、マナの大樹と聖域は現世から姿を消した。
こうしてメディアはログウェルの遺体を埋葬する為に、その姿を眩ます。
それから一年が経過した現在、その危険性が何処で何をしているのか把握している者は居らず、アルトリアや『青』などは不安と焦燥を共有していた。
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