虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
1,325 / 1,360
終章:エピローグ

旧敵の教え

しおりを挟む

 ローゼン公爵領地の都市に戻ったエリクは、そこで噂となっている偽者の黒獣傭兵団とそれを率いる偽団長エリクに遭遇する。
 しかしそうした相手すら修得した能力ちからによって容易く抑えながらも、隠していた自身の正体と存在を民衆に暴かれてしまう結果となった。

 大立ち回りをしたのが英雄エリク本人である事を認識され場が騒然となると、領兵達によって自由通行証を持つエリクは別枠という形で都市内に招かれる。
 更にその報告が都市を司る官僚達にも届くと、改めてローゼン公爵家の本邸やしきに招かれたエリクは客室にて皇后クレアと再会する事になった。

「――……セルジアス君……ローゼン公は、暫く樹海むこうに留まると」

「ああ。だから俺だけ、先に戻って来た」

「その点については、ガゼル伯爵から御連絡を頂いていたのですが。馬も用いていないということで、まさかこんなに早く御越しになられるとは思わず……」

「それについては、すまない」

「いえ。こちらこそ、内密に御迎えも出来ず申し訳ありません」

 改めて客室で椅子に腰掛けながら面会するエリクと皇后クレアは、今回の事態について互いの落ち度を謝る。
 そして改めるように、皇后クレアはエリクに問い掛けた。

「それで、御急ぎで御戻りになった理由は……?」

「ああ、ウォーリスに会いたい」

「!」

「こっちに戻っていると聞いたが、会えるか?」

「理由を、御伺いしても?」

「ドルフに会いに行ったが、普通の方法では奴の魔法は習得できないと言われた。だが、ウォーリスは特別な事もせずにその魔法を覚える事が出来たらしい」

「!」

「そのやり方を、ウォーリスに聞きたい」

「……分かりました。ただ今の彼は、ウォーリスではなくフロイス卿という身分を与えています。なので、人前では……」

「それはアリアの兄セルジアスから聞いている。人前では、偽名フロイスで呼ぼう」

「ありがとうございます。――……では、ここにフロイス卿を御呼び致しましょう」

「頼む」

 エリクは改めてそう頼み、皇后クレアからウォーリスに会う許可を得る。
 そして彼女は退室した後、十分程が経った後に再び客室の扉が開かれた。

 そこに姿を見せたのは、黄土色ブロンドの髪と緑色エメラルドの瞳を眼鏡で覆う青年。
 彼の顔を一目したエリクは、椅子に座りながら声を向けた。

「……凄いな。お前の『偽装フェイク』を見破れない」

「――……実際に、髪を染めて瞳は色眼水晶カラーコンタクトで覆っているだけだ。魔法じゃない」

「からーこんたくと?」

「瞳に付ける小さな水晶体レンズだ。瞳の色を変えられる道具モノと言えば分かるだろう」

「そうか、そういうモノもあるんだな。――……久し振りだな、ウォーリス」

「そちらもな、傭兵エリク」

 変装した姿ながらも再会するウォーリスに、エリクは改めて会話を交える。
 四年前には死闘を交えている二人ながらも、互いに邪見にする様子もなく椅子に腰掛け向かい合いながら会話を続けた。

「皇后様から聞いた。私にドルフの使っていた影魔法を習いたいと?」

「ああ。お前はドルフと違って、制約も無しに使えたと聞いた」

「……だが、今は使えない。私の肉体も魂も、既にボロボロだからな」

「知っている。だから、実際にやらなくていい。その知識を口で教えてくれるだけで構わない」

「……皇后様の御命令だ、それに従うつもりではあるが。……だが、どうして影魔法を覚えたい?」

「ん?」

「今のお前が、影魔法アレを覚える必要は無いように思える。……到達者エンドレス創造神オリジン権能ちから。それがあれば、大抵の者はお前と相対する事すら難しいはずだ」

「……」

「私自身、この立場として知る必要も無い話だが。一年前の『大樹事変じけん』が終わってから、お前達の動向を詳しく把握できている者は少ない。……アルトリア嬢の企みに、その影魔法の習得も関わっているのか?」

 臆する様子も無く問い掛けるウォーリスに対して、エリクは僅かに考える様子を浮かべる。
 すると僅かに鼻息を漏らすと、改めてその問い掛けに答えた。

「……四年後、俺達は魔大陸に行く」

「!」

「その為に、俺達は別れて必要な準備ことをしている。アリアとケイルもそうしている」

「……あのマギルスという少年は? 帝国ここに滞在し続けているようだが、皇子ユグナリスの訓練に混ざり、シエスティナと戯れるだけで、特別な訓練ことをしている様子は無いようだぞ。……彼は同行しないのか?」

「俺も詳しくは知らない。だがマギルスも、何か考えがあって帝国ここに居るんだろう。一緒に魔大陸に行くつもりはあるようだ」

「そうか。……だが、どうして魔大陸に?」

「……お前になら、話してもいいかもな」

「?」 

 四年後に魔大陸に向かうという話を聞いたウォーリスは、改めてそうした疑問を向ける。
 すると改めて息を吐いたエリクは、少し考えた後にこう話した。

「俺達が『虚無』と呼ばれる世界の向こう側で会った、『白』が言っていた。……五百年前、一人の少女アイリが自分を犠牲にして世界を救ったと」

「!」

「だがその内容は、創造神オリジンの復活とは無関係だったらしい。……少女アイリ創造神オリジン権能ちからを使い自分を代償にして無くそうとしたのは、『世界の歪み』だそうだ」

「世界の歪み……」

「そしてその少女アイリが自分を存在そのものを代償にし眠り続けている事によって、今も『世界の歪み』は防がれている。……アリアは、そう推測している」

「アルトリア嬢が?」

「俺達はその少女を目覚めさせる為に、『白』から預かった少女アイリの記憶が宿る水晶クリスタルを【魔神王デーモンキング】に渡した。……しかしアリアの話では、それでも少女アイリは目覚めていないらしい」

「……なるほど。その少女は自分が眠り続けている事で、自ら『世界の歪み』を抑えている。そう推測したか」

「そうだ。だが、誰もその『世界の歪み』が何なのか分からない。ケイルもアズマ国に居る現世こちらの『白』に聞きに行ったらしいが、『世界の歪み』という現象については知っていなかった」

「……その現象が何なのかを探る為に、わざわざ魔大陸まで?」

「ああ。……もしかしたら、『黒』が俺達を利用して本当に止めたかった事態は『世界の歪みそれ』なのかもしれない。可能ならそれを解決して、少女アイリを起こしてやりたい」

「……」

「俺はアリアに頼まれて、水晶クリスタルを渡してから人間大陸に『|世界の歪み』と呼ばれる不可解な現象が起きていないかを探っている。表向きは『緑』の七大聖人セブンスワンや他の異常を調査する名目だが、この話自体は、俺達だけで共有している秘密だ」

「……その為に、持てる手段は増やしているわけか」

「ああ」

「だが、各国にその調査協力を要請しない理由は?」 

「今の人間大陸は、前の事件でまだ不安や恐怖を抱えたままだ。そこを不確かな情報で煽るのも良くないだろうと、アリアやケイルが考えて秘密にすることにしたんだ」

「……なるほど。そういう事であれば、確かに納得できる理由ではあるな」

 エリクは仲間達だけで共有している情報ひみつを、ウォーリスに明かす。
 すると考える様子を浮かべ終えたウォーリスは、エリクに視線を向けながら答えた。

「……分かった、出来る限りの協力はしよう」

「頼む」

「だが私も、人に教えられるほど器用というわけではない。死に物狂いで身に着けさせられたゲルガルドの技術を、利用していただけだからな。……アルフレッドが生きていれば、そういう事も得意としていたのだがな……」

「そうか……」

「それに、今の私にも任されている仕事は多々ある。教えられる時間は、朝と夜くらいしか取れないかもしれないが。それでもいいか?」

「ああ、問題ない」

「了解した。――……では、明日の朝から始めよう」

「分かった」

 二人はそうして話し合い、エリクは彼の持つゲルガルドの技術わざを訓練として受ける事になる。
 そして皇后クレアの了承を得て、エリクは暫しガルミッシュ帝国のローゼン公爵領に身を置く事になった。

 それから朝と夜に、エリクはウォーリスから数々の魔法習得の訓練を施される。
 そうした教えを受けていない時間は自己訓練を行い、たまに様子を見に来るマギルスやシエスティナの遊び相手を務めた。

 更にそこに帝国皇子ユグナリスも加わり、鍛錬と称した模擬戦を行う事も多々起こる。
 そうした場に混ざるマギルスや、それを見守るリエスティアやシエスティナ達と接する時間を過ごしながら、エリクはガルミッシュ帝国で過ごす事になった。

 そして一年後、エリクは必要な技術ことを学んで帝国からつ。
 更に一年後には崩壊していた帝都の再建が終わり、ガルミッシュ皇族である皇后クレアと帝国皇子ユグナリス達は、ローゼン領地から離れ新帝都へ身を置くことになった。

 帝都復興後から一年後、各地へ避難し身を置いていた者達や移住者達によって新帝都では人々の暮らしが見えるようになる。
 そして『天変地異』から七年も空席だった皇帝に皇太子ユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュが即位する事が決まり、その即位式典と祭典まつりが行われることが報じられる事になった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...